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中国人とインターネットの関係<前編>

中国における“インターネット世論”の正体

 中国のインターネット利用者が書き込む掲示板の存在は、年々無視できない存在となってきている。今や日本のメディアでも、中国絡みの大きなニュースがあれば、中国の“インターネット世論”をニュースで紹介するぐらいだ。中国国内ではなおさらのこと無視できないものとなっている。

 本企画では、中国人とインターネットの関係について2回にわたって紹介していく。前編ではまず、インターネット世論を形成する掲示板やニュースサイトの状況を取り上げる。


インターネットメディアの書き手も若者、受け手も若者

 中国のインターネット利用者は、中国インターネットインフォメーションセンター(CNNIC)の最新統計(2008年6月末現在)によれば2億5300万人で、その多くが都市部に在住する若い世代となっている(詳細は関連記事を参照)。

 CNNICによる統計をさかのぼって見ると、インターネット利用者が1億人を超えたのは、3年前となる2005年上半期のことだった(詳細は関連記事を参照)。さらにさかのぼると、2000年下半期に2000万人超え、1998年下半期に200万人超えとなっている。つまり、中国にインターネットが普及したのはここ数年の話であり、言い換えれば中国人のインターネット利用者の多くは利用暦が数年であるということがわかる。


インターネット利用者数の推移(単位:億人、CNNICの報告書より)

 中国のニュースサイトは今でこそ、総合サイトのほか、ITをはじめとする専門サイトなど無数にあるが、現在の大手ポータルサイトが登場したのは2000年以降のこと。つまり、インターネットメディアもここ数年で急増したものだ。近年、経済的にも国力を上げている中国だが、それこそWindows 95がメインのOSであったころ、中国人消費者の所得は今よりもずっと低く、PCは今よりもずっと高価だったため、PCを扱うメディアは数えるほどしかなかった。

 大手ポータルサイトをはじめとしたインターネットメディアの編集者、そして編集長ですら20代前半、下手すれば10代後半がメインとなっているが、その背景にはこうした事情がある。もちろん、従来の新聞社ないし雑誌系のニュースサイトでは古株の記者が記事を書いている。しかしそれでも若者に影響のあるポータルサイトや、若者に人気の携帯電話あるいはインターネットカルチャーなどを発信するIT系サイトの編集者が若者であることは、中国のインターネット利用者の多数を占める若い世代へ少なからず影響を与えている。

 インターネットを始めて数年の若者が、メディアの記事を読む立場から編集する立場へとなったこと、また、もともと中高年のインターネット利用者が少なかったことから、ポータルサイトでは若者が喜ぶニュース記事やコンテンツに偏って掲載される傾向にある。サイトのデザインも、小さな文字がぎっしりと詰まる老年層に配慮しないデザインのポップな色使いのものが一般的で、広告もまた若者向けがほとんど。万人向けのはずのポータルサイトは、すべての世代に利用してもらえるよう、さまざまなジャンルの記事とサービスを提供してはいるが、若者による若者のためのサイトとなっている感は否めない。


同一文章が伝播するニュースとブログ

 中国のインターネット上のニュースの特徴としては、他社のサイトのニュースを許諾なく全文コピーして使ってよいという商習慣がある(ただし、近年になって「コピーしたメディアは、ニュースのオリジナルのメディア名を記載し、転載であることを明記する」ことが法律化された)。

 そのため、どこかのインターネットメディアが他の編集者の目に留まる記事(ページビューが稼げそうな記事)を配信すれば、あっという間に数十、多いときには数百のメディアにその記事が掲載され、数百のサイトの利用者が同じ文章の同じ論調の記事を読む。しかも、オリジナルの配信元のメディアがゴシップなのか否かを検証せずに記事を配信することもあるため、噂レベルの記事ですら面白いニュースであれば伝播して多くの読者に読まれてしまう。

 ブログや掲示板に関してもニュースと同様で、ブロガーが面白いと思った記事があると、丸ごと全文コピーしてブログに貼り付けるだけであり、自分の感想や意見は書かないブログ記事をよく見る。人気ブログ以外は読者によるコメントの書き込みもなく、読者がたまたまそのブログ記事を読むとしても、ニュースに対するいくつもの解釈や意見に触れることなく、オリジナルのニュースの論調をそのまま受け取ることになる。


ニュースの掲示板では、多勢に無勢の愛国系論議

日本の政治の話題には多くのコメントが付く(この画面では135件)
 日本をはじめとして、海外の中国ウォッチャーが気になる掲示板の意見は、中国人の外国についての書き込みかもしれない。過去の反日運動や反仏運動をはじめとして、本記事執筆時点では現在進行形の反韓気運は、インターネットの掲示板による盛り上がりが原因と言われている。

 今年の春に起きた反仏運動を考えてみると、その運動が盛り上がった原因として、聖火リレーの妨害やチベット騒乱で中国側を支持しない行動をフランスがしていたとして、いくつものメディアで同時に同文のニュース記事が掲載されたことがまずある。それがためフランスの話題がニュース記事で出るたびに、それまでのニュースを見てフランスに対する鬱憤がたまった多くのインターネットユーザーが、掲示板上でその不満を書き込んだ。中国人の中にもフランス好きはいるが、そうした人が反仏の書き込みで盛り上がる掲示板で諌めようものなら、多くの反仏の中国人から袋だたきとなる(詳細は関連記事を参照))。

 反仏運動は短時間で発生したものだが、頑なに反日姿勢を崩さない人もいる。そうした人は、日本の話題が出るたびにポータルサイトのニュース感想掲示板に反日の書き込みを行い、日本をフォローし中国に落ち度があると書き込む人に売国奴のレッテルを貼る。その一方で親日家も多数いるが、感想掲示板に書き込みをしても無意味で不快になるだけだと知っているから、日本に関するコミュニティの中で日本に関する話題を話し合う。

 例えば日本が絡むような国際問題のニュースの掲示板で、外国をたたく書き込みばかりで盛り上がっているのは、そうした背景がある。必ずしも中国人のインターネット利用者全体が掲示板の書き込みと同じ意見かといえばそうではない。また、ニュースの掲示板で外国たたきの書き込みをしている人の多くは、インターネット世代、つまり若年層でしかも都市部の人であり、中国の全世代・全地域の多数派の意見とは限らないことも注意しなければいけない。


中国における「祭り」→「人肉捜索」の事例

 中国のインターネット利用者は、時に度が過ぎた行為をした個人のニュースに対しては、2ちゃんねるでいうところの「祭り」を起こすこともある。複数のメディアで目にした同じ観点の文章が、一致団結に拍車をかけているのかもしれない。鉄槌を下そうとする参加者らは、ターゲットの本名や住所など個人情報を丸ごと晒し、社会人に対しては離職に追いやるなどの行動を起こす。中国は日本と比べて広大で、かつインターネット利用率も低いが、それでも祭りとなった結果、ターゲットのすべてを洗い出すことはよくある。こうした祭りを「人肉捜索」(日本語では人力検索のこと)というが、これが度を越していると、逆にターゲットから祭りのまとめサイトに対して裁判が起こされることもしばしばだ。

 過去に祭りとなったケースをいくつか紹介する。

・猫虐殺事件
 ある若い女性のインターネット利用者が猫を虐殺する動画をアップ。これに対してあるインターネット利用者が著名サイトの掲示板上で、動画に映った女性についての通報に最大5000元(現在の通貨レートで7万5000円)の懸賞金をかけたところ、2日後、猫を虐殺した女性が黒竜江省の小さな町の住人であることを特定。さらにその2日後に女性ら関係者3人の身元を特定し、警察に通報して逮捕劇に。

・カンフー少女事件
 カンフーを練習する少女のわいせつな写真を拾ったと、あるインターネット利用者が著名サイトの掲示板上で紹介。この黒幕を探そうと仲間を募る。それから1時間半で、背景に映る建物やポーズから河南省のカンフー学校を割り出し、犯人を見つけ出す。

・四川大地震ビデオ事件
 四川大地震が起きた後、若い女性が被災者を罵る動画がYouTubeにアップされた。複数の著名ポータルサイトの掲示板で、この女性は何者かを突き止めようとするスレッドがいくつも登場。最終的には、多数のインターネット利用者の協力で遼寧省に住む21歳の女性であることが判明、さらに細かい個人情報やチャットなどのアカウント情報、両親や親族、それに仕事先に至るまで調べ上げられた。

 来週掲載予定の後編では、インスタントメッセンジャーの「QQ」や動画共有サイト「優酷網(Youku)」など、インターネットの普及を牽引したキラーサービス/コンテンツの過去と現在を紹介する。


  山谷剛史(やまや・たけし)
中国在住のITライター。中国人とITとの関係について様々な方面から分析した書籍「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)が発売中。今回紹介したようなテーマをさらに突っ込んで解説しているので、当記事に興味を持っていただけたなら、書店で手にとっていただければ幸い。


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2008/10/03 18:26

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