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ひろゆき氏「開発者逮捕でP2Pネットワークの制御がしにくくなる危険も」


パネルディスカッションの司会を務めた岡村久道弁護士
 東京・慶應義塾大学で6日に開催された情報ネットワーク法学会の「第4回研究大会」では、岡村久道弁護士が司会を務めるパネルディスカッション「P2Pシンポジウム」が催された。

 パネルディスカッションは司会の岡村久道弁護士のほか、パネリストに奥村徹弁護士、立教大学法学部の上野達弘助教授、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の苗村憲司教授、「2ちゃんねる」管理人の西村博之氏が出席。P2Pソフトの訴訟事例などを交えながら活発な議論が交わされた。

 まず、岡村氏が米国での判例として「Napster訴訟」や「Grokster/Morpheus訴訟」を紹介。Napster訴訟では、ネットワークの中央にサーバーを介するハイブリッドタイプのP2Pソフトだったため、サービス提供者にも流通するコンテンツの管理責任があるという判決だったことを説明した。一方、「Grokster」や「Morpheus」はクライアント同士が接続してネットワークを形成するピュアP2Pソフトであるため、サービス提供者はコンテンツの管理が不可能で、法的責任は問えないとした判決になったという。


ファイルローグ事件に適用された「カラオケ法理」

立教大学法学部の上野達弘助教授
 しかし、著作権の権利者にとっては著作物が違法に配信される状況は好ましくなく、P2Pソフトによるものであればユーザーを特定することが困難なため、「サービス提供者に対する差止請求が可能だとする考え方もある」(上野氏)という。

 その例として、著作権の侵害がサービス事業者の管理下で行なわれている場合には、その事業者に直接責任を問うことができるという「クラブ・キャッツアイ事件」の判例を紹介。クラブ・キャッツアイ事件とは、JASRACに著作権料を納めていなかった「キャッツアイ」というスナックがカラオケ機材を客に提供したとして、裁判所がスナックの著作権侵害を認めたというもの。通常の法理では、直接的に著作権を侵害したのはカラオケを歌った客だが、「店側が客の歌唱を管理していた点とカラオケを歌わせることで店側の利益につながる点で、店側が権利侵害の主体と判断された」(上野氏)という。

 こうした「カラオケ法理」の考え方がP2Pなどインターネット関連のサービスに適用された例として、日本MMOとJASRACなどが争った「ファイルローグ事件」やテレビ番組録画サービス「録画ネット」のサービス停止を挙げた。しかし、ピュアP2Pソフトについては、必ずしもカラオケ法理が適用できるとは言えないという。「中央サーバーを持たないピュアP2Pにおけるコンテンツの管理性や、それが無料サービスだった場合は、営業上の利益を認めることができるのか」と指摘した。

 次に、JASRACに著作権料を支払わないカラオケ店へ通信カラオケをリースしていたリース業者「ヒットワン」が、権利侵害行為を幇助しているとし「幇助行為を行なう者は侵害主体に準じる」と判断された「ヒットワン事件」に言及。上野氏によれば、大阪地方裁判所で出されたこの判決については賛否両論で、「否定的な意見を表明している東京地方裁判所の裁判官もいる」という。

 このほか、ホスティング事業者などが違法なユーザーにサービスを提供している場合、その事業者の施設も物理的に違法送信を行なっており、事業者自身も違法送信の主体であるという考え方を紹介。事業者がユーザーの違法送信を認識し、不作為により放置している場合は「(サービス提供者自体が)公衆送信を行なっていると見なすことができる」という。ただし、こうした考え方は「従来の裁判で採用されたことはない」と付け加えた。


ファイル交換で破壊活動防止法に抵触する可能性も

奥村徹弁護士。Winny関連の裁判にも関わっている
 続いて、Winny関連の裁判で弁護士を担当する奥村氏が、P2Pソフトによって抵触する犯罪について解説。「ファイル交換による著作権法違反だけでなく、ファイルの内容によってはわいせつ物の公然陳列や名誉毀損、機密情報漏洩など、国内の内乱を発生させるような内容であれば破壊活動防止法に抵触する可能性もある」と警告した。また、法律的にも不完全だとし、「従来のわいせつ物公然陳列罪では、わいせつ物を閲覧者の網膜・脳裏に止めることが要件だったが、P2Pソフトの場合は完全なコピーが閲覧者の手元に残る。公然陳列罪だけではP2Pソフトの違法性を言い尽くせない」と指摘。各法律でP2Pソフト専用の条文を作るべきとの考えを示した。

 また、画像掲示板管理人が被告となった複数の判例を挙げ、「当初は管理人は幇助という扱いだったが、最近では正犯とする判決が相次いでいる」と現状を報告。「画像を掲示板にアップした人は罰金で、管理者が懲役という判決もある」とし、画像掲示板管理人同様に違法な交換を黙認するP2Pソフトの提供者やISPも間接的にではあるが、「無視できない責任がある」という。

 担当するWinny関連の裁判については、弁護する正犯者は「すでに著作権を侵害したとする事実関係は認めている」という。しかし、奥村氏自身は「送信可能化権については侵害していない」との考え。「著作権法によれば送信可能化権とは、公衆によって“直接”受信されること。公衆と正犯者に直接の結びつきがあることが条件のように読める。この直接が引っかかる」とし、奥村氏の考えでは「Winnyは第三者を介して送信するから、正犯者は直接公衆に対して送信していない。著作権法の考え方から言うと第三者が直接送信しているのではないか」という。

 さらに、「著作権法は専門的な分野だが、Winnyの裁判は京都地方裁判所の普通の刑事部が担当だ。裏返せば著作権法が専門ではない担当者が対応している。裁判所では微妙な部分を判断できないのではないか」と懸念を述べた。また、「そもそも著作権はお金で解決できる民事事件。刑事制裁は抑制する方向に向かうべきではないか」と、悪質な事例以外は民事裁判で解決すべきとの見解を示した。


Read Only Memberからの脱却と柔軟な著作権の設定がP2Pのカギ

慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の苗村憲司教授
 慶応大学の苗村氏は「知財立国として日本では創作活動を促進するためにもコンテンツの権利保護は必要」と前置きした上で、「科学者や教育関係者ら“ネット先住民”によってコンピュータのリソースシェアリングを目的に発展したインターネットはパブリックドメイン(公共領域)で、著作権を主張することはありえないことだった」と指摘。なお、現在でも「米国連邦予算で作られたコンテンツは著作権の対象外」であるという。しかし、当初は公共領域として利用されていたインターネットだが、1990年代以降ビジネスに利用されるようになって環境が変化。これは商用目的ユーザー“ネット移住民”の増加が原因だという。

 苗村氏はこのネット移住民とネット先住民の間に深刻な利益の対立があったと分析。ネット先住民は、研究結果などの知的財産権が過剰に進展し、有用な研究成果や技術の利用が妨げられる「アンチコモンズの悲劇」を、一方のネット移住民は、それまであまりにも権利保護の概念に乏しかったインターネットにおいて資源の過大利用を危惧する「コモンズの悲劇」を認識するようになったという。

 こうした対立を解決するカギはP2Pにあるとして、苗村氏は、一方的にコンテンツを配信するサーバー・クライアント型の非対称モデルと、対称モデルとしてのP2Pを比較。「対称モデルが成立するには2つの要因がある」とし、お互いにコンテンツを配信しあう環境になるように「Read Only Member(ROM)からの脱却」と、著作権の柔軟な設定として「創作者や製作者が意思を表明し、その意思を尊重すること」を挙げた。

 特に創作者や製作者の意思表明については、日本で批准しているベルヌ条約にも言及。同条約では著作物は特に登録せずとも保護されるが、苗村氏の考えでは「著作物を登録制にし、保護期間や著作権料などについて創作者が意思表示すべきで、それを尊重すべきだ」という。また、「法律などの整備も必要だが、犯罪などに対する危機管理の手法や手続きの明確化などのベストプラクティスを確立することも急務だ」との認識を示した。


Winny開発者逮捕でP2Pネットワークのコントロールが不可能になるのでは

「2ちゃんねる」管理人の西村博之氏
 こうした意見に対し、2ちゃんねるの西村氏は「クリエイティブな著作物についてお金を払うという行為はなくならない」とコメント。電車男などインターネット上の無料コンテンツを元にした書籍が好評な点について「ネット上で無料で閲覧できるのに書籍を購入する人は必ずいる」とし、「無料で見られるテレビが出現した時、有料の映画は廃れると言われたが、実際には映画というビジネスは終わっていない」と指摘。インターネットを利用して既存ビジネスも変わっていくべきだとの認識を示した。

 Winnyについては「開発者が逮捕されたことで、公にP2Pソフトを開発していると表明できなくなる」と指摘。「Winnyのネットワークは依然として肥大化しており、後継ソフトも開発されてしまった。むしろ、公にP2Pソフトを開発していると表明できなくなってしまったため、ネットワークのコントロールができなくなるのではないだろうか」と現状を危惧した。

 さらに、著作権の保護期間については「期間が長いことが問題。モノだったら減価償却という考え方がある。著作物の価値によって期間を変えたら」と提案。これについては、苗村氏が大筋で同意しつつも、「日本ではベルヌ条約で規定されている最短の保護期間(著作権者の死後50年)を採用している」と解説し、「最近では、映画で米国と同レベルの死後70年を設定してしまったため、ほかの著作物についても映画に追随する動きがある」と懸念した。

 会場ではこのほか、「著作権法は例外に例外を重ね、複雑になりすぎている」(苗村氏)、「複製権と伝達権に絞って単純化しようという動きはある」(上野氏)といった著作権法そのものの論点についても言及された。


関連情報

URL
  情報ネットワーク法学会
  http://in-law.jp/
  第4回研究大会
  http://in-law.jp/taikai4.htm

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( 鷹木 創 )
2004/11/08 13:58

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