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「議論の土俵が奪われる」TPPが著作権に与えるインパクトとは
(2012/12/14 08:00)
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)、MIAU(一般社団法人インターネットユーザー協会)の3団体が設立した「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」が12日、キックオフイベントを開催。参加メンバーらが、TPP交渉の問題点や知的財産権に与える影響を議論した。
フォーラムは、TPP自体には「中立」というスタンス。その一方、秘密協議によって国民にほとんど情報開示されないことから、TPP交渉の公開化を要請している。ネット上に流出した米国の要求条文に含まれる知的財産権条項の内容にも強い危惧を抱いているといい、交渉の公開要請が受け入れられなければ、TPP参加条件として知財条項を交渉対象から除くことを政府に訴える。
なお、ネット上に流出した米国の要求条文には、「著作権保護期間の大幅延長」、被害者の告訴なく著作権・商標権侵害を起訴・処罰できるようにする「非親告罪化」、知的財産権侵害の際に高額の賠償請求を可能にする「法定賠償金・3倍額賠償金制度」といった項目が含まれている。
秘密協議で「悪法」が生まれても後の祭り
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CCJP)常務理事で弁護士の野口祐子氏によれば、TPP参加国は秘密交渉に同意するレターにサインさせられ、その内容は条約発行後4年は公表しないように要請される。このため、交渉は政府役人や一部の利害関係者の協議のみで進められるという。
野口氏が問題視しているのは、国民全体に影響のある著作権法などの知的財産の内容が秘密協議で決定され、条約が失効・変更されない限り政府は遵守しなければならないことだ。「国内協議に招かれる関係者が誰かも明確にされず、大多数の国民には意見を述べる機会すら与えられない。悪法だったよねといっても議論し直せないのが問題だ」。
野口氏の意見に対して、弁護士でthinkC世話人を務める福井健策氏は、「国益に従うのは外交交渉の基本だが、国益を誰が判断するのかが問われている。昔は政府に情報が集中していたが、いまは民間にも多数の情報がある。そうすると最適な交渉戦略はいろんな人から知恵を集めたほうが良いという声もある」と、秘密交渉の問題点を指摘した。
「米国にはGoogleやFacebook、Twitterのような大企業を守るフェアユースがあり、知的財産権を強化する反面で、IT産業のバランスも取っている。しかし、TPPはフェアユースなどIT産業の顔を立てる提案がない。(日本に導入されれば)米国はコンテンツ産業で一人勝ちするだけでなく、IT産業でも一人勝ちするのでは。」(野口氏)
保護期間延長は国益か? TPPで議論の土俵を奪われる
日本では現在、著作権は「著者の死後50年」が経過すると消滅し、以後は誰でも自由に作品を利用できる。欧米では1990年代に相次いで延長され、概ね「著者の死後70年」となっている。特に米国ではミッキーマウスの著作権が切れそうになると延長していることから、「ミッキーマウス保護法」とも揶揄されている。
日本でも、2006年頃から米国の要求を受けて国内権利者団体が延長を求めたが、結論が出なかった経緯がある。福井氏は「日本のコンテンツ国際収支は5700億円の赤字」と前置きした上で、米国はミッキーマウスやバットマン、スーパーマンなど「古い作品」が強く、保護期間延長は国益に反するとの見方を示した。
イベントを傍聴していた「青空文庫」呼びかけ人の富田倫生氏は、2013年元旦からは吉川英治や柳田国男らの作品が著作権切れになるなど「著作権的には大きな年」と発言。保護期間延長をめぐっては反対意見を表明し続けてきたが、TPPによって「各立場から見解を述べてきた人の土俵が奪われる。政府は誰の意見を代表して交渉に望むのか」と嘆いた。
非親告罪化と法定賠償金で「漫画界が弱くなる」
著作権の非親告罪化や、実損害の証明が無くても裁判所がペナルティ的な要素を含んだ賠償金額を設定できる「法定賠償制度」が導入されることで、「漫画界が弱くなる」と危惧するのは、漫画家の赤松健氏だ。
「コミケは厳密に言うと著作権侵害の可能性があるので、コミケ参加者は萎縮したり、場合によっては参加をやめてしまう。参加をやめればいいと思うかもしれないが、漫画にとってコミケは非常に重要。コミケの広い裾野があってこそ、上のほうが面白くなる。裾野が狭くなれば上もつまらなくなる。」
赤松氏の発言を受けた福井氏も、現在の日本の著作権法は「グレーな領域」が機能していることで、権利者が「許可を与えた」と言いにくいことでも、「その程度なら放置しておこう」と放置されていたと指摘。一方、著作権が非親告罪となれば、権利者以外の第三者が通報して、警察が動くこともあるかもしれないと話した。
この指摘について、傍聴していたメディアアクティビストの津田大介氏は、「ネットでよくある『通報しますた』の世界で、警察が全部を真に受けるかどうかは不明。ただ、(脅迫によってコミケに参加できなくなった)黒子のバスケの事件のように、特定のクリエイターに嫌がらせをする手法は、非親告罪化が通れば増えるかもしれない」と懸念した。
赤松健氏が独自のクリエイティブ・コモンズ「エロ同人で勝手に儲けて」
赤松氏はさらに、コミケ同人誌向けの新たなクリエイティブ・コモンズ(CC)マークを披露。現在のCCについて、原作絵のデッドコピー(そっくり模倣すること)は不可にして、「キャラクターと設定だけ使った二次創作活動」はある程度認められるマークが欲しかったといい、使用範囲に応じて3つのレベルのCCマークを考案した。
それによれば、レベル1は「アニメ化や実写ドラマ化やゲーム化など、勝手にマルチメディア添加してもOK。ただし、作者が次回展開を制止できる」、レベル2は「エロでも何でも、二次創作同人誌はすべてOK。ただし、紙やデータを使った『静止画』のみ」、レベル3は「デッドコピーや原作からの切り貼りでなければ、二次創作同人誌を勝手に作って儲けてもOK。ただし、エロ(性行為)描写はダメ」というもの。
赤松氏によれば、すでに講談社からは自分の作品にこの新CCマークを使う了承を得ており、CCJPがサポートしてくれれば次回作で「レベル1」を使いたいという。「エロ同人で勝手に儲けていいんです」「これがあればTPPが来ても大丈夫」などと語ると、会場はこの日最大級の盛り上がりを見せた。
イベントの最後には、福井氏が「個別のメニュー賛否はあると思うが、賛否はあっていい。TPPの知財問題が埋没するよりはるかにいい」と締めくくり、今後のさらなる議論を呼びかけた。