山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

VR授業や実況教師などハイテク続々と教育に ほか~2016年7月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国4Gユーザー数が6億に迫る

 中国3大キャリアの中国移動(China Mobile)、中国聯通(China Unicom)、中国電信(China Telecom)が、四半期決算発表とともにユーザー数を紹介した。最大のキャリアの中国移動の契約者数は8億3700万で、うち4Gは4億2850万。2013年12月4日に4Gのライセンスが下りて以来、4Gユーザー数は2014年10月に5000万、2015年1月に1億、7月に2億、12月に3億と増加し、2016年5月に4億を突破した。中国聯通の契約者数は2億6070万で、うち4Gは7241万。中国電信の契約者数は2億694万で、うち4Gは9010万。

 4GにはTD-LTEとFDD-LTEがあり、どちらもライセンスが発行されているが内訳は不明。中国移動は中国主導のTD-LTEを推進しているため、6億近い4GユーザーのほとんどがTD-LTEと思われる。中国政府工業和信息化部(工信部)の統計発表によると、4Gは携帯電話契約数の44.7%にあたる5億8000万で、3Gも含めた3G/4Gの利用率は契約数全体の62.6%。

 また、工信部はブロードバンドの統計についても発表。2016年5月末の段階で、ブロードバンド平均回線速度は2015年末の20.5Mbpsから29.5Mbpsに高速化。ブロードバンド普及率は55%。FTTH加入者数は、ブロードバンド全体の66.4%にあたる1億8000万。

中国のネットユーザー数とモバイルユーザー数の予測(iResearch)

国際司法裁判所の判定に反米・反日機運が高まり、諫める

 南シナ海での中国の主権を認めないと国際司法裁判所が判定するや、中国メディアは認めない・受け入れないと口をそろえて反論し、ネット世論では反米・反日機運が高まった。中国各地のケンタッキーフライドチキンの前で不買運動が起きたり、iPhoneのガラスを割った画像をアップしたり、日本車を運転するドライバーを襲撃する事件などが起きた。これに対し新華社などは「ケンタッキーフライドチキンでの抗議やiPhone破壊アピールを名指しし、米国製品不買運動は社会秩序を乱すもので愛国ではない」と非難。ネットでの抗議収束に向けて、メディアを活用し沈静化を行った。また、河北省では百度の掲示板「貼吧」で日本車・米国車の破壊を勧めたネットユーザーが、地元のネット警察に逮捕され10日間の拘留刑に。

VR授業や実況教師などハイテク続々と教育に

 中国版YouTuber“網紅”とVRゴーグルが今年特にホットだが、これを教育に使う動きが出てきている。微視酷(VRSchool)ほか複数の企業が教育用のVRコンテンツをリリース、メディアで高頻度で教育用VRの最新製品が紹介された。まだVR教育に向けた動きが出ているというだけで具体的なコンテンツは多くないが、例えば理科用の星空コンテンツが挙げられる。また、トークが面白い人が評価されがちな網紅において、塾・予備校講師で面白く教える人が“網紅教師”として注目を集め、網紅教師の動画授業が柱の教育アプリが登場している。ただし、ウケを狙いすぎた言葉遣いの悪い教師が登場しているため、近々、網紅教師も規制されるかもしれない。

 教育だけでなく、ゲームにおいてもVRと網紅の勢いがある。7月末に開催された中国最大のゲームショー「Chinajoy」では、VRを活用したゲームが続々と登場した。また、Chinajoyでは露出の高いコンパニオンは規制により控えめになり、この数カ月で急激に話題の中心に来ている網紅を各企業は使って客を呼び込んだ。

試しに授業でVRを使う小学校
微視酷のVR教室の仕組み

中国のモバイルネット端末は13億台、健康系アプリへの関心アップ

 調査会社の有盟+は7月、中国のモバイルインターネットについてまとめた「2016年Q2中国移動互聯網発展報告」を発表。2016年6月末でインターネットに接続するモバイル端末の台数は13億台で、3月末よりも2000万台増えた。OSの内訳はAndroidが62.4%、iOSが37.0%、Windows Mobileが0.6%。アプリではSNS、ゲーム、ニュース系、音楽、EC、読書系の各アプリが定番だが、最近では健康系のアプリを導入する人が急増している。

利用されているメーカー別Androidデバイス(友盟+)

中国のiOSゲーム収入、世界首位に

 リサーチ会社のApp Annieによれば、第2四半期で中国でのiOSゲーム市場の売上が米国を超えて中国が世界最大のゲームアプリ市場になった。主に「夢幻西遊」や「大話西遊」といった中国産タイトルに加え、騰訊(テンセント)が買収したSupercellがリリースする「クラッシュ・ロワイヤル」が人気。世界のiOS向けゲームアプリの売上の75%が中国、米国、日本で占められている。

中国アニメ/マンガ産業は1200億元規模、6割が日本絡み

 有盟+は7月、アニメ/マンガ産業と関連アプリについてまとめた「動漫行業分析報告」を発表。中国のアニメ/マンガ産業市場は2015年には1200億元で、国別では日本が60%、欧米が29%、中国が11%であり、中国のアニメやマンガで動くマネーの多くが日本のコンテンツ絡みによるものとなっている。“90後”と呼ばれる1990年代生まれ(17~26歳)が主力で、男性・Android端末利用者が多く、最新情報を毎日チェックする人が多い。また、教育アプリを入れているユーザーも多いことから、学生が多いことが伺える。コンテンツのマネタイズについては、ファンコミュニティやゲーム、広告だけでなく、ARやVRを使ったハイテクとアニメコンテンツが融合したサービスが期待されているという。

中国アニメ産業市場の変化(友盟+)

大手サイトの中国国内音楽版権の囲い込みが進む

 調査会社のiResearchは、大手ネット企業が囲い込んでいるオンライン音楽の版権についてまとめた「2016年中国在線音楽行業研究報告」を発表。それによると、中国では現在、版権のある音楽数(別の歌手による同一曲は別カウント)は600~700万あり、版権のある音楽ファイルは1500万あるという。それらのファイルのうち90%以上の版権を、騰訊が率いる新音楽集団(QQ音楽、酷狗音楽、酷我音楽)が持っており、続く網易(ネットイース)が70%、阿里巴巴(アリババ)系の音楽サイトは2割弱であった。

 中国のオンライン音楽聴取者数は5億人強で、その半分が1980年代生まれ(26~36歳)。毎日1~2時間利用する人が半数。ダウンロード派とストリーミング派は半々。2015年での有料コンテンツ市場規模は10億元(約155億円)で、2014年以降、徐々にではあるが、有料コンテンツにお金を落とす人が増えてきているという。6割が人気の新曲を聴き、国別では日本の音楽が好きな人は全体の11.5%、日本の音楽を聴く人は全体の7.0%。

中国オンライン音楽業界図(iResearch)
有料音楽コンテンツ市場の推移
オンライン音楽を聴く中国人がよく聴く国と好きな音楽の国

オンラインショップの苦情が急増、配車やフードデリバリーでも

 中国政府国家工商総局は、オンラインショッピングに関する苦情をまとめた「網絡市場監管工作年度報告(2015)」を発表。2015年のオンラインショッピング絡みの苦情の数は、前年比で2倍近い87.3%増の14万5800件だった。苦情内容で最も多いのが、届いた商品が粗悪品だった、ないしは大げさに表現していた広告にだまされたというもの。そのほかにもニセモノや、「着後7日間は無条件で返品可能」ルールを販売側が拒否といったトラブルが目立った。

 また、フードデリバリーや配車サービス、民泊などのO2O(Online to Offline)に関する苦情も急増した。O2Oで販売者側と購入者側の距離が近付いたことで、サイトで悪評価を書き込んだり、悪質な利用者をブロックしたりすると、悪影響を受けた販売者・購入者が逆恨みし、アクションを起こした相手を襲撃するニュースを聞くようになり、安全なSNSのあり方について問われるように。

大手ネット企業がそろって無人運転車開発へ

 中国政府による、全産業へのインターネットテクノロジーの導入政策「互聯網+(インターネットプラス)」の中で、騰訊はOEMのフォックスコンとともに自動運転車の会社「FMC」を立ち上げ、2020年までに自動運転車のリリースを目指すと発表した。

 自動運転車といえば、米国のテスラが挙げられるが、中国でも百度などが3年内のリリースを発表し、盛り上がっている。阿里巴巴は自動運転車用の交通情報のビッグデータを活用したプラットフォームを用意。加えて中小企業が研究開発を進めている。

記録的な大雨による記録的な配車運賃が話題に

 7月は中国各地で記録的な大雨が降った。このときの配車運賃が平常時の4.2倍もの価格になったことが話題に。

 Uber、滴滴快車、神州専車などの配車サービスの運賃はニーズにより変動制を採用。基本は1kmあたり1.8元+1分あたり0.5元となっていて、ビッグデータから2分ごとに、状況に応じてその基本価格に数十パーセントから2、3倍程度の値段を更新する。滴滴快車のサービス開始時は話題性から多くの利用者が訪れそのニーズから値上がりがあったし、過去にも大雨で値上がりしたことはあったが、平常時の4.2倍もの価格になるのは初めて。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。