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“私立ニコニコ学園”の誕生なるか? KADOKAWA・DWANGOがネット高校設立に向けて始動、2016年春・沖縄で

 株式会社KADOKAWA・DWANGOは9日、高等学校設立に向けた準備を開始したと発表した。すでに沖縄県に対して設置計画書を提出しており、現在は審査中。学費やカリキュラムなどは設立認可後に改めて発表するが、定員は特に設けない予定という。

KADOKAWA・DWANGO取締役相談役の角川歴彦氏(左)と代表取締役社長の川上量生氏

KADOKAWA・DWANGOならではの高校を~影には仕掛け人も?

 9日には都内で発表会が開催され、KADOKAWA・DWANGO代表取締役社長の川上量生氏、取締役相談役の角川歴彦氏が登壇した。現在は設立審査を行っている最中で、高校設立が確定した状態ではないため、学校の具体像について解説できることは少ないとしながらも、その理念などが語られた。

高校開設に向けてのスケジュール

 川上氏は、教育を巡る流れの1つとして、ネットを活かした双方向型授業が今後ますます発展するとみており、IT分野とコンテンツの双方で強みを持つKADOKAWA・DWANGOが総力を挙げることで、理想的な学校が設立できるのではないかと考えるに至ったという。

 また、角川氏は「合併して初めて分かったのだが、KADOKAWAもドワンゴもそれぞれ合併前から教育事業に力を入れ始めているところだった」と明かす。KADOKAWAは2014年9月より海外でのコンテンツ関連スクール展開を本格化。また、ドワンゴも声優養成学校を設立したほか、2014年11月にクリエイター養成スクール運営の株式会社バンタンを買収した。

 加えて、KADOKAWA・DWANGOグループに所属するゲームクリエイターの志倉千代丸氏の尽力もあったという。川上氏は「最初に志倉から『どうしても高校を設立したい』と言われた時、わけが分からなかった。ただ、不登校など学生を巡る問題はいろいろあり、その中で話を聞いていくうちに、KADOKAWA・DWANGOだからこそ可能な解決手段もあるのではないかと考えるようになった」と話す。 角川氏も「最初に聞いた時は戸惑った。『(志倉は)またいい加減なことをいうなぁ』と(笑)。ただ、設立に向けた趣旨書を見せられ、ページをめくるたびにもっともなことが書いてある。驚かされた」と苦笑いしていた。

IT技術を活用した通信高校、スクーリングは沖縄で

川上氏によると、高校設立を強く求めてきた志倉千代丸氏は、学校制服のデザインにも意欲的なのだとか

 設立予定の新高校は、通信制となる見通し。また、遠隔授業が主体の高校であっても、一定回数のスクーリング(教室での授業)は必要となる。その拠点の候補は複数あったが、最終的には沖縄に決定。2015年3月に設置計画書を同県へ提出した。

 授業については、ネットを活用し、誰でも場所や時間を問わず参加できるようにしたいという。理論上は数千~数万人単位で映像視聴型の授業に参加できるため、授業内容の質向上に取り組む余地も生まれる。そこに双方向性を加えることで、学友同士が協力して授業に取り組むといったスタイルも十分実現しうると川上氏は述べた。

 学習用のプラットフォームについては、niconicoとは異なるものを新規に開発する。通信制の高校では難しい“学園生活”についても、ネット上の技術を活かして実現したいという。ニコニコ超会議などのイベントとの連動のほか、角川氏からは、ライトノベル作家を“1日校長”として招くアイデアも披露された。

 就職に向けてのキャリア教育にも力を入れる。川上氏はドワンゴの実業を通じて得たプログラミングやウェブデザイン関連の教育力に自信を見せており、さらにバンタンのノウハウも活かす。

 また、地方自治体とは職業体験などで連携する。後継者不足などに悩む地方企業を学生とマッチングさせ、興味の喚起などに繋げていく。

新高校の特色

時代とともに学び方も変わる

角川歴彦氏も登壇。不登校を巡る問題、ポップカルチャーの魅力などを語った

 角川氏からは、現在の教育体制についての懸念も示された。国内産業の中心はかつて製造業であったが、近年はサービス業やコンテンツ制作なども含めて多様化している。企業が学生に求めるスキルが変わる一方で、教育体制は従来のまま。結果として、そのギャップに苦しみ、不登校などの形でドロップアップアウトする学生も少なからずいるとみられる。

 川上氏は、不登校の質が時代とともに変遷している可能性について言及した。「今、不登校の子は、恐らく相当ネットをやっていて、悪く言えば『ネットに逃げている』。だが、ネットに救われている人もたくさんいる。そういった子たちの中には、(ネット活用型ビジネスが台頭する)社会においては、むしろ適性が高いかもしれない」(川上氏)。

 川上氏は、ドワンゴという会社そのものが「ネットのやり過ぎでドロップアウトした人が集まって作った会社」と表現。新たなワークスタイルがすでに生まれていることを指摘していた。

(森田 秀一)