「IPv6 Business Summit 2004」では、テーマ別セッションとして、医療や企業イントラネット、地域振興など6つの分野に関するパネルディスカッションが行なわれた。その中のひとつである「情報家電とネットワーク」においては、一般消費者を対象にしたIPv6家電の実証実験のデータが数多く登場し、いよいよIPv6家電の離陸が間近に迫ってきていることを感じさせる内容となった。
● IPv6家電のメリットは「開発や設定が楽なこと」
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松下電器産業の吉田純氏
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パネルディスカッションのコーディネータを務めた松下電器産業の吉田純氏はまず、同社が実施したアンケートの結果からネット家電に対する一般消費者の関心が高まっていることを示した上で、「今年あたりからネット家電が成長期に入るのではないか」と予想。ネット家電に求められる要件として「プラグアンドプレイ(PnP)」「カスタマーサポート」「セキュリティ」の3つを挙げ、「IPv4ではNATの存在が(PnPの)問題を複雑にしているし、セキュリティなどもIPv6の方が容易に対応が可能だ」として、「IPv6はネット家電にふさわしい」とメリットを訴えた。
東芝の村井信哉氏は、山梨市において主に高齢者を対象とした地域交流ネットワーク実証実験を行なった際の経験を踏まえ、同実験に使用したシステムを開発するにあたり「IPv4でも実現は可能だとは思われるが、IPv6を使ったことで家庭内の機器をリアルタイムに結ぶアプリケーションの開発が簡単に行なえた」と、IPv6が開発者にとってメリットをもたらす様子を語った。なお、「実験の結果、テレビ電話や掲示板を8割以上のユーザーが積極的に利用し、実験終了後もテレビ電話を使いたいというユーザーは約9割にも達した」という。
さらにKDDIの丸田徹氏は、昨年6月よりDIONで実施している一般ユーザー向けのIPv6実証実験のデータから、家の外から宅内のセットトップボックスを呼び出してビデオ予約などが行なえるようにするシステムについて、「8割以上のユーザーが特別な設定なしに利用に成功しており、サポートが必要なのは約4%に過ぎなかった」ことを報告。IPv6によりNAT越えなどの面倒な設定が不要になり、ユーザーが簡単に利用環境を構築できることが裏付けられたとした。一方でIPv6ベースのテレビ電話の場合はサポートを必要としたユーザーの割合が約3割に達したとのことだが、これも内容のほとんどは「通話相手がIPv4ユーザーの場合の、相手側の設定に関するもの」だということで、IPv6側の設定に関する問い合わせはほとんどなかったという。
IPv6を使うことで開発や設定が楽になるという点では残るパネリストも意見が一致しており、IPv6を使うことでスピーディにサービスが提供できるというのがIPv6を家電に利用する最大のメリットといえそうだ。
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東芝の村井信哉氏
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SamsungのYoungkeun Kim氏
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● IPv6トンネリングの負荷は「思ったほど高くない」
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マイクロソフトプロダクトディベロップメントリミテッドの及川卓也氏
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現段階ではまだネイティブなIPv6の接続環境が整ってない以上、家庭内ネットワークを仮にIPv6で構築したとしても、外部との通信にはIPv4を使うか、もしくはIPv4上でIPv6パケットをトンネリングする必要がある。このうちトンネリングについて、マイクロソフトプロダクトディベロップメントリミテッドの及川卓也氏は、「トンネリングの負荷は思ったほど高くはなく、たとえネイティブなIPv6環境がなかったとしても、NAT越えの一手段としてIPv6を使うのは有効だ」との見解を語った。
及川氏は昨年から同社が提供を開始しているインスタントメッセンジャー「3゜(Three Degrees)」を例に挙げた。このソフトでは同社が開発した「Teredo」をIPv6トンネリング技術として利用してユーザー間でP2P接続を行なうが、実際に同ソフトを提供して数カ月間状況を見守った結果として、「Teredoサーバー(Teredoで接続を開始する際に仲介役となるサーバー)は主に接続開始時に関与するため、サーバー負荷は思ったほど高くない」と述べた。ただし及川氏によれば、「NATの種類によってはTeredoでもNAT越えができない場合がある」とのことで、できれば早期にネイティブなIPv6環境に移行できることが望ましいとの意向を示した。
及川氏は、「よく『IPv6はまだ市場がないので対応しても仕方ない』というような声を聞くが、新たにIPv6対応の製品を作るのではなく、今ある製品をIPv6“にも”対応させることが重要だ」と語り、そのひとつの方法としてTeredoのような技術をもっと積極的に活用すべきではないかとの意見を語り、丸田氏などもそれに同意した。
● IPv6の商用サービスで残るは「コスト」と「VoIP」の問題
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KDDIの丸田徹氏
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一方、個人向けのネイティブIPv6接続サービスに関しては現在、OCNと@niftyが商用サービスとして提供を開始しているほか、DIONに続いてBIGLOBEも16日からIPv6実験サービスを開始するなど、徐々にサービスの輪が広がり始めている。ただしこれをさらに広げていくにあたっては、いくつか問題があることを丸田氏が指摘した。
丸田氏は、「これまで問題だったWAN側からユーザーに設定情報を渡す手段については、『DHCPv6』が正式にRFC化されたことで問題が解決し、商用サービスを進めやすくなった」とする一方で、「現状ではIPv6ではIP電話サービスの提供が困難なほか、ユーザー側でIPv6対応ルータを用意してもらう必要があり、コストが割高になる」と指摘。本格的に一般ユーザー向けにIPv6対応サービスを提供していくには、「ADSLモデムをIPv6対応にして、VoIPはデュアルスタックでIPv4側で提供できるようなものを用意する必要がある」との見解を示した。
また、コストという面ではもう1つ、IPv6サービスを提供する場合の付加料金について「DIONの実験サービスユーザーのアンケート結果では、月額500円なら利用したいというユーザーが3割程度いる」ことを明らかにした上で、「少なくとも月額1,000円以下に価格を抑えなければユーザーは利用しないだろう」と語った。丸田氏は、NTT
東日本で今年からサービスが始まった「Flet's.Net」の月額300円という価格がひとつのきっかけになるとして、「今後この価格を目標に徐々に値段が下がっていくのではないか」との予想も示した。
関連情報
■URL
IPv6 Business Summit 2004
http://www.v6bizsummit.jp/
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( 松林庵洋風 )
2004/02/17 15:28
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