ニュース

Yahoo!のメイヤー氏とFacebookサンドバーグ氏が「Dreamforce 2013」で講演

~米インターネット企業を代表する女性経営者2人がビジネスと女性の社会進出を語る

 米セールスフォース・ドットコムは、2013年11月19日~11月21日(米国時間)までの3日間に渡り、米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターにおいて、世界最大のソフトウェアカンファレンス「Dreamforce 2013」を開催した。

 その基調講演に、インターネット企業の代表となる2社の経営トップがそれぞれ登壇した。

 ひとりは、Yahoo!のCEOであるマリッサ・マイヤー(Marissa Mayer)氏。そして、もうひとりは、FacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)氏だ。いずれも米国インターネット企業を代表する女性経営者。主催者であるSalesforce.comの会長兼CEOのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏との対談という形式で、それぞれ約1時間ずつの講演が行われた。

モバイルに大きく舵を切ったYahoo!~メイヤー氏講演

Yahoo!のCEOであるMarissa Mayer氏

 Dreamforce 2013の開催初日である2013年11月19日午後5時から行われたYahoo!のマリッサ・メイヤー氏による基調講演では、Yahoo!がモバイルに大きく舵を切っている姿勢などが明らかになった。

 ベニオフ氏は、「Yahoo!がスタートしたときは、うまく行っていた。何をしたいかがよくわかっていた。しかし、いまは違う。波に乗るのが難しかったのか」という厳しい問いに対して、メイヤー氏は、「いま、Yahoo!は、モバイルを最優先することを考えている。これまではそれが出来ていなかったという反省がある。危機的な状況だったかもしれない。だが、この産業においては、モバイルが、はっきりとした大きな波になっており、Yahoo!は、その大きな波に乗って、自分たちを作り直すことができると考えている」と、モバイルへの対応を中心とした体制づくりを進めていることを示した。

 1975年生まれの38歳であるマリッサ・メイヤー氏は、2012年7月に、Yahoo!のCEO兼社長兼ディレクターに就任。それ以前は、GoogleのバイスプレジデントとしてGoogle MapやStreetViewの事業を担当した。

 メイヤー氏によると、Yahoo!入社時点では、モバイルエンジニアチームは全体で30人しかいなかったが、これが現在では400人規模に増えているという。モバイルチームを開発のコアに置き、ドメインエキスパートと各部門の技術者とが一緒になって、モバイルアプリが作れる体制を構築するとともに、すべての開発者が、4億人のモバイルユーザーに提供できるアプリとサービスを考える仕組みにしているという。

 「入社した時に、モバイルエンジニアが30人しかいないと聞いて、私が驚いた顔をしたら、『いろいろ集めると60人ぐらいになる』と答えた人がいた。別の人に聞くと、100人いると答えるが、それもキリがいい数字だから言っていたに過ぎなかった」と、入社当時のエピソードを披露して、場内を沸かした。

 メイヤー氏は、すでにファイナンス分野で投入した新たなアプリが、ベストアプリとしてユーザーに評価されていることを示しながら、「Yahoo!は、モバイルというプラットフォームにシフトしていきたい。これまでYahoo!が提供してきた地図、ニュース、天気、株価、ゲーム、写真をシェアするといったサービスは、これからも継続させるとともに、これらのサービスを携帯電話の進化にあわせた形で使い方を提案していく。これまで役に立ってきたサービスを、新たなプラットフォームにおいても、継続的に提供することで、モバイルの波にうまく乗せていきたい」とした。

 また、メイヤー氏は、「Yahoo!は、Digital Daily Habitsを提唱している」と前置きし、「新聞、Eメール、検索など、毎日習慣化したものを、手軽に利用できることを目指している。ユーザーが毎日使いたくなり、役に立つものを作らなくてはならない。美しいものは大切だが、同時に使いやすさ、役に立つことと、バランスを取ったものでなくてはならない。これが、Yahoo!のコアバリューである」とした。

 そして、「毎日、エキサイティングなサービスを提供したい、製品の美しさを提供したい。どれだけきれいに、シンプルにするか、使いやすくするか、感じやすいようにするか、ということにこだわりたい」と繰り返した。

 そのほか、メイヤー氏は、「新たなビジネスを創出するためには、世界中の市場を直接見にいく必要がある。イスラエルでは携帯電話をどう使っているのか、日本や中国ではノートPCはどう利用されているのか、あるいは、タブレットやPCで、日本語入力する際の使い方はどうなるのか、中国語で入力する際の使い方はどうなるのかといったことを知る必要がある。そうすると、自分が担当しているプロダクトがその国で通用するのか、米国のやり方は通用するのかということを考えることができる。こうした行動から、プロダクトに関してユニークなアイデアを得られることが多い」などと、自らが行動型の経営者であることを強調してみせた。

 さらに、経営の基本姿勢については次のように語る。

 「Yahoo!はここ数年、何度も方針が変わってきた。その一方で、Yahoo!には、優秀な社員がたくさんおり、長年勤務している人も多い。忠誠心が高く、いいアイディアを持っている会社である。つまり、問題がなにかもわかっており、解決方法もわかっている。ただ、問題だったのは、それを走らせるために、青信号を出す人がいなかった点だった。それが私の仕事である」とし、「なにか大きなプランを立てて、それを社員にやらせるということではなく、どんなアイデアがあるのかを聞き、アイデアを実行するように許可するのが私の役割。道をクリアにし、障害物を取り除き、仕事がやりやすいような環境を作ること。チームが攻撃をして、エグゼクティブがディフェンスをすることが理想の姿」などとした。

Salesforce.comの会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏(左)とマリッサ・メイヤー氏(右)の対談形式で、約1時間の講演が行われた

 講演の後半では、女性としての仕事と生活のバランスについても言及した。メイヤー氏は、「私の生活も決してスムーズではない。いろいろな波がある」とし、「社会にもっと貢献したいということもあり、そこに集中して、ほかのことができなくなってしまうこともある。今日も、子供のおむつをクルマの後部座席で替えなくてはならない状況だった。時間がなく、常に忙しく動き回っているという状況は変わらない。そうしたなかで大切なのは、優先順位をつけること」とした。

 「自分にとって優先順位が高いものはなにか。私にとっては、家族とYahoo!の2つ。それをやって時間が残れば、その時間は『ボーナス』のようなものだと思っている」と答えた。

女性進出が進むイメージの米国も大差ない? 働く女性の持つ課題~サンドバーグ氏講演

米FacebookのCOOを務めるシェリル・サンドバーグ氏

 一方、開催2日目の11月20日午後5時から行われたFacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグ氏の基調講演は、同氏が上梓した書籍「LEAN IN」を取り上げながら、働く女性が持つ課題などに関する話題が中心となった。

 サンドバーグ氏は、Facebookの営業、マーケティング、ビジネス開発、法務、人事管理、パブリックポリシー、コミュニケーションの業務を統括。Facebook入社前は、Googleのグローバルオンラインセールス&オペレーションのバイスプレジデントを務めたほか、Bill Clinton米大統領政権下において、財務省の大統領首席補佐官を務めた経歴がある。そのほか、The Walt Disney Company、Women for Women International、V-Day、ONEの役員を務めるほか、女性を支援する財団であるLean Inの会長としても活動している。

 「女性が置かれた立場は良くなっているが、リーダーシップという点では、どの国でも、どの業界でも過小評価されている。たとえば、世界に対してインパクトがある決定を下すとき、女性の声が反映されていないことが多い。どんな時、どんなテーブルにおいても、女性が座っていなければならない。でもこれを実現することはまだまだ難しい。性別の差というのは明らかにある」と切り出した。

 そして、「世界のどこに行っても共通しているのは、男性は積極的なリーダーになるべきだとされるのに対して、女性は他の人を助ける役割である、という型にハマった考え方があること」とし、「子供の世界をみても、男の子がリーダーになった場合にはなにもいわないが、女の子がリーダーになろうとすると、『あなた、それは駄目よ』と言われる。大人になって、仕事の社会になると、今度は、『あなたはやりすぎだ』と言われてしまう。この会場に参加している女性はわかると思うが、女性がやりすぎといわれたことと同じことを、男性がしていたとしても、それはやりすぎではない、ということが多い」とした。

 その上で、「もし、リーダーとなって威張っている小さい女の子を、親が叱っているのを見かけたら、『叱らなくてもいい。彼女は将来、エグゼクティブになるから』と言ってあげて欲しい」と語り、場内を沸かせた。

 「私は5年前には仕事場で、女性だとは言いたくなかった。女性という言葉を言った途端に、なにかゴネているとか、別扱いをしてもらいたい、あるいは訴えようとしていると感じられてしまう」と語り、「もし、あながCEOの立場にあるのならば、性別の違いということをオープンにして話をすべきである。男性だけでなく、女性ともうまく仕事ができれば、パフォーマンスもあがる」とした。

 だが、米国企業のマネージャーの64%が、女性と2人で部屋にいるのが怖いと回答していることや、あるマネージャーは、パフォーマンスレビューの際、男性とは直接会話をするが、女性に対しては、人事部門から渡された紙を読むだけで終わらせてしまうという声があったことなどに触れながら、「仕事のシーンにおいて、女性と男性が2人でいることに抵抗がない環境を作らないといけない」などとした。

 さらに、サンドバーグ氏は、「私が役員会に出席できない場合には、他に女性のボードメンバーを紹介してもらえないかと言われることがある。しかし、それを紹介したい女性に対して話をすると、女性だから参加を求められていることを嫌がるケースがある。しかし、私はこう考えている。まず、男性と女性は、平等ではないということを認めた上で、公平にするために、自分はあえてそこに参加するということが大切であると。差別は確実に存在する。いままでのシステムの問題を解決するために女性が参加する必要があることを、しっかりと説明すれば、多くの女性が納得してくれる」などとした。

 そして、「女性は『仕事と家庭を、よく両立できるね』ということを言われるが、男性がそんな言葉をかけられたのを見たことがない。どの男性も、家庭も仕事もあり、女性も70%の母親が仕事をしている。「仕事場で、『あなた、いま仕事をしている場合?』と聞かれる男性はいるか。女性が、こんな質問を受ける状況ではいけない。共働きしている場合でも、女性の方が30%も多く家庭内の仕事をして、子育てをして、仕事をしているのが実状だ。男女平等でなくてはならない」とし、続けて、「ぜひ、男性にも私の本を読んでいただきたい。家でアクティブな父親であることは、社会のためでもあり、自分の子供のためにもいいことである」と語った。

 さらに、「女性は、リーダーシップの立場につけば、アグレッシブすぎるとは言われなくなるし、威張っているとも言われなくなる。会議にもトップレベルの女性がどんどん参加すれば、特別なことにはならなくなる」と述べ、「米国の財政危機のときに、女性の上院議員ががんばった。もし、上院議員の半分が女性だったらどうか。やってみる価値はある。また、将来は女性の大統領が誕生することもあるだろう。女性の大統領も必要だが、企業における女性のリーダーをもっと増やすことも大切である」とした。

 ちなみに、「次期大統領選挙には、私は出ない」と、サンドバーグ氏は出馬を否定。会場では大きな笑い声があがった。

Facebook COOのシェリル・サンドバーグ氏(左)とSalesforce.com CEOのマーク・ベニオフ氏

ベニオフ氏「将来にとって、世界にとって重要な問題」

 ベニオフ氏は、「今日のメッセージは、非常にパワフルだったと思う。エネルギーがすごく伝わったはずである。これは将来にとって、いまの世界にとって重要な問題であるということを考えてほしい。Dreamforceで、メッセージを共有できたことを感謝している」と総括した。

 38歳の女性リーダーのもと、Yahoo!がモバイルへと舵を切り、大きな改革に挑んでいることがメイヤー氏によって明らかにされ、そのなかで、同氏ならではの経営手法が生かされていることが浮き彫りになる一方で、米国経済界では女性の進出が目立っているが、そこでも様々な課題があることが、サンドバーグ氏の講演から垣間見ることができた。

 いずれにしろ、内容からみてもあまり例がないユニークな基調講演となったのは事実。来場者にとっても有意義な時間を過ごすことができたといえよう。

(大河原 克行)