ニュース
出版3社がAmazonへの出荷停止を発表
~Amazon Studentプログラムが再販契約違反にあたるとして抗議
(2014/5/12 15:39)
一般社団法人 日本出版社協議会は5月9日、記者会見を開催。同協議会の会員社である株式会社 緑風出版、株式会社 水声社、株式会社 晩成書房の3社が5月7~9日より6カ月間、Amazonへの自社出版物の出荷を一次停止すると発表した。3社が出荷停止する出版物の点数は約1600点。
3社はこれまで、Amazon Studentプログラムの10%ポイントサービスが再販契約違反にあたるとして自社書籍を対象から除外するようAmazonに求めてきたが、解決の目処が立たないため、出荷停止を決断したという。
また来週以後に三元社および有限会社 図書出版 批評社が1カ月あいだの出荷停止に踏み切ることも発表された。2社が出荷停止する予定の出版物は約1100点。
出荷停止期間満了後は、改めて各社がそれぞれ対応を検討するという。
書籍の再販制度と委託販売
ここでは、書籍の再販制度、および再販制度とは切り離せない問題である委託販売について簡単に説明する。再販制度についてすでに知っている方はこの項は飛ばして読んでいただくことをお勧めしたい。
再販制度は1953年の独占禁止法改正時に制定された。独占禁止法の例外品目として、メーカーが小売店に対して商品の販売価格(定価)を指定し、定価販売を遵守させる仕組みだ。制定当初は著作物のほか、化粧品、石けん、歯磨き、雑酒、医薬品など9品目が対象となっていたが、1997年に化粧品と医薬品の指定が取り消され、現在は著作物のみが再販制度を維持している。
再販制度の対象となっている著作物は、書籍、雑誌、新聞、音楽ソフト(音楽用CD)。ただし、ダウンロード形式により販売される電子データ・音楽配信・電子書籍は含まれない。また、DVDビデオなどの映像ソフト商品やソフトウェアは著作物ではあるが再販品目には含まれない。こうした矛盾とも思える対象範囲から、現在では整合性を欠いた仕組みとなっているなどの批判もある。
また、書籍の再販制度においては、再販制度と書籍の委託販売制度がセットで運営されていると言ってよいだろう。委託販売制度は、書店は一定期間販売を委託される期限付きの売買契約のようなもので、書店は売れなかった書籍については自由に返本できる。ベストセラーとなった頃のハリーポッターシリーズなど書店が買い取る方式で販売する出版社や一部の商品を買い取りにしている出版社もあるが、ほとんどの書籍は委託販売で販売されている。
小売店は再販制度によって価格競争をすることなく、また委託販売制度のおかげで小規模資本の書店も買い取りリスクなしで多数の書籍が揃えられる。また、小規模出版社の書籍も書店に置いてもらえるというメリットがある。半面、返本が自由にできることから返本率の上昇、ひいては出版社の入出庫など倉庫関連費用の増大につながっているとして、近年一部大手出版社では買い取り制への実験的かつ小規模な試みを実施するなどの動きもある。
再販制度と委託販売については、10年以上前からさまざまな議論がなされているが、出版業界全体としては再販制維持への支持の声が高い。委託から買取へ移行するための実験的試みも一部で実施するといった動きもあるが、業界全体の変革など大きな動きには至っていない。
Amazonへの出荷停止の理由
株式会社 緑風出版 代表取締役 高須次郎氏は、Amazonへの出荷停止の理由について、「学生向けのStudentプログラムのポイントサービスが再販契約に違反する値引き販売にあたるとして、Studentプログラムのサービス対象から自社出版物を除外するよう要請してきたが、Amazonが出版物の除外要請に応じなかったため」と述べた。
AmazonのStudentプログラムは、本の注文確定と同時に価格10%をポイント付与するほか、お急ぎ便・お届け日時指定便が使い放題などの特典を提供するプログラム。6カ月の無料体験期間があり、継続したい場合は年会費1900円が必要となる。
高須社長は、「ポイント付与による販売は公正取引委員会も指摘する通り、値引きにあたり、10%もの高率のポイントサービスは再販契約違反であることは明白」とした上で、「公取委によると、こうしたポイントサービスが再販契約に違反するかどうかは出版社が個別に判断することになっている」と説明。
高須社長は、「こうしたポイントサービスは対抗上、他の書店のポイントサービスを誘発し、書店間のポイントサービス合戦は書店を疲弊させ、事実上再販制度を崩壊させてしまう」と指摘した。
また、やはり今回出荷停止を表明した、株式会社 晩成書房/代表取締役 水野 久氏は、再販契約は出版社と日販、日販とAmazonでそれぞれ交わされていることから、Amazon側は直接契約の相手ではない出版社とは交渉する理由がないとして、直接交渉には応じない姿勢だと説明。
水野社長は、公正取引委員会にも相談したが、出版社が業界団体で行動するのは「その方が問題であると、カルテルということで判断する」という警告を受けたとして、「その後は各社判断で動いている。今回の取引停止は各社判断で行っている」と述べた。
このため、今回出荷停止に至った出版社は個々にAmazonのポイントサービスは再販契約違反であると判断し、取次会社の日販に再販契約を守るよう重ねて要請してきたという。これに対して日販側は要請に理解は示すものの、あくまで「Amazonに伝える」という立場で主体的な動きが見られず、進展が見られなかったことから今回の出荷停止に踏み切ったという。
ただし水野社長は、「出版社は国内に約3700社ある。間に入っている取次はトーハン、日販、大阪屋の3社でほとんどを占めてしまうので、取次は独自の判断で動かないようにという公取の指導もあると思われ、控えめに動いていると考えられる。このため、強くAmazonに交渉してほしいと要望しても、Amazonに伝えるという役割にとどまっており、主導的な動きはしていない」として、取次が主体的に動けない立場にも一定の理解を示した。
Amazonについては、「大手なので説明責任がある」と述べ、「契約当事者でないからということで直接の交渉ができない状況だが、そもそもAmazonのグループ会社のうちどこが交渉相手となるべきなのかも当初わからず、取次などに確認して相手会社はAmazon International Sales社であることがわかった」として、Amazonについて“見えているようで非常にわかりにくい”という問題も感じている」と交渉の難しさを語った。
その上で、「やめてほしいと言い続けてきて、“そこまでやる覚悟はある”という姿勢は見せておくべきだと考えた。同じように自社商品を外してくれるよう要望する出版社が続くのか、大手もその中に入ってくれればいいと考えている」と出版社個々の判断による広がりへの期待を表明した。
「契約を守ってほしい」
同じく今回出荷停止を表明した株式会社 水声社 代表取締役 鈴木 宏氏は、「5月8日から出荷停止に入った。直接的に問題にしているのはAmazonに定価販売してほしいということ。定価販売しないのであれば売ってほしくないということで出荷停止にした。言いたいのは、契約を守ってほしいということに尽きる」とコメント。
鈴木社長は、ポイント還元による値引き販売の影響について、「インターネット書店の間では値引き競争がすでに始まっている。10%ポイントを続けているが、対抗上、他のインターネット書店もいろいろな形でのポイントサービスをすでに始めている。このまま進めば、リアル書店の方に波及してくることははっきりしている。中小・零細の書店は必ず淘汰される」と小資本の街の書店の淘汰につながると説明。
「すでに街の書店は最盛期から1万軒以上減少している。こうした傾向にさらに拍車をかける。さらには、値引きをするための原資は小売りから取次、取次から出版社に要求されていく。この結果、書店も出版社も寡占化していく。寡占が極限のところまでいって出版社は数社だけとか、書店は各都道府県に1軒ずつ、といった状態になるのが日本にとって望ましいのか。言論の自由を支えるのは出版社の多様性。多様な出版社が存在しなければ、多様な言論や表現は生まれない。多様な出版社、書店が存在していく必要がある。それが日本の豊かさにつながる。寡占化には非常に大きな弊害がある」と危惧を表明した。
また、「われわれは零細なので、大手出版社にも再販制度を守る意志をはっきり示していただきたい」として、大手出版社に再販制を守る姿勢を明らかにしてほしいとの要望を述べた。
すでに「Amazonにはものが言いにくい」状況?
会見中、大手出版社に動いてほしいとの発言は度々あったが、同時に「Amazonは国内の数字を発表していないので、我々がいろいろな数字を突き合わせてAmazonは国内販売第1位と判断している。売上の占める比率でAmazonが大きいのは大手も同様であるため、ものを言いにくいということはある。Amazonの売上は紀伊國屋の2倍以上はあるだろう」(高津社長)と説明。すでにAmazonが大きなシェアを占めたことにより“Amazonにものが言いにくい”状況ができていることを示唆した。今回出荷停止を発表した3社も、Amazonでの売上は1~2割を占めるといい、“痛い決断”だという。
また、高津社長は消費税についても言及。電子書籍は再販制の対象ではないために販売店が自由に販売価格を決められるが、外国企業が、海外にデータ配信拠点を設置してサービスを提供する場合には、国外取引とみなされ課税をできないため、Amazon Intenational Salesが販売する電子書籍には消費税が課税されない。このため、4月に8%となった消費税が今後10%になると、国内企業は太刀打ちできないとして、この点にも広く関心を持ってほしいと訴えた。