ウィルコム久保田社長、更正法適用の背景を説明


 ウィルコムは18日、会社更正法の適用を東京地裁へ申請した。また、国が出資する企業再生支援機構に対しても支援要請を行っているほか、スポンサー候補として、アドバンテッジパートナーズが提供するファンドや、ソフトバンクと協議する方針だ。同社では18日夕方より記者会見を開催。昨年8月に社長へ就任した久保田幸雄氏が登壇し、今回の経緯や今後の見通しについて説明を行った。

「迷惑をおかけし申し訳ない」


冒頭、陳謝した久保田氏

 冒頭、久保田氏は、プレスリリースを読み上げ、会社更正手続きを開始すべく、申し立てを行ったことを紹介。現在提供するサービスについては、これまで通り提供するほか、取引先の債権についても裁判所から弁済が認められたとして、取引条件通り支払うと述べ、「このような形で、関係する皆様に多大な迷惑をおかけし申し訳ございません」と陳謝した。

 音声定額や法人向けデータ通信など、全てのサービスはこれまで通り、今後も提供される。なお、取締役は全員、辞表願いを提出しており、今後の再建計画が定まっていく中で正式に辞任する見込み。代表取締役社長の久保田氏もまた辞表を提出しているが、再建に向けた道筋を付けるため、管財人として留まれるよう申請中とのこと。執行役員はどうなるか未定だが、社員や拠点の統廃合については、現時点では特にリストラ、変更の予定はない。ただし、今後、支援先が決定し、再建計画で何らかの計画が立てられる可能性はある。

 なお、スポンサー候補というアドバンテッジパートナーズのファンドやソフトバンクについては、現在協議をスタートしたばかりとのことで、どのような支援になるか、あるいは支援そのものが行われるかどうか現時点では未定。

 ソフトバンクでは「申し出を受け、協議を行うことにした。どのような支援ができるか、いろいろな可能性を検討する」とコメントしている。

申請の背景

 同社では昨年9月24日、事業再生ADR(産業活力再生特別措置法所定の特定認証解決手続き)を申請した。これは、ウィルコムが抱える債務の返済期限を延長してもらえるよう、関係各者と調整を図るための手続きだった。久保田氏は「(高速無線通信方式の)XGPを展開する上で、開発投資や設備投資と既存サービスの両立に多少無理があった。ADRの申請がマーケットに影響し、会社更正手続きに至った」と説明する。

 2007年12月に、XGPの免許を付与された際には、財務体質についても健全性をアピールし、電波監理審議会にも認められていた。このときの主張について久保田氏は「現行のPHSサービスで創出できるキャッシュフローで投資、開発できると判断してきた。しかし予想以上に競争環境が激化し、期待したキャッシュフローが創出できなくなった。金融市場の混乱もあって資金調達が難しく、既存株主からの追加出資も難しい情勢になった」として当初の計画が狂ったと説明した。

 キャッシュフローの創出を期待された既存サービスは、ここ最近、純減傾向が続いていたことについて、久保田氏は「新規契約を獲得できなかった。これは資金が十分になく、広告宣伝など、マーケティングの投資ができなかった。あらゆる営業活動に資金が必要だが、新規契約が十分に獲得できなかった」と述べ、影響活動が十分にできなかったことに要因があると説明する。

 昨年12月より本格提供した中高生向けの料金プラン「新ウィルコム定額プランS」により、年末にかけて2~3万の新規ユーザーを獲得できたという。また、既存サービスについても、「機器間通信や医療機関など、ナローバンド/低電磁波/低消費電力の需要はある」として、既存サービス自体は魅力がある中で、XGPの費用や新規ユーザーを獲得できなかったことが影響を大きくしたとの見方が示された。

 また、仮にADRを行わなければ、という問いに対しては「約定弁済が迫っていて、それ(ADR)以外の選択肢がなかったというのが現実」と述べ、避けようがなかったとした。

 久保田氏自身、昨年8月26日の社長就任で、ウィルコムに来て日が浅い。ソニーでの部門長やソニー・エリクソン社長を務めてきた同氏は、今回の経緯に対する個人的な思いを尋ねられると「この5カ月間はあっという間だった。ウィルコムにお世話になると決めたのは、リファイナンスもでき、これからXGPも開発できる、通信ビジネスの拡大や成長というものに寄与できると大きな期待を持っていたから。しかし社長就任後、財務的な厳しさを毎日感じ、マーケティングへの投資もできず、忸怩たる思いだった」と悔しさをのぞかせた。しかし「PHSは、機器間通信といったところを含めて考えると、かなり大きな成長を期待できる。財務的な安定性を確保できれば、あらためてそういった可能性が出てくる」と語り、既存サービスが持つ今後の競争力への期待感も示した。

今後の見通し、XGPについて

 会社更正の手続きについては、18日に申請を行ったばかりで、今後のスケジュールは何も決まっていない。いわゆる破産と異なり、企業として事業の維持や再生を目指す手続きとなる。なお、資本金は100%減額となる。一般的な取引先が保有する債権は保全されるが、株主でもある京セラが保有する債権については、「それなりの負担をいただくと想定している」(久保田氏)という。

 またあわせて、企業再生支援機構に対しても支援要請を行っている。この支援も認められるかどうか、現時点では何も決まっていない。また、そもそも中小企業をターゲットに設立された企業再生支援機構がJALに続き、ウィルコムを支援することとなれば、どう思うかと尋ねられた久保田氏は「機構がどういうスタンスで、どういう企業を支援するか、コメントする立場にない」とした。それでも、国が出資する団体ということで、民間と異なる信用力があること、迅速な対応が期待できることなどを挙げ、ウィルコムの再生に向けて「大変重要な役割を果たしてもらえると期待している」(久保田氏)という。


サービス継続をアピール

 スポンサー候補というソフトバンクについては、協議を申し込んだばかりで、内容は今後詰める。これまで一部報道で指摘された内容について尋ねられると「XGPとPHSは異なる技術に見えるかもしれないが、サービスを進める上でかなり共通の部分がある。分けることに意味がないというか、一体として(スポンサー候補に)考えてもらっていると理解している」とコメント。PHSとXGPを分離することはない、とも受け止められる説明だったが、久保田氏は別の質問で「実際の事業をやる上での言及ではない。今後の話し合いを待ちたい」と述べ、“新旧分離スキーム”を完全には否定しなかった。

 XGPの行方も気になるところだが、免許交付時に総務省へ提出した、ユーザー獲得数やエリア展開などの計画については「影響はない」とした。スポンサーの意向によっては、計画変更も考えられるが、久保田氏は「XGPはユニークな技術。マイクロセルや通信速度などで特徴がある。スポンサーが決定次第、投資のスケジュールが決まる」と述べ、XGP路線は今後も継続するとしたほか、「展開スケジュールについては(スポンサー候補が)積極的な考えを持っていると聞いており、我々が考えている以上に、積極的な展開が期待できる」とも語っていた。

 スマートフォン事業も従前通り続けられる考えが示されたほか、NTTドコモからMVNO方式で借り受けている3Gネットワークについては、「もともとPHSのデータ通信サービスは速度が遅かったところがあり、3Gサービスはかなりのお客様に満足してもらえている。大変意味のあるサービスであり、これからもドコモに対して継続できるようお願いしていく」と述べた。


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(関口 聖)

2010/2/18 20:01