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増大するルーターの総消費電力、光パス/光パケット化で1000分の1に削減


 独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)と独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は25日、それぞれ研究・開発してきた新たな光通信ネットワークを相互接続する実証実験に成功したと発表した。光信号を光のままスイッチングしたりルーティングすることで、高精細映像の伝送などに対応できる大容量化と、省エネルギー化を両立できるとしており、2020年ごろの実用化を目指す。

 同日、産総研の秋葉原事業所内において報道関係者向けに公開し、開発の背景や要素技術について説明したほか、NHK技研が開発している8K(横7680×縦4320画素)のスーパーハイビジョン映像を伝送するデモも披露した。


産総研ネットワークフォトニクス研究センター長の石川浩氏 NICT新世代ネットワーク研究センター長の細川瑞彦氏

 産総研ネットワークフォトニクス研究センター長の石川浩氏は、YouTubeやニコニコ動画をはじめとする動画サービスの利用増加の影響もあり、日本における個人のインターネットトラフィックが2008年から2013年にかけて年率1.39倍のペースで増加するとの予測データを紹介。これに比例してそのトラフィックをさばく国内のルーターの総消費電力も増加していけば、2020年ごろには日本の年間総発電量をすべてルーターで食い尽くしてしまう計算になるという。

 石川氏は、仮に今のネットワーク技術のまま何も手を打たなければ、ある時期にネットワークの利用が制限される恐れもあると指摘。情報通信ネットワークのトラフィック処理に伴う消費電力を3ケタ以上引き下げる技術が必要と説明した。


日本における個人のインターネットトラフィック予測 トラフィック増加に比例して、日本のルーターの総消費電力が増加していくと……

 石川氏によると、パケットをLSIで電子的に処理する方法では、現在最新のルーターで1Tbpsあたり6キロワットの電力が必要。これに対して産総研が研究・開発している「光パスネットワーク」は、光スイッチで光信号のままで回線交換する方法により、伝送路の途中で何も処理を加えずに通信を行うものだが、ネットワーク基幹部で1000分の1以上の省電力化が可能という。すでに産総研では、熱光学効果により光の出力先を切り替えられるシリコンフォトニクス光スイッチを開発しており、システム実装も行っている。


「光パスネットワーク」の課題とそれに対応する技術 産総研が開発したシリコンフォトニクス光スイッチ

 一方、NICTでは「光パケット・光パス統合ネットワーク」技術を開発している。このネットワークでは、通信経路を占有でき品質保証が必要な映像伝送などに適した光パス方式と、Webなどのデータを安価に効率的に伝送する光パケット方式を、1つのネットワークシステム内で提供。ネットワークにあらかじめ設けられた複数のチャンネルリソースを、ユーザーの用途に応じて、光パスとして使用するか光パケットとして使用するかを柔軟に切り替えられるのが特徴だ。光パスを設定するための制御信号を送受信するのに光パケットを利用する仕組みのため、システムをシンプルにできることもメリットだという。

 NICT新世代ネットワーク研究センター長の細川瑞彦氏は、「光は光のまま通すのが速く、省エネルギーにもなる」と述べ、オール光化である必要性を強調した。なお、光パケット交換には、パケットごとに宛先情報を読み取る技術が必要となるが、NICTでは1990年代半ばより独自の光ラベル処理回路を研究してきており、光パケット交換技術では世界最高レベルにあると説明する。


「光パケット・光パス統合ネットワーク」の概要 「光パケット・光パス統合ネットワーク」は、NICTの「新世代ネットワーク」構想の一部にあたる

 今回の実証実験では、実験用ネットワークである「JGN2plus」で、産総研の「光パスネットワーク」とNICTの「光パケット・光パス統合ネットワーク」を相互接続。ユーザー端末のブラウザー上から予約設定したスケジュールに沿って光パスを設定し、その経路で高精細映像を伝送する様子や、HD画質のテレビ会議回線の光パスを10秒ほどで確立する様子などが披露された。

 また、東京都小金井市にあるNICT本部との往復約100kmの距離で、24Gbpsのスーパーハイビジョン映像を伝送して表示するデモも行った。本来は2km程度の短距離用伝送装置を用いているため信号が届かない距離だが、光波長の劣化に対応するパラメトリック可変分散補償技術により長距離での伝送を実現しているという。


相互接続実験のネットワーク概要図 写真奥の端末では、視聴者ごとに映像を伝送する光パスが設定されている

リソースの利用状況モニター。1つのネットワーク上に異なる伝送速度の光パスを設定できる シリコンフォトニクス光スイッチは、熱光学効果を応用したものほか、富士通がプラズマ効果を使った方式のものを開発している

右がテレビ会議画面、左がパラメトリック可変分散補償機 スーパーハイビジョンの伝送デモ(表示は3840×2160画素に縮小)



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(永沢 茂)

2010/8/25 06:00