特別企画
マイナンバーで変わった年末調整の書き方(後編)
2015年12月3日 06:00
サラリーマンにとって年末の恒例行事である年末調整。前編では「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に書き方について説明した。後編ではもう1枚の申告書「平成27年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」の書き方について説明したい。
この記事の内容は、2015年11月に掲載した当時のものです。年末調整の書き方についての最新記事(2017年11月現在)は、以下をご参照ください。
「平成27年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」も、いくつかのブロックに分けられている。最上段は自分に関するブロック。その下の右側の「配特」は配偶者特別控除、左側の大きなブロックは生命保険料控除、左下は地震保険料控除となっている。
右下の2つのブロックは、記入する人は少ないと思われる。「社会保険」のブロックは社会保険料控除だが、毎月天引きされている厚生年金、健康保険、雇用保険は記入する必要はない。例えば、二十歳を超えた大学生の国民年金を親が払っている場合などに記入する。その下の「年金掛金」のブロックは、個人で確定拠出年金を掛けている場合などだ。
この申告書で最も多くの人が記入するのは、生命保険料控除。配偶者特別控除と地震保険料控除はやや少なめ、残りの2つに記入する人はかなり少ないと思われる。
では実際に「平成27年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」を記入していこう。自分のブロックは会社名や名前、住所なので問題ないだろう。最初に説明するのは配偶者特別控除。実際にこのブロックを記入する人は多くないと思われるが、前編で説明した配偶者控除の延長線にあるので、まずは配偶者特別控除から説明したい。
配偶者特別控除は奥さんの収入を正確に記入しよう
103万円の壁という言葉を耳にすることがあるだろう。学生アルバイトで103万円の年収があったとしよう。103万円から給与所得控除の65万円を引くと38万円の所得。そこから基礎控除の38万円を引くと課税所得は0円となり所得税は0円=無税となる。親はその子(特定扶養親族)が扶養控除の対象となるので、63万円の控除が受けられる。
もし、その学生の年収が104万円になると課税所得が1万円となり、500円(5%)の所得税を納める必要がある。親の方は63万円の扶養控除を失うので、所得税の税率が5%の人は3万1500円、税率10%の人は6万3000円納税額が増える。所得税以外にも住民税や復興特別税なども増え、子どもが1万円多く稼いだことで10万円以上も納税額が増えることがある。
学生アルバイトと同様に、多くのパート主婦も年間の収入を103万円以下に抑えている。ただし、配偶者の場合は103万円を超えると配偶者控除(38万円)の対象からは外れるものの、救済措置的に配偶者特別控除という控除が用意されている。
配偶者特別控除は、103万円を超え141万円未満の間で段階的に控除額が減る仕組みだ。例えば、110万円の収入があると控除額は31万円、120万円の収入があると21万円、130万円の収入があると11万円と徐々に減っていき、最後141万円の収入があると控除額は0円となる。
年収 | 控除額 |
103万円超 105万円未満 | 38万円 |
105万円以上 110万円未満 | 36万円 |
110万円以上 115万円未満 | 31万円 |
115万円以上 120万円未満 | 26万円 |
120万円以上 125万円未満 | 21万円 |
125万円以上 130万円未満 | 16万円 |
130万円以上 135万円未満 | 11万円 |
135万円以上 140万円未満 | 6万円 |
140万円以上 141万円未満 | 3万円 |
141万円以上 | 0円 |
記入例を見てみよう。まずは「あなたの本年中の合計所得金額の見積額」を記入する。この欄は、所得が1000万円を超える高額所得者は配偶者特別控除を受けられないので、その確認用の記入欄だ。記入する金額は収入(年収)ではなく所得なので注意。収入から、前編で説明した給与所得控除を引いた金額を記入する。例えば年収500万円なら、給与所得控除の154万円を引いた346万円を記入しよう。この記入欄は1000万円以下なら300万円でも800万円でも同じなので、給与明細を並べて電卓で計算する必要はなく、大体の金額を記入すればよい。
奥さん(配偶者)の所得は納税額に影響するので、できるだけ正確に記入したい。とはいえ、奥さんに「今年の年収は?」と聞いても「わかんない。でもアベノミクス効果でボーナスは少し多めらしい」と言われて終わりそうだ。冬のボーナスと12月の給与をもらう前なので正確に知ることは難しいが、11月までの収入から類推して金額を記入しよう。
配偶者特別控除の控除額は5万円のステップとなっているので、年収120万円でも124万9999円でも控除額は同じだ。逆に124万9999円と125万円では、1円の差で控除額は5万円異なる。類推した年収がステップの真ん中ならザックリと、ステップの変わる付近の金額なら慎重に計算して記入したい。
収入を記入したら、後は表に沿って簡単な計算をするだけだ。収入から65万円を引いた金額を所得金額の欄に記入。その金額を早見表と照らし合わせて、控除額を一番下の配偶者特別控除の欄に記入すると完成だ。
生命保険料控除は複雑だが節税のチャンスもあり
次は生命保険料控除。この欄の記入は複雑なので、個人的には年末調整の最大の山場だと思っている。もともとやや複雑だった生命保険料控除だが、平成24年(2012年)以降に契約した生命保険が新制度として控除方法が変わったためより複雑になった印象だ。
旧制度の生命保険料控除は、死亡保険などの生命保険と入院給付金などの医療保険をまとめて一般の生命保険としていた。新制度では医療保険・介護保険を独立させ、一般の生命保険と介護医療保険が別々の控除を受けられるようになった。
所得税の場合、旧制度の控除額の上限は5万円、新制度はそれぞれの上限額は4万円。例えば平成23年以前に生命保険で10万円、医療保険で8万円を支払って場合は合計18万円で控除額は上限の5万円。平成24年以後に同じ金額で契約すると生命保険で4万円、介護医療保険で4万円、控除の合計額は8万円となる。同じ保険料で控除額を3万円増やすことができる。
上記の例であれば旧制度の生命保険はそのまま残し、医療保険だけ新規契約すると旧制度の一般生命保険で5万円の控除、新制度の介護医療保険で4万円の控除が受けられる。合計すると9万円の控除だ。増えた4万円の控除で得られる節税効果は年に数千円だが、それが20年、30年と続けば大きな節税となる。
裏技を紹介すると、保険会社によっては旧制度の医療保険に特約(例えば入院1日目から入院給付金の支給)を付けると新制度に変更することができる。保険料は増えるがこれで旧制度を新制度に変更することが可能だ。さらに、付けた特約を解約すると保険料は元の金額に戻り、そのまま新制度の介護医療保険の扱いを維持することができる。保険会社により扱いが異なるので、長期的な節税を考えるなら保険会社に確認してみよう。
では実際に記入してみよう。まずは生命保険会社から自宅に届いた生命保険料控除証明書を用意しよう。それを見ると一般用と介護医療用、旧制度と新制度と申告書の記入に必要な情報が書かれている。証明書には9月までに実際に支払った保険料と、契約を継続し12月まで支払った場合の保険料が書かれているので、契約内容に変更がなければ12月までの保険料を記入する。
1つ目の記入例は、1番多くの人が該当すると思われる旧制度の生命保険に加入しているケースだ。2011年(平成23年)以前に加入した保険はこの旧制度に区分される。この例では死亡保険などの生命保険に12万円、入院給付金などの医療保険に8万円を支払っている。
記入例の矢印に沿って「aのうち旧保険料等の金額の合計額」をB欄に記入し、下段の「計算式II(旧保険料等用)」に照らし合わせ控除額を算出し、その後も矢印に沿って記入すれば完成となる。記入例では保険料の合計が10万円を超えているので、控除額は上限の5万円となっている。
計算式を見ると10万円以上は一律に5万円となっている。この記入例では生命保険だけで12万円となっているので、医療保険の8万円は記入しなくても控除額に影響はない。筆者はサラリーマン時代にこのことを理解しておらず、証明書1枚で10万円を超えているのに何行も書いて何枚も証明書を提出していた。
2つ目の記入例は、医療保険を旧制度から新制度に変更した例だ。内容も複雑となったが図も複雑となったので、多少見やすくするため旧制度の保険は青文字/青線、新制度の保険は赤文字/赤線とした。
一般の生命保険料は、先ほどの記入例と同じく青の実線矢印に沿って計算し、控除額は5万円となる。新制度の医療保険は介護医療保険料に記入する。赤の点線矢印に沿って8万円の保険料を「計算式I(新保険料等用)」に照らし合わせ、8万円×1/4+2万円=4万円と計算して記入する。
追加で旧制度の年金保険も記載してみた。個人年金保険料も記入例の青の点線矢印に沿って計算すると、控除額は5万円。一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の控除額の合計は14万円となるが、上限が12万円なので合計の欄は12万円となっている。
多くの方はこの複雑な生命保険料控除が記入できれば年末調整は完成だ。この申告書は保険の見直しをしなければ毎年同じ内容を記入することになるので、コピーを取っておくと翌年以降の年末調整が楽になるだろう。