UQ、下り150Mbpsを記録した「WiMAX 2」フィールドテストを公開


「WiMAX 2」のフィールド実験を行うバス

 UQコミュニケーションズは、2013年早期のサービス開始を計画している「WiMAX 2」について、都内で実験を行いその模様を報道陣に公開した。

 「WiMAX 2」(IEEE802.16m)は、現在のWiMAXと互換性を保ちながら、電波の効率的な利用や通信速度の高速化、新サービスへの対応などを目的に導入が検討されている新しい通信方式。周波数帯域幅が20MHzの場合、通信速度は下りで最大165Mbps、上りは最大で55Mbpsを実現する。また、現行のWiMAXが時速120kmまで対応するのに対し、「WiMAX 2」では時速350kmまで対応できる。なお、帯域幅を40MHzとし、下り最大330Mbps、上り最大110Mbpsとしたシステムも実験されているが、獲得・利用できる帯域幅は20MHz幅が現実的として、20MHz幅のシステムで実験が公開された。

 東京・大手町で実施された実験は、大手町のビル群の中を、機材を搭載したバスが巡回するというもの。基地局設備とアンテナはKDDI大手町ビルに設置され、端末にあたる設備はバスに搭載された。現行のWiMAXは2×2 MIMOだが、WiMAX 2ではアンテナを4本搭載した4×4 MIMOの構成が採用されている。

 実験のバスでは、高画質・大容量の映像を受信しながら、受信速度の推移などを観測できた。また、動画はQoSにより品質が維持されていた。バスが移動していない静止時では、基地局のあるビルのふもとにて、理論値の165Mbpsに迫る153Mbpsも瞬間的に記録されていた。移動を始めると受信速度、平均速度は徐々に落ちていくが、それでも平均で100Mbps程度の速度が記録されていた。実験内容の解説にあたったUQコミュニケーションズ 技術部門副部門長の要海敏和氏によれば、4×4 MIMOの効果が予想よりも大きいとのことで、ビル群の中において反射した複数の電波をつかむマルチパス発生により、少なくとも100MbpsのレベルではMIMOの多重効果が発揮されているという。

フィールドテストの内容基地局、端末の構成
大手町のビル群の中を回るコース静止時では150Mbpsを超えることも
4×4 MIMOの効果が予想以上に高いという

 

 一方、実験の巡回コースには、通信速度が落ちるコースとして、片側に皇居とお堀を望む内堀通りも含まれており、ここでは受信速度が50Mbps前後にまで後退した。片側が皇居ということで、ビルなどの高層建築がなく、見通しも良いが、実験の基地局は反対方向にあり電波の反射がないために、MIMOの効果があまり得られず、速度が低下しているとのことだった。バスがビル群に入るとMIMOの効果が現れ、通信速度は再び上昇していた。

 公開されたフィールドテストは基地局と端末が1対1という実験環境ながら、理論値に近い通信速度が実フィールドにて実現できることが確認された。また、移動環境でも100Mbpsを超える通信速度を実現でき、4×4 MIMOの有効性が確認された。今後の課題は、現行のWiMAX基地局と同程度にまで設備を小型化することで、現行のWiMAXと一体化した運用方法の確立も必要としている。また、時速350kmという超高速移動環境での特性の評価は、今後実験を行う方針。

内堀通り(右側が皇居)に入ると、通信速度は50Mbps前後に後退。この写真では左側後方に基地局がある。中央は要海氏。右のディスプレイには受信した高画質な動画を表示しているグラフの落ち込んでいる部分が、内堀通りを走った時間帯。ビル群に戻ると再び上昇に転じた
フィールドテストの結果と課題

 

現行のWiMAXと併用し、ビット単価を下げる

UQコミュニケーションズ 代表取締役社長の野坂章雄氏

 実験に先立って、都内では記者向けに説明会が開催された。UQコミュニケーションズ 代表取締役社長の野坂章雄氏は、6月15日に100万契約を突破したことなどを示し、「比較的順調にここまできた」と振り返る。契約者数は今後も増加を見込み、2011年度末(2012年3月)には200万契約を目指す。エリアの拡大では、JRの成田エクスプレスに続いて地下鉄、地下街も順次エリア化していく方針で、東京メトロ、都営地下鉄とも基本合意に至っていることを紹介した。また、端末はパソコン用からルーター、据え置きタイプなど、さまざまなタイプが登場していることをアピールした。

 「WiMAX 2」については、「最大の目的は、(現行の)WiMAXと併用することで、高度化し、電波利用効率が上がり、ビット単価を下げられる点」とした。同社では、WiMAX 2を現行のWiMAXと併用し、エリアが重なる形(オーバーレイ)で展開する予定。WiMAX 2端末はWiMAX 2の基地局にオフロードされる形となるため、現行のWiMAX端末も通信環境が良くなるという。これらのことから、野坂氏は、「WiMAXとWiMAX 2は、合わせて考えていくもの」と、併用しながら展開していく方針を改めて示した。

 端末は、当初は下り150Mbps対応のパソコン用データ通信端末が提供される見込みとのこと。現行のWiMAXも利用できるモードが搭載される予定であることも明らかにされている。GCTが開発を担当する端末は、WiMAX、WiMAX 2の両方に対応し、2012年の早期に製品化前のサンプル出荷が開始される見込み。

 一方、WiMAX 2で利用を予定している周波数帯の割当てについては、今後決定される内容で、現時点で確定していない。同社では2012年前半に周波数割当てが決まると予想している。

 料金体系については、トラフィックの増大・増大予測を受け難しい判断を迫られている様子で、「WiMAX 2では、デバイス別や従量制など、使いかたに合わせて考えていかなければならないと考えている」と、慎重な姿勢を示した。

 野坂氏はこのほか、海外展開にも言及し、マレーシアのYTLと覚書を締結する予定であることを明らかにした。WiMAX 2対応端末の開発や調達、規格の国際標準化、国際ローミング、共通プロダクトなどさまざまな面で協力していく方針。野坂氏は「アジア発の新しい連携で、WiMAX 2を世の中に出していきたい」と語り、アジアを起点に、同社が先陣を切る形でWiMAX 2を普及させていくとした。

 

世界で最も成功したWiMAX

 説明会ではこのほか、インテル 取締役副社長の宗像義恵氏が登壇。「日本のWiMAXは世界で最も成功したWiMAXの例」と紹介したほか、インターネットを利用する端末が急激に増えている様子を示して、「インテルはマイクロプロセッサを開発しているが、実際は端末のソリューションだけでなく、通信網のサポートが必須。その点において、WiMAX、WiMAX 2の超高速無線通信網は、インテルの事業戦略の実現において重要である」と、インテルがWiMAXに取り組む理由を明らかにした。

インテル 取締役副社長の宗像義恵氏
ガチャピンとムックが応援に駆けつけたほか、実は別個体だった「ブルーガチャムク」の正式プロフィールも公開された

 

会場の展示

WiMAX 2の試験に利用される基地局GCTが開発するWiMAX 2の端末
ルータータイプUSB接続型
パソコン内蔵型パソコンに接続したデモも
こちらは現行WiMAXの採用例7月16日より設置されるというナムコの店頭端末。これまで有線だった通信をWiMAXで行う仕組みになっている

 


関連情報


(太田 亮三)

2011/7/6 19:14