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ニフティが「個人ホームぺージ」サービス継続の姿勢を表明。このSNS時代になぜ?

蓄積された情報資産を未来に残す――熱い思いの新プロジェクト立ち上げの背景には30年の歴史が

ニフティの「#好きがつながるプロジェクト」特設ページ

 安心してください、ニフティは「個人ホームぺージ」の文化を守り続けます――。ニフティ株式会社は8月6日、個人による情報発信を支援する「#好きがつながるプロジェクト」の開始を発表した。

 昨今、他社の個人向けホームぺージサービスが終了していく中、同社の「@niftyホームぺージサービス(LaCoocan)」は今後も継続して提供していく姿勢を表明。同サービスで開設されているホームぺージの中にはまだまだ世に知られていない価値あるコンテンツがあるとし、その存在を広く知ってもらうための活動も展開する。

「個人ホームぺージ」って何? SNSやブログと何が違う?

 そもそも「個人ホームぺージ」とは何なのか? インターネットで個人が情報を発信するための手段としては、SNSやブログなどのプラットフォームがあるが、何が違うのか?

 同社サービス開発グループの担当者にあらためて説明してもらったところによると、個人ホームぺージは「インターネット上に自分で作る、自分だけの完全にオリジナルのウェブサイトのこと」であり、SNSやブログと比較するかたちで、それぞれ住宅に例えて以下のように説明する。

  • SNS:
    アカウントを作ればすぐに投稿できる“巨大な集合住宅の一室”のようなもの。手軽に交流が楽しめる一方で、プラットフォームが定めるルールや機能の範囲内でしか活動できないという制約がある。
  • ブログ:
    文章を書きやすくするテンプレートや機能が充実した、“記事を書くことに特化したアパート”のようなイメージ。
  • 個人ホームぺージ:
    インターネットという広大な場所に、ゼロから設計し、デザインも内容も全て自分好みに作り上げた“自分だけの家”を建てるようなもの。記事だけでなく、作品集やオンラインショップなど、多種多様なコンテンツを自由にレイアウトして公開でき、表現の自由度が格段に高い。

 「それぞれの個性的な情報を手作りでインターネットに発信しているのが、個人ホームぺージです。」

始まりは1995年。富士通「InfoWeb」で「MySweetHomepage」提供開始

 ニフティのホームぺージサービスの歴史は、1995年11月、富士通のインターネットサービス「InfoWeb」で提供を開始した「MySweetHomepage」までさかのぼる。また、1997年12月には「NIFTY-Serve」会員向けの「メンバーズホームぺージ」がスタート。その後、InfoWebとニフティがサービスを統合して「@nifty」ブランドに一本化されたのに伴い、1999年11月、「@homepage」サービスがスタート。MySweetHomepageとメンバーズホームぺージの受け入れ先ともなった。

 一方で2006年1月、「LaCoocan(ラクーカン)」という別のサービスがスタート。PHPやRubyにも対応し、Movable TypeやWordPressも設置できる個人向けホスティングサービス(レンタルサーバー)の位置付けだったが、2010年1月、ホームぺージ作成をメインとしたサービスに位置付けを変更。2016年11月で提供を終了する@homepageの受け入れ先ともなった。

 こうしてLaCoocanに一本化されたニフティのホームぺージサービスは2016年11月に「@niftyホームぺージサービス」へと名称を変更し、現在に至っている。

ニフティのホームぺージサービスの歴史(「#好きがつながるプロジェクト」特設ページより)

 ある人気俳優のシンプルなホームぺージもこのサービスで開設されていることが知られており、ページビュー規模で見るとやはり別格のようだが、人気を集めているホームぺージはそれだけではない。ユーザー作のWeb漫画を掲載しているホームぺージ、陸上や地域の野球連盟のホームぺージ、ゲームの攻略サイト、ドラマのロケ地のデータベースサイトなどが人気で、多いところでは月間20万ページビューを集めるという。

「@niftyホームぺージサービス」サービス紹介ぺージ

 今回発表された「#好きがつながるプロジェクト」は、MySweetHomepageがスタートした1995年を起点とすると、2025年はニフティのホームぺージサービスが30周年を迎えるタイミングであることに合わせたもの。8月6日に公開されたプロジェクトの特設ページには「熱意でつながっていた時代をいま、再び」というキャッチフレーズを掲げ、「好きなことに熱中してオンラインでつながりはじめた時代から約30年 インターネットが育んできたカルチャーを見つめなおし、人と人、過去と未来をつなげていきます」と宣言。プロジェクト名に込めた意図・狙いを伝えている。

 今後の取り組みとしては、30周年を記念した企画やイベントを順次実施する。プロジェクトの第1弾では、ニフティの前島一就代表取締役社長がインターネットサービスの歴史を振り返るとともに、このプロジェクトにかける思いを語る。第2弾以降では、@niftyホームページサービスで開設されたホームページを多くの人に知ってもらうため、「当社社長が選ぶ、心を動かされたホームページ」の紹介を予定している。

「ホームページサービスの最後の牙城」として存続を求める声も

 ニフティは今年4月、@niftyホームぺージサービス(LaCoocan)のユーザーのうち、直近1年以内にFTP利用があるアクティブユーザーを対象に、ホームぺージサービスに関するアンケート調査を実施している(有効回答数:910)。なお、回答者の90%以上が50代以上だった(50代が28%、60代が36%、70代以上が28%)。

 ホームぺージの更新頻度は、「週に1回以上」が17.4%、「月に1回以上」が35.6%、「数カ月に1回程度」が30.3%、「ほとんど更新していない」が11.1%。全体的に更新頻度は低いとしているが、「ほぼ毎日」という回答も複数あった。なお、年代が上がるにつれて更新頻度は上がっているとしている。

 ホームぺージで扱っているコンテンツのジャンル(複数回答)は、「写真・イラスト・アート作品」が35.5%、「ブログ・日記」が32.0%と多く、以下、「レビュー・コラム・考察記事」が20.9%、「店舗や企業のホームぺージ(オンライン店舗/リアル店舗)」が19.9%、「商品・サービスの紹介」が14.8%、「データ収集」が5.5%だった。また、その他の回答としては「リンク集」「自作アプリやプログラム」「同窓会」「研究成果」などが多く見られたとしている。

 ホームぺージを作成・更新する目的・理由(複数回答)は、「趣味の情報を発信するため」が56.0%で最多。以下、「仕事・ビジネスのため」が33.4%、「個人的な記録・日記として」が30.5%、「自分の考えや作品を発信して見てもらいたい・役立ててもらいたい」が29.2%、「交友関係を広げるため(自分と同じ趣味や考え方の人と知り合いたいから)」が18.9%、「友人・知人への近況報告や連絡手段」が16.8%。その他の回答の中には「NIFTY-Serveの後継システムとして」というものもあったという。

 ホームぺージのコンテンツを見てもらいたい相手(複数回答)は、「同じ趣味・志向の人に」が62.7%で最多。以下、「とにかく大勢の人に」が31.2%、「知人・友人に」が31.1%、「自分とふだん接点のない人に」が10.8%、「家族に」が7.7%、「同世代の人に」が3.8%だった。

 ブログ、FacebookやX(旧Twitter)、Instagramなど、情報発信ツールがほかにあるにもかかわらず、ホームページサービスを選択している理由(自由回答)としては、以下のような項目に分類される。

  • 時系列に縛られない
    「SNSはタイムラインで流れていくものでなく固定したい」
    「SNSは時系列でさかのぼれない」
  • 更新の自由度
    「頻繁に更新しなくてもよい」
  • 自由なレイアウト
    「新旧のコンテンツを自由に構成できる」
  • 蓄積型コンテンツ
    「体系的な構成で情報を掲載できる」

 また、実際の回答としては例えば以下のようなものがあった。

「SNSは頻繁に更新されるので、一定の情報を示す用途に向いていない。また、自ドメインのホームページを持つことはネット上で一定の信頼を持ってもらえるから。」

「SNSとは全く性質が違う。IDの有無にかかわらず、URLを知らせれば誰にでもすぐ見てもらえる。SNSも使っているが、そこからホームページのコンテンツのリンクを張るという使い方をしている。SNSのように日々どんどん流れていってしまうと知見の蓄積が難しい。」

 アンケートではこのほか、ホームぺージサービスに関する意見・要望も募っており、例えば以下のような回答があったとしている。

「ホームページサービスの最後の牙城として存続して欲しい。」

「これが無くなると、もはやニフティである必要がなくなるので、プロバイダーごと乗り換えるかも。」

「いろいろな創造的要素を含んだ数多くのホームぺージを削除するのはあまりにもったいない。アーカイブのようなものを国レベルで作って保存できないものか。ニフティが業界に働き掛けて、そういう仕組みを国で作って欲しい。」

「自分の人生の一面の蓄積です。」

「毎日の更新が日課であり、人生の主目的にもなっている。過去25年間、ニフティでホームページを続けているが、長年発表してきた写真が認められ、今月、写真集として出版されて、大きな喜びを味わえた。」

ニフティは「プラットフォームに左右されない自己表現の場を守り続ける」

 「#好きがつながるプロジェクト」特設ページでは、こうしたアンケート結果の一部も紹介しており、ユーザーからの声が同プロジェクトを立ち上げた背景にあることを説明。

 また、ニフティでは「『速度』と『拡散性』が重視され、情報が瞬く間に消費されていく現代のSNS時代において、弊社ホームページサービスに価値を感じ、継続を希望してくださる多くのお客様の声に深く感謝をいたします。ニフティはこれまでに培ってきた情報資産を再評価し、これからも個人が自由に表現でき、プラットフォームに左右されない自己表現の場を守り続けてまいります」とコメントし、個人向けホームぺージサービスを継続して提供していく姿勢を示したかたちだ。

無料プランの提供は9月末で終了、有料プランは10月から値上げ。一方で待望のHTTPS化!

 なお、現在の@niftyホームぺージサービス(LaCoocan)のサービスがそのまま今後も継続されるわけではない。2016年に提供を終了した旧サービス「@homepage」からの移管用プランとして提供されてきた無料の「LaCoocanミニプラン(@niftyホームページサービス)」については、9月末で提供を終了。ユーザーには、有料プランへの移行を案内する。

 有料プランは現在、ディスク容量やCGI・データベースの利用の可否、アクセスログ解析などの機能の有無によって、「ライトプラン」(12カ月契約1257円)、「スタンダードプラン」(1カ月契約660円または6カ月契約3300円または12カ月契約5940円)、「スタンダードプラスプラン」(1カ月契約1650円または12カ月契約1万6500円)の3つのプランがある。これが10月からの価格改定で、各プランとも30%の値上げとなる。

 なお、無料のミニプランからのプラン変更先は、スタンダードプランまたはスタンダードプラスプランとなる(機能的に下位にあたるライトプランには変更不可)。

 一方で、10月より順次、SSL/TLS対応(HTTPS化)が行われるとのことだ。これは同サービスへの改善要望として多く寄せられていた項目だったとしおり、前述のアンケート調査では、SSL/TLS非対応との理由から、ホームぺージを閉鎖・削除する予定だとしたユーザーや、他社サービスへ移行する予定だというユーザーの声もあったとしている。

 「この先、信頼できるサービス提供を目指すため、以前より多くのご要望をいただいておりましたHTTPSを10月に導入いたします。それに伴い価格帯の見直しやプランの見直しがあり、今回、無料でのご提供を終了させていただくこととなりました。」(ニフティ)

【記事更新 8月7日 19:00】
 提供プランおよび料金の見直しと、SSL/TLS(HTTPS)対応についての発表があったことを受け、加筆しました