インタビュー

ASP型サービス「EBLIEVA ブラウザビューア」がアプリの呪縛からストアを解放

デバイスフリーな電子書籍環境をスピーディに実現!

シャープが新たにASP型サービス「EBLIEVA ブラウザビューア」の提供を開始

 シャープの提供する電子書籍ストア「GALAPAGOS STORE」は広く知られているが、実はシャープの電子書籍ビジネスはコンシューマ向けのストア事業だけではない。法人向けにも事業を展開しており、それを加速させるのが6月30日に発表した法人向けASP型サービス「EBLIEVA(エブリーバ) ブラウザビューア」だ。

 GALAPAGOS STOREは2010年にスタートし、デバイスとフォーマットの両面で進化させてきた。今ではマルチデバイスに対応し、コンテンツもXMDF、.book、EPUB3とマルチフォーマットをサポートする。

2010年からスタートしたGALAPAGOS STORE。マルチデバイス対応、マルチプラットフォーム対応を進め、現在はパソコンのWebブラウザでの閲覧にも対応している

 このGALAPAGOS STOREの立ち上げ、運営を通じて、コンテンツの調達、入稿、バックエンドの運用、サポート等、電子書店運営のノウハウを蓄積してきた。

 同時に、DRM(著作権保護技術)やフォーマットといった基盤技術の開発や、ストアシステム、コンテンツ配信システム、アプリやビューアソフトなど書店に必要なシステム開発を行ってきた。

 これらコンテンツと運用ノウハウ、技術やシステムは、アプリビューアソリューション「book-in-the-box」、XMDFビューアソフトの受託開発、ライセンスの提供、コンテンツ制作ツールや変換ツールの提供、ストア開設サポートなど、法人向けの電子書籍ソリューション事業に注がれているというわけだ。

これまでのシャープ電子書籍ソリューション事業展開

 そこに今回、新たにASP型サービス「EBLIEVA ブラウザビューア」が追加された。EBLIEVA(エブリーバ)は、電子書籍の「E-book」と、英語のLiberal、Libertyの語源であり、本の意味を持つラテン語の「Liber」を組み合わせて作られたブランド名で、自由で進歩的な電子書籍サービスを意味するという。

 ASP型サービス「EBLIEVA ブラウザビューア」は一言でいえば、電子書籍ストアがSaaS型クラウドサービスにより簡単にブラウザビューアを導入できるソリューションだ。そのポイントは2つ。「ブラウザビューア」で、電子書籍アプリの開発が不要になること。もう1つはASP型のソリューションであるため、開発の手間やコストが不要になるということだ。

 シャープがこのようなソリューションをリリースするに至った背景について、シャープ デジタル情報家電事業本部 モバイルソリューション事業部 ネットワークソリューション推進部チーフ 松本融氏にお話を伺った。

現在の電子書籍市場の問題点〜アプリの壁が市場拡大を阻む

シャープ デジタル情報家電事業本部 モバイルソリューション事業部 ネットワークソリューション推進部 チーフ 松本融氏

 GALAPAGOS STORE立ち上げ当時は、シャープが1社ずつ出版社を訪問し、コンテンツ提供の交渉を根気強く進めたという。その数は、なんと800社以上に上る。しかし現在では、電子書籍を手がける出版社も多くなり、制作環境もかなり整ってきている。

 乱立していたフォーマットも、2013年以降はEPUB3とXMDFでの配信が主流に。テキスト主体のリフロー型コンテンツはEPUB3がデファクト・スタンダードとなりつつある。「シャープは、オーサリングツールも含めて、多くの電子コンテンツを生み出す環境に貢献してきた」と松本氏は自負する。

 「電子書籍を使う方は増えていますし、伸びてもいるんですが、世の中が電子書籍の時代だと言っていたほど国内市場は伸びていない。本当はもっと大きな市場になっていてもおかしくなかったのではないかと思うのです。この点については、技術プラットフォーム企業である我々自身の、世の中に対する提案力がまだまだ足りてなかったのかなと反省しています。また、その中で国内に持ち込まれた海外プラットフォームの寡占傾向が強まっている状況は、マーケットとしては無視できない状況です。」(松本氏)

 市場の伸びを阻害する大きな要因として、電子書籍ストア事業への新規参入のハードルの高さを松本氏は指摘する。

 大きな障壁となっているのが、電子書籍のビューアアプリの提供だ。現在、電子書籍を読むには各ストアが提供するビューアアプリを利用するのが一般的だが、これは裏を返せば、電子書籍ストアを開設するなら、まず専用アプリを用意しなくてはならないことを意味する。

 このアプリの準備とメンテナンスが大きな負担となる。マルチデバイス環境を維持するために、少なくともAndroidアプリとiOSアプリを用意する必要があり、さらに、機能追加やデザイン変更を行うたびに、アプリの登録をアプリストアに申請しなくてはならない。OSのバージョンアップにも対応していかなくてはならない。

 「広告を1本打つにしても、お客様を自分のストアの会員登録に誘導するのか、それともアプリインストールのため、アプリマーケットに誘導するのか、その導線の作り方が全然違ってきます。広告投資の点から見ても、二重の投資をしないとお客様を獲得できない。このようにアプリを必須とする現状が、電子書店市場の1つの大きな課題と考えています。アプリの存在は、新規のお客様のハードルにもなっているし、既存の電子書店の方々が新しいお客様を獲得するためのハードルにもなっています。」(松本氏)

 一方で、電子書籍は管理がしやすいことから、キャンペーンの景品や独自のポイントサービスの交換対象として電子書籍を選択させたいというニーズが高まっている。

 電子書籍なら在庫を抱えず、配送料もかからない。すでにある会員サービスのアカウントで購入できるので、新たな登録も不要。決済もサービス内で行える。つまり、電子書籍は非常にメリットのある商材なのだ。しかし、そのためにデバイスごとにアプリを開発し、メンテナンスし続けるのは大きな負担となる。

 「ストアは作れるし、コンテンツは取次から調達できるが、アプリはどうしよう、というところから非常に多くのご相談をいただいています。集客のための1つの商材として電子書籍の検討が進んで行く中で、手間やコストで二の足を踏んでしまい、新規参入が考えにくいと言われている状況です。」(松本氏)

HTML5による「ブラウザビューア」がユーザーの裾野を広げる

 アプリが新規参入の障壁となる中、シャープは今年の1月「ブラウザビューア」を発表した(http://www.sharp.co.jp/corporate/news/140131-a.html)。シャープは新規参入の相談を受ける中で、このブラウザビューアに対して、ストアの期待感が非常に高いことを実感したという。

 「ブラウザビューア」とは、XMDF、EPUB3、OMF、PDF、JPEGの閲覧が可能なソリューションで、Internet Explorer、Firefox、Safari、Google Chromeなど、HTML5をサポートしたWebブラウザで動作する。

 HTML5対応のWebブラウザさえあれば、プラットフォームを意識することなく利用でき、従来のアプリと変わらない操作性を実現しながら、Webコンテンツであるというメリットを存分に活用できる。アドオンやプラグインなども一切不要で、ユーザーとしても電子書籍を読むために専用アプリをインストールする手間が必要なくなる。

 つまり、ストアもユーザーも、ともにアプリから解放されることを意味する。

ブラウザビューアの特長

 「ブラウザビューアをリリースしたとき、Twitterの反応で面白かったのが、『ブラウザで見えるんだったら専用端末なくても電子書籍読めるんだ』というものでした。アプリを使うという認識以前に、電子書籍には専用端末が必要だと思われている方も案外多い。Webブラウザはすでに多くのユーザーにとってなじみ深いツールですから、ブラウザで見られるなら、パソコンでも、自分のスマホでも見られるんだな、と思われたようです。これは、ユーザーの裾野を広げるプラットフォームになると感じました。」(松本氏)

「日本語を正しくきれいに表示することに徹底的にこだわった」

 シャープの「ブラウザビューア」の特長は、マルチプラットフォームという利用環境だけにとどまらない。「日本語を正しくきれいに表示することに徹底的にこだわっている」と松本氏が言う通り、コミック、雑誌を含め、あらゆるテキストコンテンツを高品位かつ高速に表示することも大きな特長だという。

 日本語レイアウト処理技術をブラウザ上で実現するため、文字だけの拡大縮小(リフロー)、禁則処理、ふりがな、縦書き表現、外字をサポートする。また、段落、インデント、フォントのサイズ、色、太さの変更、アンダーラインなどの指定も可能。挿絵画像に対する回り込み表現や、ワードラップ、均等割り付けにも対応している。スクリーンの横幅に合わせてページを拡大するフィットズーム機能や、ページアニメーション、Webフォントも利用可能だ。

 「ビューアなんてどこも一緒じゃないかと思われてる方も多いと思いますが、実際には表示の性能がかなり違います。シャープのブラウザビューアは、EPUB3のリフロー型のコンテンツの対応もしっかりできています。また、出版社様ではルビや傍点、アンダーダインの付け方など、いろいろなこだわりがあるんですが、そういった要望にも1つ1つきちんと対応し、古い日本語のコンテンツでも出版社の意図通り再現できている、というところも大きな特長です。」(松本氏)

 実際、GALAPAGOS STOREのブラウザビューアキャンペーンコーナー(http://galapagosstore.com/web/misc/bv/top)をパソコン上で使ってみると、その利便性はよくわかる。まず使いやすいと思ったのは、コンテンツの切り替えが容易なことだ。ビューアはインラインフレーム表示されるため、1クリックで本を変えられる。書店で本を手にとって、あれこれ試し読みする感覚に近い。テキスト中心の書籍も、雑誌も、漫画も、違和感なく切り替わる。操作も非常に分かりやすく、文字サイズの変更も柔軟で、サイズに応じてしっかりリフローしてくれる。

 Webで閲覧するため、オフライン表示が唯一の弱点かもしれない。とはいえ現在、国内ではオフラインになる環境のほうが少なくなってきているので、使用上困るシーンはさほど多くはないだろう。HTML5にはアプリケーションキャッシュを利用して、Webベースのアプリケーションをオフラインで実行できる技術が提供されているので、この点は今後のサポートを期待したいところだ。

インラインフレーム表示なので、コンテンツの切り替えが簡単にできる
テキストはただ文字を表示させるのではなく、出版社のこだわりをとことん反映

「ブラウザビューア」が市場を変える

 松本氏は、この「ブラウザビューア」が市場を大きく変えると断言する。

 「ブラウザビューアによってアプリレスになると、メンテナンス性も良くなって参入障壁が下がっていきます。顧客基盤を持っている事業者は、自分たちのサービスのメニューの1つとして電子書籍を追加しやすくなる。プロモーションもアプリマーケットではなくて、サイト集客に集中することができます。」

 「今の電子書籍はアプリの中に閉じてしまっています。これがWebサービスの中に組み込まれることで、たとえば雑誌であれば、そこで見た商品をネットにつないで検索する導線を加えたり、試し読みの画面に会員登録のボタンやリンクをつけたりなど、Webのサービスとパッケージのコンテンツが融合して、新しいコンテンツの活用方法というのができあがってくる。Webサイトと本が有機的に連携したコンテンツを結構簡単に作れるようになるんです。しかも、お客様が本当にコンバージョンしたのかが最後まで測定できるようになります。ブラウザビューアが浸透してくると、市場が大きく変革していくというのが我々の仮説です。」(松本氏)

ブラウザビューアによる市場の変革

 シャープでは、これを第3世代の電子書籍市場の到来としている。第1世代とはケータイ小説などが流行った携帯電話時代。第2世代は、アプリ、フォーマット、デバイス、そういったレイヤーでそれぞれいろんなプラットフォームが乱立する今を指す。

 第3世代はHTML5を使ったデバイスフリーな時代。電子書籍ストアもCMS化され、目的に応じた多彩な電子書籍ストアが立ち上げやすくなる。洋服を買って貯めたポイントで電子書籍を買ってもらう、キャンペーンの景品として電子書籍をプレゼントする、といったことが容易になる。大量の電子書籍をアプリ内にダウンロードして持ち歩くのではなく、もっとカジュアルに電子書籍との接点が生まれる時代と松本氏は定義する。

第3世代はデバイスフリー&HTML5の時代に

 シャープとしては、この第3世代の市場を大きく膨らませたいという。そのために用意されたのが、電子書籍ソリューションブランドEBLIEVA(エブリーバ)だ。

「EBLIEVA」なら低コストで電子書店の立ち上げが可能に

 「EBLIEVA」は、ビューア技術、配信、著作権管理、入稿、オーサリング、コンバータといったコンテンツの制作から配信までトータルにサポートする電子書籍プラットフォームの総称だ。

 ここには、従来から提供されていたアプリビューアソリューション「book-in-the-box」や、コンシューマ向けの電子書籍ストアサービス「GALAPAGOS STORE」も含まれる。

「EBLIEVA ブラウザビューア」の基本仕様

 ブラウザビューアまわりのソリューションは、規模やニーズにあわせて導入しやすいよう、パッケージ型の「EBLIEVA ブラウザビューア」と、ASP型の「EBLIEVA ブラウザビューアASP」の2種類が用意されている。

 パッケージ型は、運用事業者のコンテンツ配信サーバーに、関連するソフトウェアが組み込まれる。事業者側でユーザインターフェイスなどの仕様変更が可能になるというメリットがあるが、事業者側に技術力と、開発・運用コストが必要となる。従来のブラウザビューアはこのパッケージ販売のスタイルを取っており、シャープではデザインの仕様変更からシステム連携まで開発受託を行っている。

従来からのパッケージ型に加え、ASP型サービスとしてブラウザビューアを提供する

 今回から新たに追加されたASP型の「EBLIEVA ブラウザビューアASP」は、シャープのコンテンツ配信サーバーを使用する。サーバーを自社で運用しなくて済むため、初期導入費用や開発コストを抑えられるというメリットがある。

 ASP型では、コンテンツ配信量に応じて3つの価格プランから選択できる。Webプロモーションが目的ならエントリーコース、専門電子書店の開設・運営ならスタンダードコース、総合電子書店の開設・運営ならプレミアムコースといった具合だ。事業者の体力に合わせたコースが選択できるため、無駄も抑えられる。

 アプリの「book-in-the-box」とブラウザビューアは相反する存在のように思えるかもしれないが、オフラインでの利用時など、まだアプリが求められるシーンもある。「book-in-the-box」のアプリは無償提供されるため、事業者はアプリを1から開発しなくて済むというメリットも。こうしてアプリとブラウザビューアという2つのソリューションがそろうことで、サービスを提供する事業者は、ちょっとしたプロモーションから本格的なストアまで、規模や目的に応じた柔軟な閲覧環境が選択できるようになるわけだ。

 さらにストアの運用まですべて丸投げしたいというニーズにも、運用受託という形で応えられるという。事業者のブランドだけ使って、ワンストップでサービスを提供するため、ストアの運営、企画、ユーザー対応まですべてカバーできる。自社ブランドを立ち上げたいが人がいないというケースでも安心だ。

 「電子書店の運営は、書籍の陳列1つをとっても結構深いノウハウが必要なんです。我々はGALAPAGOS STOREの運営経験を通じて、これまであらゆるノウハウを培ってきましたから、お客様の反応をみながら、いろいろな企画が出来ます。」(松本氏)

「ブラウザビューア」はGALAPAGOS STOREで体験できる

 GALAPAGOS STOREでは、6月30日からブラウザビューアを体験できるようになった。「ブラウザビューア紹介」をチェックしていただくと分かるが、書籍、コミック、雑誌の3つのカテゴリで合計243冊が読み放題という太っ腹なキャンペーンを実施中だ。会員登録はもちろん、メールアドレスの登録も必要なく、すべて無料で読めるので、ふらりと書店に立ち寄って、なんとなく本を手に取る立ち読み感覚を味わえるはずだ。

パソコンで表示した例。内容はインラインフレームで表示される。右上のフルスクリーンボタンを押せば、フルスクリーン表示になる
雑誌を全画面表示したところ。見開き表示に対応する。雑誌は通常見開き単位でレイアウトされており、見開き表示の方が読みやすい

ブラウザビューアのこれから

 将来的には、電子書籍の配信にとどまらず、事業者側でオリジナルコンテンツが配信できる仕組みも整備したいと松本氏はいう。たとえば、ファンクラブの会員に向けて独自の年鑑や会報誌を提供する、季節商品のカタログを提供するといった使い方だ。

 「今は出版社様から入稿いただいたコンテンツだけを取り扱ってますが、次の開発としてはPDFファイルなどをASPサーバにアップロードしていただくと、それを電子書籍の形に変換して、ブラウザビューアで楽しんでいただけるようにしたいなと考えております。YouTubeに動画をアップロードして、タグを発行させてサイトに埋め込む感覚ですね。同じようなことを電子書籍でもできるようにしたい。自分のサイトの中で、ペラペラとコンテンツがめくれる、それくらい気軽に取り扱えるようになったら、またいろいろな企画が可能になります。」(松本氏)

電子書籍応用事業の展開。さまざまな用途が考えられる

 「今後辞書連携や、マーカーやしおり機能も強化されるので、マーカーをちょっとソーシャルで共有しあうとか、そんな方向をぜひやりたいなと思いますね。」(松本氏)

 HTML5とEPUBという世界標準プラットフォームを採用したことで、今後の機能追加でも各プラットフォームへの対応を心配する必要がないだけでなく、新しい技術を取り込む点でも多くのメリットがある。EBLIEVAは、電子書籍を商材として扱いたいと考えている企業なら、要チェックのソリューションと言えるだろう。

すずまり

プログラマからISPの営業企画、ウェブデザイナーを経て、現在はIT系から家電関連まで、 全身を駆使してレポートする雑食性のフリーライターに。主な著書に「Facebook仕事便利帳」「iPhone 4 仕事便利帳」(ソフトバンククリエイティブ)など。 睡眠改善インストラクター、睡眠環境診断士(初級)。