【業界動向】
~ライバルのMSNは苦戦も米Yahoo!、米Overtureを買収。世界最大のネット広告企業に■URL 米Yahoo!と米Overture Servicesは14日、Yahoo!がOvertureを買収することで最終的な合意に達したことを発表した。これついてYahoo!の会長兼CEOであるTerry Semel氏は「両社の資産を合わせるとYahoo!はこの著しい勢いで成長するインターネット広告セクターで世界最大のプレーヤーになる」と述べた。 Yahoo!によるOvertureの買収は、両社が取るべき戦略として論理的であると以前から市場関係者が指摘していたことから今回の買収劇は特に驚くべき事ではないが、それでも世界最大級のインターネット広告企業が誕生するインパクトは大きいと言える。 この買収合意によりOvertureの株主は1株当たりYahoo!普通株0.6108株と4.75ドルのキャッシュが割り当てられ、これにより買収総額は約16億3000万ドルとなる。この交換比率は時価よりも約7%上回っている。買収総額はOvertureが2003年3月31日に保有していたキャッシュを念頭に入れれば約15億2000万ドルと計算することも可能だ。 これによりOvertureはYahoo!の完全子会社になる。Overtureの社長兼CEOであるTed Meisel氏は引き続きOvertureの業務執行を担当し、Yahoo!のCOOであるDan Rosenweig氏の指揮下に入る。Overtureのオフィスは現在のカリフォルニア州パサデナにとどまる。買収手続きが完了するのは2003年第4四半期に予定されており、それまでに行政当局とOverture株主の許可を得なければならない。 この買収によりいくつかのシナジー効果が考えられている。例えばYahoo!のショッピング、旅行、イエローページなどのページにもOvertureの広告を提供すること、Yahoo!ネットワーク全体にOvertureが開発した「Contexual Advertising」を統合すること、Overtureの広告主約8万8000の大部分を占める中小企業に対してYahoo!ShopやYahoo!WebHostingなどの有料サービスを販売すること、などが考えられている。 この買収によりYahoo!はサーチエンジンから利益を生み出すための技術とビジネスモデルを入手した。Yahoo!が昨年12月に買収したInktomiはサーチエンジンのアルゴリズムに関する技術を保有していることから、Overtureの買収と併せてYahoo!が検索技術とそこから利益を生み出す広告というサーチエンジンビジネスに最も必要な2つの果実を得たことになる。 特にOvertureが保有している知的財産権はYahoo!にとって重要な意味を持つ。まずOvertureは有料リスティングサービスを発明した企業であり、この分野での広告とアルゴリズムに関する知的財産権を保有している。その上でOvertureが最近買収したAltaVistaやFASTが持つ検索アルゴリズム技術も保有している。特にAltaVistaは検索アルゴリズムに関する基本特許を保有しており、60の特許ポートフォリオのほかに現在多数の特許を出願中である。こうした技術をYahoo!が手にすることによって、サーチエンジンの精度を向上するための技術開発と、利益を生み出すための広告商品開発双方を社内で開発することが可能になり、より柔軟にそしてより速く市場に商品を投入することが可能になる。 財務面においてもOvertureが生み出すキャッシュフローをそのままYahoo!が手に入れることができるため非常に有利な取引となるだけなく、米国以外の市場においてOvertureの広告ビジネスによりYahoo!が足がかりを築く余地がまだ多数残されている。例えば、Overtureのビジネスに需要がありながらまだ進出していない地域がイタリア、スペインその他アジア各国に存在している。 急成長するインターネット広告市場において、こうした展開が可能となったことはYahoo!のグローバルプレゼンスを確立する上で有利に働くものと考えられる。なお、日本におけるYahoo!Japanは現在Overtureの競合相手であるGoogleを採用しているが、これを今後どのように扱っていくかに関してYahoo!関係者は明確なコメントを避けた。 Yahoo!がOvertureを買収することで有利な立場を築いたのに対して、MSNは非常に厳しい状況に置かれたと考えられる。まずMSNが使用しているサーチエンジンはInktomiであるが、これは昨年12月にYahoo!が買収している。またMSNが提携している広告配信元はOvertureであり、最近MSNはOvertureとの契約を2004年終わりまで延長したが、これもまたYahooに買収されてしまった。MSNの最大のライバルはYahoo!であるにもかかわらず、両方のカギとなる部分でYahoo!にビジネスを依存しなければならなくなった。 こうしたことからMSNは独自のサーチエンジンを開発していることを明らかにし、ベータ版のクローラーがインデックス作業の実験を開始したが、商用サービスを開始するにはまだほど遠い品質のものであることが専門家によって指摘されている。MSNがYahoo!と対等に戦うためには特許の網をかいくぐりながら検索アルゴリズムの技術、有料リスティング双方の技術開発を同時に行なわなければならないだろう。 市場には苦戦しているサーチエンジンがまだ幾つか残されている。例えばLycosや注目のP2P技術「Grub」を保有するLookSmart、独自アルゴリズムに定評があるTeomaを買収したAskJeevesなどがあり、今後サーチエンジンと広告をめぐってさらなる業界再編が起こる可能性もある。 この中で最も興味を引くのは独自の広告ビジネスと強力なアルゴリズムを持つ最大のサーチエンジンであるGoogleの動向だ。Googleは現在も株式未公開企業であり、株式市場からの資金調達を行なっていない。提携・買収でグループ化されていく業界再編の中で、Googleの動向が引き続き業界関係者の注目を集めている。 ◎関連記事 (2003/7/15) [Reported by 青木大我(taiga@scientist.com)] |
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