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個人情報、フィッシング、出会い系~インターネットセキュリティを議論


 「インターネット安全運動」実行委員会が主催するシンポジウム「インターネット社会を迎えて―市民に迫られる安全対策―」が28日、東京都内で開催され、専門家らがインターネットのセキュリティについて意見を述べあった。

 出席者は、慶應義塾大学大学院総合政策学部政策・メディア研究科の金子郁容教授、イー・ウーマンとユニカルインターナショナルの代表取締役社長を務める佐々木かをり氏、マイクロソフト業務執行役員の田中芳夫最高技術責任者代理、野村総合研究所の村上輝康理事長、内閣官房情報セキュリティ補佐官で奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科の山口英教授の5名。ノンフィクション作家の山根一眞氏が司会を務めた。


インターネットは革命だが、新たな“環境問題”も

野村総研の村上氏は「インターネットは革命」だという

内閣官房情報セキュリティ補佐官も務める山口氏
 野村総研の村上氏は「インターネットは革命」だという。「インターネット以前は新しいテーマを調査する場合、空のトランクをもって欧米に出かけたものだ。インターネット以後はそういった調査旅行はなくなった。当時、3週間かけて調査していたことが、今では机の上で3時間でできるようになってしまった。まさに革命的な出来事だ」。

 また、「セキュリティやプライバシーという注意すべきことはあるが、基本的にはインターネットに接続できることは素晴らしいという認識から始まるべきだ」とした上で、「とはいえ、美しいものには棘がある。光が当たれば影もできる。洗いざらい調べると、スパムやウイルスなど10分野で100項目にわたり、セキュリティ対策が必要だと思われる事柄が判明した」と述べた。

 「例えば、テキスト情報のプライバシーやセキュリティについては現在においても認識されているが、これからは個人が撮影された動画などの映像コンテンツや、GPSなどによる位置情報もプライバシーに関わってくる。RFIDなどによるユビキタス社会が謳われているが、RFIDのセンサーネットワークは一体誰が管理するのか。新たな“環境問題”と言えるのではないか。」

 情報セキュリティ補佐官も務める山口氏は「インターネットはショッピングを家庭のPCからできるようするなど“体感距離”を縮めた」と指摘する。「経済活動が日常的に簡単に行なえるようになると、昔に比べてお金を払うということを深刻に考えなくなってしまったようだ。国が規制をするとしてもどこまで国の管轄とすべきか。コンセンサスを形成する必要があり、いいあんばいに決めることが難しい」と述べた。


個人情報保護法は歯を食いしばってでも守る必要がある

司会を務めた山根氏

佐々木氏は、子供を抱えた女性らが家庭で仕事ができるようになったのはインターネットのおかげだという
 司会の山根氏は「衛星放送によって東欧諸国の民主化が促進されたが、インターネットは放送メディアとは全く異なる。むしろ個人が中心のメディアで、個人情報の漏洩も止まらない状況で不安がある」と、インターネットを通じた個人情報の漏洩に話を移す。

 マイクロソフトの田中氏は「仕事を簡単に自宅のPCに持ち帰れる状況だ」とデータの複製が容易であることを指摘。また、「情報漏洩事件の原因は8割が人間のミスだと言われており、例えばメールを送る時に再確認したり、送信ボタンを押したとしても2~3分は実際に送信されないようなメールソフトを使う必要があるのではないか」と指摘した。

 イー・ウーマンの調査では97%のユーザーが「個人情報が漏れていると感じている」というが、佐々木氏は、それでも子供を抱えた女性らが家庭で仕事ができるようになったのはインターネットのおかげだという。「PCのCD-ROMドライブやUSBポートを使えなくしている企業もある。あまりに神経質になりすぎて、PCの利便性を損なうことがあれば、本末転倒ではないか」とコメントした。

 一方、村上氏は「米国を視察して、考え方が180度変わった」という。「それまでは個人情報保護法が企業に厳しすぎるのではないかと思っていた。しかし、最近もクレジットカード情報が漏洩したが、米国では数十万規模の漏洩事件が頻発している。フィッシング詐欺の被害者も120万人に達した。おかげでメールを使わない人やプレゼンテーションにPCを使わない人も現われ始めた。インターネット社会を信用しなくなる人たちが出てきている」と分析する。

 「個人情報保護法を守るには大変なパワーが必要だが、日本の企業は歯を食いしばって守る必要がある。日本は過去に世界で最も安全と言われたが、今後は日本語のネットワークが最も安全と言われるように努力しなければならない。目的外利用をしないなど、個人情報をしっかり守れば必ず企業の信用に跳ね返ってくる。」


フィッシング詐欺防止には民間の協力も必要

「フィッシング詐欺への対策は業界全体でアピールする必要がある」と田中氏

慶應義塾大学の金子氏は、藤沢市で行なっているという50代~60代のNPOを紹介
 最近、山根氏はフィッシング詐欺に危うく騙される経験をしたという。「そのフィッシングサイトには、『母親の旧姓』『納税者番号』といった入会時以上の入力項目があり、フィッシング詐欺ということに気付いたが、根本的に防ぐにはどうしたらいいのか」とマイクロソフトの田中氏に問いかけた。

 田中氏は「送信者認証技術をISPが実装する」「Internet Explorerにフィッシング詐欺を検知する技術を搭載する」などの技術的な対策を挙げた上で、ISPやマイクロソフトなどのソフトウェアベンダーが一致協力して対策する必要性を強調した。「悪意を持つ攻撃者は1つの弱点があれば、2つのことを行なう。セキュリティ情報をサイトに掲載しても一般ユーザーへの認知度は低く、業界全体でアピールする必要があるだろう。」

 山口氏は「犯罪は抑制していかなければならない。まずは逮捕することが重要だ。これは技術だけではなく、治安の問題でもある」と指摘。例えば、サイトは香港、口座は米国、犯人は東欧や南米にいるなど犯罪が国際化している。一方、警察組織は通常、単一の国家に属している。「このミスマッチが一番の問題だ。警察組織の国際的な協力は必要だが、国家に縛られない企業や個人といった民間の動きにも期待したい。ナショナルとグローバルのミスマッチを企業や個人、行政で折り合いをつけながら取り組んでいかなければならない」と述べた。

 民間の動きとしては慶應義塾大学の金子氏が藤沢市で行なっているという50代~60代のNPOを紹介。「引退したシニア層がPCの教室を通じてセキュリティの啓蒙活動をボランティアで行なっている。ネット上のソーシャルネットワークだけでなく、現実に情報を共有する動きが大事だ。情報共有なくして最新技術だけでは不安になってしまう。技術者もなるべく情報を公開するようなマインドを持ってほしい」と訴えた。また、村上氏も「社会としてどう対応していくかが重要」と指摘し、情報共有のために「天気予報のように『ネットワーク犯罪予報』があってもいい」と提案。「同じ犯罪には騙されないと、ネットワーク社会全体で戦っていく姿勢を犯罪者にアピールすべきだ」との意見を述べた。


“グレー”な有害サイトはNPOに見つけてもらうほかない

 出会い系サイトなどにおける有害情報については、佐々木氏が「出会い系という名前がいいかどうかは別にして、人とのコミュニケーションはインターネットの最大の利点。それを簡単にダメと言い切ってしまうわけにはいかない」とコメント。佐々木氏には現在10歳と6歳の子供がいるが「2人には、テレビで出会い系サイトの事件が報道されるたびにディスカッションするようにしている。それから携帯電話であれば親が受信できるメールを設定してしまうのも良いのではないか」という。

 山口氏はこうした佐々木氏の家庭での取り組みに「よい方法だと思う」と賛成。「携帯電話やインターネットはそもそも大人のためのメディアだ。徹底したパーソナルメディアで、子供が使う場合は親が管理するのは当然」と指摘し、「むしろ、親の管理をどうにかして切り抜けようとする子供は見込みがある」と会場を笑わせた。

 表現の自由などにより「グレーな部分」(山口氏)だという有害サイトを見つけるのは世界的にNPOの役目という流れになりつつあるという。ただし、児童ポルノなど明らかな人権侵害については政府も積極的に関与する。山口氏は「大人は使えるが子供は使えない、外国では使えるが日本では使えないなどのグレーなコンテンツは、社会的なコンセンサスが大事になってくる。コンセンサスがあれば政府も関与するが、コンセンサスがない場合はNPOに頑張ってもらうほかない。もちろん、政府はグレーな問題自体の監視を続けて、危機感を持ち続けなければならない」と解説した。

 さらに村上氏が「犯罪被害者を救済するだけでなく、加害者に対するメッセージが必要だ」とコメント。「どういう被害があったかという情報は溢れているが、加害者に対するメッセージが少ない。絶対に捕まえて処罰するぞというメッセージを送るべきだ」という。「インターネット上でおかしいと感じた時にすぐに通報できる場所や問い合わせする場所が必要」(佐々木氏)などの意見もあった。


子供の情報リテラシーは大人の責任

 子供たちがブログや掲示板へ接する際の情報リテラシーを教育する現場については「スキルのある先生や十分な設備がなく寒い状況だ」と山根氏は指摘する。

 田中氏も「大人が子供にPCやインターネットのことを教えられない現実がある」と、学校だけでなく家庭も同様の状況にあると指摘する。「親が理解していないため、せっかく安全な設定がされていても子供が勝手に変更してしまう場合もある。親が大人の責務として学ぶべきだ」とコメント。また、「マイクロソフトとしても気付いたことは着実に実装しているが、いかんせん子供は我々大人の先の発想をする。100%の実装とは言えない」と実情を説明した。

 これに対して山口氏は「大人の常識をリテラシーとして伝えても子供は聞かない」という。「以前、子供たちにインターネットの危険性を話したことがあるが、出会い系とドラッグの話をした。大人にとってはいずれも危ないことは当たり前の話だが、子供たちにとっては当たり前ではない。当たり前でなはない話を子供たちに言って聞かせる話が必要だ。本来は教師でなくともできるのではないか」と述べた。

 会場からは「被害者にも加害者にもならない教育が重要だとわかったが、何気なくCCでメールを送信して友人のメールアドレスが漏れてしまうこともある」「迷惑メールのアドレスをブロックしてもどんどんアドレスを変更して送り付けてくる」といったメールに関する質問が相次いだ。

 CC送信によるメールアドレス漏洩については田中氏が「BCCを使うことが解決方法だが、我々もBCCで送信すれば漏れないということをもっと広く伝える必要がある」とコメント。迷惑メールについては山口氏が「スパムメールは根本的に解決する手段はない。郵便であればダイレクトメールでマーケティング的に言えば『1to1マーケティング』として手法として認知されている。ただし、インターネットのインフラを不当に占有していることも事実で、行政やISPも由々しき問題として認識している。技術や利用規約などで対処しようとする動きもある」と解説した。


関連情報

URL
  インターネット社会を迎えて
  http://www.nhk-jn.co.jp/001headline/2005/009/009.htm

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( 鷹木 創 )
2005/06/28 19:27

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