趣味のインターネット地図ウォッチ

第173回

「OS X Mavericks」に地図アプリ/文章を自動的に地図化する ほか

「OS X Mavericks」に地図アプリ搭載、iPhoneと連携が可能

 アップルが10月22日にリリースしたMac用の最新OS「OS X Mavericks」。今回の目玉のひとつはマップアプリの追加だ。従来、アップルが提供するマップアプリといえばiOSの標準マップアプリしかなく、ウェブアプリやデスクトップ用アプリは提供されていなかった。Mavericksにマップアプリが追加されたことにより、Mac上でもアップルが提供する地図サービスを利用可能となる。

「OS X Mavericks」のマップアプリ

 使用している地図データはiOSの標準マップと同様にアップル製で、デザインなどにほとんど違いはない。「地図」「地図+写真」「航空写真」と切り替えられるのも同じだ。また、3D表示も可能で、日本では都市部で建物の立体モデルを見られるほか、富士山なども3Dで楽しめる。米国のニューヨークなど一部都市ではFlyOverも利用可能だ。iOS版と同様に地図の回転も可能で、マルチトラックタッチパッドを使って2本指で操作することにより回転させられる。

「地図+写真」の画面
3D表示
富士山
ニューヨーク
航空写真にして縮尺を小さくすると、現在の地球の光の当たり方が分かる

 経路検索も可能で、Wi-Fi測位で取得した現在地から目的地までのルート検索を行えるほか、出発地を任意に指定することも可能だ。検索した経路はPDFでメールやメッセージに添付して送付できるほか、TwitterやFacebookで共有することも可能。また、iCloud経由でiPhoneに直接送信することも可能だ。ルートを受信するとiPhone側にはアラートが表示され、同じルートがマップアプリ上に表示される。そのまま「出発」をタップすれば音声案内がスタートする。

 Mac上で検索すると地図の右側に交差点リストが表示され、非常に見やすい。Macの広い画面でルート検索を行い、外出時にiPhoneに転送するといった使い方ができるので便利だし、ドロップしたピンや経路検索結果などをブックマークに保存して、そのブックマークをiPhoneと共有できるのも便利だ。

検索結果をiPhoneに送信可能
iPhoneで受信
検索結果を共有可能

 FlyOverの美しい映像やマップアプリのルート検索などを広いディスプレイで利用できるのは、地図好きとしてはうれしいところ。iPhoneとの共有機能も便利で、Macでウェブなどを検索しながらドライブプランを立てて、iPhoneにそのルートを転送するといった作業をスムーズに行えるのはとても便利だ。Mavericksをインストールした人は、ぜひこのiPhoneとの共有機能を活用していただきたい。

 なお、アップルが提供する写真管理ソフト「iPhoto」もアップデートして、「撮影地」機能で写真の位置情報を表示する際の地図にMavericksのマップアプリと同じものが使われるようになった。

「iPhoto」の地図

次世代統計利用システムで「GIS機能」の試行運用を開始

 総務省統計局および独立行政法人統計センターが試行提供している「次世代統計利用システム」において、GIS(地理情報処理)機能が提供開始された。

 「次世代統計利用システム」は大量・多様な統計データの高度利用を目的として構築されたもので、政府統計の総合窓口「e-Stat」で実現できていない機能を検討するものとして位置付けられている。今年6月に、「e-Stat」で提供中の統計データをXMLなどで取得できる「API機能」が提供開始となったが、さらに10月に、ユーザーが保有するデータを取り込んで統計算出する機能を備えたGIS機能が「統計GISシステム」として試行提供される。このシステムを使うことにより、自前のGIS分析システムを持たない企業や自治体、そして個人でも防災やマーケティングなどの活用が可能となる。

次世代統計利用システム
e-Stat

 統計GISシステムは個人・法人にかかわらず誰でも利用可能だが、利用にあたっては登録(無料)が必要となる。氏名やメールアドレス、利用目的などの必要項目をフォームに入力して送信すると、しばらく後にユーザーIDとパスワードが送られてくるので、このIDを使ってログインする。なお、同システムのレポート機能を利用して作成したレポートを公開する場合は、クレジット表示を行う必要がある。

統計GISシステムのログイン画面
都道府県名一覧

 背景地図はGoogle マップで、右画面に地図、左画面に新規作成ボタンやレイヤー名覧、データ一覧などが並ぶ。地図上にはプロット(ポイント情報)、エリア(面情報)、グラフなどのデータを作成可能。上部のツールバーでは住所や郵便番号検索、座標値による位置移動、距離・面積計測などが可能だ。また、ツールバー上の「サブ地図」ボタンを押すと地図画面が2分割されて左右を見比べられるほか、地図画面の右下に広域の地図を表示させることもできる。さらに、地図の中心位置からの最寄り駅を検索する機能あり、近い順に駅名と路線名が列挙される。

 プロットは地図上をクリックで追加して登録できるほか、ジオコーディングによるプロット登録も可能で、2列目に住所名の入ったCSVファイルから一括でプロット登録できる。また、緯度・経度リストからインポートすることも可能だ。

 エリア操作については、ウィザードを使ってグループを作成して登録したり、既存グループに追加したりできる。エリアの形は多角形や円を作成できるほか、地図上にラインを描いてその周囲をメートル指定でバッファリングし、エリアを追加する「バッファ」や、地図上の指定したポイントから徒歩や車などで到達できる時間圏エリアを追加する「到達圏」といった方法でエリアを作成できる。エリア内は塗りつぶしや斜め線、縦線などさまざまなハッチパターンやハッチ色を指定できる。なお、ほかのGISソフトで出力したShapeエリアデータのインポートも行える。

Google マップの地図を使用
プロットウィザード
プロットの作成
作成したプロット
エリアウィザード
作成したエリア

 このようにして作成したエリアには、国勢調査データや事業所・企業統計調査データ、経済センサスなどの統計データを、界面塗りや棒グラフなどに色分け表示することが可能だ。統計データ以外でも、登録したプロットの数や属性値を小地域やメッシュ単位で集計してグラフ表示することが可能で、作成したエリア内で集計することもできる。グラフのデータ値を地図上に表示することもできるほか、レイヤー順序を変更することも可能だ。

 集計結果をエクスポートして、外部ツールで編集した後に再びユーザーデータとして取り込むことも可能だ。ユーザーデータはCSVファイル形式で、1行目に指標名となるタイトル、1列目に小地域コードまたはメッシュ番号、2列目以降にデータを記述するというフォーマットで作成したファイルを用意する。統計データの読み込みは「グラフウィザード」を使って行える。グラフは界面グラフや棒グラフ、円グラフなどから選択可能だ。このほか、グラフの凡例を編集することもできる。

グラフウィザード
作成したグラフ

 作成したグラフからレポートを作成する機能も搭載しており、HTML形式で集計結果を参照できる「シンプルレポート」と、新たに指定した地点の人口ピラミッドなどを集計してExcelで参照できる「リッチレポート」の2種類から選べる。リッチレポートの標準シートは、表紙・基本分析・周辺地図・かかる小地域・年齢別人口・世帯数・事業所統計・人口/世帯数増減などのシートから構成される。

レポートウィザード
作成したレポート

 なお、同システムは比較的に狭いエリアでの利用を想定しているため、1回の操作で作成・取り込みを行えるデータ量や大きさには制約がある。上限値はプロットのジオコーディングが1000件、緯度・経度の取り込みが1000件、エリアの円最大半径は10km、多角形最大面積が300平方km、到達圏エリアは車30分、徒歩60分。shape取り込みは1000件。グラフの指標最大選択数は10指標で、ユーザー統計ファイルは1万行、集計最大表示縮尺は約1/30万。

 広域での利用はできないものの、単体のGISソフトに比べると、背景地図や国勢調査データなどがあらかじめ用意されていて、ウィザードで選んでいくだけで簡単に地図上に表現できるので初心者にも使いやすい。機能も豊富でshapeファイルなどにも対応しており、小規模な企業には重宝するだろう。また、個人が研究や趣味で利用するのにも便利なツールといえる。

文章を自動的に地図化するシステムの構築を目指す「GeoNLP」プロジェクト

 ニュースやブログ、ツイートなどの文章に含まれる地名や住所を自動的に抽出して位置情報(ジオタグ)を付加し、地図上にマッピングするシステムの構築を目的とした「GeoNLP」プロジェクトがウェブで一般公開された。同プロジェクトは、GISと自然言語処理(NLP)を組み合わせて、地名を対象とした自然言語文のジオタギングシステムを構築することを目的としており、オープンソースとオープンデータに基づいて開かれたシステムを目指している。

GeoNLP

 同プロジェクトは、テキストから地名を抽出・解決する機能を持つオープンソースソフト「GeoNLPソフトウェア」と、地名語辞書を共有できるウェブサイト「GeoNLPデータ」、GeoNLPソフトウェアの機能の一部をインストールなしに利用できるウェブAPI「GeoNLPサービス」の3つで構成される。

 自然言語文から地名や駅名などを抽出して解析するには地名辞書の充実が必要となるが、これを1つの組織や機関が整備するのは難しい。そのため、GeoNLPでは多くのユーザーが手持ちの地名データを持ち寄って辞書を参加型方式で共同構築し、その成果を共有する仕組みを提供している。

GeoNLPソフトウェア

 ウェブサイトでは、地名辞書の検索・登録・作成のほか、登録されている地名辞書を利用して地名を探すことも可能だ。トップページ上部のメニューから「地名を探す」を選ぶと「GeoNLP地名ウェブサービス」が表示されるので、ここでは、地名を検索して地図上に表示する「地名検索」と、文章に含まれる地名をすべて抽出して地図上に表示する「GeoNLP地名解析」の2つを利用できる。このほか、地名辞書そのものを検索で探すことも可能で、入力したキーワードが含まれる辞書を探すことができる。

GeoNLP地名ウェブサービス
「新宿」で地名検索した結果
GeoNLP地名解析
「学校」で地名辞書検索した結果

 このようなウェブサービスは、GeoNLPで用意しているオープンソースソフトやデータをダウンロードすれば自前で構築することが可能だが、誰でもそれをこなせるわけではないため、「GeoNLP地名ウェブサービス」がその“お試しサービス”として提供されている。同サービスではGeoNLPの一部の機能しか利用できないので、GeoNLPの機能をフルに活用したいと思った場合は、開発者サイトからソフトウェアをダウンロードする必要がある。

 なお、検索サービスを使ってみて欲しい地名が入っていないと思ったら、自分で地名辞書を作成してほかのユーザーと共有すれば、さらに抽出できる地名が増える。地名辞書の作成にあたってはチュートリアルも用意されており、サーバーにアップロードして公開する手順が分かりやすく解説されている。このようにして地名辞書を充実させれば、災害が起きた時に大量のツイートを地図にマッピングして情報を整理するといった作業が素早く行えるようになる。地名データの利活用を考えている人には要注目のプロジェクトだ。

地名辞書作成チュートリアル

マピオン、印刷博物館で屋内測位サービスをテスト提供

 株式会社マピオンは、東京都文京区の印刷博物館において、館内のナビゲーションが行える屋内測位サービスのテスト提供を開始した。同サービスではカナダのWifarerが提供するアプリ「Wifarer in-venue navigation」 をAndroid端末にインストールし、館内でのユーザーの位置や展示物の検索、ナビゲーション機能を提供する。

Wifarer in-venue navigation
企画展の案内

 実際に印刷博物館に行って試してみた。入口前でアプリを立ち上げてフロアマップを見ると、自分の現在地が表示され、そのまま入場して1階の展示スペースに進むと、それにつれて自分の位置も移動するの確認できた。GPS測位に比べて移動した時のレスポンスはワンテンポ遅れる感じだが、しばらく待つとすぐに正しい位置に戻る。

 印刷博物館は展示場が1階と地下1階に分かれているが、エスカレーターに乗って地下に下って行くと、全体の半分くらいの高さに到達した時に地下1階へと切り替わった。逆に地下1階から地上へと上る場合は、上部1/5くらいの地点で1階のマップに切り替わる。

1階のフロアマップ
エスカレーター付近

 地下の展示場は1階に比べると広く、少し誤差も生じたが、全く見当はずれな地点を示すことはほとんどなかった。ただしテザリングでほかの端末にWi-Fi接続していると、ときおり現在地を示す丸印が激しく揺れ動くこともあった。

 フロアマップ上の「i」というアイコンをタップするとコーナー名がポップアップ表示されて、さらにタップすると詳細情報を調べられる。また、ルート検索も可能で、目的地となるコーナーを指定してルート検索できる。階をまたぐ案内も可能で、エレベーターに乗ってどのように進むかといった細かい案内が可能だ。

地下1階のフロアマップ
各コーナーの詳細情報

 この手の屋内測位システムでは測位精度が高く正確な位置を得られるので、使っていてストレスが少ない。なお、AndroidアプリはNexus 7などのタブレットには対応していないので注意が必要だ。対応端末を持っている人は、アプリをダウンロードした上で一度このスポットを訪れてみてはいかがだろうか。

ルート検索結果

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。