名古屋市内で開催中されている「第11回ITS世界会議 愛知・名古屋2004」では、車載システムに関するさまざまな展示が一堂に会しているが、その中でも多くの会社が出展していたのが地上デジタル放送用の車載端末だ。それも携帯端末向けの1セグメント放送ではなく、一般家庭向けのHDTV放送をそのまま受信する端末である。基本的な構成は各社とも同じだが、実際に製品として市場に投入することを見据えた部分では各社の思惑が見え隠れする結果となった。
● アンテナは何本必要? 各社で意見が分かれる
中でも大きくスタンスが分かれたのが、HDTV放送の受信のためにアンテナを何本使うかという部分。2003年にNHKが技研公開で展示したシステムではダイポールアンテナを4本、また2004年2月に豊田中央研究所らが名古屋地区で実験を行なった際には車の窓ガラスに貼り付けるタイプのアンテナを8本使用した。しかし現実にはアンテナの設置スペースがセダンなどでは厳しいことや、アンテナ数の増加に伴うコスト増がバカにならないことから、アンテナ数は極力減らしたいところだ。HDTV放送の安定受信のためには複数のアンテナによるダイバーシティ受信が必要という基本部分では各社の考えは一致しているが、ではアンテナ数は2本がいいのか4本がいいのかという点で相違が見られた。
まずアンテナ数は2本で十分だという考えを示したのはパイオニアや三菱電機ら。パイオニアは2アンテナ型の試作端末を基盤をむき出しにした形で展示し、動作デモを行なった。三菱電機も試作端末こそ持ち込まなかったものの、2アンテナ型の端末で受信実験を行なった際のビデオを放映し、十分な受信特性が得られていることをアピールしていた。両社とも、今後アンテナ特性がさらに改善されていくことを考えると、アンテナの設置位置に気を付ければ、あえて4アンテナ構成を取る必要はないという。
一方、今回4アンテナ構成のデモを持ち込んだのがクラリオンやザナヴィら。クラリオンは「安定した信号の電界強度を得るにはやはり4アンテナ構成でないと厳しい」として、今後も4アンテナで端末を開発していく考え方を示した。ただ、ザナヴィは「4アンテナは確かに受信状態はよくなるが、端末側に特殊な専用ICを用意する必要があり、それを安価で供給してくれるメーカーがないと採用は難しいかもしれない」として、2アンテナ構成採用にも含みを持たせている。
これ以外に今回は東芝、松下電器、富士通テンも試作端末を持ち込んでいたが、これらのメーカーはアンテナ数については「まだどうするか決めていない」(富士通テン)、「2チューナー2アンテナ構成が取れれば理想だが、現実には2チューナー4アンテナ構成が現実的かもしれない」(松下電器)など、まだ検討中との姿勢を見せた。このあたりは今後のアンテナの開発動向とも絡んで各社とも頭を悩ませることになりそうだ。
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パイオニアの試作基盤。これはA5版大程度のサイズだが、すでにこの半分のサイズにまで基盤を縮小できることを確認済みだという
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クラリオンの試作端末
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東芝の試作端末
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富士通テンの試作端末
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● 携帯端末向け1セグメント放送への対応もメーカーに差異
HDTV対応の車載端末で、携帯端末向けの1セグメント放送やアナログ放送などにも対応するのかという点も各社の意見が分かれる点だ。
1セグメント放送への積極対応をうたうのはパイオニアやザナヴィだ。ザナヴィは、HDTV放送と1セグメント放送を受信状態に応じてシームレスに切り替えて受信できるデモを披露した。パイオニアも、今回デモに使用した端末は1セグメント放送に対応しないものの、製品化の際には1セグメント放送にも対応したい考えを示した。また、クラリオンは、地上デジタル放送が受信できない場合は自動的にアナログ放送に切り替わるような形を検討しているという。
これに対して、HDTV以外の放送への対応に消極的なのが松下電器だ。同社では「基本的に、すでにアナログ放送用のチューナーを搭載したカーナビを持っているユーザー向けに端末を売っていきたい」という考えがあることに加えて、「アナログ放送用の回路を同一の筐体に組み込むと、デジタル側への干渉が起こる」という問題を重要視。また、1セグメント放送についても「車載テレビのユーザに1セグメント放送へのニーズがあるかというと疑問」だとして、市場のニーズがない限り積極的には対応しない考えだという。
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ザナヴィの地上デジタル放送端末の説明。HDTV放送と1セグメント放送を受信状態によって切り替える
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松下電器の試作端末。音声の光デジタル出力を持つ点が注目
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● 製品化が早くても2005年後半にずれこむ理由は?
アンテナの本数や1セグメント放送などへの対応では差が見られる一方で、各社ともに共通しているのが「製品化は早くても2005年の後半」という姿勢だ。「すでに製品化しようと思えばできるところまで開発は進んでいる」(パイオニア)など、技術的には製品として出せるレベルに限りなく近いところまで来ているという点では多くの企業が同様の意見を示しているが、ではなぜ製品化がそこまで遅れるのか。
1つには「サービスエリアの狭さ」が挙げられる。現時点で地上デジタル放送を行なっているのは東京、大阪、名古屋の三大都市圏、それも都心部の一部のみである。全国的に放送エリアが広がるのは2006年以降であることを考えると、今慌てて端末を発売してもあまり販売数が見込めないため意味がなく、エリアが拡大してからでも十分ということだろう。また、1セグメント放送との両対応を狙うメーカーに関しては、1セグメント放送が実際に開始してから受信特性などを確認した上で端末を発売したいという思惑もある。
そしてもう1つが、著作権管理などとも絡んだ、いわゆるCAS(Conditional Access System)問題。今回各社がデモを行なった端末は、いずれもB-CASカードを筐体の中に埋め込んでいるか、もしくはカードスロットを設けている端末ばかりだ。果たして車載端末や携帯端末においてCASがどういう形で組み込まれるのかという点の標準化がまだ決着していないため、この問題が決着するまでは端末を発売できないというわけだ。特に1セグメント放送に関しては、今回一部メーカーからは「放送局側が現行のコピーワンスではなく、音楽配信のような形のDRMを導入することを求めており、対応に苦慮している」との声も聞かれ、決着にはなお時間を要しそうだ。
関連情報
■URL
ITS世界会議 愛知・名古屋2004
http://www.itswc2004.jp/japanese/
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( 松林庵洋風 )
2004/10/19 20:24
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