プログラマやシステムエンジニアなどのソフトウェア開発者を対象として、求められる倫理規範の検討や、ソフトウェアを利用したさまざまな社会システムにおける問題に関する提言、労働条件の改善などを目的とした「ソフトウェア技術者連盟」(LSE)の設立大会が、8日に都内で開かれた。
同団体の設立は、P2Pファイル共有ソフト「Winny」の作者で、著作権法違反ほう助の疑いで逮捕された金子勇氏に対する支援活動がきっかけとなっている。そのことから大会では、金子氏本人が登場して挨拶を行なったほか、金子氏の弁護団の事務局長である壇俊光弁護士からの現状報告などが行なわれた。
● プログラマの職業倫理確立や社会への提言、労働条件改善等を目指す
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LSE設立の提唱者で理事長を務める新井俊一氏
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大会の冒頭では、LSE設立の提唱者であり理事長でもある新井俊一氏が、LSE設立に至った経緯と目的について語った。
新井氏は最初に「従来、日本において、技術者が集まる団体の目的はほとんどが技術に関する情報交換を目的とするものか、学術団体のどちらか。特にソフトウェアの分野では、プログラマの職業倫理等について考えるような団体は海外団体の日本支部のみだった」と語った。また、「ソフトウェアの社会的な影響範囲が広がっている中で、第2のWinny事件の発生を防ぐだけでなく、プログラマの世界で常態化している長時間労働やサービス残業などを改善していくためにもソフトウェア技術者が集まる団体が必要となった」と語った。
その上で新井氏は、同団体設立の契機となったWinny事件について「(Winnyが利用している)匿名P2P通信の技術は、例えば電子投票の世界で『誰が投票したかを特定されたくないが、一方で1人1票しか投票できないようにチェックを加える』といったことを行なうのに必要とされる技術。また、中国のように政府によるインターネットへの検閲が行なわれている環境下で、それに対抗するためにも不可欠」として、社会的にも重要な意味のある技術であるとした。その上で、「現在の法律ではWinnyのようなソフトを作ってはいけないとはどこにも書いてないし、もし本当に開発を禁止する必要があるのなら新規立法で対応すべきだと思うが、従来の日本ではそのようなことを議論するのにふさわしい場がなかった」と、LSEを設立しようと考えた背景を述べた。
新井氏はこの他にも、ソフトウェア技術者として社会に対し提言を行なうべき事項が多数存在するとして、いくつかの例を示した。例えばセキュリティについては、パスワードリマインダに「母親の旧姓」などを秘密の質問として利用しているケースがあるが、これはセキュリティ上とても危険であり、「何のためにパスワードを設定しているのか意味がわからない」と警告。こうした危険は、ほとんど一般には知られていない状況だと危惧した。また、古いゲームソフトの動態保存について、現在の図書館等ではそれらの保存までをカバーできていない一方で、独自に動態保存を行なおうとするとエミュレータの問題やソフトにかけられたDRM等のプロテクト問題などが発生し、このままでは文化的に重要な意味合いを持つゲームソフトが永遠に消え去ってしまう可能性があることなどを示した。
最後に新井氏は、前記のような職業倫理の確立や社会への提言に加え、プログラマの労働条件改善やプライバシーの確保(特に会社のメールアカウントに対する検閲問題への対応)等にも取り組む方針を示した。具体的には、今後定期的に全国で勉強会や無料法律相談を実施する予定であることを明らかにし、積極的な加入を求めて講演を締めくくった。
● Winny裁判の一審判決は早くても2006年半ば以降
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Winny事件の弁護団の事務局長である壇俊光弁護士
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壇弁護士からは、2004年5月の金子氏の逮捕直後に新井氏らが中心になって結成された「金子勇氏を支援する会」の現状の会計報告と、現在の公判の状況についての説明があった。
壇氏はまずWinny事件の弁護を担当した感想として「技術者の常識と世間の常識はちょっと違う」と話を切り出した。壇氏は「金子氏は性格はちょっと変わっている部分があるが(笑)、基本的にはいい人です」と述べた上で「一般的にプログラマは自己表現が下手であり、自分の意見をきちんと表明しないために今回のような問題が起きるし、実際フリーランスのプログラマの方の契約書を見たら奴隷みたいな契約を結んでいる例が多い」と問題点を指摘。そこでそのような問題の発生を防ぐために、優れた技術者をピックアップする制度や、プログラマの言いたいことを代弁したり、プログラマに基礎的な契約等の知識を教えたりするような組織作りが必要であると参加者に訴えた。
その後壇氏は、金子氏の逮捕後に多くの支援者から寄せられた募金の収支報告を行なった上で、裁判における検察側の態度について語った。壇氏は「金子氏のところから押収したソースコードの解析も中断したままだし、はたして検察が何をやりたいのかよくわからない」「本来『あるファイルが著作物に該当するかどうか』と『そのファイルをネット上で流通させることは適法か違法か』は独立した話なのに、検察はそれを混同しており、提出された資料では『著作物に該当する場合』と『適法な場合』にしか分けられていなかった」などと疑問点を提示した。
また、金子氏が逮捕前に警察に提出したという「著作権法違反を蔓延させる目的でWinnyを開発した」云々との内容だとされる申述書についても、「その申述書は、警察側であらかじめ文章を用意していたものを金子氏に書き写させたものであることを警察自身が認めました」と語り、証拠能力はないとの認識を示した。
今後の見通しについて壇氏は「次回(11月7日の予定)か次々回(12月17日の予定)の公判で面白い発表ができるのではないか」と語ったほか、一審判決の時期については「早くても2006年のゴールデンウイーク明けになる。もし弁護側が立てた証人が全員認められれば、もう少しかかるのではないか」と述べた。
金子氏からの挨拶は、刑事裁判の被告人という立場上から裁判に関するコメントはなく、内容は先頃出版された書籍「Winnyの技術」の紹介などにとどまった。このほか大会では、CPSR(社会的責任を考えるコンピュータ専門家の会)日本支部の創立メンバーである山根信二氏から、米国における同様のソフトウェア技術者団体としてCPSRやEFF(電子フロンティア財団)、FSF(Free Software Foundation)などの活動状況の紹介のほか、参加者も交えてのフリーディスカッションなどが行なわれた。
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金子氏への募金に関する収支報告
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弁護団内部の収支報告。これは2005年2月時点のもので、「現在はほとんど残金はない状態」(壇氏)という
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自著を紹介する金子勇氏
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CPSR日本支部の創立メンバーである山根信二氏
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関連情報
■URL
ソフトウェア技術者連盟(LSE)
http://lse.ysnet.org/
■関連記事
・ Winny開発者の支援団体が公式Webサイト「freekaneko.com」開設(2004/05/20)
( 松林庵洋風 )
2005/10/11 15:49
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