既存のDTP環境をそのまま電子出版に、アドビが新ソリューションをアピール
Adobe SystemsのNick Bogaty氏 |
アドビシステムズ株式会社は19日、電子出版ソリューション「Digital Publishing Suite」に関する報道関係者向けの説明会を開催し、出版社やコンテンツ制作会社の導入事例を紹介。2011年の正式サービス提供開始に向け、既存のDTP環境をそのまま電子出版に活用できるメリットをアピールした。
「Digital Publishing Suite」は、10月25日に米国で開催したイベント「Adobe MAX 2010」で、2011年第2四半期に商用サービスを開始することが発表された、電子出版ソリューションのオンラインサービス。アドビのDTPソフト「InDesign CS5」やグラフィックデザインソフト「Creative Suite」シリーズ各製品をベースとして、電子書籍や電子雑誌の制作・配信・コマース・効果測定をオンラインで提供する。
Adobe Systemsのデジタルパブリッシング部シニアマネージャーを務めるNick Bogaty氏は、「これまで出版社が作り上げてきた素晴らしいデザインを、デジタルマガジンにも反映させていくことが我々の使命だと考えている」とコメント。Digital Publishing Suiteを利用することで、紙媒体の制作と同じツールを使いながらデジタルへの展開も行えるとして、電子書籍制作のデモを披露した。
Digital Publishing Suiteの概要 | 作成した電子雑誌の例 |
制作の流れとしては、InDesignで作成したファイルをサーバーにアップロードし、さらにオンライン上で追加の編集を行うことで、iOSおよびAdobe AIR向けの電子書籍コンテンツが作成できる。作成したコンテンツは、アドビのビューアーアプリで確認ができ、閲覧できるユーザーはアカウントにより制限されるため、実際の配信前の校正や確認などに利用できる。また、作成したコンテンツの各プラットフォームへの配信サービスや、課金サービス、ダウンロード数や広告のクリック数などの効果測定のサービスも提供する。
サービスは、月額699ドル+1刊行物ごとの料金となるプロフェッショナルエディションと、個別見積もりのエンタープライズエディションの2種類を提供。現時点では料金は北米の場合となっており、日本での料金は未定。
Digital Publishing Suiteの制作と配信用のデスクトップツールは、既にAdobe Labsから入手可能となっている。また、出版社やコンテンツ制作会社に対してはプレリリースプログラムの提供を開始しており、このプログラムに参加することでコンテンツの配信や課金の利用も可能となっている。
InDesignからファイルをアップロード | オンライン上の編集で電子書籍が作成できる |
アクセス解析サービスも提供する | 北米でのサービス料金 |
●「少年ジャンプ」もInDesignに移行、データ再利用がしやすく
説明会では、既にDigital Publishing Suiteの導入を進めている出版社やコンテンツ制作会社を紹介した。
インプレスホールディングス、山と渓谷社、大日本印刷の3社では山と渓谷社の新雑誌「Hutte(ヒュッテ)」を対象として、Digital Publishing Suiteを活用した新デジタル雑誌ソリューションの実証実験を推進している。誌面で見開きレイアウトとなっているページを、デジタル版では左右にパンできるようにするなど、紙のデザイン意図をデジタルで表現するための手法や、広告スペースへの複数の広告掲載、縦位置と横位置でのレイアウト変更、Googleマップとの連携といった取り組みを進めており、雑誌の世界観や素材をそのまま活かすとともに、紙媒体とデジタル媒体を同時に進行する制作ワークフローの構築を目指している。
このほか、Digital Publishing Suiteの導入事例として、アマナインタラクティブの電子カタログソリューションサービス「Visual Communication APP」や、コンデナスト・パブリケーション・ジャパンが制作したファッション誌「VOGUE NIPPON」2010年11月号別冊の電子版、Lotus8が制作したファッションブランド「HEADPOTER」のビジュアルマガジン&カタログアプリを紹介。コンテンツ制作サイドとしては、紙媒体での情報に動画や360度パノラマ写真、Twitterによる最新情報が埋め込めるなど、新たな表現の可能性が生まれるほか、アクセス解析や読者からの直接的なフィードバックが得られる点などに期待しているとした。
山と渓谷社の新雑誌「Hutte」を電子化する実証実験 | 紙のデザインの意図をデジタルで表現する手法などを検討 |
「VOGUE NIPPON」は別冊を電子化 | 「HEADPOTER」のマガジン&カタログアプリ |
また、日本の出版においては漫画も重要な要素だとして、InDsignの導入事例として集英社の週刊少年ジャンプを紹介。集英社デジタル事業部の岡本正史氏は、漫画に求められる書体の対応が進んだことなどから、従来の写植からInDesignによる文字組版に移行できたと説明。InDesignに移行したことで、単行本の出版時にデータの再利用がしやすくなったことや、海外版などの展開が容易になるといったメリットがあり、今後はさらにデバイスに適した新しいマンガ表現や、漫画のセリフデータの活用、欧文組版の新しい可能性を探るといった取り組みも進めていきたいとした。
「少年ジャンプ」も文字組版にInDesignを導入 | デジタル化することで、データの再利用や海外展開などを視野に |
アドビシステムズ マーケティング本部の岩本崇氏は、Adobe Digital Publishing Suiteの特徴として、「各媒体に応じたカスタマイズが可能」「オンラインサービスとして提供」「簡単に作成できる」という3点を挙げ、オンラインサービスとして提供することで新しいテクノロジーを随時提供できる点がメリットだと説明。「Adobe Labsで提供しているツールは英語版だが、日本語版のユーザーガイドを『ADOBE DIGIPUB MAGAZINE』から提供しており、まだ準備段階ではあるが出版関係者にはぜひ試していただきたい」と呼びかけた。
関連情報
(三柳 英樹)
2010/11/19 19:34
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