インタビュー
明日よりニコ超で展示、インターネット20年の歴史を刻んだ巨大絵巻物完成までの道のりを追った
(2016/4/28 12:00)
「Yahoo!JAPAN」のサービス開始20周年を記念し、4月1日に特設サイトで公開された「History of the Internet~インターネットの歴史~」。日本の事象を中心に、海外も含めたインターネットサービス20年の歴史1300項目以上を記録したこの“絵巻物”を見てまず驚かされるのが、イラストの細かさと網羅している項目の多さだ。どのような経緯で絵巻物を制作、編さんしたのか、ヤフー株式会社の企画・制作担当者に直接話を聞いた。
“インターネットにかかわるものすべて”がコンセプト
企画を立案したのは2015年6月。7月から情報の収集を始めた。10月に情報を洗い出した後、11月に精査、デザインを決定。12月にイラストのラフを描き始めた。
「20周年を迎えるにあたって何か面白いことをやりたいと社内でかねがね話していた。Yahoo! JAPANの歴史と日本でインターネットが普及してからの歴史は往々にして重なるところが多いかもしれないと考え、絵巻物の企画が滑り出した。他社でインターネットの歴史をきちんとまとめているところが意外とないということもあった。」
項目出しは5人で担当。Yahoo! JAPANでもすべての事象について把握しているわけではないため、外部のメディア関係者2人に監修を依頼するなどしてデータをまとめた。「Yahoo! JAPANに都合の良い歴史を残したいわけではなく、客観性を重視して一般の人にも納得できるように作った」としており、記載する項目はすべて“インターネットに繋がるかどうか”という基準で選定した。例えばゲームなどのハードウェアに関しても、ネットワークに繋がらないものは掲載しない方針となっている。
記載項目の候補は、インターネット上で公開されているインターネット関連企業のプレスリリース(報道発表資料)や「デジモノステーション」「週刊アスキー」といった雑誌の記事の見出しから洗い出し、初期段階で約1600項目をピックアップ。その後、各項目を6段階でレベル付けした。レベル6は“母親でも知っている話題”に相当。レベルが下がるごとに段々ニッチになっていく。レベルの低い項目や“著作権回りが厳しい企業”“ネガティブなもの”を排除し、最終的に約1360項目に絞り込んだ。ただし、ネガティブな話題でもウイルスなど事実として残すべき事件は載せている。
選定した項目は、年代やカテゴリーによって量が異なってくる。それらの隙間を埋め、ビジュアルに落とし込むグラフィックの表現方法に苦戦した。まずは2、3年分の項目を仮書きし、テイストを予想しながら構想を練った。横長に何かを表現している歴史資料でイメージしたのは、織田信長が上杉謙信に贈った「洛中洛外図屏風」や、「関ヶ原合戦図絵巻」などだった。当初、樹形図などのアイデアも挙がっていたが、“一覧で見た時のインパクト”を重視し、最終的に絵巻物による表現を採用することにした。
原画は20年分でA2×10枚サイズ
イラストは高橋杏里氏が担当。得意としていたテイストを生かし、4カ月で描き上げた。線画はアナログのペン、塗りはペイントソフトを使った。原画は2年分でA2サイズになる。
「“年代を追う絵巻物”として、高橋氏は一番表現豊かに描けるのではないか、ということから依頼に至った。ラフの段階から描くスピードが速く、これならいけると思った。」
それまでは、自分達が描いていた頭の中の図と完成予想図がリンクしていなかったが、高橋氏のイラストにより具体的に想像できるようになったという。インターネットの黎明期にマンモスを登場させたり、戦国時代から近代へと文化の移り変わりを描くコンセプトは事前に決めたアイデアだが、項目ごとに描かれている個性的なキャラクターは基本的に高橋氏が決めたものだ。
きっかけはヤフー新社屋の壁面スペースの使い道
そもそもなぜ絵巻物という形で作ることになったのか? そこには、Yahoo! JAPAN本社の移転が関係していた。
同社は今年5月以降をめどに、現在のミッドタウン・タワー(東京都港区)からグランドプリンスホテル赤坂跡地(東京都千代田区)の新社屋へ移る予定がある。新社屋の来客フロアに3×10mの壁面が2面があり、その使い道を検討する中で、インターネット20年の歴史を横長の壁画として展示するアイデアが浮上した。その横長のスペースに合わせて、絵巻物というスタイルが選ばれた。
しかし、新社屋の壁面は来社する人以外は鑑賞できない。そこで、4月29・30日に幕張メッセで開催される「ニコニコ超会議2016」のYahoo! JAPANブースにおいて、2.5×18.5mの壁画として出展することにした。
「絵の大きさ、インパクトはまさに“壁画”。そこからオンライン上でも展開できないかという話に繋がった。」
“スクロール地図型”で素材のインパクトを生かす
オンライン上での公開に向けた作業は2016年が明けてから開始した。しかし、スターティングメンバーだけではスケジュールに間に合わないと判断し、他のプロジェクトから実装上のスペシャリストを10日間借りた。
3月に入った時点でフレームはおよそ固まっていたが、クリック/タップして詳細情報が表示されるクリッカブル領域の指定範囲の作業には時間を要した。それぞれ異なる縦横比になり、始点と終点をデータとして収集する部分を人力で行った。「1300項目程度であれば解析プログラムを作って機械で行うより、人間の目で見て作業した方が早く仕上げることができる。5万項目あるなど、さらに膨大な量だった場合は違う方法を考えていたと思う」。
当初、絵巻物を細かく分解して、デバイスごとに見やすい表示にするという選択肢もあったが、「自分でさえ度肝を抜かれたものをユーザーにも体験してもらいたい」という思いから、“素材を素材のままできるだけ出す”ことを優先した。そこで、普段、人々がデバイスで絵のようなものを見る場面を考えた時に真っ先に浮かんだのが“地図”のUIだった。そこから、地図ライブラリ「Leaflet」を使ったUIのスクロール地図型で実装することが決まった。
「オンライン化にかかわったメンバーも当初は“とんでもないものが来たぞ”という感じだったが、いかに面白く最初のインパクトを逃さずに伝えるか取り組んでいる過程で没頭していく様子が見て取れた。」
スマートフォン端末の世代によっては重いコンテンツを表示できなかったり、通信環境の差もあるため、イラスト閲覧のみの「シンプル版」と詳細情報も参照できる「リッチ版」を用意した。シンプル版でもスマートフォンでズームできるため、イラストの繊細さを楽しめる。画像の容量は1400MBに上るが、Leafletにより、画像を分割したものを順次読み込むスクロール地図と同じような体裁にした。地図のUIを地図以外のコンテンツに活用したという点を画期的だと評価した業界の人達もいたという。
絵巻物は予定通り4月1日に公開。「ネット公開後はSNS上のユーザーのコメントも確認した。『すごい』『見ていて飽きない』『時間がかかるから帰ってから読もう』などさまざまな反応あり、うれしく思った」。以前勤めていた会社や、かかわったことのある人達の反応もあったそうだ。
「物量と絵の真剣な描き具合に驚いたという感想も多かった。社内でも、仮書き段階のものを社員に見せてヒアリングを行っていたが、十中八九は驚いていた。公開前から心の動きが読めたのは一番大きい。完成版の公開後も社員がSNSで紹介してくれた。」
絵巻物の公開期間は現時点では明確に決まっていない。当初は6月までの予定だったが、今年度末(2017年3月)まで公開することになった。さらにユーザーの反応次第では、期間を延長する可能性もあるそうだ。
また、絵巻物以外の表現についても、「ユーザーに喜んでもらえるようなコンテンツが絵巻物から発展した形で作れるのであれば、ぜひ挑戦してみたい」という。
年代や経験で見え方が変わる現代の絵巻物
完成した絵巻物を眺めながら、20年間のインターネットの歴史を振り返ると、和気氏は、朝日新聞社の「asahi.com」や読売新聞社の「YOMIURI ONLINE」など、Yahoo! JAPANより早い段階でニュースサイトをすでに始めていた企業が複数存在していることに意外性を感じたそうだ。一方で、「LINE」など最近広く使われているサービスが「20年の時間軸で見ると最近出来たものだと改めて気付いた」という。
「絵巻物の密度の濃さから見ると、2004~2006年あたりは激戦区になっている。また、自分がこの業界にいなかった1998・1999年ごろは、現在著名な人達の創業期にあたるものが結構あり、改めて知る新鮮さがあった。どこまでが自分にとってファクトで、どこから先が伝説かということは年代や経験によって違ってくるのがこの絵巻物の面白いところ。2001年は『Bフレッツ』『Yahoo! BB』などが始まった時期で、通信インフラがだんだん映像に耐えられるものになっていく。最初は“自分だけが楽しめるもの”だったインターネットから、“コミュニティでお互いに持つ”ことが前提になる流れもあり、環境、市場、サービス分野の栄枯盛衰が密接だと感じた。」(徳應氏)
では、今後20年のインターネットはどのように変わっていくだろうか。
「進化するのは前提として、最近よく聞くIoTやウェアラブルの分野が盛り上がっていくと思う。ヤフーでは今後20年、100年を見据えた『UPDATE JAPAN』という新たなミッションを設定している。日本を“更新”していきたいという想いのもと作られたものだが、まずは日本の人々の生活をより便利にすることに挑戦していきたいと思っている。」(和気氏)
「20年前に今の状態を想像できなかったほど進化が速い。iPhoneが世の中に出てくる前は、PCよりもスマートフォンで情報に触れることが当たり前になるとは思わなかった。実際、20年後がどうなるかは想像できないのが本音。ただ、流れとしてはインターフェイス技術の限界に制限されない使い方のようなものがあるのではないかと考える。PCがあって、画面を見て、キーボードで文字を打つなど、今まで出来上がったサービスはデバイスの操作性に付随したもの。これからは、インターフェイスの制限に縛られない、人間にもっと使いやすいインターネット、サービスが展開するのではないかと思っている。もちろん、私達が語ったこと以上の未来になっている可能性の方が大いにある。」(徳應氏)
インターネット20年の歴史を記したこの絵巻物は、ニコニコ超会議では10代・20代の来場者の目に触れることになる。「自分たちが日常的に当たり前のように使っているインターネットについて、過去に何があったか振り返る機会になる。まずは絵のインパクトだけでも楽しんでもらいたい」と期待を寄せているという。