秋葉原コンベンションホールで開催されている「Internet Week 2008」で26日、「ネットワークアーキテクチャ~中立性第2ラウンド~」と題されたセッションが行われた。
総務省を中心として2006年から行われた「ネットワークの中立性」に関する議論では、コンテンツプロバイダーに対する「ただ乗り論」や、P2P型ファイル共有ソフトに対するトラフィック制限の是非などが主な検討課題となっていた。今回のセッションでは、こうした議論を踏まえて実施されたP2P技術の活用によるトラフィック削減への取り組みや、トラフィック増加の現状、ネットワーク中立性に関する今後の方向性と課題などについての解説が行われた。
● インフラからプラットフォームまで、各レイヤーでのオープン化を推進
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総務省総合情報通信国際戦略局情報通信政策課長の谷脇康彦氏
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総務省総合情報通信国際戦略局情報通信政策課長の谷脇康彦氏は、トラフィック増加への対応状況や、通信プラットフォームの将来像についての説明を行った。
谷脇氏は日本のインターネットトラフィックの現状について、総務省や日本インターネットプロバイダー協会などによる調査を示し、利用者1人あたりのトラフィックはこの3年で2倍に増加していると説明。一部のP2Pユーザーがトラフィックを占有している問題に対しては、帯域制御のガイドラインを策定するなどの取り組みを進めてきたが、P2Pトラフィックを制御したISPではYouTubeやニコニコ動画、GyaOなどの動画コンテンツがトラフィックの過半を占めるようになっており、ヘビーユーザーがトラフィックの大半を使用するという傾向は変わらないとした。
こうした状況に対して、ヘビーユーザーには追加課金を行うことが受益者負担の原則からは認められるのではないかといった意見があるほか、ISP間でのコスト負担の公平性、コンテンツプロバイダーに対する追加課金の是非などが議論されているが、現状ではこれらの問題に対する解は出ていないと説明。総務省の立場としては、料金については各事業者が判断することだが、議論は今後も進めていきたいとした。
また、ネットワークの中立性の観点からは、日本においては今後はインターネットとNGNが併存できるかどうかも重要だと説明。日本版NGNは市場シェアの大きいNTT東西が提供するため、サービスなどをNGNの網内にとどまらせるような動きが出てくると、中立性が損なわれる恐れがあると指摘。こうしたことから、NGNについては公正競争の確保を条件としてサービスを認可しており、オープンで透明な運用を求めていくと語った。
さらに今後のネットワークの中立性における課題としては、課金や認証などの「プラットフォームレイヤー」におけるオープン化が重要だと指摘。特にモバイル分野ではこれらの機能は通信キャリアが独占的に提供する形となっており、プラットフォームレイヤーのオープン化に向けた検討を総務省の「通信プラットフォーム研究会」で進めていると説明した。
谷脇氏はこうした動きについて、1社がすべてを提供するような垂直型のビジネスモデルを否定するものではないとした上で、水平型のビジネスモデルとも併存できるような形でオープン化と透明性の確保を進めていきたいと語った。
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利用者1人あたりのトラフィックは増加傾向
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P2Pトラフィックの制御後、動画コンテンツのトラフィックが増加
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トラフィック増加と追加課金の関係
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プラットフォームのイメージ
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● トラフィック増加率はここ数年は年30%程度で安定傾向
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IIJ主幹研究員の長健二朗氏
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インターネットイニシアティブ(IIJ)主幹研究員の長健二朗氏は、ISPから見たブロードバンドトラフィックの現状を紹介した。
長氏は、ビデオコンテンツによりトラフィックが急増しているといった話が海外メディアなどでも報道されているが、技術的な報告ではそれほど急増しているわけではなく、むしろ世界的に見てもトラフィック成長は鈍化していると説明。また、日本のISP6社が共同で実施している調査でも、トラフィック増加率はここ数年安定しているとした。
トラフィック使用状況の統計からは、依然としてP2Pによるトラフィックが大きな部分を占めているものの、量としてはあまり増えていない傾向が見られるという。一方で、動画コンテンツやWebアプリケーションの高度化などにより、一般ユーザーのダウンロード量は増えており、結果的にトラフィック全体の増加率は年30%程度で安定しているという。
長氏は、「2003~2004年頃にはP2Pによるトラフィック急増が問題となったが、現在では状況は変わっている」と指摘。現状ではネットワーク側の回線容量増加率がトラフィックの増加率を上回っており、「今後は逆にネットワークの供給過剰になり、トラフィックをどうユーザーに使ってもらうかを考える時代になることも考えられる」とコメント。ただし、ユーザー動向の変化や新たなアプリケーションの出現など、不確定な要素が多いため、将来予測は困難だとした。
今後の課題としては、ブロードバンドの恩恵を受けたエンドユーザーによる革新が始まっており、ISPにはこの革新を受け止めるための十分なマージンを確保する必要があると指摘。また、トラフィック問題では憶測や偏ったデータ、P2Pが出てきた当時の古いイメージに基づくような議論も見られるとして、ISPなどが公正なデータを公開する努力が必要だと語った。
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トラフィックの増加傾向
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P2Pのトラフィックはあまり増えず、一般利用者の使用量が増加
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● 地域ISPにとってはトラフィック増加は依然大きな問題
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NTTコミュニケーションズの山下達也氏
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NTTコミュニケーションズの山下達也氏は、P2P技術を活用したコンテンツ配信について検証を行っている「P2Pネットワーク実験協議会」の取り組みについて説明。協議会で実施している検証実験から見えてきたP2P利用の課題などについて語った。
P2Pネットワーク実験協議会では、ISPやコンテンツホルダーなどの参加により、2007年からP2P技術を利用したコンテンツ配信の実証実験を実施している。P2P技術を利用したコンテンツ配信は、配信側にはトラフィックを大幅に削減できる効果があるものの、ネットワークの効率利用という面から見ると、「P2Pの各ノードがネットワーク的に近い相手と接続する割合が低い」という課題が残るという。
実証実験では全国にダミーノードを設置し、複数のP2P技術について計測を行っているが、どの配信実験でも、各ノードが「同一ISPの同一地域の相手と接続する割合は10%以下」という結果となり、他のISPや他の地域との通信の方が多いという状況では、特に地域ISPなどではコストの軽減にはつながらないとした。
山下氏は「大手ISPではバックボーンコストの低下がトラフィックの伸びを相殺しているが、地域ISPのネットワークコストはあまり下がっていないため、地域ISPではトラフィックの増加は依然として大きな問題」と説明。P2Pコンテンツ配信においては、同一地域間のトラフィックを折り返す「地域IX」の役割も重要になるとした。また、2008年後半の実証実験では、各ノードが最適なノードと接続するための「ヒントサーバー」を運用していくことを紹介。インフラに優しいP2P、P2Pに優しいインフラを目指していきたいと語った。
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実証実験では全国にダミーノードを設置して通信状況を計測
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同一ISP、同一地域のノードを選択する割合はまだどの配信実験でも1割以下だという
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関連情報
■URL
Internet Week 2008
http://internetweek.jp/
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( 三柳英樹 )
2008/11/27 11:27
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