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日本レジストリサービス(JPRS)の東田幸樹代表取締役社長
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国際化ドメイン名(IDN)をサポートしたInternet Explorer 7(IE7)が2月13日、ついに日本においてもWindows XP向けに自動更新によって配布開始された。すでに他の主要ブラウザではIDNをサポートしており、IE7日本語版も以前から公開されてはいたが、いまだシェアの大きいWindows XPにおける標準ブラウザ化により、ようやく、日本語ドメイン名を普通に使える環境が整ったと言える。
そんな中、JPドメイン名の登録管理業務を行なう日本レジストリサービス(JPRS)は3月に入り、JPドメイン名の登録数が100万件を突破したことを発表。IE7の標準化ともあいまって、今後もJPドメイン名の利用拡大を図っていく姿勢を示している。
今回、JPドメイン名がいわば大きな節目を迎えたということで、JPRSの東田幸樹代表取締役社長に話をうかがった。同社が掲げている「利便性」「安定性」「信頼性」「経済性」の4本柱において、今年はどういう施策を展開するのだろうか。
● IE7で日本語ドメイン名の利用環境も一般化
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JPドメイン名の登録数推移とサービスの沿革
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――まずは、JPドメイン名の登録数が100万件を突破した感想を聞かせてください。
東田社長:当然、会社としてもうれしいわけですが、ここまで支えていただいた人たちに感謝するとともに、100万件のドメイン名を登録し、実際に使っていただいているユーザーの方々に感謝したいと思います。決して100万件達成で浮かれているわけではなく、責任の重さを実感しています。
――自動更新によるWindows XP向けのIE7の配布が、日本でもようやく始まりました。
東田社長:日本語ドメイン名がブラウザから標準で使えるようになれば、JPドメイン名の利便性が上がると信じ、我々はここまで進んできました。そういう意味では、これまで環境がなかなか整わなかったのですが、ひと通りのブラウザで日本語ドメイン名が普通に使える環境がようやく実現しました。まだメールアドレスでは使えませんが、それについてもJPRSの技術陣が国際標準化の場でがんばっています。
――2006年秋のIE7日本語版の公開や、IE7を標準搭載したWindows Vistaが2007年1月に発売されたタイミングなどで、日本語ドメイン名の登録状況に何か変化はあったのでしょうか。
東田社長:2004年12月にMicrosoftがIE7での日本語ドメイン名対応を発表したタイミングで登録は急激に伸び、2007年の1年間も登録数は順調に伸びています。また、すでに登録していた日本語ドメイン名を実際に使うようになったということもあるかもしれませんが、それは数字には表われません。利用事例は徐々に出てきており、2007年の年末には「郵便年賀.jp」というものも見かけました。テレビCMで日本語ドメイン名が大きく流れているのを見て驚きました。
スポーツ選手が自分のブログに使う例もあります。選手自身が長いアドレスを告知するのは無理があるので、自分の名前の日本語ドメイン名でアクセスできるようにしているのです。スポーツ選手のほか、芸能人や、将来は政治家も使うようになるかもしれません。自分の名前をアピールしなければならない人には、日本語ドメイン名は最適です。
● 「○○で検索」や携帯サイト、今はドメイン名を意識しない時代?
――PCにおいてはIE7の標準化は大きいですが、携帯電話における日本語ドメイン名の利用状況はいかがでしょうか。
東田社長:PCのユーザーはドメイン名をけっこう意識しますが、携帯のユーザーは公式サイトから飛ぶことが多いと聞きます。携帯でドメイン名を意識するようになってくるのはこれからでしょう。
携帯で日本語ドメイン名が使われるようになってくると、空メールやQRコードの代わりなど、かなりの部分が日本語ドメイン名に置き換わってくるのではないかと考えています。携帯の日本語入力における予測変換機能は賢くなってきており、若い人は苦もなく日本語を入力しています。アルファベットを打つより速いかもしれません。偶然にも「.jp」は、各ボタンに割り振られた文字の1つ目なので入力しやすく、全角でも大丈夫です。携帯の勝手サイトも増えていますから、そういうところにアクセスするために、日本語ドメイン名が今後多く使われるようになるのではないでしょうか。
――日本語ドメイン名は、商品名などがそのまま使えるということで、広告などで有用と言われていました。一方、最近では「○○で検索してください」という誘導が一般的に通じるようになり、広告ではドメイン名そのものを伝える必要も薄れてきたようです。
東田社長:検索ワードとサイトのドメイン名が一致しているのが、プロモーションとしてはいちばんいいのではないかと思います。最近は、商品名でSEO対策をしたり、有料リスティングに登録される方は、ドメイン名としても登録しています。それらが連動すると、検索するユーザーも公式サイトがすぐに判断できるようになり、相乗効果が生まれます。「○○で検索してください」という手法が普及したからといって、広告では日本語ドメイン名がもういらなくなったということはなく、逆に共存できるのではないかと思っています。
企業がユーザーを誘導するということでは、両方を適材適所で使うことが重要です。検索だけで誘導しようとすると、検索結果にいろいろなサイトも出てきます。企業からすれば、自社のサイトに真っ直ぐに来て欲しいわけです。そういう時は、ドメイン名を見せるのが適しています。アルファベットのドメイン名ではわかりにくいということで「○○で検索」と言うようになったのだと思いますが、もう一度、ドメイン名でアドレスを入力していただくスタイルも見直していただければ、ユーザーをわかりやすく誘導できるのではないでしょうか。
● 「co.jp」の即時登録も年内に実現
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「co.jpを必要な方が、すぐに登録できるようになる」と東田社長
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――携帯や検索など、ドメイン名を意識しなくなる流れが進めば、「co.jp」など属性型ドメインの意味を知らない人も増えてきます。一方で、電子政府などに関連して、日本の政府機関が用いるドメイン名を「go.jp」などに統一する流れもあります。属性型ドメイン名の意味や、それがなぜ信頼できるのかを、きちんとユーザーに啓蒙していくこともJPRSの役割ではないでしょうか。
東田社長:そういう活動が足りていなかったと反省するところはあります。属性型ドメイン名の種別に関する知識が浸透しているものと思い込んでいたのです。例えば、「ac.jp」なら大学など高等教育機関に決まっているじゃないか、と。JPドメイン名が1万件しかなかった時代からドメイン名にかかわってきた我々にとっては常識だったのですが、今は100倍の100万件に増えている。本来は100倍啓蒙しなければならなかったのかもしれません。
例えば、co.jpの性質をきちんと理解していれば、会社の公式サイトだと判断できるので、ユーザーにとっても便利です。逆にco.jpを使っている企業側も、ちゃんと会社のサイトとして認識してもらえます。また、検索結果にはドメイン名も表示されますから、クリックする前にドメイン名を見れば、公式サイトかどうかなど、そのサイトのおおよその性格もわかります。ちょっとした知識で判断できるはずです。中学・高校の情報の教科書の一部では、こうったことも説明されているようですが、もっと働きかけて取り上げてもらうようにしていかなければいけないと考えています。
――そのco.jpも着実に増加しているようですが。
東田社長:増加率は年5%ほどで、汎用JPドメイン名の伸びには及びませんが、根強い人気があります。じつは調査をしてみると、本当はco.jpを使いたいという方もけっこういらっしゃるのです。ただ、現在は手続き上、登録に3日から場合によっては1週間くらいかかってしまいます。1組織1ドメイン名の原則や、その会社が実在するのかどうかなど、信頼性にかかわるチェックがあるため、なかなか即時登録に踏み切れなかったのです。
ところが、この7年間のJPドメイン名の登録管理業務を分析すると、指定事業者さんがしっかりやっていただいていることもあり、co.jpでは不適切な登録がほとんど発生しないことがわかってきました。そこで、登録の入口の迅速化と、もし不適切な登録があった場合に即時に削除できるようにする手当てを合わせて、登録規則を改定することにしました。そういうかたちでの利便性アップのためのサービスを2008年中に開始する計画で、すでに指定事業者と情報を共有し、サービスに向けて準備を進めています。
● 今後2、3年は「安定性」に投資、DNSを倍増
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JPドメイン名の登録件数とクエリ数の推移(2004年4月を100とした場合の増加率)
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――今年は経済性に関する施策、つまりは卸料金の値下げは予定していないのでしょうか。
東田社長:co.jpの即時登録などで利便性を上げて登録数が増えてくれば、その売上を次に投資するか、還元して値下げすることになりますが、周期があります。現在考えているのは、DNSをさらに倍ぐらいの数に持っていきたいということです。DNSは、どこまで強化すれば十分か判断することは難しい。時代とともに要請も変わってきます。クエリ数の分析なども行なっていますが、gTLDと比べると、もう少し数があってもいいという分析結果が出ています。今後2、3年はシステムに投資したいと思います。安定性の部分です。
――最後に、JPドメイン名の登録者やインターネットユーザーに対してメッセージをお願いします。
東田社長:基本は、インターネットのインフラを支えている企業としてDNSを倒さないことですが、ある意味、その部分はユーザーに意識されないことが、我々がきちんとやれている証拠です。ユーザーにDNSを意識させない安定運用のために設備投資を続けていきます。
一方、ユーザーから見える部分では、日本語ドメイン名が使える環境がやっと増えてきました。日本語ドメイン名を活用した、いいサイトが立ち上がってくることを期待していますし、そういったサイトに協力できることがあれば何らかのかたちで協力したいと思っています。日本語ドメイン名が普及すれば、さらに便利になると我々は信じています。
――ありがとうございました。
関連情報
■URL
日本レジストリサービス
http://jprs.co.jp/
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( 聞き手:永沢 茂 )
2008/03/31 14:02
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