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「70点」の文章力がパワーになる――“ナタリー式”文章作成術のエッセンスが本に

著者のナターシャ唐木元氏がLINEの田端信太郎氏と刊行記念トークイベント

 株式会社インプレスが21日、書籍「新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング」の刊行記念イベントを東京・新宿のブックファースト新宿店にて開催した。著者である唐木元氏(株式会社ナターシャ取締役)と、ゲストの田端信太郎氏(LINE株式会社上級執行役員法人ビジネス担当)が登壇し、ビジネスにおける文章力の重要性などについてトークを交わした。

(左から)株式会社ナターシャ取締役の唐木元氏、LINE株式会社上級執行役員法人ビジネス担当の田端信太郎氏

 「新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング」は、毎月3000本以上の記事を配信するカルチャーニュースサイト「ナタリー」で実践されている文章力養成メソッドを一般向けに解説した初めての書籍。同サイト運営元のナターシャでは、通称「唐木ゼミ」と呼ばれる社内勉強会で唐木氏が新人記者へのライティング指導を行ってきた。同書では「悩まず書くためにプラモデルを準備する」「事実・ロジック・言葉づかいの順に積み上げる」といった独特の概念を通じて、文章を構造的に書くための方法を全77項目のエッセンスにまとめて解説している。

ホワイトカラーこそ文章力で差が付く

8月7日にインプレスから発売された「新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング」。紙版は四六判/208ページ、定価1300円(税別)。電子書籍版は1180円(直販サイトでの参考価格、税別)

 ゲストの田端氏はまず、「この本はライター志望者より、むしろ普通のホワイトカラーが読むべき」と本書の感想を述べ、理由として「あらゆる仕事とコミュニケーションが文章をベースに行われている」ビジネスの現状を挙げた。著者の唐木氏もまた、本書のメインターゲットを「文章のプロではないけれどちょっとした文章を書いたり、文章の善しあしをジャッジしなければならない人」だと語った。

 田端氏は、本書が説く「構造シート」を使った作文術は、コンサルタント業界でよく言われる「ロジックツリー」や「スケルトン」を準備する文書作成法と全く同じだとも指摘。「『取材』というのも、おしゃれに言えばファクト・ファインディング」。業種ごとに用語は違っても、本質は共通していると述べた。

 そもそも唐木氏が文章教室を始めたのは、日々膨大な記事を配信する“ニュース工場”を安定して運営するためだった。ナターシャは現在、70人超の社員のうち60~65%がライター職だという。このため「素質や才能」ではなく、手順を踏めば誰もが一定水準の文章を書ける仕組みが必要とされた。「手前みそながら、40人くらいの社員教育をしてきた実績としてそのメソッドをためてこられたと思う」(唐木氏)。

 一方で、田端氏は本書の「ハウツー本」としての出来を高く評価しつつも、「『どう書くか』はよくできているけれど、『何を』『なぜ』というWhatやWhyは書いていない」と限界を指摘。あくまで客観的で実用的な文章に割り切った方法論であり、文章の目的によって最適な文体は変わるだろうとも述べた。唐木氏もその点に同意しつつ、本書の方法は「70点の文章」を着実に書けるようにするためのものだと改めて強調した。

文章力で損をしないために

 トークイベントの後半では、「ロボット記者」の可能性なども議題に挙がった。例えばAP通信の決算記事はすでにアルゴリズムによって自動作成されている。ナタリーの記事も人工知能に取って代わられる日が来るのではないか? 唐木氏はこれにも半分は同意しつつ、本書で述べている「主眼の設定」や「切り口の提示」の判断は、人間の領域として残るのではないかと述べた。

 最後に田端氏は、文章力はアーティスティックなものではなく、人の生活力や経済力に直結した文字通りの「力」なのだと述べ、「自分は文章で食っている、という意識を持たない人ほど文章力で損をしています。この本のやり方で『損をしない』ところまでは到達できる」と結んだ。

 会場には1990年代から唐木氏や田端氏の活動を見守ってきたファンも駆け付けた。対談の最後に唐木氏は、ともに1995年にインターネットに接続して以来の友人でもある田端氏を「個人インターネットの草創期から走り続けてきた仲間」と呼んで、初の自著について語り合う機会を得たことに感謝の言葉を述べた。

(滝沢 孝之)