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自社内の「NTT東の全契約」を一元管理! ありそうでなかったNTT東日本の「法人のお客さまマイページ」開発秘話と今後の展望を聞いてみた
2025年8月26日 06:00
NTT東日本株式会社は、法人向けサービス「法人のお客さまマイページ」を2024年3月から提供している(NTT西日本株式会社も、同様のサービス「ビジネスマイページ」を提供している)。
固定電話やフレッツ光など、自社で契約しているサービスを一元管理できるもので、現時点では主に、契約情報の確認、各種手続きとサポート、故障情報やお知らせの確認といった機能が提供されている。社内で散逸しがちな情報をまとめて確認でき、担当者の異動や退職時の引き継ぎも楽になるため、企業の情シスや総務などの担当者にとって、非常に便利なサービスとなっている。
このような、基本的な管理機能と思えるサービスが昨年まで提供されていなかったことに、驚く人もいるかもしれない。筆者自身も、はじめに話を聞いたときは驚きがあった。しかし、考えてみれば、固定電話のサービスは100年以上前に始まったものであり、同社が提供しているインターネット回線に関するサービスも多様化していることから、全てをオンラインで一元管理できるようにするには、利用者の立場からは想像のつかない難しさもあるものと思われる。
今回、NTT東日本の「法人のお客さまマイページ」開発チームに、サービス内容と、開発体制や今後目指すサービスの方向性について、お話を伺った。
従業員個人がアカウントを取得し、利用を開始できる
「法人のお客さまマイページ」の利用には、「NTT東日本ビジネスID」の登録が必要となる。これは、組織ではなく個人(会社の従業員)単位で取得できるもので、利用開始にあたって会社で承認を得たりする必要はない。
そのため、まずは個人的に試してみてから、自社内で情報を共有して本格的な利用を開始する、といった手順を取ることもできる。マイページ内で「組織でのマイページ利用を申請」の手続きをすることで、社内のスタッフと情報を共有できるようになる。担当者の追加や、交代による引き継ぎなどもスムーズだ。
マイページの主な機能には、前述のとおり「契約情報の確認」「各種手続きとサポート」「故障情報やお知らせの確認」がある。順に見ていこう。
契約情報の確認
固定電話やフレッツ光など契約中のサービスについて、契約内容の変更やサポートを依頼するときなどには、契約情報が必要になるが、従来だと、契約情報を確認するには、契約の際に発行される「開通のご案内」を確認する必要があった。紛失した場合には、総合受付窓口である「116」番に問い合わせるなどして内容を確認する必要があり、不便だという声が上がっていた。
マイページ上では、拠点別に固定電話やフレッツ光などの自社で契約しているサービスの契約情報などを登録でき、いつでも一覧で確認できる。契約中のプランや、サポート対応などで必要となる「お客さまID」などが確認できるほか、各種手続きページへ直接アクセスし、手続きを行うことも可能になっている。
契約情報の登録にあたっては、お客さまIDと会社情報などを入力するだけで、マイページに紐付けることが可能。
なお、今後は、紙で発行していた「開通のご案内」を一部のサービスから電子化していき、最初から「法人のお客さまマイページ」で確認してもらうようにすることが予定されているという。
各種手続きとサポート
マイページでは、これまで同社のウェブサイト内に散在していた各サービスの手続きやサポート情報をまとめて、アクセスしやすくしている。マイページ上の「お手続き」を選択することで、必要なメニューをすぐに選べる。また、工事情報やアップデート・メンテナンス情報などが確認できるページへアクセスすることもできる。
そのほか、利用者が任意のページを保存しておける「クリップ」機能もある。さらに、マイページの使い方やNTT東日本のサービス全般について分からないことがあったら、自然言語で質問できるAIチャットサポートも設置されている。
故障情報やお知らせの確認
マイページのホーム画面では、故障情報やお知らせが確認できる。
故障情報では、利用しているフレッツ光で現在起きている故障情報や各種障害の情報を確認できるほか、自社で回線や機器の故障などのトラブルが発生した際には、故障の申告を行える。また、工事故障情報のメール通知機能も提供されている。
そのほかのお知らせもホーム画面から確認できる。現在は、利用している(登録した)サービスからのお知らせのみが表示されるが、利用者個人に向けたお知らせなども表示させられるように開発を進めているという。
同社では、利用者からの要望を参考に、今後もさまざまな機能を追加していくとしている。
フル内製&アジャイルを採用、異例の開発体制になった理由とは?
「法人のお客さまマイページ」の開発は、従来の同社のウェブサービスとは異なる体制で進められている。開発チームの鈴木氏(デジタルマーケティング部 Web・プロモーション部門長)、西澤氏(デジタルマーケティング部 Web・プロモーション部門 ダイレクトチャネル担当課長)、および木村氏(先端テクノロジー部 デジタル技術部門 担当課長)に、マイページ開発の始まりから、その舞台裏を伺った。
「法人のお客さまマイページ」で情シス担当者の負担軽減へ
まず、マイページを開発するにあたって、顧客企業の担当者にヒアリングを行ったところ、企業の情シス担当者が抱えている課題が分かってきたという。
さまざまな拠点で複数のNTT東日本のサービスを契約している状況で、契約情報の確認をする場合、契約した際の書類を参照しなければならない(何十年も前に契約した場合もある)。単純に、書類を長期間保存しておくことが負担になる上に、担当者が変わる際に引き継ぎがうまく行われず、いつのまにか書類が失われていることも少なくない。
また、トラブルが発生し業務が停止した際に、従業員からのヘルプデスク対応として「どうしたらいいのか」といった漠然とした問い合わせが多く寄せられる。拠点が遠隔地に複数ある場合、それぞれの拠点の状況を確認しなければ的確な対処法を選びようがないという事態になることもあり、業務負荷が高くなってしまっているという。
こうした課題を踏まえて、マイページのコアとなる機能は「IT資産管理」と「ヘルプデスク業務への対応」の2点だとされた。開発初期から現在までの段階では、これらの機能開発に特に注力し、情シス担当者が抱える業務をマイページで代替したり、支援したりできる機能の実装に取り組んできたという。
フル内製でスピーディーな開発と技術の「手の内化」を実現
マイページの開発は、フル内製、かつ、短いサイクルで部分ごとの開発を積み重ねていくアジャイルの手法を取り入れて進められている。
NTTグループのようなソフトウェア開発を本業としない大企業におけるソフトウェア開発といえば、外注主体で、なおかつ開発手法は全体を段階的に進めるウォーターフォールで、というイメージを持つ人も多いだろう。
開発にあたり、鈴木氏らも当初は外注中心かつウォーターフォールで考えていたが、副社長から「コアな機能部分を外部に委託してどうするのか、内製でしっかりやるべきだ」という鶴の一声があったという。
鈴木氏らは副社長の発言の意図を汲み取り、木村氏の所属する先端テクノロジー部と協力し、ほぼ完全な内製(一部は外部のプログラマーも参加しているという)で、アジャイルの手法を取り入れ開発を進めた。
NTT東日本のように、大規模かつ歴史の長いサービスを数多く提供している組織では、どうしても「縦割り」化が進み、他部署の状況を把握しにくくなる。「法人のお客さまマイページ」の開発のためには、NTT東日本のサービスを横断的に取りまとめる必要があり、その実現にあたっては、社内の状況を深く理解しているスタッフによる調整が不可欠であった。
また、後述するように、「法人のお客さまマイページ」は、将来的には同社が顧客企業のDXを支援するパートナーとなるための窓口と位置づけられる構想だ。サービスを運営する各部署とコミュニケーションを取り緊密な関係を構築することは、そうした未来像の実現に向けても欠かせないものであり、そのためのフル内製による開発だと考えられる。
鈴木氏は、サービスの運営部門だけでなく、顧客企業との窓口となっている営業部門などとも、現状のヒアリングや調整をしていると語る。そして、そうした取り組みは、確実にマイページの中で実を結びつつあるように思われる。
木村氏は、開発やそれにあたってのコミュニケーションで得られるノウハウが蓄積され、「手の内化」(重要な技術やノウハウを外部に委ねるのでなく、自社で管理すること)できつつあり、サービスの価値を最大にして提供できることがメリットだと述べた。アジャイルの手法を取り入れながら、当初は3カ月かかっていたリリースサイクルを、現在では2週間まで短縮でき、利用者からの声に迅速に応えられるようになっているという。
今後は、顧客企業に伴走しDXを支援するための窓口に
現状は顧客企業の契約情報をまとめ、ヘルプ・サポートを補助する「法人のお客さまマイページ」だが、将来的には、顧客企業と伴走し、声を聞き、さまざまな提案も行っていくことを目指しているという。
主に中小企業に対して、同社がDXの推進を支援するパートナーとなるための窓口として、同サービスが位置づけられている。「(企業の情シス担当者には)基本的な管理業務や社内サポートなどにかかる手間をマイページによって軽減し、より大切なDXなどの業務に注力していただきたい。そのための提案や機能面の支援も、マイページから提供していきたい」と、鈴木氏は語る。
この、中小企業を中心としたDXの推進を支援するパートナーを目指す構想には、3つのステップがあるといい、現状のマイページは、その第1段階にあたるという。
第2段階としては、マイページの機能をさらに拡充し、手続きやトラブルの際に年に数回だけアクセスするサービスから、定期的にアクセスしたくなるサービスにしていく。これを実現するため、NTT東日本以外が提供するサービスのアカウント管理ができる機能なども構想されている。
さらに、再来年度を目標に、利用者のIT資産状況に応じてパーソナライズされた情報提供やサービス提案を行う「ナビゲート機能」の導入を目指しており、これが取り組みの第3段階にあたる。具体的な機能としては、利用者の利用状況に応じたサービスの検討や、営業担当者との見積書・提案書のやり取りを、マイページ上でスムーズに行える「デジタルセールスルーム」の導入が挙げられるという。これにより、より効率的でパーソナルな顧客体験の提供が可能になる見込みだ。
構想を伺えば、分かりやすく納得感もあり、順調な進化を期待できそうに感じられる。ただ、実際の開発には、やはり外部からは見えにくい苦労も少なくないようだ。
例えば、各種手続きにおいては「フロースルー化」が重要な課題の1つだという。フロースルー化とは全工程を一貫して管理可能にすることなどを言うが、「法人のお客さまマイページ」においては、手続きを受け付けた後の工程で人間の手作業によるデータの入力や加工が必要なことが現在は多いため、それらを改善し、各種手続きなどの処理において人間の介在を不要とすることを指している。
このフロースルー化は、手続きの高速化などにより顧客企業の業務効率改善にもつながるだろうが、それ以上に、NTT東日本社内の業務効率の改善や、連携強化に大きく貢献する取り組みだと考えられる。この例のように、顧客企業だけでなくNTT東日本自身にとっての業務支援にもなり、さらには今後の同社の新たなウェブサービスを体現するプロジェクトとして、担当チームは日々開発に取り組んでいる。
また、これらの構想の実現にあたっては、「法人のお客さまマイページ」をより多くの人に利用者してもらうことが鍵になるという。同サービスは2025年7月時点で約5万人が利用中だというが、認知度はまだまだ低い状態と思われる。関心を持たれたら、まずは登録して、試してみていただきたい。