山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
Google中国の撤退示唆で「谷歌」をもじった「谷姐」サイト登場 ほか
2010年2月
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
●Google中国の撤退示唆で「谷歌」をもじった「谷姐」サイト登場
「谷姐」サイト。ただの「もどき」サイトではなく、SNSサービスが人気で、次々にサービスを追加している |
Google中国撤退の示唆は2月も話題となっている。その中で最も話題をさらったのが、谷姐(Goojje)というサイト。グーグルは中国語名で「谷歌」で、歌のへんの部分「哥」は兄という意味をもち、歌と同じ発音である。そこで兄の対比で姉にあたる姐の字を使い、「谷のお兄さん(Google)」ならぬ「谷のお姉さん(谷姐、Goojje)」という名のサイトができたわけだ。
サイトには当初「兄(Google)は姉(Goojje)に恋していて離れられない」と記載しGoogle中国撤退を意識したコメントを書いていた。谷姐(Goojje)は、ネーミングもさることながら、ロゴにGoogleの文字を拝借していることもあり、2月8日にはGoogleに著作権侵害で訴えられた。というのは、このサイトはただのネタサイトではないからだ。
過去にGoogleと百度の両方の検索結果を同時に出すサイトをはじめとした、チープなもどきサイトは登場していたが、この谷姐(Goojje)は、単なるブラックジョークサイトにとどまらない。
Googleもどきサイトとして検索サービスも提供しているが、現在SNSが同サイトの主なサービスとなっていて、他にも様々なサービスが追加されている。谷姐は「寂しさを紛らわす」というコンセプトを掲げているが、話題性とコンセプトがヒットしたのか、早くも「2010年で最も期待できるSNSサイト」と評されている。
この話題に飛びついた先進的なインターネット利用者は、生活の中で寂しさを抱えているのかもしれない。スタッフ募集もしており、今後も単なる一時的話題をさらうサイトだけにはとどまらないようだ。
●Google中国、撤退可能性を交渉中ながら、春節に新サービス
「谷姐」サイトが登場する一方で、1月に中国撤退を示唆したGoogle中国は、民族大移動と言えるほど一斉に中国人が帰省や旅行をする春節(旧正月)の季節に、春節の旅行に特化した「春節地図」サービスをGoogleMap上で提供した。
中国のメディアも、Googleが中国撤退をするから新サービスを提供するとは思っていなかったのか、その意外性も含めて記事で紹介された。この話題を紹介する記事では、「北京のgoogle中国事務所は平常通り業務を行っている」というgoogle中国の広報担当者のコメントも紹介している。
中国のリサーチ会社「iResearch」は、検索回数からみた検索サイトのシェアを発表。中国での2009年における検索総数は約2034億で、2008年の約1499億と比べて35.7%増となり、サイト別シェアではGoogleは76%のシェアを占める百度に続き、18.9%のシェアとなっている。
Google中国が新しく開始した、春節の旅行に特化したサービス「春節地図」 | 中国のリサーチ会社「iResearch」が発表した検索サイト別検索回数シェア。サイト別シェアではGoogleは百度に続き2位となっている |
●2009年のオンラインショッピング市場は2500億元超
リサーチ会社「易観国際(Analysys International)」が2009年のオンラインショッピング市場規模について発表した。楽天のような企業対個人取引(B2C)のオンラインショッピング市場規模は79億2000万元(約1070億円)、ヤフーオークションのような個人対個人取引(C2C)の同市場規模は2307億元(約3兆1140億円)となり、C2Cによる取引が圧倒的に多いという結果となった。
2008年の同社調査によれば、B2Cが約80億元(約1080億円)、C2Cが約1120億元(約1兆5120億円)なので、B2Cの市場規模は1年で横ばい、C2Cの市場規模は1年で倍増という結果であり(2007年から2008年でも倍増している)、C2Cに勢いがあることが伺える。
2009年第4四半期におけるC2Cのショッピングサイト内の商品数は4億2000万点であった。この商品数も前年同期比で2倍以上。その82.6%にあたる3億5000万点の商品が「淘宝網(TAOBAO)」から出品されている。
また、「淘宝網」の取引などで利用するYahoo!かんたん決済のような第三者支払いサービスの取引総額も、オンラインショッピング市場の伸びに比例し、取引総額は前年比135.6%増の5550億元となった。なお、取引総額がオンラインショッピング市場総額より大きいのは、他行への口座振り込みや鉄道の切符の購入など、オンラインショッピング以外の用途でも利用するためだ。
別の調査会社「iResearch」は、今後の中国の新しいインターネット世代「90後(1990年代生まれ)」は、それ以上の世代よりもよりインターネットショッピングを積極的に利用する、という調査結果を発表。現在の中国のインターネット利用者は若者に偏っているが、オンラインショッピングはさらに偏重し、市場規模が拡大することが予想される。
●新たなネットカフェの法律を制定。国有化も検討
中国政府文化部は2月23日、インターネット提供サービスの管理を強化し、インターネットカフェをさらに浄化すべく、インターネットカフェチェーン店のありかたを示した「全国網〓連鎖企業認定管理方法(〓は口へんに巴)」を発表した。これにより、中国全土にインターネットカフェを展開する企業は「5000万元以上の資本金」「30店舗以上かつ3省以上にまたがること」などが条件となる。これにより、より街中のインターネットカフェは絞られ、かつそれぞれが数百台のPCを稼働させる大規模なインターネットカフェになる。
3月頭には、中国人民政治協商会議(政協)の委員が、「私営のインターネットカフェを閉鎖し、政府による公共インターネットカフェをつくることを両会に提案する」とニュースメディアの取材に対しコメントした(中国の政治システムは日本と違うが、「国会議員が国会でネットカフェ国有化を提案する」に近い)。この発言は大きな話題となり、掲示板上では賛成のコメント以上に多数の反対のコメントが書き込まれた。
●デマ情報が掲載された掲示板サイト、名誉毀損裁判で負ける
広東省佛山市順徳区の村の役人「頼振昌」氏が、偽の腐敗情報を掲載したとして、著名な掲示板サイト「天涯社区」を名誉毀損で提訴した裁判で勝訴した。「天涯社区」掲示板には、2009年からたびたび頼振昌氏について「2000万元を不正な方法で入手」「子供を海外に送り出し留学」など誹謗中傷が書き込まれた。天涯社区に何度も該当する書き込みの消去を弁護士を介して依頼し、消去してもらったものの、すでに該当の書き込みは他サイトに多数転載されていた。
裁判所は、腐敗情報について「ネットの書き込みを証明する証拠がない」とし、「天涯社区」運営会社に対して、名誉毀損で5000元(約6万5000円)の損害賠償を命じる判決を下した。
●中国で最も著名な動画共有サイト2サイトが提携関係
中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」は2月4日、2009年第4四半期の動画サイト(動画共有サイト含む)についての調査結果を発表。2009年末の動画配信サイト別シェアランキングで、「優酷網(Youku)」が20.5%でトップシェアとなった。
2位に「土豆網(Tudou)」が12.6%で続き、以下「酷6」「PPStream」「PPLIVE」「UUSEE」「我楽網」「六間房」「爆米花」と続く。レポートによると、同四半期の市場規模は1億9900万元(約26億9000万円)。
この優酷網と土豆網のトップ2サイトが提携関係を結んだ。近年中国国内のコンテンツについて(ベンダー側の)著作権意識が向上し、動画サイトは独占配信や、オリジナルドラマなどの独自コンテンツで客寄せを行っている。
今回の提携は、このうちの独自コンテンツについて、優酷網と土豆網が互いのコンテンツを自サイトで配信可能にするというものだ。トップシェアの2社がコンテンツで提携を結ぶことで、他のサイトもコンテンツで負けじと、サイト同士の同様の提携が加速し業界再編が起こるかもしれない。
動画共有サイトのシェア(中国のリサーチ会社「易観国際」調査) | 動画共有サイトの市場規模(中国のリサーチ会社「易観国際」調査) |
●“イケメンすぎる”ホームレスに話題沸騰、人肉捜索も
ホームレスを見ても、普段は目にしないふりをするのは中国も同じ。ところが、あるホームレス男性の写真がネット上で掲載されたのが、掲示板やチャットソフトのQQを介して、“イケメンすぎる”と話題になったことから、このホームレス男性の情報が次々に転載されて広まり、ニュースサイトや新聞に掲載されるまでに至った。
“イケメンすぎる”ホームレス男性が話題になるのと同時に、現実生活における素性をネットユーザーがよってたかって徹底調査する「人肉捜索」も行われた。その結果、男性が軍隊に所属していた元軍人であることが突き止められたという記事が、またニュースサイトで報道された。さらに彼の妻を自称する女性も登場。
ファッション雑誌や映画のパッケージ写真を素材にしたホームレス男性のコラージュ画像や、クールなファッションのホームレス画像の品評会なども掲示板上で行われ、たった1枚の写真から、イケメンのホームレスが大きな話題となった。ちなみに、この写真は日本の掲示板サイト「2ちゃんねる」でも話題になり、日本でも「画像見たらマジイケメンで驚いた」など、おおむねイケメン評価を得ていたようだ。
“イケメンすぎる”ホームレスは、すぐに百度の百科事典「百度百科」に掲載された | 新聞にも大きく掲載された男性ホームレスの写真 |
●百度の音楽歌詞検索サービスに著作権侵害の判決
百度中国が提供する歌詞検索サービス「百度MP3歌詞捜索」が訴えられた著作権侵害をめぐる裁判で、“著作権料を支払っていなければ著作権侵害にあたる”という判決が北京市海淀区の裁判所で下された。
この裁判は、中国音楽著作権協会が百度に対し、「愛我中華」など50曲の歌詞を無断配信したとして、著作権侵害で損害賠償を求めて提訴したもの。裁判所は百度中国に対して、歌詞が掲載されたWebページへのリンクを消すことと、経済損失5万元(約65万円)および訴訟費用1万元(約13万円)、合計6万元(約78万円)を原告に支払うよう命じる判決を下した。判決に対して百度は遺憾を表明、控訴する方針を明らかにしている。
●インターネット依存症の青少年は2400万人
通信産業報社主宰の「緑色移動互聨網我〓在行動大会(〓はにんべんに門)」、意訳すれば「クリーンなモバイルインターネットは私たちが取り組む大会」が開催された。
この大会で、中国青少年ネットワーク協会の担当者は「現在中国には2400万人のインターネット依存症の青少年がいて、その6割が携帯電話でインターネットを利用している。特にオンラインゲームとネット上の出会いが彼らを引き寄せている」とコメント。「今後3Gが本格普及すれば、24時間インターネット浸りになる青少年が増え、インターネット依存症が彼らの将来の発展に対しての最大の障壁となる」と近い将来への懸念を表明した。
なお、中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」によれば、2009年末の携帯電話などを利用したモバイルインターネット利用者数は前年比で2倍強の2億500万人まで増加している。
関連情報
2010/3/5 06:00
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