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国家によるネット遮断が正当化される――ITR改正、日本など55カ国が署名拒否

 総務省は15日、国際電気通信規則(ITR)の改正文書への署名を見送ったと発表した。国家によるインターネットのコンテンツ規制や検閲、遮断につながりかねない内容が含まれていることが理由。改正文書には89カ国が署名したが、日本や米国、EU諸国、カナダ、オーストラリアなど55カ国が署名を見送った。

 ITRとは、国際電気通信業務の提供・運用についての一般原則を規定したもので、国際条約として各国政府を法的に拘束する効力を持っている。現行のITRは1988年に採択されたもので、主に国際間の電話通信を適用範囲としていた。そのため、インターネットの普及などを踏まえた改正議論が、12月3日〜14日にドバイで開催された国際電気通信連合(ITU)の世界国際電気通信会議(WCIT)で行われていた。

世界国際電気通信会議(WCIT)の模様(ITUがFlickrで公開している写真を転載)

 総務省によると、主な改正内容は、1)セキュリティ対策、スパム対策に関する規定の追加、2)携帯電話の海外ローミング料金に関する規定の追加、3)インターネットに関する決議の採択――という3つ。

 日本などが特に問題視したのは、セキュリティ対策の条項の書きぶりだ。「各国がセキュリティの確保に努めなければならない」といった趣旨の内容で、ロシアやアラブ諸国が提案していたものとされている。

 日本などは、仮にこうした規定を追加するにしても、あくまでもネットワークの物理的な障害の回避を目的とした対策に限定すべきと主張。当初の提案にあったような規制色はかなり弱められた表現に妥協されてきたという。

 しかし、条文に用いられている「セキュリティ」という用語は広い解釈が可能であり、コンテンツ規制も含まれてしまう表現であることがネックとなった。インターネットの検閲やコンテンツの規制の根拠にされてしまう可能性があるため、こうした懸念を払しょくできない限り、改正文書に署名するわけにはいかないと判断した。

 また、「各国はスパム拡散防止のために必要な措置をとるべき」といった趣旨の規定についても、メールの内容にまで国家が介入することを可能にし、国内の反体制派の弾圧に利用されかねないとしている。

 署名を見送った国々では、こうした懸念のあるセキュリティ対策やスパム対策の規定について、焦点を絞った厳密な用語に修正すべきと訴えたが、WCITの成果文書として採択されたITR改正案では認められなかった。裏返せば、わざわざ広い解釈が可能な用語のままで改正案の採択に踏み切ったということは、セキュリティ対策・スパム対策の名目の下に国家によるインターネット規制を正当化したい国々の意向があったと言える。

 WCITでは両者の落としどころを探る議論がなされていた模様だが、「十分に審議し尽くされないまま会議の日程の終盤にさしかかり、世界的な共通認識が合意・形成されないままITR改正案が採択されてしまった」(総務省)。

 改正されたITRは2015年1月1日施行となっており、署名を見送った国が改めて不同意(不参加)の通知を行った場合、それらの国には現行のITRが適用される。総務省によれば、施行までの間に日本が改正ITRに同意する可能性は全くのゼロではないとしながらも、実際に署名を見送った以上、今後同意するようなことは現時点では考えられないと説明している。

(永沢 茂)