趣味のインターネット地図ウォッチ

第93回:準天頂衛星初号機「みちびき」のデータ公開サイト「QZ-Vision」ほか


中沢新一氏の著作をもとにした「アースダイバーマップbis」プロジェクト

 多摩美術大学の中沢新一ゼミと首都大学東京大学院の「インダストリアルアートプロジェクト演習」および渡邉英徳研究室有志は、共同プロジェクト「アースダイバーマップbis」のウェブサイトを公開した。中沢新一氏の著書「アースダイバー」(講談社、2005年)の再考をコンセプトとしたプロジェクトで、同サイトはGoogle Earth用コンテンツとして提供されている。閲覧にはウェブブラウザー用のGoogle Earthプラグインをインストールする必要があり、アクセスすると都内の地図が自動的に表示される。


古墳の位置を表示させた状態品川駅周辺

 「アースダイバー」は、東京の半分以上が海に沈んでいた縄文時代の海岸線を現在の地形や施設に重ね合わせることで発見したことをまとめた読み物だ。今回のプロジェクトもこの発想をもとにしており、現在よりも海面が高かったとされる縄文海進期の海を青色、砂州を黄色でGoogle Earth上に表示する。

 画面右上には表示するスポットのリストがあり、「神社」「寺」「古墳」「遺跡」「境界線」「建物」「地形」などさまざまな要素の表示の切り替えが可能だ。例えば「古墳」にチェックを入れると、前方後円墳の形をした目印がGoogle Earth上に数多く並び、クリックすると古墳の名がポップアップ表示される。

 これらのスポットの配置が縄文海進期の海岸線や河川の位置とどのような関係にあるのかを考えてみると面白い。例えば古墳は河川の流れに沿って配置されているように見えるし、品川駅の鉄道用地は縄文時代の海岸線と同じ曲線を描いていることがわかる。Google Earthの画面をもとに中沢氏の思索を追体験してもいいし、自分自身で新たな切り口から東京について考察してみるのもいいだろう。

 このほか、GPS付き携帯電話やスマートフォンからメールで写真も投稿できる。投稿は位置情報付きの写真を撮って投稿アドレスに送付するだけで完了し、コメントを入れることも可能だ。このコンテンツを見ていると、実際に都内を歩いてみたくなるが、散歩の途中になにか気付いたことがあったらぜひ投稿してみてほしい。

【追記 2010/09/07 21:10】
 縄文海進の海の範囲については海面の高さなど諸説あるようだが、「アースダイバーマップbis」の表示は、あくまでも「アースダイバー」のコンセプトに基づいたものだ。「アースダイバーマップbis」のコンセプト説明に「洪積層と沖積層の分布から大まかに想像した当時の海岸線を現代の地形と重ね合わせてみると様々な発見がありました」とあるように、これまでの科学的な調査・研究に基づく考え方とは性格が異なるものと言えそうだ。入り江の分布など従来の説との大きな相違点や、標高との矛盾などを指摘する声もある。最近のテレビ番組や書籍などにおける縄文海進の説明や“地形ブーム”に関して、地理学・考古学などの研究者らが、Twitterでも議論している。

・東京地形ブームと縄文海進(Togetter)
 http://togetter.com/li/44316

URL
 アースダイバーマップbis
 http://e.mapping.jp/

準天頂衛星初号機「みちびき」のデータ公開サイト「QZ-Vision」ほか

 9月11日に準天頂衛星初号機「みちびき」という衛星が種子島宇宙センターから打ち上げられるのをご存じだろうか? 準天頂衛星システム(QZSS)とはGPSの補完および補強を目的とした測位システムで、日本や東アジア、オセアニアなどのエリアをカバーする。日本上空の天頂付近を通る軌道を持つ衛星を複数打ち上げることにより、常に上空に1機の衛星を配置させて、捕捉できるGPS衛星の数が足りない場合でも、準天頂衛星の信号を加えることで測位が可能となるわけだ。QZSSの軌道は天頂付近を通るため、山間部やビルに囲まれた都市部などでも電波が遮られにくく、衛星捕捉時間の短縮や測位精度の向上が期待される。

 今回打ち上げられる「みちびき」はQZSSの初号機で、QZSSの第1段階としての役割を担うとともに、試験機として実験やデータ収集も行う。この「みちびき」の動向を伝えるサイトとして、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は以前から「みちびき 特設サイト」を公開していたが、このたびデータ公開サイト「QZ-Vision」の提供も開始された。


「みちびき」特設サイト「QZ-Vision」のデータダウンロードページ

 「QZ-Vision」はQZSSおよび「みちびき」のミッションの解説や、運用中の軌道・時刻データの公開など、主に打ち上げ後のさまざまなデータ提供を目的としたサイトだ。

 打ち上げカウントダウンスクリーンセーバーや「みちびき」のペーパークラフト、宇宙飛行士の山崎直子さんのインタビューなど、楽しめるコンテンツも掲載されているが、最も注目されるのは実用的なデータを提供する「USE」のコーナーだ。ここでは「みちびき」のアルマナックやエフェメリスなどの軌道データや、QZSS対応のスカイプロット(衛星運行図)が見られる「QZレーダー」、QZSSの実験スケジュールや実験報告資料などがダウンロード提供される予定だ。現在すでにQZSSのユーザーインターフェイス仕様書が公開されている。

 なお、JAXAによると、既存のGPS機器については、衛星ごとに割り当てられているスペクトル拡散通信の疑似雑音(PN)コードや、GPSとの航法メッセージの相違により、そのままではQZSSを利用できないという。ただしファームウェアをアップデートすれば使える可能性もあり、GPS機器を扱う各メーカーや販売代理店の対応によっては、手持ちの機器を買い換えることなく恩恵を受けられるかもしれない。

 機器の買い換えやアップデートが必要とはなるものの、「みちびき」の打ち上げによって日本の衛星測位環境は新たな段階に進むことは間違いない。「みちびき 特設サイト」や「QZ-Vision」を見ながら、QZSSおよびGPSの未来に思いを馳せてみてはいかがだろうか?


3D映像でカウントダウンを表示インタビューのコーナー

URL
 「みちびき」特設サイト
 http://www.jaxa.jp/countdown/f18/index_j.html
 QZ-Vision
 http://qz-vision.jaxa.jp/

古地図上で現在地を表示できる「こちずぶらり」のiPad版が登場

 ATR‐Promotionsは、古地図上で現在地を確認できるアプリ「こちずぶらり」のiPad版をリリースした。「こちずぶらり」は日本や世界のさまざまな古地図を見られるアプリで、古地図上にGPSで測位した現在位置を表示させることが可能だ。有料版の「こちずぶらりHD」と、広告表示が入った無料版の「こちずぶらりLite」の2種類があり、今年春にiPhone版をリリースして以来、動作の軽量化や収録地図の増加など改良が加えられてきた。


江戸日本橋屏風絵図世界古地図(1736)

 今回のiPad版の登場により、古地図が高解像度で閲覧できるようになり、より魅力が増した。このアプリはあらかじめ地図データを取得しておくことにより、オフラインでも古地図を見ることが可能なので、iPadやiPhoneを片手に散歩する際も軽快に地図を見られる。収録している地図は世界全体の古地図が2枚、米国が7枚、ヨーロッパが8枚、アジア(すべて日本)が7枚、オセアニアが1枚。これらの地図の中には、地図収集家のデビッド・ラムゼイ氏が所蔵する「ラムゼイコレクション」も含まれている。

 古地図上にはランドマークアイコンが随所に入っており、アイコンをタッチすると史跡情報が見られる。また、GPSで測位した現在地は青丸のアイコンで表示される。古地図上に自分の現在地が表示されるというのはなかなか面白く、世界古地図を見ると日本列島の付近に現在地が表示される。もっと大きな縮尺の古地図上でも現在地を確認することが可能で、例えば江戸の全体を描いた1844年の江戸古地図を見ると、現在自分がいる場所に昔はどんな施設があったのかがわかる。さらに、日本橋界隈を描いた鳥瞰図「江戸日本橋屏風絵図」のような狭いエリアの古地図でも現在地表示が可能だ。

 このほか、ATR‐Promotionsは岐阜県大垣市と長野県小布施町の古地図を見られる「大垣ちずぶらり」と「小布施ちずぶらり」もリリースした。いずれも無料で、「大垣ちずぶらり」は市の全図や商工街図など計4枚、「小布施ちずぶらり」は18世紀後半の地図および現代に描かれたイラストマップの計2枚が収録されている。今後も他エリアの古地図アプリの登場を期待したい。

URL
 こちずぶらり
 http://www.atr-p.com/mm/burari/index_ja.html


2010/9/2 06:00


片岡 義明
地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。