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'00年代のホームページ遺産(黒歴史を含む)2TB超が自動消滅の恐れ

 21世紀最初の10年前後の間に開設された国内のホームページのうち、決して少なくない数のホームページが、半年後には消滅してしまう可能性が出てきた。ニフティ株式会社が提供してきたホームページサービス「@homepage」が9月29日15時で終了するが、その受け皿となる「@niftyホームページサービス」への移行手続きが行われていないホームページが、まだかなりの数、存在するためだ。仮に期限までに移行されなかった場合、9月29日15時以降、そのホームページは表示されなくなり、2TBを超えるデータもニフティのサーバーから削除され、失われることになる。

 @homepageは1999年10月、それまでの「NIFTY SERVE」と富士通のISP「InfoWeb」が統合し、「@nifty」ブランドでISPサービスがスタートしたのを機に始まった。当時は、ISPに契約すればメールアドレスとともにホームページも無料で付いてくるものととらえられていた時代だ。ニフティでもISPの標準サービスの1つとして位置付け、@niftyのインターネット接続会員向けに@homepageを提供開始した。

 最盛期の2003年には、約34万アカウントが@homepageでホームページを運用。ニフティによると、同年、@homepageのサービスを利用できた@niftyの接続会員は約350万アカウント(当時の各年度末の総会員数・ブロードバンド会員数から推計)だというから、その1割近くがホームページを開設していたことになる。日記や旅行記、読書や映画の履歴など、現在のブログやSNS的な使い方をしている人も当時から存在した一方で、写真や絵画、MIDIデータなどの自作の制作物を公開しているホームページが多かったのではないかとしている。

 しかし2003年といえば、インターネットにおける個人の情報発信手段としてブログが台頭してきた時期。ニフティでも同年12月、Six Apartと提携して日本向けのブログサービス「ココログ」を開始している。日記的なホームページはココログに移行していったものも多く、さらにその後、SNSも普及したこともあり、@homepageの利用は減少へ。ホームページというサービス自体も、ISPの必須サービスではなくなっていった。

 そして2010年1月、接続会員向けの標準サービスとしての@homepageは新規の受付を停止。@niftyのホームページサービスは、別途提供していた有料サービス「LaCoocan」に一本化し、「@niftyホームページサービス」と名称変更して提供していくかたちになった。

 その時点で、@homepageですでに開設されているホームページについても、いずれはサービスが打ち切られるものとみられていた。既存ユーザーの規模が大きかったことから、結果的にそれから6年以上も維持されたが、今年9月、いよいよ@homepageのサービス自体が閉じられることとなった。

 ニフティによれば、@homepageで開設されたホームページは累計60万件弱に上る。ただし、@nifty接続会員自体を退会したのにともなって閉鎖されたり、LaCoocanへ移行したアカウントもあるため、現在も存在するホームページは17万件弱(総容量は3TB弱)。さらに、ホームページサービス自体の利用傾向も以前とは変わってきたことから、このうち9割以上のコンテンツは更新が停止しているという。日記などの更新頻度の高いコンテンツはブログやSNSに掲載し、その過去ログを@homepage側に置いたり、写真などの作品の保存場所として使用するなど、アーカイブ的な使われ方が多くなっているのだという。現在も頻繁に更新が行われていると思われるホームーページは約1万件。個人というよりは、企業、各種教室、団体組織などのホームページが多い模様だ。

 ニフティは今年1月、@homepageの具体的なサービス終了期日と、@niftyホームページサービスへの移行要領を告知。本来、@niftyホームページサービスは有料のプランを提供しているが、@homepageからの移行専用に無料プラン「@niftyホームページサービス ミニ」も用意した。移行に関する案内ページを開設しているほか、@homepageでホームページを開設している会員にはメールでも通知している。ただし、移行受付・移行作業期間が始まってからすでに2カ月以上経過したが、移行見込みアカウント(更新を続けているアカウントおよび有償オプションを使っているアカウント)のホームページのうち、移行が完了しているのは2割にとどまるという。

 現在も更新を続けている約1万件のホームページの管理人ならともかく、更新が停止したままとなっている多くのホームページは、移行手続きしようにも(あるいは閉鎖しようにも)、URLやアカウントを忘れてしまってログインできないままになっているところも少なくないようだ。@nifty会員向けの管理画面からそれらの情報を確認できるというが、そもそも@niftyのID・パスワード、メールアドレスのパスワードなどが分からなくなっている会員もいるかもしれない。

 とはいえ、@homepageの利用者ということは、無料ホームページや無料メールサービスなどとは異なり、@niftyのインターネット接続会員として毎月の利用料金が決済されていることになる。どうしても@niftyのアカウント情報が分からない場合は、同社に問い合わせるなど確認の手段があるはずだ。

 なお、移行先の「@niftyホームページサービス ミニ」は、基本容量が標準で2GBある。標準で50MB、有料オプションを使っても最大300MBだった@homepageからは大幅に増量されている。また、同じく@homepageでは有料オプションだったアクセス制限機能も標準で付属。CGIも、URLは変わってしまうが引き続き使える。

 このように、移行先は従来環境よりも“スペックアップ”するわけだが、その一方で使えなくなる機能もある。その代表がアクセスカウンターだ。@homepageのホームページの大半で使用されているとみられ、人気ホームページのステータスでもあるアクセスカウンターだが、その数字は残念ながら移行とともに見納めとなる。ニフティによれば、@homepageのアクセスカウンターでカウント可能な最大値「99999999」に到達しているホームページは約100アカウント存在するという。そうした名誉あるホームページの管理人は、移行作業を行う前に、記念に画像キャプチャしておくべきかもしれない。

 ホームページのURLも変わる。「homepage*.nifty.com/~」で始まる文字列ではなくなり、nifty.comドメインではない複数のドメイン名から、ホームページのテーマなどに応じて選択するかたちになる。なお、旧URLのホームページは9月29日15時で表示されなくなるが、それまでに@niftyホームページサービスへの移行を完了している場合は、移転通知ページを2018年3月29日15時まで表示可能だ。

 このほか、「サクサクかきあげ君」「簡単マイページ設定」といった機能も、使えなくなる。これらは、画面のウィザードに沿って情報を入力していくことで簡単にページを作成できるツールだ。FTPの設定などを意識せずにホームページを更新できるという。@homepageではこうした作成支援ツールを提供したことで利用者増加につながったとしており、実際、現在もこうしたツールで更新しているユーザーは多く、「LaCoocanに移行するとホームページを更新できない」というユーザーがいることはニフティも承知している。しかし、ホームページサービスは現在、簡単に開設・更新できるということに重点を置いていた時代から、ユーザーがCMSなどを導入して自由に利用してもらう時代にシフトしているのだという。

 昔はマスコミでは扱われることのなかったB級グルメやB級観光スポット、あるいは清涼飲料水や氷菓の熱狂的なコレクターなど、ホームページには、「ある種の趣味に関して最強の人」(ニフティ)が生み出した個性的なコンテンツがあった。また、有名人が近況を発信するのも、今のようにブログではなくホームページだった時代。ある人気ファッションモデルがテレビに出演した直後、ニフティで開設されていたその人のホームページに想定外のアクセスが集中し、システムダウンに至ったこともあったという。

 そんな@homepageの最盛期だった2003年には、同サービスのもとで公開されていたホームページへの合計アクセス数は月間十数億ページビューという規模だった。それが現在は、月間2億弱。今では検索の上位に現れることもほとんどなくなり、読まれることなく埋もれてしまっている状態のホームページも多い。とはいえ、9月29日15時までに移行を完了しなければ、それら当時を記録した貴重なホームページ資産が消失することになる。

 @homepageのホームページはユーザーそれぞれのコンテンツ/所有物であるため、規約上、そのデータをニフティが勝手に保管しておくことはできない。サービス終了と同時に、サーバーから削除しなければならないとしている。

「@homepage」の利用状況を説明するニフティ株式会社の朝村奈緒氏(クラウド事業部クラウドプラットフォーム部)
ニフティ株式会社の監物岳夫氏(クラウド事業部事業部長代理兼クラウドプラットフォーム部部長)

 「ホームページ資産をニフティとしても大事にしたいと思っているが、その保存という意味ではユーザー自身で移行していただくのがベスト。@homepageのサービスを終了するのは心苦しいが、できるだけ簡単に移行できる機能も用意している。なるべく多くのユーザーに移行していただいて、昔を思い出していただいたり、『またホームページを更新してみようかな』と思っていただけるユーザーが増えればいいと思っている。」(ニフティ)

【お詫びと訂正 2016年8月29日 14:00】
 記事初出時、移行が完了しているホームページの数について、「(現存する)約17万件のホームページのうち2割」としていましたが、これは誤りで、正しくは「移行見込みアカウント(更新を続けているアカウントおよび有償オプションを使っているアカウント)のホームページのうち2割」です。お詫びして訂正いたします。