ブロッキングの基準固まる、児童ポルノ流通目的・発信者が同一のドメインのみ

ただし悪質な画像あれば1枚だけでもドメインごと遮断


児童ポルノ流通防止対策専門委員会第4回会合の様子

 通信業界団体やインターネット関連事業者、学識経験者、弁護士などで構成される「児童ポルノ流通防止対策専門委員会」(事務局:財団法人インターネット協会)の第4回会合が29日に開かれた。インターネット上の児童ポルノ画像へのアクセスをISPが強制的に遮断する“ブロッキング”の対象にするドメインの基準を決定した。

 国内では4月からのブロッキング導入を目指して準備が進められており、当面は、ISPにおける導入に伴う負担が小さいなどの理由から、DNSによってドメイン単位で遮断する“DNSブロッキング”(または“DNSポイズニング”)と呼ばれる方式が採用される流れになっている。

 しかし、DNSブロッキングでは画像単位での遮断が不可能だ。丸ごと児童ポルノのドメインならともかく、一部だけに児童ポルノ画像が含まれているドメインへの対応を巡っては、児童の権利保護を最優先として他の適法コンテンツも含めて遮断するのもやむなしとする意見と、こうした“オーバーブロッキング”は表現の自由から許されるべきではないとする意見が対立していた。

 これまでの議論を踏まえで専門委員会では今回、(1)サイト開設の目的、(2)児童ポルノ画像の数量、(3)発信者の同一性、(4)他の実効的な代替手段の不存在――という「4つの要件すべてを満たすドメインのみ」をDNSブロッキングの対象リストに含めるとする基準をとりまとめた。

 4要件の具体的な記述は以下の通り。

(1)サイト開設の目的
当該ドメインに含まれるサイトの相当部分の開設目的の全部又は一部が、児童ポルノの画像等をそれと知りながらインターネット上で流通させることにあると認められること。

(2)児童ポルノ画像の数量
当該ドメインに含まれるサイトの中に、
(ア)児童の権利等を著しく侵害するものであることが明白な画像等が存在するか、
(イ)児童の権利等を著しく侵害する画像等が相当数存在するか、
(ウ)児童の権利等を著しく侵害する画像等が相当の割合で存在するか、
のいずれかであること。

(3)発信者の同一性
(ア)当該ドメイン内に複数のサイトがある場合には、各サイトの管理者が同一であること。
(イ)(ア)にいう管理者以外の第三者が、当該ドメイン内に設置された電子掲示板等において情報を発信している場合には、
(i)当該情報に(2)の対象となる児童ポルノの画像等が含まれており、かつ、サイト管理者を当該画像等の実質的な発信者であるとみなしうるような特段の事情が存在すること。
(ii)また、当該情報に児童ポルノ以外の情報が含まれる場合には、当該情報の発信者の多くが、児童ポルノの流通が当該サイトの開設目的であることを認識・認容しながら、当該情報を発信したものと認められること。

(4)他の実効的な代替手段の不存在
当該ドメインをDNSブロッキングの対象とすることが、(1)ないし(3)及びその他の諸般の事情を総合的に考慮した上で、やむを得ないと認められること。

悪質な画像があれば1枚でもドメイン遮断、そこまでいかない画像は数量・比率で判断

 (1)にある「サイトの相当部分」がどの程度を指すのか、また、サブドメインベースで考えるのかコンテンツベースで考えるのかといった詳細は不明だが、この要件により、一般的に広く使われているブログサービスのドメインにおいて、その一部に児童ポルノ流通目的のブログが存在するからといって、丸ごと遮断されて他のブロガーが巻き添えを食ってしまうといった問題は回避されるものと思われる。

 (2)にある「児童の権利等を著しく侵害する」画像というのは、児童ポルノ禁止法第二条第3項で規定されている、いわゆる“1号ポルノ”“2号ポルノ”“3号ポルノ”の種別によるものではなく、顔が出ていてはっきりと誰かわかるものや、明らかに幼い児童であるといった観点などを踏まえて判断するという。その上で、(2)の(ア)では、そうしたことが「明白」である“ワースト・オブ・ワースト”な画像が存在する場合については、数量的にはたとえそれが1枚だけであっても、そのドメインを丸ごとブロッキングリストに含める1つの要件に相当することを意味する。

 一方で、(2)の(イ)(ウ)では、こうしたことが「明白」ではない画像については、数量と当該ドメイン内における児童ポルノ画像の比率に基づいてリストに含めるかどうかを判断するということを示している。ただし、具体的な数量と比率については公表しない方針だ。児童ポルノではないコンテンツを大量に水増し、児童ポルノを“希釈”するという回避策をとられるのを防ぐためだ。

 また、(4)で「やむを得ない」場合として示されているように、発見した児童ポルノ画像をいきなりリストの対象にするということではない。リストに含めるかどうか判断するにあたっては、削除要請を経ていないものや、海外サーバーであっても削除要請できる場合は、あくまでも発信者に対する削除要請を行うことが前提となる。

 なお、今回、報道関係者を含む傍聴者に公開された文書はこうした骨子部分だけだ。「当該ドメインに含まれるサイトの相当部分」「児童の権利等を著しく侵害する」「諸般の事情を総合的に考慮した上で」など、漠然とした記述にとどまる。実際には、専門委員会などでのこれまでの議論を踏まえ、運用上の細かい留意点などを含んだガイドライン的な文書も作成されている。それには、(3)の発信者の同一性について、複数の管理人がいる場合のように、必ずしも1人の管理人ということを意味するわけではないといった注記が書かれているという。

 当初、具体的に想定されているブロッキング対象サイトの形態としては、海外サーバーで削除要請が効かないアダルトDVD通販サイトがある。掲載しているDVDの紹介画像がすべて児童ポルノでなくとも、4要件を満たしていれば、他の適法な成人アダルト画像までオーバーブロッキングしてしまったとしても問題は少ないというスタンスだ。ブログや掲示板などに比べて、DVD通販サイトであれば管理者の同一性を比較的確認しやすいということもありそうだ。

ISPでのブロッキング開始は、震災の影響で若干遅れる見込み

 29日の第4回会合では、ブロッキングするドメインのリストを作成・管理する団体として「一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)」を正式に選定した。

ドメインリスト作成・管理団体の選定式。児童ポルノ流通防止対策専門委員会の委員長を務める情報セキュリティ大学院大学教授の林紘一郎氏(左)と、一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会の代表理事を務めるテレコムサービス協会サービス倫理委員長の桑子博行氏(右)

 ICSAは、通信業界4団体や大手ISP、ヤフー、グーグルなど21社・団体が集まって2月に発足した団体。警察庁やインターネット・ホットラインセンターから情報提供を受け、今回のDNSブロッキングの基準を満たすかどうかをICSA側で判断し、該当するものをアドレスリスト化していく。アドレスリストは賛同するISPに提供され、各ISPがそれぞれ自社会員が児童ポルノ画像にアクセスするのを遮断する仕組み。

 ICSAではアドレスリストを4月1日から提供することを予定しているが、ICSAの代表理事を務める桑子博行氏(テレコムサービス協会サービス倫理委員長)によると、実際にISPがアドレスリストを使ってブロッキングを開始する時期については、震災の影響もあって若干遅れることになりそうだとしている。今回の第4回会合も当初は3月18日に予定されていたが、震災の影響により延期されていた。


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(永沢 茂)

2011/3/29 16:33