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“本好き”に向けたソニーの電子書籍端末「Reader」

ソニーマーケティング株式会社 北村勝司氏


 電子書籍は現在、コンテンツやデバイス、流通、規格、ビジネスモデル、文化など、さまざまな要素がからみあい、いろいろなアプローチが登場している。このシリーズインタビューでは、それぞれ異なる方向から新しい市場に取り組むキープレイヤーに話を聞く。

 ソニーは、海外で販売している電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Reader」を、日本でも2010年12月に発売した。シリーズインタビュー第5回は、ソニーマーケティング株式会社 コンスーマーAVマーケティング部門 メディア・バッテリー&AVペリフェラルマーケティング部 デジタルリーディングMK課 統括課長 北村勝司氏に話を聞いた。

30〜40代、首都圏のユーザーがPocket Editionを購入

コンスーマーAVマーケティング部門 メディア・バッテリー&AVペリフェラルマーケティング部 デジタルリーディングMK課 統括課長の北村勝司氏

―― Readerは、予約段階では6インチ画面のTouch Editionの方が、5インチ画面のPocket Editionより売れていると聞きましたが。

北村:いまでは半々から、Pocket Editionが多い程度になっています。当初は、テキストやPDFを読みたい方や、ガジェット好きの方を中心に買っていただいたという仮説を立てています。ユーザーのアンケートでも、Touch Editionは大画面とメモリカードスロットが評価が高かったですね。ただ、少しずつコンテンツも揃ってきたため、持ち運びに便利なPocket Editionも増えてきたかと思います。

―― いま、読まれているジャンルや、ユーザーの年齢層はどうでしょうか。

北村:ジャンルはさまざまですが、ビジネス書と文芸書が多いです。ユーザーは30〜40代が多いですね。当初の比較的若いガジェット好きの層から、30〜40代がユーザーの中心に移ってきています。地域は首都圏が多く、電車の中で移動中に読むことが多いようです。

本を常に持ち歩く人に向けて、機能を削ぎ落した

5インチ画面の「Pocket Edition」
6インチ画面の「Touch Edition」

―― Pocket EditionとTouch Editionのコンセプトはどう分かれているのでしょうか。

北村:Pocket Editionはとにかくコンパクトで、文庫本のようにどこでも読めるというコンセプトです。本来Readerが目指すものは、Pocket Editionに強く出ています。それに対してTouch Editionは、外だけでなく自宅でゆっくり本を楽しまれる方向けのサイズとなります。

―― Pocket Editionにメモリーカードスロットが付いてないのは。

北村:純粋にサイズの問題です。徹底的に小型軽量で、電子書籍を読むことに特化するために、いろいろな機能を削ぎ落した結果がPocket Editionです。200ページの文庫本がだいたい180gぐらいですから、Pocket Editionは155gなので文庫本より軽い。この中に、1400冊を持ち運べるのがPocket Editionの大きなメリットです。

―― 海外ではひとまわり大きなモデルも出ていますが、日本でこの2つのモデルを選んだのは。

北村:米国では、Pocket EditionとTouch Editionのほかに、7インチ画面のDaily Editionを販売しています。Daily EditionではWi-Fiと3Gの通信機能も搭載しています。

 Daily Editionは、本に加えて定期購読のコンテンツを読むことを想定しています。大きな画面に通信機能を付けて、新聞がプッシュ型で送られてくるというソリューションです。出張に出ると普段読んでいる新聞が読めないといったニーズに応えています。

 一方、国内でも販売している2モデルは、書籍にターゲットを絞って設計しています。日本ですと通勤中に電車の中で読む用途は外せませんが、このサイズであれば片手で吊革につかまりながら読み続けられます。

―― たとえば、通信機能をTouch Editionに入れるという選択肢もありえたかと思いますが、そのあたりはどう判断したのでしょうか。

北村:通信機能についてはいろいろと議論があったようです。発売にあわせるために、搭載する機能のプライオリティー付けが必要になりますが、今回は、通信機能より、本を読むという行為に直結するタッチパネルの機能を優先しました。通信機能はあれば便利だと思いますが、Wi-Fiのある家の中にはパソコンもありますし、欲しい本を探して買うのに大きい画面の方が探しやすいというメリットもありますよね。

 ただ、通信機能については動向を見ながら、次のステップかなと思っています。

 世の中には、本をたくさん読む人と、それほど読まない人と、2通りいます。我々の調査では、月に3冊以上書籍を購入する人は全体の21%ですが、その上位21%の人が書籍全体の63%を購入しています。常に本を持ち歩いているような人は、読み終わるときに備えて2冊持ち歩いているとか、長期出張に行くときにはカバンに本を10冊ぐらい入れていくとか、読みたい本がハードカバーだと大きくて重くて大変とか、そうしたことに不満を持っています。Readerはそうした「本好きのお客様」に向けています。

電子ペーパーの進化に期待

「Reader」のサイト

―― 電子ペーパーは綺麗でいいのですが、反応速度などの弱点もあります。

北村:電子ペーパーも速いスピードで進化していますし、Readerの電子ペーパーも以前の「LIBRIe」に比べてコントラストが150%上がっています。

―― カラー化の要望もあると思いますが、どうお考えでしょうか。

北村:これも悩みどころです。現在の電子ペーパーではカラーにするとどうしてもコントラストが落ちて、くすんだ色になってしまいます。文芸書やビジネス書はほぼ白黒ですので、読みやすさを考えるとカラーは無くてもいい。一方で、雑誌やカタログではカラーが必要になりますが、動画や音声などリッチコンテンツ化のニーズもあるでしょうから、それならば液晶や有機ELディスプレイのほうがいいかもしれません。

 一口に「電子書籍」と言いますが、実は「書籍」というのはとても大きなくくりですよね。雑誌と文芸書は似て非なるものですし、地図も書籍ですからその電子版であるカーナビも電子書籍だと言っていいかもしれない。書籍という大きな文化と資産を、セグメントごとに分けて、それぞれに合うハードウェアを組みあわせて、最適なソリューションを提案していくという方法もあるかもしれません。何もかも1台の端末でカバーしようとしなくてもいいのではとも考えています。

いったん購入したら権利が消えない仕組みに

―― 米国ではEPUB形式で販売していますね。5月にはEPUB 3.0として日本語仕様が入るとされていますが、対応の予定は。

北村:私は設計部門ではないので確かなことは言えませんが、来たものは極力対応して提供していく方針です。フォーマットの面では、ご迷惑はユーザーにかけずに、本を楽しんでいただけるのではないかと思います。現時点でもEPUBには対応していますので、EPUB 3.0が決まった場合もファームウェアアップデートなどで対応できると思います。

 やはり、ユーザーが不安に思っているのは、コンテンツの点数と、将来のフォーマットが変わっていくことの2点なんですよね。フォーマットが変わったら購入した電子書籍は読めなくなってしまうのではという点ですね。

 しかし、今回のReader Storeはお客様が購入したコンテンツはIDで紐付いていますので、一度購入すればフォーマットやハードが変わったとしても、同じユーザーIDで再ダウンロードできます。我々も、今後フォーマットが変わることはあるだろうと考えています。デバイスもいろいろ出てきて、スマートフォンやタブレットでも読みたいという方向になっていくと思っています。

 そういう意味では、「Readerでこれから本を集めはじめませんか」というセールストークを考えています。買った本はクラウドの本棚に溜まっていきますので、今からReaderで電子書籍を集め出しても、将来の端末でも読み続けられます。

店頭で売れる本が電子書籍でも売れるように、もう特殊な市場ではない

ブックストア「Reader Store」

―― 今後の品数充実の見通しは。

北村:出版社さんのご理解をいただきながら、少しずつですね。出版社さんも様子を見ているところがありますが、電子書籍の成功事例も出始めています。いまReader Storeで売れている一つのコンテンツは「悪人」ですが、映画の受賞などのニュースと連動してとてもよく売れました。従来は電子書籍というと、書店で普通に売れている本とは傾向が違うということもあったのですが、最近ではたとえば「これからの『正義』の話をしよう」といった硬い本も実際に電子書籍で売れています。一度そういう方向に向けば、本を電子書籍としても販売するようになる動きは早まるのではと思っています。

 米国でも、Readerを発売した時点では電子書籍のタイトル数は約2万タイトルでしたが、今では約120万タイトルに成長しています。新刊や話題の本という意味でも、ニューヨークタイムズで紹介しているベストセラーの97%程度をカバーしているというデータもあります。日本でも、今後1〜2年でタイトル数は大きく増えていくのではないかと思っています。

―― 今後のReader Storeの展開は。

北村:随時、話題の新刊など、本を増やしていきます。また、おすすめの新刊コーナーなどの強化も、もちろんやります。Reader Storeの便利な使い方も提案していきたいですね。実はANAのマイレージはソニーポイントと交換でき、そのポイントでReaderストアで本が買えるんです。ですから、よく出張して飛行機で本を読む人にはおすすめしたいですね。

 たとえば、東北に出張に行く際に「風の又三郎」を読むとか、旅行ガイドと「奥の細道」が一冊にまとまってた本もありましたが、観光しながらその場でそうした本を読むというのもいい。本好きには、そんな新しい楽しみかたがReaderでできて、読書に新しい世界が広がっていけば、楽しくなるのではないかなと思っています。


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(高橋 正和 / 三柳 英樹)

2011/1/24 06:00