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「人と違うことは弱みではなくて強み」女子学生限定アプリ開発イベント開催
~アプリのアイデア発想力を学ぶワークショップ
(2013/12/16 07:30)
日本マイクロソフト株式会社が加盟する業界団体WDLC(Windows Digital LifeStyle Consortium)は12月14日、「“アプリのアイデア発想力を学ぶ”ワークショップ~社会貢献できるアプリ企画を考えよう~」を開催した。16歳以上の女子学生限定のイベントで、16歳の高校生から大学生まで、約40人の女子学生が参加。4~5人のチームに分かれ、「地域の防災」「障碍者の働き方」「高齢者と医療」をテーマにアプリのアイデアを出し合い、与えられた短い時間でアプリ企画発表までをチームごとに行った。
ワークショップは、米Microsoftが2012年に開始した、若者の機会創出を支援するグローバルなプロジェクト「Youth Spark(ユーススパーク)」の一環として行われた。日本マイクロソフトも、ICTの利活用促進やスキル習得機会の提供を通じて、若者の進学・就労・起業を支援する包括的取り組み「Youth Spark」を2012年11月より開始。開始から1年間の成果も合わせて報告された。
ITによって世の中が簡単に変わる“デバイス&サービスの時代”
挨拶に立った、日本マイクロソフト株式会社 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長 伊藤かつら氏は、社会的・国際的競争力をもった若者を育てるというDigital Youthプロジェクトの目的を説明した後、高校時代の尊敬する恩師の話を紹介。
伊藤氏の恩師は、「いっぱしの人間になりたいのであれば、男性女性関係なく、ちゃんとしたプロフェッショナルとしての仕事を持ちなさい。なにかひとつ、母国語以外の言葉を話せるようになりなさい。なにかひとつ、自分が得意なスポーツを持ちなさい。なにかひとつ、楽器ができるようになりなさい。楽器とスポーツと語学と仕事、これが社会でやっていく上の基本。それがあれば世界のどこに行ってもやっていける」と言ったという。伊藤氏は、「当時はものすごくびっくりしたが、今思うと先生のお話はすごく正しかった」と語った。
楽器とスポーツと語学と仕事、その4つにひとつ追加するものとして伊藤氏はITを挙げ、「プログラムをバリバリできる必要はないが、ITを普通に使いこなすことは、これからの世の中を生きていくことにおいて基本スキル」だと述べた。
伊藤氏が参加者にスマホを持っている人、と聞くと、ほぼ100%が手を挙げた。伊藤氏は、スマホだけでなく、タブレットやデジタルサイネージなどさまざまなデバイスが普及しつつあるが、そうしたインターネットに常時つながっているデバイスはあらゆるもの、家電などの分野にもどんどん登場してきていると現状を説明。インターネットに常時接続しているデバイスの後ろ側には、クラウド上の膨大な種類のサービスがあると述べた。
パソコンでも従来はパソコン内のローカルストレージにファイルを保存したが、現在は、たとえばWindows 8以後は作成したファイルはクラウド上のSkyDriveに保存され、SkyDrive上のファイルは、パソコンでもスマホでも見られる。
「こうした変革が当たり前のように起こっていて、これを“デバイス+サービスの時代”と言っています。インターネットがどこにでもある時代、ITがどこにでもある時代、逆に言うと、ITによって世の中が簡単に変わる時代。これがいまの時代だと思います。だからITって必須なんですね」と、5番目にITを挙げた理由を説明した。
日本企業に必要なのはダイバーシティ~人と違うことが強みに
今回のワークショップは女子学生限定で開催されたが、伊藤氏は、こうした社会の中で女性の視点は「すごく大事で、とくに日本では大事」だと述べた。
伊藤氏は日本マイクロソフトの役員として、いろいろな顧客に会うが、「完璧に男性の世界です。一部の業種は違うところもありますが、上に行けば行くほど男性社会です」と実感を語った。さらに、日本の終身雇用制に言及。現在50代の企業人は終身雇用制のもとで、22歳で就職して30年間ずっとその会社、同じ組織にいるが、これがダメだとバッサリ。「新しい発想がまったく生まれない。その会社の常識は世界の常識だと思っちゃうんですね。」
「いま日本に競争力がないとかイノベーションがないとか言っていますけど、いちばんの理由はそこなんです」。伊藤氏も仕事がら、よくその点について「どうやったらイノベーションをもたらすことができるんですか」と聞かれるという。
伊藤氏は、参加している女子学生が社会人になる今後は終身雇用制はなくなっていくだろうとしながらも、そういう質問を受けた時に「まさか終身雇用制をやめなさいとは言えないので、それならダイバーシティ(多様性)です。要は、違う価値観を持った人を、あなたの意思決定のプロセスに入れてください。外国人でもいいわけですから、外国人を雇うというのもあります。でも、いちばん簡単で誰でもできるのが女性(の雇用)なんです」と言っているという。
伊藤氏はさらに、「いま日本は豊かで素晴らしい国だと思います。でもこの後30年、40年、50年、引き続き豊かでいきいきして、世界の中で尊敬される国になるためには、ダイバーシティっていうのが必須なんです。そのためには女性の観点、男性社会とは違うものの考え方っていうのがすごく大事です」として、多様な社会に対応を迫られる国際化時代であるからこそ、男性とは異なる女性の観点が重要になると述べた。
女性は、男性と違う考え方をすることが多いが、伊藤氏は「それは、弱みではなくて強みです」という。日本では他人と一緒かどうかということをどうしても気にしてしまうが、それは間違いだと指摘。「女性であるということ、人と違うアイデアを持っていること、人と違う考え方ができること、人と違う経験をしていること、これは弱みではなく強みです」という。
「今後、女性であるということは、とくにプロフェッショナルとして仕事をしていく場合には、すごく強みになりますし、みなさんのアイデアが、この日本の社会にイノベーションをもたらしてくれると思っています」として、同じ女性の立場から、これから社会に出る女子学生への期待を述べた。
ソフトウェアはすべて無料~機会を活用して未来を築く力に
伊藤氏は、Digital Youth Projectについても説明。Digital Youth Projectは、学びの場としての「Digital Youth COLLEGE」、競い合う場としての「Digial Youth AWARD」、指南の場としての「Digital Youth MENTORSHIP」で構成されていると紹介した。
ワークショップで学び、MENTORSHIP(メンターシップ、指導や指導者の意味)で先輩やマイクロソフト社員などの助言を得て、成果を競う場としてAWARDが設けられているというわけだ。
伊藤氏は、「今日がアプリ企画のワークショップです。今日出したアイデアをブラッシュアップして、アイデアそのものを応募していただいてもけっこうですし、年内アプリ開発のワークショップがあります。初心者でも大丈夫です」と紹介、参加してみてほしいと述べた。
また、マイクロソフトが開発者支援を目的として紹介している「Dream Spark」を紹介し、「みなさんぜひ使ってみてください」と呼びかけた。学生向けDream Sparkでは、学生は学校ドメインのメールアドレスで登録すれば、マイクロソフトのソフトウェアを無料で利用できる。
Digital Youth Projectのひとつのゴールとして位置づけられるDigital Youth AWARDでは現在応募作を募集中だ。今回のテーマは「だれかをハッピーにするタブレットアプリ」。AWARDの応募部門には、Visual Studioで開発したWindowsストアアプリ・デスクトップアプリ・Webアプリ作品を競う「アプリ部門」と、タブレットで動作することを想定したWindows ストアアプリのアイデアを競う「アイデア部門」がある。応募期間は11月18日から2014年2月28日まで。
Digital Youth AWARDの決勝大会は2014年4月12日に開催されるが、ここで優勝すると、ワールドワイドの大会「Imagine CUP」へ参加できる。「前回はロシアのサンクトペテルブルグで開催され、日本からも1組が行きました。来年はシアトルです。今日参加してくださった人の中からシアトルに行ってくれる人がいたらうれしいなと思います」(伊藤氏)。
マイクロソフトからは、米Microsoftジェネラルマネージャー、企業市民活動・公共制作担当 ロリー・ハーニック氏も参加。ハーニック氏は、Youth Sparkはテクノロジーを使って世界中の若者たちの成長を支援するプログラムだとして、「自分自身の将来、家族、地域社会、日本全体にとって明るい未来を作りたいと思っていると思います。マイクロソフトは、みなさんがそういった将来を築くお手伝いをしたいと考えています」と挨拶。Youth Sparkは将来を思い描く若者が将来を築いていけるような機会と技術とツールを提供するプログラムだと紹介した。
ハーニック氏はツールやプログラムへのアクセスを提供することで、1年で100カ国以上の国で、1億人以上の若者たちに新しい機会を提供することができたとYouth Sparkの1年間の成果を紹介。その1億人の半分以上はみなさんのような若い女性だと述べた。プレゼンテーションビデオでは、世界中でさまざまな環境にいる若者がYouth Sparkを通して学ぶ機会を持ち、将来に向けての力としていることが紹介された。
「1億人の若者が自分たちの将来を築くための新しい機会を得ました。その将来は、わたしたちみんなの将来でもあります。ぜひ、みなさんも参加してください。」
現状を理解し、課題解決のアイデアをまとめる
ワークショップでは、4~5人のチームに分かれ、「地域の防災」「障碍者の働き方」「高齢者と医療」をテーマにアプリの企画を半日で作る。企画のアイデア出しの前に、それぞれのテーマについて、実務に関わるゲストスピーカーから現状の問題点や状況が説明された。
地域の防災
「地域の防災」について解説した山梨県 総務部 防災危機管理課 城野仁志氏は、今後起こり得る東海地震、東南海・南海地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震や日本全国に約2000の活断層があり、まだ発見されていない活断層もあることを図示。
「国の見解では、30年以内に大きな自身・津波が70~80%の確率で起こる。災害だと、高齢者、子ども、妊婦などが犠牲になりやすい。近い将来やってくる大地震・大津波が来たときに、そういう弱い立場にいる人を役立つアプリを考えていきたい」とした。
また、日本の各地で行われているICT技術を使った地域防災の取り組み例を多数紹介。その上で、「アプリが介在することで、これまでは助け合う関係ではなかった人が助け合うことができる」と説明。防災をキーワードに、地域に住む人々がお互いにつながり、支え合える社会づくりを目指したいとして、そんな夢の実現に役立つアプリの提案を、と参加者への期待を述べた。
障碍者の働き方
「障碍者の働き方」については、社会福祉法人東京コロニー職能開発室 東京都障害者IT地域支援センター 社会福祉士 堀込真理子氏が支援の現場から、おもに障碍者の就労支援について知見を述べた。
掘込氏は、交通事故の後遺症などで短期記憶に障害がある人が、プリザーブドフラワーを作るのに習ってもすぐ忘れてしまうため、支援者がついていないと作業ができないと思われていたが、お手本を動画で撮ることで、いつでもお手本を見られ、一人でできるようになったなど、ICT技術で一人でできなかったことができるようになった具体例を複数紹介した。
その上で、タブレットは見る・聞く・話す・触るという人の4大機能を実現することができ、さらにネットワークを介してつながることができるため、そうした機能に困難さがある時に、人の能力を補完・増幅できると障碍者支援におけるタブレットの有用性を説明。「労働能力は固定ではない、環境を整えることで、働く力は変化していく」と述べた。堀込氏はまた、アプリの企画について「すでにあるものでもかまわない。少し機能を付加するだけでもずっと利便性が上がることがある」と述べ、既存かどうかにとらわれずアイデアを出し合ってほしいと呼びかけた。
高齢者と医療
「高齢者と医療」については、メロウ倶楽部 幹事 NPO法人ブロードバンドスクール協会 理事 若宮正子(マーチャン)氏が解説。
若宮氏はまず、シニアと若者ではスマートデバイスなどに対する最初のスタンスに決定的な違いがあると指摘。若者は基本的にデジタル機器が好きで「手放せないもの」と感じているが、シニアは「デジタル機器が大切なのはわかっているが好きになれそうもない」と感じていると説明。
「まずは、シニアがデジタル機器と仲良くなれるアプリを考えてほしい」と述べ、具体例として、海外在住の孫とビデオチャットが楽しめるアプリなどシニアに強い動機を持たせることができるものや、料理のようにシニアが生活体験の中で馴染み深いテーマを扱うアプリなどを上げた。その上で、シニアがデジタル機器と仲良くなれるアプリを作るためには、まずは高齢者をよく知ることが重要だとして、「おじいちゃん、おばあちゃんを訪ねてじっくり話を聞いてください」と述べた。
また、シニアは出来る限り人の世話にならずに自立したいと考えているとして、そのためにはバリアフリー住宅などのハード面も重要だが、それだけでは不十分で、自立を妨げる要因はメンタル面にもあるとした。たとえば、物忘れがひどくなり、家の鍵・ガス・電気の締め忘れが気になったり、服薬を忘れたり、ゴミの収集日を忘れたり、約束の日を忘れる、といったことが進むと自立が困難になると説明した。
一方で、「看護・介護を在宅で」という国の方針もあり、注射なども含めてかなり高度な医療処理が家庭で行わざるを得なくなりつつある現状に触れ、「老老介護」現場の負担を少しでも減らせる工夫がアプリでできたらいいなと考えていると述べた。
チームでアイデア出し、発表
参加者はあらかじめ配布された付箋に、「地域の防災」「障碍者の働き方」「高齢者と医療」のテーマについて説明を受けている間に問題点やアイデアをメモ。説明の後に4~5人のチームに分かれて、付箋をシートにまとめる作業を行った。チームはそれぞれ組み分けとチームのテーマが割り振られ、各テーマに3チームずつが取り組んだ。
全9チームは、それぞれ現状の問題点やそれを解決するアイデアを出しあい、前述のDigital Youth AWARDのテーマ「“だれかをハッピーにする”タブレットアプリ」にもつながるアプリ企画を、アプリのラフ画面を作るところまで3時間程度で仕上げなくてはならない。
シートに付箋をまとめるのに5分、チームでひとつのアイデアに絞り込むのに30分など、ゴールまでをいくつかのステップに分ける方法で目標が示され、各テーマのスピーカーや、Digital Youth Projectの先輩でMENTORSHIP活動を行う学生の助言も受けながら、すべてのチームがアプリの企画をまとめ上げた。
発表に割り当てられた時間は1チームあたりわずか1分ながら、障碍者が電車を使ってより通勤しやすくなるためのアプリや、疲れやすいお年寄りが休憩できるベンチなどの位置情報を寄せ合い参照するアプリなど、各チームがまとめたアプリ企画がアプリの画面ラフ付きで発表された。
ワークショップではアイデアを順位づけすることは行われなかったが、短い時間で問題点を把握し、アプリ企画をまとめあげた参加者からは、「参加して良かったです。誰かの役に立つと思うと、アプリを考えるのは楽しい」といった感想が聞かれた。ワークショップの後には懇親会が開催され、最初は知らない同士だった各チームもディスカッションを通じてすっかり打ち解けた様子で、なごやかに幕を閉じた。