高度道路情報システム(ITS)では、車両とサーバーの間の通信も重要だが、それと同じぐらいに重要なのが走行中の車両同士の通信だ。しかし、直接電波で通信できる距離にいる場合はともかく、ある程度離れてしまうと、途中に中継ノードが必要になる。中継ノードとして他の車両を使用する場合はアドホックネットワークの形態を取ることになり、固定局を中継する場合では、ネットワークアドレスが頻繁に変更する環境でいかに“移動透過性”を確保するかが問題となる。「第11回ITS世界会議 愛知・名古屋2004」のテクニカルセッションでは、それらの問題に対するいくつかの実験結果が報告された。
● 4台の車両によるアドホックネットワークで400kbpsでのデータ通信
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FleetNetのルーティングの考え方
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車両同士の通信の場合、中継用の固定局がないような田舎を走ることまで想定すると、通信形態としてはどうしてもアドホックネットワークの形態を取らざるを得ない。とはいえ、固定ノード同士のアドホックネットワークですら未だ研究段階のものが多い。どうやって高速で移動する車両同士でアドホックネットワークを実現するのか? そんな疑問に対し、NEC EuropeのAndreas Festag氏は、ドイツでNEC、ダイムラークライスラー、シーメンスらが共同で行なった「FleetNet」プロジェクトの成果について発表した。
Festag氏は、前述のアドホックネットワークの問題について「クルマは非常にダイナミックに動く存在なので、あらかじめルートを決めることはできない」と述べ、FleetNetでは、ノードとなる車両が常に近隣のノードに対して、GPSから得られた位置情報を送信するようにしていると説明した。データを送信・中継する車両は、その時点で得られる近隣の車両の位置情報とパケットの宛先となる車両の位置情報をもとに、最も宛先の車両に近い位置にいる車両にデータを送信するというアプローチを取っているという。それにより、データを受け取った車両はまた同じように近隣の車両の位置情報を得て……というように同じことを繰り返すことで、最終的にそのデータは宛先の車両に届くはずだという考え方だ。
同プロジェクトでは実際に、IEEE 802.11bの無線LANとLinuxをベースに前述の中継ロジックを組み込んだFleetNet Routerを車両に搭載し、実験を行なった。中でも4台の車両を利用したマルチホップ環境での通信速度測定では、3ホップで約400kbpsでの通信が可能なことが確認できたほか、実際に公道上を走行しての実験でも良好な通信が可能という結果が得られたとのこと。ただし、データ送信の信頼性や最適化など依然として多くの課題を抱えているとして、今後も開発を続けていくとの姿勢を示した。
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車両4台でマルチホップ通信を行なった際の結果
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実走試験を行なった結果
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● ルーティングテーブルを頻繁に更新することで移動透過性を確保
一方、固定局を中継した場合の移動透過性の確保については、モバイルIPプロトコルを使用するやり方が真っ先に思いつく。しかし、自動車の中には数多くのコンピュータが存在し、CAN(Car Area Network)を構成していることを考えると、それらのネットワーク全体に対する移動透過性を確保するにはモバイルIPではオーバーヘッドが大きい部分もある。この問題に対しては、デンソーの研究グループから、アドレスが付け替わるたびに車内に設置したモバイルルータがルーティングアップデートをかけることで移動透過性を確保するという仕組みが発表された。
ルーティングアップデートによって移動透過性を確保する場合に問題なのは、ハンドオーバーなどでアドレスが付け替わってからルーティングテーブルのアップデートが行なわれ、通信が回復するまでにどのくらいの時間がかかるかということになる。実際にIEEE 802.11bとPHS(PIAFS)の通信モジュールを内蔵したモバイルルータを車両に搭載して実験したところ(ルーティングプロトコルにはRIPとOSPFを使用したとのこと)、ルーティングテーブルの更新にかかる時間は長くて100ms程度、通信が一度途絶してから回復するまでの時間も最大で約400ms程度という結果が出ており、十分実用に値する結果が得られたという。
セッションでは、IEEE 802.11bとCDMA 1xに対応したモバイルルータを使用して、車両に搭載したカメラから動画やGPSで取得した位置情報を伝送するビデオも披露。ハンドオーバー時に多少動画が止まりながらも、継続して通信ができる様子が示された。果たして大規模なネットワークにこの方法がそのまま適用できるのかという点でやや疑問も残るが、新たな技術を使わずに既存のプロトコルだけで移動透過性を確保できるという点では注目に値するのではないだろうか。
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ネットワークを丸ごとローミングする部分の考え方
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ハンドオーバー時の実験結果
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関連情報
■URL
ITS世界会議 愛知・名古屋2004
http://www.itswc2004.jp/japanese/
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( 松林庵洋風 )
2004/10/20 18:57
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