「Twitterで『コミPo!』を検索したら、すごいことになっていた」~「コミPo!」プロデューサー 田中圭一氏に聞く


株式会社ウェブテクノロジ 取締役兼企画営業グループ部長 田中圭一氏。「コミPo!」のプロデュースを担当、コミPo!製作委員会の委員長という肩書きも持つ。「ドクター秩父山」「神罰」などの著作を持つ兼業マンガ家としても知られる

 まったく絵が描けなくても、マウス操作で誰でも簡単にマンガが作れてしまうソフト「コミPo!」が15日に発表された。

 編集家の竹熊健太郎氏がブログで絶賛するこのソフトは、正式発表前からネット上ではたいへんな噂となり、デモ動画を掲載した発売元の株式会社ウェブテクノロジのサイトがアクセス集中で一時閲覧できなくなったほか、YouTubeに掲載されたプロトタイプムービーの再生件数も10万回近くを記録するに至った。

 この「コミPo!」の企画およびプロデュースを担当したのが、ウェブテクノロジの取締役であり、マンガ家として知られる田中圭一氏だ。もっとも、この「コミPo!」にはマンガ家・田中圭一氏としての色はあまり感じられない。あえてライトユーザーにターゲットしたという、「コミPo!」企画の発端や今後の展開について、製品発表会を終えたばかりの田中氏にインタビューした。

 なお、製品の概要と発表会については、ニュースですでにお伝えしているのでそちらを参照していただきたい(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20101015_400360.html)。


Twitterで「コミPo!」を検索したら、すごいことになっていた

── 実は「コミPo!」は9月末、京都精華大学でのイベントが初のお披露目だったと聞いています。イベント直後にTwitterでデモ用のURLが流出して拡散し、大きな反響を呼んだわけですが、あれは想定外の事態だったんでしょうか。

田中:ええ、むちゃくちゃ想定外でしたね(笑)。発表会の案内を送る際、関係者の人たちが見られるよう、今までクローズにしていたサイトをその期間だけオープンにしていたんですよ。

 ところが、もう発表になったと勘違いしちゃった方がいらしたんですね。くれぐれも誤解ないように言っておくと、その方も悪意はなかったんですよ。なんせサイトがあって、デモムービーもあるわけだから、もう発表されたんだと思ってTwitterにポンと上げたと。そうしたらそのツイートがフォロワーのたくさんいらっしゃる影響力がある方に拾われて、さらにそのフォロワーの中にもっと影響力がある方がいらっしゃって、それをRTされたんですね。

 それまでも時々、Twitterで「コミPo!」っていう単語を検索していたんですが、発表会の案内もしたのでつぶやく人がそろそろいるかもなと思って検索したら、ものすごいことになってて。

 午前11時台だったかな、Twitterのつぶやき単語のベスト10の中の2位とか1位とか取っちゃって、動画を置いていたウェブテクノロジのウェブサイトがアクセス集中の負荷で一時閲覧不能になってしまったんです。もともと会社案内や製品情報を掲載する企業サイトで、動画配信を想定したサイトではないですから。

 そこで急遽、サイトに置いていたプロトタイプのデモムービーをYouTubeに上げたんですね(http://www.youtube.com/watch?v=bnz36nwEY-w)。YouTubeに上げたそのムービーは、2日間で2~3万くらい再生されました。

アクセス殺到のため、YouTubeで公開したプロトタイプのデモムービー。10月18日現在は再生数が10万を超える。なお、モノクロベースのプロトタイプ版は製品版とはかなり仕様が異なる

 その日の夕方には2ちゃんねるにスレッドが立って、しかもその日の夕方にいろんな個人ニュースサイトでも取り上げられ始めたので、夜、以前から「コミPo!」について相談していた竹熊健太郎さんに連絡を入れて、こういう状況で漏れたので、事情をふまえてブログで書いてくださいとお願いしたんです。そうしたらブログに状況説明も入れてくれまして(http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-eec6.html)。助かりました。

 竹熊さんのブログで紹介されて、2ちゃんねるでもスレッドが3つくらい立ちましたし、さらに知れ渡ることになりました。

多くの人が広く使えるツールに

プロトタイプ版の時点で、萌えキャラの起用を決めていた。「みんなが扱いたいと望んでいるキャラクターは、少なくとも(田中氏が得意とする)手塚キャラじゃないだろうと」(笑)

── 今回の「コミPo!」に関する噂の中で、田中さんご自身がマンガ制作を省力化するために作ったのではないかと推測されている人もいましたが(笑)。

田中: さすがにそれはないですね(笑)。やっぱり多くの人が広く使えるツールにして販売しなければ意味がない。なのでプロトタイプ版の時点で、萌えキャラを起用することを決めていたくらいです。みんなが扱いたいと望んでいるキャラクターは、少なくとも(田中氏が得意とする)手塚キャラじゃないだろうと(笑)。

── 田中さんは長い間、会社員と漫画家の二足のわらじで活躍されていますが、ウェブテクノロジに入社されたのはいつでしょう。

田中:2002年の5月です。ゲーム開発者向けの画像最適化ツールである「OPTPiX」シリーズをデモ販売するために入社したんですよ。

 今回の「コミPo!」の基本アイディアはゲーム会社に勤めていた1999年頃にはすでにありました。「コミPo!」のアイディア自体は誰でも思いつくことですからね。

 当時は2Dでいろんな角度の絵が描いてあるものを貼り合わせればいいのかなと思っていたんですが、2007~2008年くらいから、2Dイラストのように見えるけれども実は3Dで作っている絵というのがアダルトゲームなどで出てきたんですね。それを見てやればここまでできるんだと思って、マンガのツールも3Dでできるなぁと思ったんです。

 そこで企画を出してみたところ、その段階ではまだ具体的なメドは何もないわけですから、社内的に大きな資金や人数を投入したプロジェクトとして立ち上げるのは難しいから、まずは個人的にコツコツ進めてみたらどうだということになりました。

 そこで、「コミPo!」でキャラクターモデリングを担当していただいた西海さんともともと知り合いだったので、西海さんに「3Dモデルを作ってくれない?」とお願いしたんですね。それが2008年で、2008年4月から始まって、例のYouTubeで流れたプロトタイプムービーが、2009年の年明けぐらいにようやく完成したんですね。

── 事業化するかどうかも含めて立ち上がりは細々とやっていて、結果的に発表まで2年かかったということなんですね。

田中: ええ、あれってデモがないと、口頭だけで伝えてもわかってもらえないんですよ。「それってセルシスのComicStudioみたいなもの?」って言われて。マンガを作るツールって言うと、まずはペンタブレットで線を引くところから、と想像しちゃうんですね。なので、とりあえずデモ版を作ろうと。

── 今回フライング流出したプロトタイプムービーができてから、具体的に話が進み始めたということなんですね。

田中:そうです。プロトタイプのムービーができて、こういうのをやりたいんです、って言ったら、あーなるほどって。あれを見せることによってようやく社内的にも、こういうことなのねっていうのがわかってもらえて、一気に話が前に進み始めたんですね。

ライトユーザーに合わせて最終的に機能を絞り込んだ仕様に

── 流出したデモムービーは白黒マンガの印象が強かったのですが、製品版はカラー出力が主になっています。同人誌用途よりも、ウェブ向けの仕様という印象ですが。

田中: そうですね、プロトタイプ版を経て本格開発をする前に、誰に向けた製品で、どんな使い方をされるだろうと考えた時に、ブログの日記をマンガにしたい方など、ライトユーザーを想定しました。

 じゃあ彼らが発表する場所はどこかというと、「やっぱりウェブサイトだよね」と。そうなると当然、色はフルカラーが基本だし、解像度もウェブ用途ならさほど大きくは求められないだろうということで、最終的にそっちに振ったんですね。

「コミPo!」は主なターゲットユーザーとして、ブログやウェブページでマンガを入れたいというライトユーザーを想定

 もし同人誌を作る人たちが対象ということであれば、モノクロ2値で600dpi以上の解像度が必要になります。実は、当初はそれをカバーする方向で開発をスタートしたんですが、600dpiをレンダリングするにはメモリも大量に食うし、高速なグラフィックエンジンを搭載したハイスペックPCが必要になります。

 そうなるとライトユーザー向けにはふさわしくない仕様になってしまうということで、最終的に仕様を絞り込んだ際に、モノクロ2値も高解像度出力もフタをしたんですね。

── フタをしたということは、今後ユーザーからの要望があれば、検討の余地はあるということなんでしょうか。

田中: ええ、作ってないわけではなくて、口をフタしてあるだけなので(笑)。フタを開けてそこから先を作れば、対応は可能です。

── 出力形式がJPEGとPNGということで、Photoshopのレイヤーで吐き出せないというのが意外な気がしたんですが、それもライトユーザー向けの仕様ということでしょうか。

田中:そうです。出力したものをさらにPhotoshopに取り込んでレイヤー別に加工するといったことは今回は想定していません。出力したカラーのマンガをブログにペタッと貼って終わり、という用途を想定しています。

── 3Dデータを使ってキャラクターを動かされているわけですが、今後例えばアニメーションをさせたりとか、音楽をつけたりといった展開はあるのでしょうか。

田中:そうですね、いまは静止画だけなんですが、実はムービー吐き出しも機能として用意していたんですね。マンガを1コマずつ紙芝居のように見せてムービーで出すという機能なんですが、まだ完成度があまり高くないので、今回はフタをしました。

 さらに、サウンドデータを乗せるとムービーができるといった機能追加も可能性としてはありかもしれませんが、それはもう「コミPo!」の役割ではなくてムービー編集ソフトにお任せすればいいのかなと。

 「コミPo!」というのは、あくまで今日植えられた種だと思っています。だから、ユーザーの要望しだいでいろいろな可能性があるんですね。ただ、「コミPo!」になんでも機能を入れて高機能化するのか、あるいはシリーズ化して必要な機能だけ使えるようにするのか、

 ここから伸びていく枝の中には、キャラクターに動きのシーケンスを入れて椅子から立ち上がって振り向くとか、慌てふためきながら走っていくというモーションをつないでつないでムービーが作れる、というものもあるんじゃないかと思いますね。

 例えばそこにボーカロイドじゃないけども、セリフを読んでくれるソフトがあれば、映画ができてしまう。5年後くらいにはひょっとしたら当たり前になっているかもしれないですね。

※編集部注:10月18日、TwitterのコミPo!公式IDで、無償バージョンアップにより、3Dモデルデータ取り込み、3D背景対応、高解像度印刷対応が発表されました。(http://twitter.com/comipo/status/27730805639

 

「コミPo!」が得意なこと、できないこと

── 田中さんご自身がマンガ家なわけですけれども、今後機能を強化しても、これは「コミPo!」ではできないという点はありますか。

田中:もちろんありますね。絵が描けるということはマンガの中ではなんでも可能になるわけじゃないですか。

 例えば背中に羽が生えて逆立ちしながら空を飛ぶ、マンガ家さんはそれが描けるわけですが、「コミPo!」はそれができない。「コミPo!」ができることというのは、決められたモデルデータやポーズや表情を組み合わせて、自分がやろうと思ってることにできるだけ近づけていくことになると思うんですね。

 逆にマンガ家さんで、逆立ちしながら空を飛ぶ絵が描けたとしても、画力があまり高くなくてヘタウマな絵だったりした場合、(「コミPo!」のキャラクターデザインを担当した)カントクさんのキャラクターのような絵は絶対に描けないわけですが、「コミPo!」を使えばできる。

 そういう、こっちにはできてこっちにはできない、あるいはこちらなら簡単だけれどもこちらでは非常に難しい、というのは双方にあるんじゃないかと思いますね。

「コミPo!」のキャラクターデザインはカントク氏が担当

詳しいチュートリアルは今後解説本も

──マンガ制作用に用意されている各パーツは豊富に用意されていますが、「コミPo!」にはチュートリアルのようなものはついているんでしょうか。

田中:製品版にはチュートリアルを付ける予定です。また、ウェブサイトにもFAQを用意しますが、幸いにして解説本を作りたいという出版社さんから何社かお話をいただいているので、そこでも詳しい使い方の解説をお願いしたいですね(笑)。

 例えば、水滴のマークを1個つけることで、笑いの表情が焦り笑いに変わるということは、マンガを描く人は当たり前のように知っていることです。まったく絵を描いたことがない方も、「コミPo!」を使いながらそうしたルールをちょっとずつ覚えていってもらえばと。あーそうか、これって笑った顔に水滴が1個ついただけなんだ、焦り笑いってこうやって作れるんだと思えば、こんど焦り笑いを作ろう、じゃあ笑い(のパーツ)を持ってきました、で水滴の漫符を付けました、はいできた、と。

「コミPo!」では漫符や描き文字、心情を表わす背景なども豊富に用意する

 例えばPowerPointを1年使った方と、3年使った方とでは、できあがってくるプレゼン資料には差があるじゃないですか。それは3年間使ううちに、あ、これって袋文字にするよりもうちょっと立体的な文字にしたほうが映えるぞとか、だんだん学んでいった成果ですよね。同じように、絵心のない人でも「コミPo!」を3年使えば、それなりの進化が見えてくると思います。

企業キャラクターの3D化も個別オーダー可能

── 発表会では今後の展開についてのお話がいろいろと出ましたが、現状ではまだ具体的な協業のお話がたくさんあるわけではなく、とりあえず発表会がスタートということでしょうか。

田中:ですね、我々の妄想ですね。こうしたい、という(笑)。水面下で動いていてほぼ決まっているのは、発表の場で紹介した、TINAMIさんとパブーさんとMANGAROOさんです。例のデモムービーが流出した時点でお声掛けをいただいて、フットワークの軽さに驚きましたね。

 ビジネス展開の中でいちばんありそうなのが、広告代理店さんからクライアントさんに対する、「コミPo!」を使った提案かなと思っています。

 「コミPo!」に企業のキャラクターのデータを入れれば、サイトに毎日マンガをアップできますよ、という。企業キャラクターの表情とポーズを3Dで作れば、あとはその会社のスタッフが、絵がまったく描けなくても、「今日の○○くん」というようなマンガを毎日作って公開できるわけです。

 普通そうしたマンガを描くとなると、ものすごいコストがかかるじゃないですか。それがわずか6700円のソフトでできるので、コストパフォーマンスは高いと思いますよ。

── マンガ以外にも、単体のカット作成など、素材集のような使い方も可能ですね。

田中:そうですね、ライトユーザーさんが買って、すぐにコマ割ってストーリー作って――というのは大変だけど、企画書やチラシにワンポイントでイラストを貼るとかなら、買ってその日のうちにできちゃいますね。

「ダウンロード版6700円」の価格はユーザーが決めた

──ダウンロード版6700円、パッケージ版9700円という価格設定は非常に戦略的だと思うのですが、いかがですか。

田中:実はこれ、我々が決めたんじゃないんです。最初のプロトタイプ版ができた時にネットリサーチをやったんですね。千人にプロトタイプムービーを見せて、いくらなら安すぎて信用できないから買わないのか、いくら以上だったら高すぎて買わないのかを調べて、ど真ん中に来たのがあの値段なんですよ。

 我々は本当は1万円以上で売りたかったんですけど(笑)、“これがいちばんマスで売れる値段”、という結果が出たので、これで売るしかないと決めました。なので、みなさんから「安い」と言っていただけたのは良かった。あの値段であれば、中学生でも買える。できるだけアダルトなものを排除して、中学生も遊べる、40代も50代も、男女も問わず使えるようになればいいなと。

田中圭一カラーを出さないのは「パロディ用ソフト」と誤解されるから

── 田中圭一さんのプロデュースでありながら、マンガ家としての田中圭一さんの色が非常に薄いように感じられましたが。

田中:えーそれはですね、田中圭一の作ったソフトって言われた時にみなさんが何をイメージするかっていうと、「パロディができるソフト」だと思われるわけじゃないですか(笑)。

 だとすると、パロディをしたい人にしか売れないですよね(笑)。そういうふうに裾野を狭める必要もないだろうし、今回のソフトはライトユーザーの人にマンガ表現を楽しんでもらおうというのがコンセプトですから。田中圭一カラーを出すことによるマイナス面ってたくさんありますよね、そこは避けたというのが正直なところです(笑)。

田中圭一氏といえば、手塚治虫パロディマンガ。手塚プロ公認のもと、手塚治虫氏未完の絶筆「グリンゴ」続編を描いたことでも知られる。単行本「神罰」では手塚治虫氏の娘、るみ子さんによる「訴えます!」というシャレのきいた推薦文が話題に

「マンガ版初音ミク」になれたら

「5万売りたいとなると、初音ミク級のブームにならないと絶対あり得ない数字です」

── 目標としている販売本数はどのくらいですか。

田中: 1年間で5万本が目標です。

── 現在の反響からすると、意外と早く達成できる気がしますが。

田中:いえいえ、5万売りたいとなると、初音ミク級のブームにならないと絶対あり得ない数字です。ですから、今そういう迎えられ方をしつつあるのはすごく助かってますね。マンガ版ボーカロイドというふうに見てくださる方が多いので。

── 竹熊さんはブログで「マンガ版初音ミク」という表現をされてしましたが、竹熊さんだけではなく、ほかにもそういう見方をされている方が非常に多いですよね。

田中:それはすごくありがたかったですね。こちらからはとてもそんなことは恥ずかしくて言えないじゃないですか。初音ミクなんて、何を言ってんだという話になっちゃうから。でも捉える側はそう捉えてくれたんだなというのは、ああよかった、と思いますね。

── 12月の発売が楽しみです。最後になりますが、田中圭一さんが実際にこのソフトでマンガを描かれる可能性というのはあるんでしょうか。

田中: 会社のブログ(http://blog.webtech.co.jp/cat11/)に毎月ひとコママンガを描いているんですが、「次回からは『コミPo!』で作れ」という話が来ているので、次回からは「コミPo!」でやろうかなと思っています。ただ、ほんとに僕の脳味噌で描いたマンガを、こみぽちゃんに演じさせるのはいいんだろうかと。商品のイメージダウンにつながるんじゃないかと心配しています。(笑)

── ありがとうございました。

ウェブテクノロジのブログ。田中圭一氏が毎月ひとコママンガを描いているが、次回からは田中圭一氏が「コミPo!」で作成する予定

関連情報

(山口 真弘)

2010/10/20 06:00