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第3回:角川グループを横断して電子書籍を販売する「BOOK☆WALKER」

コンテンツ1つ1つを活かしたい〜角川コンテンツゲート 安本洋一氏


 電子書籍は現在、コンテンツやデバイス、流通、規格、ビジネスモデル、文化など、さまざまな要素がからみあい、いろいろなアプローチによる群雄割拠の時代となっている。このシリーズインタビューでは、それぞれ異なる方向から新しい市場に取り組むキープレイヤーたちとその思いを聞き出したい。

 大手出版社の中でも、とりわけ電子書籍に積極的な展開を見せているのが角川グループだ。2010年12月には、角川書店をはじめとして、アスキー・メディアワークス、富士見書房、エンターブレインといったグループ傘下の出版社各社による電子書籍やデジタルコンテンツを配信するプラットフォーム事業「BOOK☆WALKER」を立ち上げ、iPhone/iPad向けにサービスを開始した。

 シリーズインタビュー第3回は、「BOOK☆WALKER」の運営を担当する株式会社角川コンテンツゲートの常務取締役 BOOK☆WALKER事業本部本部長の安本洋一氏に話を聞いた。

ライトノベルの読者から熱い反響、iPadユーザーの多さは予想外

BOOK☆WALKER事業本部本部長の安本洋一常務取締役

―― 「BOOK☆WALKER」を開始して、ユーザーの反響はいかがでしょうか。

安本:「BOOK☆WALKER」はまず、文芸、ライトノベル、コミック、新書系を中心にスタートしました。角川グループは特にライトノベルに強く、日本市場において7〜8割程度のシェアを持っています。そうしたライトノベルの読者の方々を中心に「やっと出てきてくれたか」といった熱いお言葉をいただいています。

 現在、電子書籍のラインナップは週に1回更新していますが、更新のたびに買っていただいているユーザーも多くいます。角川は電子書籍市場に本気で取り組むというメッセージを出しているので、将来的には全ラインナップを出していくことが期待されているのでしょう。それには応えていけると思います。

―― iPhone/iPad向けアプリとしてのスタートですが、ユーザー層はどのような感じなのでしょうか。

安本:端末の台数から考えてiPhoneユーザーが多いだろうと予想していたのですが、スタートしてみるとiPadユーザーの比率が非常に高く、驚きました。最初の5日間のデータでは、iPadが52%、iPhoneが39%、残りがiPod Touchという結果で、iPadユーザーの方が多いという結果になりました。ただし、日が経つにつれてiPhoneユーザーも増えてきています。アプリとしては、App Storeで無料アプリの1位になった時期もあるなど、かなりの反響があったと思います。

「BOOK☆WALKER」のiPad用アプリ

―― iPhone/iPad以外のデバイスに対応する予定はありますか。

安本:もちろんやります。従来型の携帯電話への対応は難しいですが、PCやAndroidスマートフォン、タブレットなど、マルチプラットフォームに対応していこうと思っています。マルチプラットフォームになった場合、基本的に購入したコンテンツは複数の端末で読めるようにしたいと考えています。iTunes StoreのDRMのように、5台程度の端末が利用できるものを想定していて、現在開発を進めています。

 「BOOK☆WALKER」はiPhone/iPad向けアプリとしてスタートしましたが、これはまだ実証実験という位置付けで、現在は4月以降の展開の準備をしている段階です。4月の時点で、本来「BOOK☆WALKER」として搭載すべき機能が整う予定です。

 ラインナップとしても、4月までに新刊から既刊まで1000点程度を出したいと思っています。中でもライトノベルはやはり充実させたいですね。

 現在のアプリの中ではボイジャーさんのビューワーを使用していますが、独自のビューワーも用意します。独自のビューワーでは、書籍の中の気に入ったフレーズをコピーして取っておく機能なども考えています。また、独自課金の機能も組み込む予定です。

 現状ではApple IDによるアプリ内課金となっていますが、これに加えて4〜6月頃を目処に独自課金のサービスもスタートする予定です。独自課金だと、コンテンツの表現の自由度も増すので、ラインナップを増やしていけると思います。

―― 書籍の価格は、どのように設定する考えでしょうか。

安本:基本的には、新刊に関しては紙の書籍と同じぐらい、既刊は紙の7〜8割程度の価格でやっていこうと思っています。ただ、Appleの決済だと決まった値段にしか設定できないので、紙の書籍とだいたい近い値段の設定となっていますが、独自課金ではもう少し柔軟に設定できると思います。

 こうした価格設定についても、現在はまだ実験中という位置付けです。たとえば、デジタルならではの付録を付けた特別版として書籍よりも高く設定する可能性もありますし、やはり電子版は安い方がいいという可能性もあるでしょう。紙の新刊と同時に電子版を出すと、部数は増えるのか減るのか、売れ方のパターンはどうなるのかといった点も検証していきますので、結論が出るのはもう少し先になると思います。

―― 今後、角川グループの新刊はすべて「BOOK☆WALKER」から電子書籍で買えるようになるのでしょうか。

安本:はい。著者様や権利者様の意向を酌んだ上での判断となりますが、角川グループとしてその方針でいきたいと考えています。もちろん、そのためには紙の出版での制作フローも変えていく必要がありますし、外字やルビなども含めて再現されているかどうか、1冊ずつチェックするのに人手がいるという問題はありますが。

 書店であまり本を買わない方にも、電子書籍を買っていただくことで市場を広げていきたいと考えていますが、さらに進んだ取り組みとしては書店に人を向かわせる施策も必要だなと思っています。

―― これまでにも何度か電子書籍のブームがありましたが、今回のタイミングで角川グループが全社をあげて取り組むのはなぜでしょうか。

安本:いま、角川グループの携帯向けの電子書籍コンテンツの売上が毎年150〜200%ぐらいの勢いで伸びています。若年齢層など、ユーザーがデジタル端末で本を読むということに慣れてきているわけです。

 そこに、スマートフォンがすごい勢いで伸びてきて、iPadも出たことで、環境が整ったのではないかと思っています。スマートフォンでコンテンツを買うという行為が習慣化されたことも大きいですし、特にiPadではネット上のコンテンツだけではなく、本というコンテンツの価値が改めて示されたのではないかと思っています。

―― 現在の「BOOK☆WALKER」の電子書籍は.book形式ですが、発表されたときにはTTX形式を考えていきたいという話がありました。TTX形式について、その後はいかがでしょうか。またEPUBやXMDFには対応するのでしょうか。

安本:いまはボイジャーさんのビューワーを使っているので、基本的には.book形式です。独自ビューワーでは、TTX形式対応なども視野に入れています。

 販売するときのフォーマットはいまいろいろありますが、いまのところ元をTTX形式で持っておいて、そこから変換する形で対応していこうと考えています。その準備をしているところです。

7月のグランドオープンに向けてさまざまなショップを展開、雑誌も

―― 今後はどのような分野にラインナップを広げていくのでしょうか。

安本:「BOOK☆WALKER」では7月を角川グループとしてのグランドオープンと考えていて、そこに向けてラインナップを拡充していきます。

 「BOOK☆WALKER」内でさまざまなショップを展開する予定で、たとえばキッズ向けショップとしては「角川つばさ文庫」というキッズ向けのレーベルがありますので、そうした電子書籍のラインナップを用意します。iPadなどのスレート端末は学校で使う用途も期待されているので、教育用途もあると思います。

 また、ビジネス書や啓蒙書系のショップ、写真集なども含むタレント系のショップ、生活趣味系のショップなどを考えています。投稿系のコンテンツなども作っていきたいと思っています。

―― 「ニコニコ動画」との連携も発表されましたが、具体的にどのようなサービスになるのでしょうか。

安本:現在、「ニコニコビューワ」という仮称でドワンゴさんが開発しています。基本的には「BOOK☆WALKER」で買ったコンテンツを、ニコニコ動画の「ニコニコビューワ」でも見られるというイメージですが、それだけでは広がらないので「ニコニコビューワ」用のコンテンツを無料で提供することも考えています。

 どのようなものになるかは現在も開発中なので我々にもまだ見えていないのですが、おそらくコメントなどのコミュニケーション機能が付くだろうとは思います。コメントをどう共有させるかといった部分はドワンゴさんが得意な分野なので、いまは楽しみながら待っているところです。

―― コンテンツとしては雑誌も読みたいという声もあると思いますが、今後対応する予定は。

安本:雑誌的なものとしては、既にiPhone/iPad向けアプリの中で、実験的に「デジタル野性時代」という書きおろしの文芸誌を無料で提供しています。アプリ内課金には無料という選択肢がないので、アプリのバージョンアップに合わせてバンドルするという形になっていますが。

 7月までには、「BOOK☆WALKER」で新しく雑誌専用のショップも立ち上げる予定です。ただ、どのようなサービスにするかは検討中です。誌面をそのまま再現しようとすると、iPhoneでは難しいという問題もありますので。

―― 角川グループにもかなり多くの雑誌がありますが。

安本:はい。文芸誌のほか、「東京ウォーカー」のような情報誌、アニメ誌、ゲーム誌、テレビ情報誌など、非常に多岐にわたっています。

 情報誌の電子版については、誌面が見られるというより、機能に絞っていく方向性もあるかなと考えているところです。ファッション誌なら服を買える、テレビ情報誌なら番組の録画予約ができるといった機能ですが、その場合には汎用のビューワーでは表現できなくなるので、専用のアプリになっていくかもしれません。

 あるいは、角川グループとNTTグループが合弁で進めている「Fan+」のような、テキストに動画や音声を組み合わせたメディアも、もしかすると新しい雑誌かもしれません。「BOOK☆WALKER」でやっていることと「Fan+」でやっていることは違いますが、将来ひょっとすると同じになる可能性もあります。

―― 雑誌は権利関係が難しいという問題もありますが、その対応はどうお考えでしょうか。

安本:大変ですね。特に情報誌などは権利者がたくさんいらっしゃいますし、タレントさんの肖像権のような問題もあります。あるいは、たとえばアニメもさまざまな版権が集まっていて、アニメ誌やテレビ誌にはプロモーションということで掲載している形です。そうした権利処理をクリアにしていく手間と、現時点での市場規模を考えた場合には、まだ難しい部分はあります。

―― アニメというと、「BOOK☆WALKER」発表の際には動画を配信するというお話もありましたが。

安本:はい、「BOOK☆WALKER」は電子書籍だけの専門プラットフォームではなく、動画なども配信していきます。また、アニメやライトノベルのキャラクターを使った、オリジナルのデジタルアイテムなども扱っていきたいと考えています。これもおそらく7月ごろにスタートすると思います。

 これからさらにいろいろなところと連動していく予定で、ニコニコ動画もそのひとつです。たとえばソーシャルアプリと連携して、「BOOK☆WALKER」に来れば他では手に入らないレアアイテムが手に入るといったこともできるでしょう。キャラクターを使ったオーディオブック的なものもできるでしょうし。すでに、キャラクターが動いて「BOOK☆WALKER」を案内する「アニメロイド『涼宮ハルヒのBOOK☆WALKERナビ』」も手がけています。いろいろなところと連携していけるのがコンテンツを持っている強みかと思います。

コンテンツ1つ1つの価値を大切にしたい

「BOOK☆WALKER」公式サイト

―― 作家の方の電子書籍に対する反応はどのような感じでしょうか。

安本:様子見の方と、積極的にやっていこうという方と、2つに分かれますね。たとえば、大沢在昌さんには新刊「カルテット」の電子書籍先行配信までやっていただいていますが、おかげさまで電子書籍でも紙の書籍でも評判がいいですね。

―― 電子書籍に全面的に取り組むと、著者との契約も変わってくるのでしょうか。

安本:はい。現在では電子書籍を含んだ契約を結ぶようになっています。

―― 「BOOK☆WALKER」以外の、他社のプラットフォームで電子書籍を販売したいとなった場合はどのような対応になるのでしょうか。

安本:基本的に、それぞれのプラットフォームごとに、それぞれの著者さんとその都度契約を結ぶ形になります。包括でおかませいただいている方も多いのですが。

 これからは、本を作るだけではなく、著者さんと向きあい、デジタルの表現や作品の作り方、本をデジタルも含めてどう売って読者に買っていただくかなどをいっしょに考えていく、そういう編集者が必要になってくる気がします。

―― 抽象的な質問ですが、電子書籍で読者にどのような価値を提供できるとお考えでしょうか。

安本:我々としては、何万冊と揃えること自体が目標ではなく、サービスの価値はコンテンツ1つ1つの価値だと考えています。それぞれのコンテンツに価値を見い出すお客様が来てくれるようなサービスになる必要があると思っています。

 このコンテンツであれば、電子版には新しいイラストがあれば読者がもっと喜んでくれるだろうといったような、コンテンツ1つ1つに結びついたものが求められていると思います。それはたぶん、出版社だからできることで、そこがわれわれの強みでもあると感じています。

 また、「BOOK☆WALKER」公式ビューワーでは、「ニコニコビューワ」とは違う形で、それぞれの本の上のコミュニティを作っていけないかとも考えています。

 これからはおそらくコンテンツごとにアイデアがどんどん出てきますし、それを大切にしたいと思っています。小説などのコンテンツは一人一人の作家から出てくるものなので、それぞれをどう活かすかという点が、出版社が運営するプラットフォームにはいちばん大事な要素だと思っています。


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(高橋 正和 / 三柳 英樹)

2011/1/11 06:00