整然たる疑似英語世界に“ナマ”の混沌が加わってパワーアップ
●難題(?)を突きつけられた「Rosetta Studio」の授業
お話作りの画面。変装をするというようなことを言いたいのにつまると、コーチがdisguiseという単語を入力して、教えてくれる |
ピンクのエイリアン。ロバ。何やら化学実験中の男。グルーチョ・マルクス顔の子供……。これでどうやって収拾をつけろというのか。
私は今、「Rosetta Stone TOTALe 英語(アメリカ)コース」(以下ロゼッタストーン)のオンライン授業「Rosetta Studio」を受けている最中。そして、オンライン上で同席した韓国人の男性と一緒に、9枚の写真を使ってお話を作りなさいと言われたところだ。写真を1枚選んでその状況を語り、次の人が別の写真を選んで話をつなげるのだという。
写真などを使って状況説明しましょう、お話を作りましょうというのは、英会話の授業ではよくある手法だ。だが、このめちゃくちゃな写真。これで相手から話を引き継ぐってのは……英語とは別の次元でハードルが高い! なにしろ初めの写真を選んだときに自分で即席に思い描いておいたあらすじどおりには話は進まない。相手は思いもよらぬ写真を選び、思いもよらぬ物語に展開してくる。それをまた、自分なりに一番ましだと思う話につなげて返すのだ。
とはいえ、紆余曲折を経て私たちは「エイリアンによってロバにされた男が元に戻る薬を作ろうとしたが子供になってしまい……」というような話を作り上げ、ゲラゲラ笑い合った。
まあ、やっぱり"ナマ"は面白い。そしてハプニングにその場で対処していかなければならないナマの体験を積まないと、英語が口をついて出てくるようにはならないとも思う。
ロゼッタストーン体験談2回目となる今回は、オンラインを活用した新機能をまず紹介し、次に上級レベルやスピーチ解析機能を使ってみた様子をレポートする。
●つながる感覚が楽しいオンラインサービス
学習の中心となる「Rosetta Course」。写真を見たり音声を聞いたりしながら、リスニングや発音などの会話に必要なスキルを、日本語を介さずに繰り返し練習する |
ロゼッタストーンはPCを使って、英語をインタラクティブかつ直感的に学ぶことを特徴としたソフト。学習の中心となる「Rosetta Course」では、写真を見たり音声を聞いたりしながら、リスニングや発音などの会話に必要なスキルを、日本語を介さずに繰り返し練習する。前回の体験談で書いたとおり、単純に見えるレッスンでも、学ぶ表現の選び方、それが新しく登場する順番など、かなり緻密に計算された感があった。
そこに新バージョン「TOTALe」でプラスされたのが、オンラインサービスの「Rosetta Studio」と「Rosetta World」だ。StudioではCourseの進ちょく度に連動して、ネイティブスピーカーの講師(ロゼッタストーンではネイティブコーチと呼ぶ)による会話レッスンを受けられ、Worldでは世界中のユーザーとゲームやチャットを行える。
StudioやWorldでは、Courseでセッティングされた受け答えを超えたことを聞かれるかもしれないし、話さないとならないかもしれない。大げさに言えば、秩序あるCourseの世界から混沌の外界へ、疑似英語圏からナマの英語圏へと放り出されるわけだ。もっとも、その"外界"も本当はロゼッタストーンの囲いの中。自動車教習所内での教習と一般道路でのひとりドライブの間に、仮免教習が加わったといったところだ。
●リアルタイムの授業「Studio」
Studioの授業予約画面 |
授業画面。ネイティブコーチの顔は見えるが他のユーザーは音声のみ。同席するユーザーは最大4人だが、このときは2人だった |
「英語(アメリカ)」コースは最高で5レベルあり、各レベルが4ユニットに分かれている。Courseを少し進めると、ユニットごとにStudioの授業日時を予約できるようになる。予約した日時にStudioにアクセスすると、最大4人のユーザーがリアルタイムに音声でつながり、コーチの映像を見ながら50分の授業を受けられる。
授業は冒頭に書いたように、Courseのユニットのテーマと内容に沿いながらも、かなり応用を含む。
例えば私がStudioの授業を受けたレベル5・ユニット2のテーマは「芸術や学術」。だからお話作りの課題の写真にも「望遠鏡」や「試験管」が出てきた。コーチはそれらの単語を私たちが知っているか確かめ、知らなければ教えてくれる。また、映画館のような場所で人々が笑っている写真があると、まずは、「これは何をしているところか」「映画を見ているところだ」「どんな映画か」「コメディだ」などとやり取りする。Courseで、"a romantic movie"や"a sad song""a scary story"などの語彙を学んだばかりなので、このやり取りはCourseに沿った穏当な展開だ。
だが、Studioでは次に必ず、「あなたはコメディが好きか」「映画館によく行くか」などと自分のことを話すように仕向けられる。ヘンなお話作りもさせられる。そうなれば、Courseの模範文どおりに話せばいいわけではない。
でも答えにつまれば、コーチは質問を少し変えたりして手助けしてくれる。同じユニットの授業を繰り返し受けることもできるそうなので、だんだん慣れてもくるだろう。
海外のユーザーの、日本人とは訛りの違う英語を聞いていると、米国のアダルトスクールあたりで留学生同士、席を並べているような感覚になる。それは実際の英語圏での体験に近づくことでもある。
●他ユーザーとの対戦/協力ゲームが多い「World」
WorldのDuoモードでReplicaというゲームを始めるところ。遊び方が簡単に説明される |
Worldでは語学ゲームを1人で、あるいは他のユーザーと2人で対戦して遊ぶことができる。また、短いストーリーを読んだり聞いたりして、リスニング力、語彙力、読解力などを高める学習ができる。
対戦ゲームは8種類あるが、そのいくつかを見てみよう。
例えば「Replica」というゲームがある。対戦(このゲームの場合は協力と言ったほうがいいが)する2人の一方に完成形の絵が、他方に未完成の絵が表示される。相手の絵を見ることはできないので、完成形の絵を見ているほうは文字や音声のチャットで自分の絵を描写して伝え、制限時間内に相手に絵を完成してもらう。
写真は、3人の客が店のレジで何かを買おうとしている未完成の絵だ。相手が、「自分は黄色いボウルを現金で買おうとしている」「右隣の男性は緑の携帯電話をクレジットカードで買おうとしている」などとチャットしてくるので、こちらはアイテムの絵をフォルダから見つけてドラッグ&ドロップしていく。
使うのは単純な語句だけなので、英語としては簡単な部類だ。だが、完成した絵を持つ側は、相手の絵のどの部分が未完成なのかわからないので、とにかくたくさんの情報を伝えないとならない。これを文字チャットのバーチャルキーボードでやろうとすると、一文字一文字のクリックの反応が遅く、制限時間内クリアは難しい。伝える側はPCのキーボードを使って、自分の絵の情報をダダダと打ち続け、受ける側は、読んでは正しいアイテムを探してドラッグ&ドロップを繰り返すと、ようやくクリアだ。
音声チャットなら早いかもしれないが、相手の声は聞こえるのにこちらの声が向こうに聞こえない、ということが2回あった。こちらのマイクが正常なことを確かめても、だ。これは海外ユーザーのネット状況によるのかもしれない。向こうの音もあまりクリアではなかった。Studioのときはとてもクリアなのに、残念だ。
完成形の絵を持つ相手のチャットを読んで、足りないアイテムを見つける | アイテムの名前、色、数などを正確に把握すると完成 |
Replicaと似た対戦(協力)ゲームはほかに2つある。「Contrasto」ではReplicaと同様に、2人が少し違う部分のある絵を持つ。そしてそれぞれが相手に、「オレンジのセーターを着た女性が黄色いボウルを買おうとしている絵」などと自分の見ている絵を説明し、そのチャットを読んだ/聞いたほうが、違う部分(例えば別の色の服や別のアイテム)をクリックしていって、違いを全部見つける。「Identi」は、一方のユーザーのほうに似たような何枚もの絵が表示されるので、他方のユーザーの説明から、正しい絵を見つけるゲームだ。似ているがゆえに、この3つは続けてやると飽きるかもしれない。
もちろん、毛色の違うゲームもある。
「MetaTag」では、2人がそれぞれ同じ絵を見て、その絵を描写する語句をどんどん書いていく。2人の単語が一致するとそれが表示されるので、できるだけ多くの語句を一致させる。相手の語彙力・語彙センスと自分のとが合っていると早くクリアできる。
これは、私は「Simbio」モードでほかの人とプレイした。
Simbioというのは、同じ対戦形式でも英語学習者同士(「Duo」モード)でなく、例えば日本語ネイティブで英語学習者の私ならば、英語ネイティブで日本語学習者の他のユーザーと、それぞれの言語のゲームをするという形式。1人の相手と、1回は日本語のゲーム、次は英語のゲームで遊ぶことになる。
Simbioの相手である日本語学習者が選んだMetaTagを一緒にやったときは、自分がにわか日本語教師になったような気分だった。プールサイドに椅子が置かれたように見える絵を見ながら、ローマ字で"isu"や"midori"などと、相手の日本語レベルを推し量りながら入力していったのだが、なかなか一致しなかった。一致しないこと自体が異文化体験みたいで面白くもあったが、これをDuoの英語学習者同士でやったとして、学習につながるかどうかはちょっと疑問なゲームという気もした。
BuzzBingo。読み上げられるストーリーの単語の中から表示されているものを見つける。これは単語が4x4のシンプルなものだが、5x5のものもある |
ビンゴができたところ。bookとbooksがあったりしてちょっとトリッキーだ |
「BuzBingo」はリスニング力を使うゲームだ。読み上げられるストーリーを聞いて、聞き取ったうちで画面のカードの中にある単語を見つけ、早くビンゴ状態にする。1人の「Solo」モードでもできるし、Duoで他の英語学習者と、Simbioで英語ネイティブユーザーと、早さを競い合うこともできる。
このゲームは、読み上げられたときにすぐにクリックしないとOKの緑にならないので、特に初めのうちは単語を目で探しながら、流れるストーリーを聞くのが難しかった。でもストーリーの中で同じ単語が何回か使われ、一度聞き逃しても次のチャンスが巡ってくるようになっている。そういう点、よくできているし、よい聞き取り訓練になると思う。ただし、ストーリーの数が少なく、数回続けてやると同じストーリーを聞くことになる。
「Chatonium」という、文字通りチャットルームもある。相手が必要なほかのすべてのゲーム同様に、これをプレイするためには、誰かオンラインになっているユーザーを見つける必要がある。Rosetta Worldは「Story」のコーナー、Soloモードのコーナー、それにDuoモードとSimbioモードでは、ボイスで遊ぶコーナーとマウスやキーボードのみで遊ぶコーナーの2コーナーずつに分かれている。DuoとSimbioの計4コーナーは現在オンライン中の人数が表示されるので、好みのコーナーに誰かいるのを見つけたら、自分もそこに入ってChatoniumを選び、システムが自分と相手をマッチングしてくれるのを待てばよい。
Chatoniumでは、話のきっかけに使える例文も用意されているが、使わなくてもよい。まるきりのビギナー同士だと会話を続けるのは難しいかもしれないが、書く・話すの一番の実地訓練にはなるだろう。
一方、Storyは、正直言って、どう使いこなせばよいか、よくわからなかった。読んだり聞いたりするだけでよく、リアクションは求められないからだ。でも文字を見ないで音読を聞いたり、その音読の速さを変えたり、単語の意味を調べたりと、自分の工夫でいろいろ利用できる素材だろう。
このように、存分に使いこなそうとすれば、Courseにかかる時間以上をStudioとWorldで使うことになる。TOTALeは、前のバージョンに比べ、ずいぶん世界が広がったと思う。
●淡々とした印象のCourseレベル5
Courseのレベル5・ユニット4の一画面 |
でも、自動車の仮免教習の前には教習所内での運転や交通規則講習を行うのが基本なのと同じように、ロゼッタストーンの基本がCourseであることは従来と変わらない。前回はレベル1の冒頭部分の説明をしたので、今回は上のレベルを使ってみた。
レベル5になってもレッスンのスタイルは同じで、淡々と進む。レベル5の最後のユニットであるユニット4を終えると、ユニット全体の復習をする「マイルストーン」というレッスンがあるが、レベル5全体、あるいは英語(アメリカ)コース全体のフィナーレ的なものはない。淡々と終わって拍子抜けするくらいだ。
上位レベルと下位レベルとの一番の違いは、レベル5などでは、マイクに向かって話さなければならない文に長いものがあるということだろうか。例えば"We just moved here from Italy, and we're still practicing our English."という文が、文字表示無しに音声だけで流れ、それをリピートしなければならなかったりする。短期記憶して再生するだけの作業のはずだが、一言一句間違わずに聞き取るだけでなく意味も構造も理解していないと、再生の途中で続きを忘れてしまい、意外とつっかえる。
その一方で、文法や語彙は比較的簡単なままだ。文法は現在完了が使われるようになっている程度。語彙は、例えばon the right of, in the back of, on one sideとか、nervous, interested, excitedとかが登場するが、新しい語・語句が増えるだけで、前のレベルに比べ、特に難しくなるわけではない。
だから、いわゆる"英語のレベル"的には大雑把に言って中学3年くらいの感じだ。最後まで修了したからといってそれだけで、TOEICの読解問題がすらすら解けるようになるといった感じではない。しかし少なくとも通常のTOEIC対策の勉強では英語を口に出す練習は必要すらないわけで、それはそれでちょっと偏っている気がする。ロゼッタストーンは、ビジネス英語を意識したTOEICなどとは、そもそも勉強目的のベクトルが違うのだと思う。
ロゼッタストーンの方向性はどちらかというとサバイバル・イングリッシュだろう。英語圏に放り出されるなどして英語でしか生活に必要なコミュニケーションがとれないときにとりあえずどうするか、という英語。それを、単語を並べて何とかしのぐというパニックレベルから、文法も語彙も発音もネイティブスピーカーにより近い、バランスよく落ち着いたレベルに押し上げようとしてくれる、そんな感じだ。
逆に、海外在住経験があったりしてサバイバル・イングリッシュ的な基礎を持っている人にとっては、レベル5でも物足りない気がするのではないかと思う。
また、"書く"ことに関してはプラクティスが少ない。これまでに出てきた例文を入力する問題がある程度なので、語の綴りなどは自分で覚える努力が必要だ。
●スピーチ解析機能は繰り返しを促す効果大
スピーチ解析機能。お手本を再生すると、どの単語が一番強く、あるいは高く発音されるかがわかる |
ところで、ロゼッタストーンには、自分の発音を録音し、お手本と音声の強弱や高低の波形を比較できる、スピーチ解析機能がある。すでに従来のバージョンから備わっているものだが、自分の発音を客観的に聞く機会は少ないので、活用したい機能だ。
ただし、波形がお手本と違うことがわかっても、どうしたら近づけられるかは自分でいろいろ言い方を変えるなどして探すしかない。発音が及第点だと丸いスピーカーマークが緑になることは前回書いた。この及第か否かのレベルは実は設定で変えられるのだが、最高に設定してマークが緑になる場合でも、強弱の波形はお手本と結構違ったりする。
そこで、ロゼッタストーンの「カスタマーサクセスチーム」に、どこまでどうやって近づけるべきか電話で相談してみた。カスタマーサクセスチームとは、技術的質問だけでなくユーザーの学習に関する質問にも答えてくれる相談係だ。
すると、「強弱の波形はお手本と同じようになるのが理想だが、日本語ソフトで日本人の自分が試してみてもお手本とかなり形が違うことがあるので、必ずしも同一波形にこだわらなくてよい。英語の場合なら、むしろ音の高低の形が同じになるように練習すると、緑マークがつきやすい。日本語式に話すと平坦になりやすいので」とのアドバイス。機械的な応答でないのが好印象だ。
そのアドバイスもふまえて思ったのは、この一見科学的な解析機能は、強弱や高低の波形を手本に近づける策を与えてくれることはないのだが、近づけようという試行錯誤を促してくれる。それが結果的に発音学習に役立つのではないかということだ。別にこれは皮肉ではない。手本の波形は目安になるし、及第か否かの音声認識も、自分の発音の問題個所を見つけるのに役立つ。そこからあとは聞いて口まねするだけだとしても、十分利用価値があると思う。
もっとも、発音にあまり拘泥するよりは、初めは音声認識レベルを低めに設定し、それで緑になるならよしとして進むのが現実的な対応だろう。
なお、TOTALeのRosetta Courseは、5人までの学習者を登録し、学習進度などを記憶させることができる。オンライン機能を利用できるのは1人の学習者のみだが、オンライン機能を別途人数分買い足すことができる。また、iPhone/iPod touch用アプリ「TOTALe Mobile Companion」もApp Storeで公開しており、オンライン機能の利用者に限り、Rosetta Courseの一部コンテンツをダウンロードし、外出先でも利用できるようになっている。
関連情報
2011/4/11 06:00
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