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第24回:メール編(13)迷惑メールに潜む罠(下)
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第19回:メール編(8)「迷惑メール」が氾濫する理由
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第24回:メール編(13)迷惑メールに潜む罠(下)


インターネットメールは詐称し放題

Yahoo!メールを詐称している「なりすましメール」の例。Yahoo!メールでは、DomainKeysで署名されたメールの送信元ドメインの照合ができた場合、Fromヘッダの下段に「DomainKeys は、このメールが ○○○ から送信されたことを確認しました。」と表示されるが、このケースではその表記が見られない。また、SPFは「softfail」となっており、これは「やや疑わしい」ことを意味している
 メールには、送受信に必要な「ヘッダ」と呼ばれる情報が記載されている。差出人(From)、あて先(To)、件名(Subject)、日付(Data)などが含まれるが、これらのヘッダ情報は、ちょっとした知識があればいくらでも偽装できる。

 例えば、「yahoo.co.jp」ドメインで届く迷惑メールの大半は、実際にはYahoo!メールを使っていないものが多い。詳しくは後述するが、Yahoo!メールでは、メールの送信元を認証する技術「DomainKeys」を採用している。そのため、DomainKeysで署名されたメールを受信し、送信元ドメインの照合ができた場合、Fromヘッダの下段に「DomainKeys は、このメールが ○○○ から送信されたことを確認しました。」と表示される。

 このことから、yahoo.co.jpドメインを使ったメールでも、この文章が表示されない場合は、Yahoo!メールのシステムを使っていないと判断できる。ちなみに筆者は、yahoo.co.jpドメインを名乗る迷惑メールで、DomainKeysの認証を通過したメールを見た覚えがない。

 ちなみに、インターネットメッセージ送信に関するルール「RFC2822」では、メッセージを書いていない人のアドレスをFromヘッダに記載することについて、明確な禁止(MUST NOT)をしていないが、望ましくない(SHOULD NOT)と定義している。このため、原則としては、Fromヘッダを書き換えるべきではない。

 とはいえ、技術的にはFromヘッダの書き換えは可能で、悪意を持っている迷惑メール送信者だけでなく、一般の企業が便宜的に書き換えることもある。また、ルールでは本来、送信者アドレスを送信者アドレス(Senderヘッダ)に書くことになっているが、実際に使われている例は少ない。

【おわびと訂正 2008/07/23 17:24】
 記事初出時、インターネットメッセージ送信に関するルール「RFC2822」について、「Fromヘッダで第三者の名前を名乗ってもよいことになっている」としていましたが、正しくは「明確な禁止(MUST NOT)をしていないが、望ましくない(SHOULD NOT)と定義している。このため、原則としては、Fromヘッダを書き換えるべきではない」です。おわびして訂正いたします。


悪用されると送信元の隠ぺいに

日付を詐称したメール群。来年どころか「10年先」から届いている。未来の日付は、迷惑メールと判断する目安になる
 企業が発行するメールマガジンのような例では、Senderヘッダがなくても問い合わせ方法が書かれており問題になることは少ないが、迷惑メールなどでは、こうした利用者の利便性を考えたルールの柔軟性が逆に悪用されている。

 迷惑メール送信者は、Fromヘッダを偽装、つまり適当なメールアドレスを書くことで、誰がどこから送信したのかわかりにくくしようとするケースが少なくない。このため「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(迷惑メール法)」では、Fromヘッダの詐称を禁止している。

 ヘッダの偽装は他にも可能で、送信日付(Dateヘッダ)の詐称もよく行われる。たまにPCの時計が狂っていて、未来や過去からのメールを送信するという「事件」が発生することもあるが、迷惑メールの場合は(おそらく「未読メールリストのトップに表示される」という理由で)はるか未来からのメールが届くことがよくある。

 冒頭で紹介した「yahoo.co.jpドメインを名乗る迷惑メール」の多くは、Fromヘッダを詐称したものだ。迷惑メールの場合、Yahoo!メールのドメインであっても、メール配信にYahoo!メールサーバーを使っていないものが多い(Yahoo!メールサーバーを使っていない物がすべてがFromヘッダ詐称とは言えないが、過去にいくつか届いているyahoo.co.jp名義の迷惑メールに対して、そのYahoo!メールアドレスが存在するか確認してみたところ、存在しなかった)。

 筆者は、フリーメールのFromヘッダが記載されていながら、そのフリーメールのメールサーバーが使われず、他のメールサーバーから送信されているメールに関しては、Fromヘッダの内容の信憑性は乏しいと考えている。フリーメールが提供しているメールサーバーを使う場合、ユーザー認証が行われており、正当なユーザーであることがある程度証明できるが、これをわざわざ避けようとしていると判断できるからだ。


なりすましに対抗する技術

 こうしたドメインのなりすましに対抗する技術が、冒頭に紹介したDomainKeysや「SPF(Sender Policy Framework)」だ。SPFは、ドメイン名の所有者がメール送信に用いるメールサーバーをDNSに登録しておくことで、メールが正式なメールサーバーから送信されたものであるかを判別する技術だ。

 どちらもドメインの管理者が設定することで、そのドメインを詐称したメールを受信サーバー側で検知することが可能だ。適切に設定すれば、なりすましのメールをシャットアウトできるが、対応しているドメインが多くないと実効性が薄い。

 5月20日に開催された「第5回 迷惑メール対策カンファレンス」でKDDIの本間輝彰氏は、日本のMX(≒メールドメイン)の約20%しかSPFに対応していないと話していた。このため、SPFを使用したなりすましメールの判定は、まだ実効性が薄いといえる。なお、SPFやDomailKeysは、なりすましを防止する技術であり、迷惑メールを探知する機能ではない。


自分のメールアドレスを詐称する迷惑メールが送信されるケースも

 メールのヘッダ情報の詐称が可能である以上、迷惑メールの送信元メールアドレスが、本当のメールアドレスであるという保証はない。迷惑メールの送信先メールアドレスと同様、送信元を意味するFromヘッダは、先の「ニセYahoo!メール」のように適当なメールアドレスをでっち上げることができる。

 また、迷惑メールの送信リスト同様、Web上の巡回やリストの購入などで手に入れたメールアドレスを使って、送信元メールアドレスを詐称することも多い。このほか、マルウェアによっては、HDD上にあるファイルをスキャンして、メールアドレスらしきものを見つけ、これを送信元詐称に使ったり、送信先として利用するものもある。

 さらにいえば、あなたのメールアドレスが、迷惑メールの送信元メールアドレス詐称に使われることもある。存在しないメールアドレスに送られた場合には、Fromヘッダに記載されたあなたのメールアドレスあてに、「このメールアドレスは存在しません」というエラーメールが返ってくることになる。

 「エラーメールを悪用した迷惑メール」というのもある。メールアドレス間違いで返信されるエラーメールには、オリジナルのメッセージが含まれている。そこで本文に広告を入れ、(あなたのメールアドレスをFromに入れた)From詐称メールを第三者に送信する。送信先のメールアドレスが存在すれば、その人に迷惑メールが届けられ、存在しなければあなたにエラーメールとして届けられる。この手口は最近問題になっている。

 迷惑メール送信者は、膨大な量のメールを送信しているため、エラーメールの件数もそれなりに多い。そのため、Fromヘッダにあなたのメールアドレスが使われると、膨大なエラーメールがあなたの元に届く。実際、筆者は5年以上前になりすまし送信の被害にあったことがあるが、大量のエラーメールでメールボックスがパンクしてしまった。それだけではなく、「あなたが迷惑メールを送信した」と勘違いした人からの苦情も届く。


筆者のプレスリリース受信用メールボックス。このアドレスを使ってメールを送ることはないのでエラーメールが届くのはおかしい 筆者の元に届いた「エラーメール風迷惑メール」。eonetから届いているが、筆者はメールを送信していない


2008/07/23 11:25
小林哲雄
中学合格で気を許して「マイコン」にのめりこんだのが人生の転機となり早ン十年のパソコン専業ライター。主にハードウェア全般が守備範囲だが、インターネットもWindows 3.1と黎明期から使っており、最近は「身近なセキュリティ」をテーマのひとつとしている。

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