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ISDNのディジタル通信モードが2020年度にも終了へ、企業間の自動発注システムに大きな影響? JISAが対策を呼び掛け

NTT公衆回線網(PSTN)のIP網移行イメージ

 一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)は19日、セミナー「INSディジタル通信モード終了によるEDIへの影響と対策」を都内で開催した。NTT東西のISDNサービス「INSネット」の一部機能が2020年後半にも提供終了する予定であることから、今後どのような対策が必要か、おもに企業間の自動発注システムなどに使われる「EDI」の観点から解説が行われた。

公衆電話網→IP網への全面移行に伴って終了、総務省で議論進む

 公衆電話網(PSTN)による固定電話サービスは、戦後長らく利用されてきたが、インターネットや携帯電話の普及により、2000年代中頃から急速に契約者数が減少している。これを受け、NTTでは2010年頃からPSTNの刷新を計画。それまでPSTNを支えてきた回線交換機が2025年度頃に維持限界を迎えるため、それに先立つ2020年度をメドに、IP網へ全面移行する方針を示していた。

 そして2015年11月、NTT持株会社からはより具体的な移行案が発表された。しかし、既存のPSTNは日本の基幹通信インフラでもあることから、移行に伴う影響が極めて多いものと考えられる。そこで総務省が中心になって、具体的な対応策の検討が進められている。

 IP網へ移行後も、一般家庭内に敷設されたメタル回線や電話機は原則そのまま利用できるよう、電話局側に必要な設備が設けられる。このため、固定電話加入者に機器買い替えなどの負担は発生しない。ただし、その例外の1つに「INSネットのディジタル通信モード終了」がある。

セミナーの模様

 INSネットは、NTT東西の商品サービス名であるが、その中身はISDN規格に基づいた(当時としての)次世代通信回線。1990年代後半~2000年代前半に広く普及した。1本の回線敷設で2チャンネル分の音声通話が行えるなどの特徴を備える。

 INSネットはやりとりするデータに応じて「通話モード」「ディジタル通信モード」が自動的に切り替わる仕組みとなっていて、現在議論が進むIP網移行によって「ディジタル通信モード」だけが終了する(通話モードは引き続き利用できるよう、電話局側に専用装置が設けられる)。

 ディジタル通信モードは、小売店のPOSレジ、機械警備などの通信インフラとして現在も利用されており、2015年9月末の時点で268万件の回線契約がある。企業の基幹業務に組み込まれているケースも相当数あるため、移行には混乱も予想される。

 19日のJISA主催セミナーには、総務省の立場から宮野光一郎氏(総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課)が登壇。「電話網移行円滑化委員会」を設置し、事業者ヒアリングが進められている点を紹介した。

 同委員会では2017年1月にも一次答申の案を発表し、パブリックコメントの募集を経て3月には一次答申をとりまとめる。その後も議論を進め、2017年夏の二次答申を目指す。

 委員会ではさまざまな事項を検討する必要があるが、宮野氏は中でもサービス終了に向けての周知および移行促進策について言及。「(移行の当事者である)NTT以外にも、各分野の事業者のお力を借りて、周知を図っていきたい」と述べた。

総務省の宮野光一郎氏(総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課)
「電話網移行円滑化委員会」の今後のスケジュール。事業者ヒアリング、パブリックコメント募集などが予定されている

推奨移行先は「フレッツ光」、時期は後ろ倒しの可能性も?

 NTT東日本の山内健雅氏からは、INSネットの一部サービス終了に向けての詳細が解説された。まず具体的な対象となるのが「INSネット64」「INSネット64・ライト」「INSネット1500」の各ディジタル通信モード。終了時期については「2020年度後半」が予定されているが、総務省の委員会での議論を踏まえ、後ろ倒しできるかどうか、社内で検討中という。

 移行に際しては時期も含めて未定の部分が多いが、現在利用している設備の確認はぜひ進めてほしいと呼び掛けている。そもそもINSネットを契約しているか、あるいは契約していても機器構成的にすでにINSネットを利用していない可能性もある。

NTT東日本の山内健雅氏
終了予定のサービス

 また、終了の対象となっているのはあくまで「ディジタル通信モード」のため、通話モードだけを利用している場合は影響はない。この判別のためには、機器の取扱説明書で利用モードを確認する方法のほか、NTTから届く請求書に「INS通信料」の記載があるかでもわかる。

 移行先となるサービスについて、山内氏は「当社としては、やはり(自社の)フレッツ光への移行をご検討いただきたい。無線も選択肢の1つになってくるが、ご利用者の事情に応じて選択いただければ」と呼び掛けた。

移行先として提案予定のサービス一覧
緊急避難的な補完対策である「メタルIP電話上のデータ通信(仮称)」については、検証環境が用意されている

EDIへの影響は必至、理想は「インターネットEDI」への移行

 続いて、JISA内に設置された「EDIタスクフォース」で座長を務める藤野裕司氏が登壇。INSネットのディジタル通信モード終了によって、EDI(電子データ交換)の運用に極めて大きな影響があるとして、注意を促した。

JISAの「EDIタスクフォース」で座長を務める藤野裕司氏
INSネット一部機能終了だけでなく、PSTNが丸ごとIP網へ移行する影響も大きいという

 EDIは、商取引に必要なデータを企業間で電子的に交換する仕組みのこと。おもに業界ごとに標準となるプロトコルが策定されており、銀行間で使われる「全銀手順」、流通業界向けの「流通BMS」などが該当する。このデータのやりとりをインターネットで行う方式がすでにあるが、一方でINSネットも数多く利用されている。

 「EDIを利用している企業は国内でおよそ30~40万社。多くがNTTの固定回線を使っていて、当然その回線の仕様が変われば、今までできたことができなくなる。スーパーの自動発注も、自動車メーカーの部品調達も、(対応しなければ)経済の流れが止まってしまう」(藤野氏)。

 JISAは現在、NTTの設備を借りながら、IP網移行後のEDIへの影響について技術検証を進めている。藤野氏らEDIタスクフォースでは、ISDN時代以前のアナログモデム式EDIについても何らかの影響があると見ている。利用者側の機器がそのまま使えるとはいえ、バックボーンとなるPSTNがIP網になるため、そこでは実際にパケット分割作業が発生するからだ。

 検証はまだ終了しておらず、藤野氏はあくまでも中間報告だと強調した上で「(アナログモデムでのEDIの)通信自体はできていた。ただ、パケット分割を行う以上、やはりディレイが出ている印象」と説明した。

IP網移行による影響を予測
理想的な移行先は「インターネットEDI」

 このような経緯から、EDIの移行にあたってはモデムやISDN用のTA(ターミナルアダプター)を介さない、「インターネットEDI」への移行が理想的という。しかし、EDIのプロトコルは業界ごとに異なり、インターネットの利用を想定していないものもある。

 このため、業界によっては新たな規格を定めなければならない。業界内規格が乱立して結局利用者の負担だけが増加する事態とならないよう、JISAでは関連団体などと協議を進めたいとしている。

 このほか、中小企業庁の鈴木勇人氏(経営支援部技術・経営革新課)からは、業界の垣根を超えたEDI規格の策定に向けた、委託調査事業についても説明が行われた。平成28年度第2次補正予算の一環で、公募締切は11月11日の予定。

業界ごとに異なるEDIプロトコル
移行にあたって検証すべき内容の例
中小企業庁の鈴木勇人氏(経営支援部技術・経営革新課)からはEDIに関する調査事業の解説が行われた
新しいEDIプロトコルを策定するのではなく、既存のものを活かしながら、データ変換させることでEDIの業界横断を進めたいという