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Wi-Fiビッグデータに基づく人の流れと地域情報をTTPP手法で高速に可視化、NIIがシステム開発
観光施策・災害対応など迅速な政策・意思決定を支援
2017年3月16日 06:00
大学共同利用機関法人情報・システム研究機関国立情報学研究所(NII)は14日、「ソーシャル・ビッグデータ駆動の政策決定支援基盤」を開発したと発表した。各種ビッグデータをリアルタイムに連携・処理することで社会の異なる事象を組み合わせて可視化し、エビデンス(科学的根拠)に基づく政策・意思決定を素早く行えるようにするシステム。
ウェブ上から取得できる宿泊施設や交通機関の予約情報などのビッグデータを活用したNIIの「ウェブデータ駆動の観光予報システム」の解析結果と、ソフトバンク株式会社の提供する訪日外国人向け公衆無線LANサービス「FREE Wi-Fi PASSPORT」のログデータに基づく人の集団の動き(群流)を組み合わせ、日次・時間単位で可視化。例えば、オリンピックなどの大規模イベント開催時の群流を把握することで交通機関や雑踏警備の要員を配置するなど、観光分野や災害分野で地域ごとの現状に即した対策を講じることができるとしている。
従来、このような意思決定は1週間後~1カ月後に集計されたデータに基づいて行われていたというが、新たに考案した「TTPP(Trackingid-Timewindow-Place-Pair)手法」によって、多様なデータの構造化と高速処理を実現。ログデータをデバイスごとに整理し、時間的な前後関係に基づいて動線ベクトルデータを生成することで、複雑な群流の解析でも高速に処理する。
Wi-Fiビッグデータは事前に同意を得たユーザーのデータのみを対象に収集。全国40万カ所に設置されたアクセスポイントのログデータから群流の可視化を行う。なお、他社が展開する訪日外国人向けの公衆無線LANサービスとの連携については、「各キャリアによって設置場所が異なったり、ビジネスモデルも異なるため難しい」としているが、検討する可能性はあるとしている。
ログデータから得られる個人情報は、匿名加工処理を複数回行うなど、加工済みのデータを用いて解析を行っている。位置情報は郵便番号区ごとにまとめられており、時間は1時間ごとのデータとしてまとめている。統計調査報告との誤差も12.3%程度となり、「観光客がどこから来て、どこへ向かっているのか、郡単位での移動範囲を可視化することに成功した。Wi-Fiビッグデータを用いて観光客数も推定できるようになる」としている。
NIIの曽根原登氏(情報社会相関研究系教授・研究主幹)によると、ソーシャルビッグデータの収集、分析、活用基盤を持たない地方自治体が多いため、「業種を超えたデータ連携で地域の衰退リスクを抑える、産学連携による地方創世、活性化の政策支援を行えるようなデータ基盤を作りたい」としている。
各地域が持つ独自の情報、例えば、地元の人が把握する人が集まりやすい場所や、地元の企業が保有する情報をNIIのプラットフォームと組み合わせることで効果的なデータ活用ができるとしている。
長崎市では、観光振興のための地域事業者「長崎市版DMO」と自治体の連携を通して、大学でのデータ分析、地域事業者でのデータ活用人材の育成を推進している。NIIでは、共同研究パートナーである国立大学法人長崎大学に「ソーシャル・ビッグデータ駆動の政策決定支援基盤」の技術を移転し、来年度以降、同技術を長崎県や観光施策に活用する予定だ。
将来的にはオープンソース化し、「特定のビジネスではなく、いろいろな地域や中小企業などに使ってもらいたい」としている。