インタビュー

NTT東日本が、マンション入居者の声を直接聞いてネットを速くする「光配線化」を実施! その狙いと実現までの道のりを聞く

今回お話を伺った、NTT東日本 ビジネス開発本部 基盤ネットワークサービス担当 岡寛之氏(左)と、NTT東日本 営業推進本部 営業担当 小林航氏(右)

 NTT東日本は2024年11月から、集合住宅の入居者からの光配線化のリクエストを受け付ける「光配線方式の設備(光スプリッタ)導入ご要望入力フォーム」を設置している。「フレッツ光」が利用できる集合住宅に住んでいながら、VDSL/LAN配線で通信が遅くて困っている人は、こちらから要望を送ることにより、光配線化による高速化を実現できる可能性がある。

 本施策の実施にあたって、同社では「NTT東日本の専門のスタッフが全力でサポート!」とうたっており、強い熱意が感じられた。聞けば、これまで光配線化できなかった集合住宅でもOKな可能性があり、光コラボレーションモデルの利用者も対象になるという。本施策について、同社に詳しく伺った。

光配線方式の設備(光スプリッタ)導入ご要望入力フォーム

光配線方式の設備(光スプリッタ)導入ご要望入力フォーム」より。施策の説明とともに、「NTT東日本の専門のスタッフが全力でサポート!」の文言がある

そもそも「VDSL」「光配線化」とは?

 本題に入る前に、「VDSLって何?」という人のために、前提となる情報をおさらいしておきたい。

 「フレッツ光」はNTT東日本とNTT西日本が提供する光回線サービスで、「フレッツ 光ネクスト」は最大1Gbps、「フレッツ 光クロス」は最大10Gbpsの通信速度で利用できる。

 ちなみに、ほかの事業者がNTT東日本からフレッツ光と同じ光回線網の提供を受け、自社のサービスと組み合わせてインターネット接続などのサービスを提供することを「光コラボレーションモデル」と呼ぶ。「ドコモ光」「SoftBank 光」などが代表的だが、フレッツ光を直接契約していなくても、光コラボレーションモデルを通じて、フレッツ光と同じ回線を利用している人は多い(以降では、この回線のことも指して「フレッツ光(の回線)」と呼ぶ)。

 フレッツ光(フレッツ光マンションタイプ)を集合住宅で導入するには、集合住宅の共用スペースに光ファイバーを引き込んだあと、各部屋に回線を分配する必要がある。そのため、共用スペースに「集合装置」(「スプリッタ」とも)と呼ばれる装置が置かれ、ここからケーブルを分岐させて各部屋まで配線するのだが、この際の方式(配線方式)が集合住宅により異なる。そして、配線方式の違いは通信速度に大きく影響する。

 配線方式には、光ファイバーを使う「光配線方式」、電話線を使う「VDSL方式」、LANケーブルを使う「LAN配線方式」の3種類があり、光配線方式の場合は最大1Gbpsの通信速度が実現できる(フレッツ 光クロスでは最大10Gbps)が、VDSL方式とLAN配線方式では最大100Mbpsとなる。言い換えると、VDSL方式やLAN配線方式では、せっかくのフレッツ光なのに、最大でも100Mbpsしか速度が出ない。

 なぜ、集合住宅の多くで、低速な配線方式がわざわざ選ばれているのだろうか? 1つには、既存の電話回線が流用できて導入コストが抑えられたことがあるだろう。各戸に向けたケーブルを通す配管のスペースに余裕がなく、新規に光ファイバーを通せないなどの理由でVDSLしか選択できなかったケースもある。

 また、過去の経緯を見れば、1Gbpsのサービスが登場する前にフレッツ光を導入した集合住宅では、VDSLを選択するのも妥当な選択だったと言えるだろう。

 NTT東日本による光回線サービスの提供は、2001年に「Bフレッツ」のサービス名で開始されたが、当時は光回線とはいえ最大通信速度は100Mbpsだった。「フレッツ光」のサービス名が登場するのは2004年、現在主流である「フレッツ 光ネクスト」の最大1Gbpsのプランが登場したのは2014の6月となる(その前のサービスは最大200Mbps)。

 その後10年あまりの間に、高速回線の普及が進んだ。また、コロナ禍(2020年)以降には、テレワークやオンライン授業の普及もあって、住宅の回線の遅さが問題になることが多くなった。

 集合住宅を光配線化して、高速な回線を使いたいという声も多くなるが、実現のためにはハードルが多い。

 まず、オーナーや管理会社が合意して、動く必要がある。これまで、VDSL方式から高速な光配線方式に変更したい場合は、集合住宅のオーナーや管理会社からNTT東日本に連絡し、工事する必要があった。

 連絡した後にも課題がある。NTT東日本では、光配線化を推進するため工事を無料で行うキャンペーンなども行っているが、前述のように配管の問題などから光配線化できないケースもある。

 今回の施策では、こうしたハードルを取り払おうとしている。入居者がNTT東日本に直接申し込むことができ、光コラボレーションモデルの利用者からの声にも、NTT東日本が直接応じるという。

 こうなると、光配線化が実現できる可能性は大幅に高まるのではないだろうか。

これからの時代、VDSL/LAN配線方式の維持はコスト高に

 今回お話を伺ったのは、フレッツシリーズのサービスの主幹を務めるビジネス開発本部の岡寛之氏(基盤ネットワークサービス担当)と、営業部門のバックヤードを担当する営業推進本部の小林航氏(営業担当)だ。

 同社では、集合住宅の光配線化を推進し、本施策を始めることにもなった理由として、通信品質の向上、環境負荷の低減と、電気代やVDSL/LAN配線方式の集合装置の機材費の高騰を挙げている。

 従来、集合住宅向けの「フレッツ 光ネクスト マンションタイプ」の中で、VDSL/LAN配線方式の月額料金は光配線方式より安い場合があったが、2025年4月1日からは、全ての配線式で同料金となる料金改定、つまりVDSL/LAN配線方式での値上げ(発表内容としては1Gbps未満のサービスの値上げ。光配線方式で200/100Mbpsのサービスも存在する)を発表している。

岡氏「過去に光配線化を断念した物件でも、現在の技術をもって調査・検討し、可能な方法を提案します」

 理由として挙げられているのは、やはり機材費のほか人件費の高騰がある。なお、同時に、光配線方式(1Gbpsのサービス)への移行を無料で受け付けることも発表しており、ここでも光配線化を促す姿勢を示している。

 古い方式であるVDSL/LAN配線方式の集合装置を集合住宅で使い続けることも、NTT東日本がサービスとして提供できる体制を維持し続けることも、コスト高になりつつある。

 また、同社では光配線化を推進する理由として、環境負荷の低減を特に重視している。電気信号を使うVDSL/LAN方式から、光による通信に切り替えることで、電力消費を大幅に減らすことができる。

 岡氏は「NTTグループは国内の電気の1%程度を使っています」と、環境負荷低減という課題における、同社が果たすべき役割の大きさを語る。同社では現在稼働しているVDSL/LAN方式の集合装置数は非開示としているが、概算で、VDSL集合装置1万台を光集合装置に置き換えることができれば、年間4380MWh(1900トンのCO2排出量)の消費電力の削減につながるという。

 以上のように、光配線化の促進は、サービス(通信品質)向上だけでなく、環境負荷の低減にも貢献することになる。もちろん、機材費や人件費、電気代などのコスト削減にもつながる。

 VDSL/LAN配線方式の値上げについて、両氏は「長くご利用いただいているお客様に対して心苦しい」とも話す。NTT東日本としては、維持コストが高く、利用者にとっても高額になってしまったVDSL/LAN配線を使い続けるのでなく、この機に光配線への移行をしてほしい。そのためには、従来の方法以上の積極的な取り組みが必要だ、と考えるわけだ。

集合住宅オーナーにとっては「資産価値の向上」にも

 集合住宅の入居者が直接NTT東日本に要望することで、NTT東日本が集合住宅オーナーや管理会社に提案して、光配線化を進めてくれる……とはいえ、オーナーや管理会社の担当者、または管理組合が技術やネット事情に明るくないため、理解が得られるのか不安だと感じる人もいるだろう。

 また、過去に光配線化に関して相談や交渉をしたがダメだった経験があったり、同じ集合住宅の住人の間で軋轢が生じることを心配したりして、要望することにためらいを感じる人もいるかもしれない。

 そのような場合の切り札、というわけではないが、小林氏は「集合住宅のオーナーにとって、光配線である方が『資産価値が高い』と言えます」と、光配線化の意義を説明する。

 今の時代、引っ越し先を検討する際に「高速なインターネット回線」は重要な条件の1つだ。光配線化して「最大1Gbps(またはそれ以上)のインターネット接続サービスが使えます」と言えた方がいい。

 高速な通信回線は、いわば、その集合住宅の価値のひとつであるというわけだ。「時代の流れに応じて回線をアップグレードしていくというのは、資産を形成していくのと同義です。現在の入居者へのサービス向上になるだけでなく、将来入居を検討する人たちのためにも、物件の回線をアップグレードしませんか、という切り口で、説明をしています」と、小林氏は言う。

小林氏「VDSLという、いわば古い資産を持ち続けるのでなく、新しい資産(光配線)にアップグレードして、物件の価値を高めていただきたい。そのための提案をしたいと考えています」

 NTT東日本から集合住宅のオーナーに説明を行うとき、光配線化のリクエストをした入居者の名前は出されるのか聞いてみると、リクエストした本人から許可が得られれば「○○さんからのご希望がありました」のように話すようにしているそうだ。

 これは、誰が光配線化を希望しているかという話により、提案にリアリティが増すためだという。光配線化の提案が実現するかどうかは、結局のところ人と人との交渉しだいとなるため、より納得感が高い提案ができた方がいい。できれば入居者から事前にオーナーや管理会社に話をしておき、そこにNTT東日本の専門家が参加する、というかたちが理想的だそうだ。

 提案した人が誰かを知られないようにすることも、もちろん可能で、NTT東日本では入居者の希望に応じて対応していく。ただ、同社としては、光配線化の提案は「入居者の希望を受け入れてもらうための交渉」ではなく「建物の設備のアップグレードの提案」であり、そこからトラブルになる心配は、特にしなくていいのでは、とのことだ。

 本施策には、現時点でかなりの数の問い合わせが寄せられており、中には、集合住宅のオーナーや分譲物件の理事会役員からのものもあったという。

全ての関係者にとって利益のある提案

 以上のように、入居者のリクエストを受けての光回線化の取り組みは、高速化を希望する入居者にも、集合住宅の資産としての価値を高められるオーナーにも、光配線化を推進したいNTT東日本にとってもメリットのある話になっている。

 NTT東日本では、将来的に全てのVDSL/LAN配線方式を光配線方式に置き換えることを目標としている。入居者からの光配線化のリクエストは、NTT東日本とは必ず共通の目的となる。そして前述したように、おそらく集合住宅オーナーとも共通の目的にできるはずだ。それを、NTT東日本の専門家が進めていく。

 現在住んでいる集合住宅の通信回線が遅くて困っていたら、リクエストを検討してほしい。オーナーや管理者とコミュニケーションがあるなら、先に話をしておくと、より話がスムーズになる。もしも、自宅が「フレッツ光」回線であるか、VDSL/LAN配線であるかが分からない場合は、以下の方法を参考に確認しよう。

入居する集合住宅の配線方式を確認するには

 現在入居している集合住宅の配線方式が分からない場合は、NTT東日本が用意している「フレッツ光のエリア検索での配線方式の見分け方について」ページから住所を入力して確認する(まず郵便番号を入力し、自分の住んでいる集合住宅、部屋番号を選択してく)。

フレッツ光のエリア検索での配線方式の見分け方について

 そして、表示された結果の「フレッツ光 新規お申込み」のところに表示されるサービスを確認する。「フレッツ 光ネクスト マンションタイプ」と表示される場合は、VDSL/LAN配線方式の集合装置だけが設置され、光集合装置が設置されていない建物で、光配線化をリクエストすべき対象だと判断できる。

 「フレッツ 光クロス」または「フレッツ 光ネクスト マンション・ギガラインタイプ」と表示される場合は、光集合装置がすでに導入されており、利用している通信事業者(ISPなど)に依頼することで、光配線方式によるサービスを利用できる(または、すでに利用している状態である)。

 「フレッツ光 新規お申込み」が表示されず、「ご指定の住所は、詳しい状況確認が必要です」と表示された場合は、いずれの集合装置も設置されていない状態(フレッツ光を未導入など)となる。

「フレッツ光 新規お申込み」に「フレッツ 光ネクスト マンションタイプ」と表示された状態の例。VDSL/LAN配線方式の集合装置だけが設置された集合住宅では、このように表示される