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オープンデータの活用で、地域の図書館が所蔵する貴重な1冊を効率的に保存

 NPO法人共同保存図書館・多摩は3月21日、図書館蔵書検索サイトの株式会社カーリルと共同で研究開発を進めてきた「多摩バーチャル・デポジット・ライブラリー」に関する中間報告会を行った。

多摩地域図書館蔵書確認システム(仮称)

 東京・多摩地域の図書館では近年、オンライン蔵書目録(OPAC)の普及によって閉架書庫資料の利用が拡大している。予約の増加にともない、図書館相互の資料貸借も増えている。その一方で、保存スペースの不足により、多摩地域の図書館全体での収蔵率は115%を超えている。そのため、資料の除籍・廃棄も増加。報告によれば、多摩地域全体で年間50~60万冊が除籍になっているとのことだ。

 問題は除籍する時、その資料が地域の他の図書館に残っているかどうかを「素早く」「簡単に」チェックできる仕組みがないこと。もしかしたらその本は、地域で最後の1冊かもしれない。それが捨てられてしまったら、地域の図書館がその役割を十分に果たせないかもしれない。共同保存図書館・多摩は、そういった思いから発足した団体だ。多摩地域の共同保存図書館(多摩デポ)設置への啓発活動や、研究活動などを行っている。

NPO法人共同保存図書館・多摩理事長の座間直壯氏

 まずは自治体図書館単位で「最後の1冊本」保存・維持の努力をすること、次に多摩地区全体で「最後の2冊以下本」保存の保障をすること、地域内での物流体制を確保し相互貸借を促進すること、そしてデータ管理の検討が、多摩デポ構想の内容。共同保存図書館(リアルデポ)はまだ実現していないが、少なくとも所蔵データを共有して残りの冊数がすぐ分かるようにしたい――というのが、多摩バーチャル・デポジット・ライブラリー構想だ。

 今、多摩地区の図書館で頼りにされているのは「東京都立図書館統合検索」だが、手作業で入力しなければならないのと、システムが重いため、検索に時間がかかってしまうという。仮に500冊の所蔵を東京都立図書館統合検索で確認しようと思うと、1冊あたり約30秒としても調査が完了するまで4時間以上を要する。また、検索しても出てこないのに、実際にその図書館へ行って調べてみたらあった、という精度の問題もあるという。

 これが、カーリルと共同で研究開発した仕組みでは、バーコードリーダーで短時間に連続で読み取りができ、1冊あたり1秒から10秒程度で素早く簡単に所蔵が確認できるようになっている。冊数が多い場合は、まとめてデータを流し込めば500冊あっても3分程度で調査が終わる。報告会では、実際にこの仕組みを試すことができ、あまりの簡便さに図書館関係者からは感嘆の声が上がっていた。

バーコードリーダーで読み取ると数秒で多摩地域の図書館蔵書冊数が分かる
素早く簡単に確認できるよう、短時間に連続で読み取りできる

 カーリル代表の吉本龍司氏によると、この仕組みは実は、インターネットに公開され誰でも使えるオープンデータだけを利用している。多摩地区に30館ある図書館と都立図書館の所蔵情報を、バーコードリーダーで読み取ったISBNでリアルタイムに横断検索し、結果を表示する仕組みなのだ。そのため現状では、所蔵冊数の少ない希少な本ほど、結果が返ってくるまで時間がかかる(それでも10秒程度)。対策として、希少な本のリストをあらかじめ用意しておくことによる、応答速度の向上を検討しているという。

 今後の課題としては、書誌をどう表示するか? という点が挙げられた。各図書館で使われているシステムの多くは図書館流通センター(TRC)のデータを使っているため、そのまま流用はできない。そこで、国立国会図書館サーチの外部提供インターフェイス(API)の利用を検討している。ただ、現時点での国立国会図書館APIは遅いため、応答速度の向上を要望しているという。

 また、出版社がISBNの使い回しをしているケース(同じISBNで違う本がヒットする可能性)や、そもそもISBNがない本をどうするか? なども問題点として挙げられた。カーリルの検索が早いのは、ISBNを同定に使っているからだと吉本氏。ただ、今回の研究開発によって、伝統的な横断検索でもOPACより高速な仕組みが構築できることが分かったため、カーリルでも新しいAPIを開発、提供していく予定だという。

 共同保存図書館・多摩では、おそらく全国どこの地域も同じように、除籍時の所蔵確認に手間がかかる問題を抱えているのではないかと考えている。今後はこういったオープンデータの活用により、図書館の広域行政のモデルプランを提起したいとのことだ。

(鷹野 凌)