映画1本を1秒で配信、複数波長を束ねた最大40Gbpsの通信実験成功


 NTT、NEC、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の3社は8日、複数波長を束ねることで、最大40Gbpsで広域ネットワークを利用できる技術を開発したと発表した。この技術を使えば、映画1本分の映像データ(DVD1枚相当)を1秒で配信することが可能という。

 今回の技術は、3社が独立行政法人情報通信研究機構(NICT)からの委託研究で開発したもの。NICTが運用する研究・開発用ネットワーク「JGN2plus」で行った。実証実験では、ハイビジョン映像の4倍の解像度を持つ4K(60P)の映像を非圧縮パケットストリーム(13Gbps)で送受信することに成功。また、DVD5枚分に相当する22GBの超高精細な航空写真の転送を5秒程度で完了した。

最大10Gbpsの波長を複数束ねることで40Gbpsを実現

NTT未来ねっと研究所の石田修氏

 同日、3社は記者説明会を開催し、NTT未来ねっと研究所の石田修氏(フォトニックトランスポートネットワーク研究部ネットワーキング方式研究グループリーダ主幹研究員)が実験の概要や技術の内容を紹介した。

 従来は、光ファイバーケーブルに1波長(最大10Gbps)を通し、それを複数のユーザーがパケット単位でタイムシェアして利用している。加えて、要所の中継ノード(Ethernetスイッチ)で波長ごとに光電気変換している。これは、Webやメールなど、細かなデータのやりとりに適した方式だという。

 今後は、動画などの大容量データを扱うことが増えると予想されるため、新しい仕組みが求められる。そこで、1本の光ファイバーに複数の波長を通し、ユーザーは必要に応じて複数の波長を束ね、波長単位でタイムシェアする。また、中継ノードでは電気処理をしない光スイッチを用いる方式を開発した。

 今回の研究では、「100Tbps級フォトニックノード(高機能ノード)」「フォトニックサービスゲートウェイ(λユーティリティ)」「テラビットLAN(λアクセス)」といった3つのプロジェクトの要素技術を連携することで、ユーザー主導によるエンドツーエンドの広域転送を実現したという。

 開発した要素技術としては、データを分割して複数の波長に自在に振り分けられる「波長数可変パケット送受信」、ユーザー側で必要な波長を確保するための「波長パス アグリゲーション」、大規模なネットワークを効率的に分けてルーティングする「マルチドメイン自動経路制御」、複数の波長を束ねてスイッチングする「多階層光スイッチノード」を挙げた。また、40Gbps/100GbpsのEthernetを広域光転送網「OTN(Optical Transport Network)」で運ぶ「100GE/40GE over OTN」を国際標準化した。


将来の通信イメージ今回の通信を実現した技術

2020年までの実用化を見込む。まずは映画の制作現場などで利用

 石田氏は、11月27日に行われた実験の様子を動画で紹介した。実験は、東京都小金井市のNICT本部の2拠点と、大手町ネットワーク研究統括センターの1拠点の計3拠点で行った。各拠点間において、20Gbps光パスネットワークを3つのシナリオに基づいて切り替え、4K(60P)の非圧縮動画ストリーミング、および大容量ファイル転送に成功した。

 非圧縮動画ストリーミングでは、13Gbpsのストリーミング動画を送受信した。10Gbpsの波長2つを束ねた20Gbpsの光パスネットワーク上で動画を流している。それに加え、別の13Gbpsのストリーミング動画を送受信することにも成功。合計で4つの波長(40Gbps)を制御することで実現している。「ハイビジョンの4倍の画質のストリーミングに成功したのは、世界で初めてになる」。

 従来、波長を切り替えるには、必要な書類を業者に送り、工事を行っていたため、数週間かかるのだという。実験では、ユーザー側の機器に搭載されたアプリケーションで瞬時に波長を切り替えた。このほか、20Gbpsの光パスネットワークのうち、ストリーミングで使用していない空き帯域を用いて、22GBの航空写真を4Gbpsの通信速度で転送。「従来だと30分から数時間かかるものを5秒ほどで転送できた」。

 今後の展望としては、2015~2020年には、40Gbps/100GbpsのEthernetが端末インターフェイスに普及すると見込んでおり、その段階で今回の技術が利用されるようになるという。「まずは、医療や教育、映画の制作現場といったハイエンドな環境で利用されるだろう。一般ユーザーのサービスで利用できるのはその後になる。イメージとしては、高画質動画のオンデマンド配信をストレスなく見られるようになる」とのこと。実験用のデモ機は数千万円もする高価なもの。実用化するには、機器を数十万円台までにする必要があるため、コスト削減が課題だと話した。


実証実験に利用したデモ機や要素技術の概要

実験では3つのシナリオを設定非圧縮の4K映像をストリーミング22GBの航空写真を転送

関連情報


(野津 誠)

2009/12/8 20:38