今年本誌で紹介してきたニュースをピックアップし、記事掲載後の動きをレポートするこの企画。3回目は、“オンライントレード”をとり上げる。今年は、手数料の自由化を受けてオンライントレードが注目を集め、これまで金融市場や証券投資にまったく興味がなかった向きの関心も一気に高まった。これを契機に口座を持ったり、実際に売買する動きも目に付いたが、10月以降、オンライントレードとその周辺の状況はどうなのだろうか?
日本証券業協会がまとめた「インターネット取引に関するアンケートの調査結果概要について」では、インターネット取引を行なっている証券会社数は全体の17%にあたる47社。その47社合計の口座数は10月末現在で約29万7,000口座あるが、上位3、4社程度に口座が集中しており、すでにアメリカと同様に寡占の状況となっている。
注目を集めた手数料引き下げ競争は10月までに一巡した感が強く、その後はむしろサービス競争となった。株価やチャート、企業情報などの無料サービス期間の延長が相次いだ。
一方、サービス開始当初はシステムダウンする証券会社が散見されたものの、その後、システム面で致命的な障害があったところもなく、今のところ大きな混乱は見られない。
このほか、オンライントレードそのものを行なう企業のほかに、10月以降相次いで登場してきたのが個人投資家向けの情報提供サイトだ。掲示板を提供しているところも多く、投資家同士のコミュニケーションの場を提供している。アクセス数は伸びているようだが、実際に投資の参考にしているのかどうかは、もう少し時間が経たないとなんとも言えないところである。
また、投資教育に焦点を当てたサイトや投資教育セミナーを開催する会社も多くなってきた。変わったところでは、私募形式で資金調達を行ないたい企業と投資家とをマッチングさせるサイトも登場してきた。
周辺サービスも含めて、“オンライントレード”はとりあえず好調なスタートを切ったといってよいだろう。しかし、好スタートを切った最大の理由は証券会社のサービスによるわけでも、信頼性が勝ち取ったものでもない。日本の株式市場が上がったためである。昨年末から先週末12月24日までの上昇率は、日経平均が34%、TOPIXが54%、東証2部指数が123%、日経店頭平均が199%と高騰しており、同期間のNASDAQ総合指数81%、NASDAQ100指数159%をも上回っている。
それでは、今後のオンライントレード業界はどうなっていくのだろうか。
インターネット取引を行なう証券会社数については、14社が開始に向けて準備を進めており、46社が開始について検討している。将来的には100社強の参入が見込まれることになるが、証券会社の合併が数多く控えており、実際にはここまでの社数にはならないだろう。
また、今年の“オンライントレード”“手数料自由化”などにかわり、来年は“ベンチャー”や“株式公開・上場ラッシュ”がキーワードとなろう。マザーズが今年立ち上がったほか、ナスダック・ジャパンも来年6月までに動き出す。日証協の店頭市場もこれに負けないよう手を打ってくるだろう。日証協は、インターネット活用を強化するため、新たに「JASDAQ STOCK MARKET」と「外国証券取引」のWebサイトを立ち上げた。これら市場間競争に焦点が移り、証券会社も熾烈な幹事争いを繰り広げることは間違いない。
このように、来年はこれまでにない数の企業が公開・上場する見込みで、その中心はインターネット関連やIT関連企業となろう。こうなると、証券取引も未曾有の活況になるはずだが、マザーズの例を見ると、オンライントレードでは扱っている証券会社が極めて少ない。リスクや市場の特色を投資家に対し徹底させる方法の解釈が決まっていないことや、表示株価、つまり最低投資資金が高すぎることなどがその原因だ。
ほかにも、急落時の対応、寄り付きと前場引け間際、大引け間際に東証などへの取引が集中することに対しての解決法、でたらめな噂や嘘をもっともらしく伝える“風説の流布”がはびこった場合の対処や責任など、いろいろと考えなければならない問題も多い。今後、オンライントレードは、他社との競争のほかにこれらの問題でさまざまに試されていこう。意外に早く淘汰が起こる可能性もないわけではない。
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(1999/12/27)
[Reported by betsui@impress.co.jp]