特別企画
賞金総額1550万円! ボット開発コンテスト「LINE BOT AWARDS」の狙いとは
2016年12月7日 06:00
当初60名だった参加枠は1日で満席となり、急遽100名に枠を増やしてもなお70名ほどがキャンセル待ち――。LINE株式会社は11月11日、LINE上で動作するボット開発コンテスト「LINE BOT AWARDS」に関して、公式では初となる説明会を開催した。
これまでLINEのプラットフォームを利用した開発にはクローズドなパートナー契約が必要だったが、4月に開催した技術者向けイベント「LINE DEVELOPER DAY 2016」において「Closing the Distance」を掲げ、オープン化を進めている。今回のLINE BOT AWARDSは、ユーザーコミュニケーションプラットフォームをビジネス向けに展開する試みの一つとなる。
本稿では、その様子をレポートする。
世の中の役に立ち、愛され、インパクトと継続性のあるLINEらしいボットを
開催に先立ち、LINE BOT AWARDS運営事務局の砂金信一郎氏からコンテストの趣旨が説明された。
まずLINEが考えるボットの例として、チャットからレストラン予約ボットを参加させ、自然な会話の中でボットが店の選定から予約までを行うという、ボットと人がスムーズに情報をやりとりする例や、中古車情報を画像で検索するボットのように、自然言語処理だけではなく写真などさまざまな情報を判断してマッチングした情報を返す例を紹介。
また海外からの旅行者に対し、LINE Beaconを使ったサービスを提供してインバウンド需要を取り込む例、庭の状態をセンサーが感知してボットがメッセージを送り、出先からスプリンクラーを稼働させるというIoTと連携した例など、より楽しく便利に日常を送れるボットのイメージを見せた。
優勝賞金1000万を獲得するために、クリアすべき審査のポイントは5つある。
1つめは、エンジニアが作って楽しいだけのものではなく「誰かが幸せになる、世の中の役に立つ」こと。
2つめは、そのボットサービスが「ユーザーから支持されている」こと。その判断基準はLINEの友だちの獲得数だ。便利で良いサービスならば友だちが増え、ユーザーから支持されていると考えることができる。
3つめは、LINE特有のUI/UXや新機能を活用した「LINEらしい」ボットであること。4つめは、世の中に「インパクトを与える」もの。そして5つめは、LINE BOT AWARDSが終わったら終わり、ではなく賞金を原資に広告やさらなる開発を施し、「継続して運営できる」ものを高く評価する、としている。
ちなみに、万が一サービスを継続できなくても優勝賞金をはく奪されることはないが、グランプリに選ばれたボットには注目も集まり、利用者が増えれば、当然継続しない手はないはずだ。
また、受賞をきっかけにボットを作りたい企業からの引き合いが増えるといった、ビジネスの広がりも期待できるだろう。
どういうボットがいいのかはLINEもわからない
部門賞は大きく分けて「利用シーン」「要素技術」「応募者属性」の3つに分類される。利用シーンでは「ライフスタイル」「エンタメ」「ゲーム」、要素技術では「対話エンジン」「グループトーク」「IoT/Beacon」、応募者属性では「学生」「スタートアップ」「ローカライズ」「GEEK」と分類ごとに各賞のテーマが設定されており、なかなかユニークだ。
部門設定の意図について砂金氏は「実は、どういうボットを作ってほしい、というのはプラットフォームとしてのLINEにはないし、わかっていない。例えば学生が作るボットは自分たち目線で便利なものであってほしいし、それを作る側に限らず使う側はどういう人なのかも知りたいと思っている。また、ゲームにとってボットが本当にいいUI/UXかどうかわからないが、そこにチャレンジする人を見出したいとも考えている。そうしたハードルを乗り越えて、それで成立させられるジャンルがあるのかを見極め、どういうボットがいいボットか、『基準』のようなものをこのコンテストでクリアにしていきたい」と語る。
ちなみに10の部門賞の賞金はそれぞれ50万円だが、学生を惹きつけたいという人事部の肝いりで、学生部門だけ100万円に増額されたという裏話も披露した。
業界を挙げてボット開発をサポートする体制を用意
コンテストを行うにあたり、LINEだけではなく多数のパートナーと共にIT業界全体でボットを盛り上げていきたいとし、運営のイベント協力パートナーとしてMashup Awards、特別協賛としてマイクロソフトが名を連ねる。
そのほか、インフラ提供パートナーとして、IDCFクラウド、さくらインターネット、セールスフォース・ドットコム、ニフティクラウド、hachidori、IBM、技術協力パートナーとしてZEALS、ソニックムーブ、DMM.make AKIBA、ユーザーローカル、LINE Business Connectパートナーとしてサイバー・コミュニケーションズ、サイバーエージェント、トランス・コスモスなど11社、API提供パートナーとしてアマナ、NTTドコモ、ぐるなび、PayPal、ソニー、ゼンリンデータコムなど28社が協賛している。
これらの企業のインフラやサービスを利用することで、さくらのクラウド上でりんなAPIとWatson APIを組み合わせて賢いチャットボットを作る、といったこともできてしまうわけだ。また、提携パートナーも引き続き募集しているという。
早めに応募して友だち登録数を稼ぐのが入賞への近道
今後のスケジュールだが、12月上旬に応募フォームが公開される。
期間中は技術協力パートナーによるLINE BOT AWARDSに関連したさまざまなのハッカソンの準備も進められており、参加することでAPIの使い方の指導などを受けられるとのことだ。応募締切は2017年2月22日となり、この時点でボットを完成させて動かしている必要がある。
その後審査を経て、2017年3月に入賞作品の表彰イベントが行われることになっている。
この手のコンテストでは、応募が締め切り直前になりがちだ。しかし、早めに応募することで、エントリーされたボットを運営事務局が紹介する可能性もあり、審査基準の1つでもある友だち獲得には有利に働く。
応募時はアイディアだけでも構わないそうなので、まずは応募してユーザーの声を聞きながら、よりよいボットに改善していくのが入賞への近道といえるだろう。
また、個人に限らず企業ないしチームの応募も可能だ。例えば、受託で作った開発案件などに関しても、クライアントの許可さえ取れれば応募できる。
ちなみに、すでに400万人の友だちがいる日本マイクロソフトのボット「りんな」は今回のコンテストの審査対象外となるが、ヤマト運輸やNAVITIMEなど既存のLINEボットサービスがエントリーしてくる可能性がある。
これらの企業によるボットは、背後に膨大なデータベースやシステムがあり、個人として太刀打ちするのは難しいかもしれないが、技術に自信があるなら例えば佐川急便と組んでボットを開発し応募の許諾をとって参加する、ということもできるわけだ。
さまざまな活用事例を紹介
またこのイベントでは、先進事例紹介として、チャットでレストランを探せるボット『ペコッター』を提供する、株式会社ブライトテーブルの松下勇作氏が登壇。
ライトニングトークでは、技術協力パートナーでもあるソニックムーブが、検索エンジンよりやわらかい対話で検索できるボット「WEB探偵さちこ」を紹介したほか、新里祐教氏は、投函をセンサーが感知してお知らせするボット「ポスト君」を紹介した。空っぽの郵便箱をチェックする虚しさが解消される、という。
このほか、白石康司氏によるNTTドコモの雑談対話APIを使った「りんな風女子高生Bot」や、立花翔氏によるImagemapを使った「リバーシBot」も紹介された。
ボットによって世の中をもっと便利にしたい
LINE Bot SDKも統括しているLINE株式会社の松野徳大氏からは、ボット開発に必要なLINE メッセージング APIサービスの技術説明が行われた。
基本的なメッセージ要素以外にも、5つまでのボタンを表示しアクションを割り当てられるButtonsや、2択のメッセージを表示するConfirm、情報の複数表示に便利なCarouselなど、リッチなメッセージを使うと評価されやすいとのこと。
なお、SDKも提供しており、これまでのRuby、Perl、Java、golang、PHPに加え、ユーザーからの要望が多かったPythonも追加されている。
砂金氏は、取材の最後に「(このコンテストを通じて)まだボット化されていないものがボット対応することで、世の中がもっと便利になり、それを見た人がもっといいボットを開発する。3月の段階で、そんなすごいボットが並んでいる状態にしたい」と語った。
現在のウェブサイトや専用アプリを介してインターネットのサービスを使うという利用スタイルが、来年はボットに話しかけるだけでさまざまな情報が集まりサービスが利用できる「ボット元年」になっているかもしれない。