山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国高速鉄道事故などで対応の別れたネット検閲 ほか
~2011年7月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を取材拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわるニュースを、政府が絡む堅い話題から三面記事までをレポート。あわせて中国インターネットのトレンドなどもお伝えしていきます。

中国高速鉄道事故などで対応の分かれたネット検閲

 中国共産党建党90周年の記念月となった2011年7月。恒例のように大手ポータルサイトはサイト全体が記念一色となり、特集ページも組まれた。ところが、記念月の目玉となるはずの中国版新幹線は、ポータルサイト上でも祝うどころではなくなった。

 日本でも大きな話題となった中国高速鉄道事故は紙・ウェブ・テレビを問わず、また国営・民間を問わずメディアがこぞってこの大事故を紹介した。こうしたことも異例だが、ネットの対応も異例で過去の中国の大きな事件とは異なり、インターネット利用者に対して検索結果を非表示にしたり、ニュース記事やブログや掲示板の書き込みが消されるといった、ネットの情報コントロールが行われた形跡は確認できなかった。

 一方で、7月前半には江沢民氏が死去したという話が飛び交い、また7月後半には大連に停泊中の原子力潜水艦から放射能が漏れたという話が飛び交った。これらのニュースでは、百度などの検索結果で表示されなくなったり、記事が消されるという事態に。中国ではこうした規制がかかる方がおなじみの対応で、今回がむしろ異例という印象がある。

共産党建党90周年の特集コンテンツ江沢民の文字が消されるので、消されないようわざわざ1文字あけて書くユーザー

 中国高速鉄道事故やその前から続く列車の不通騒ぎは、まず、現場で、事故車両に乗り合わせた乗客から、インターネットで情報が伝わった。開通したばかりの高速鉄道に乗れる乗客ばかりなのだから当然富裕層が多く、車内にはスマートフォンを持って、SNSやミニブログなどを利用する人も当たり前にいるわけだ。発信者が多い中での事故だけに隠しきれなくなり、また、中国全土で人々が注目するニュースだけに、下手なネットの検閲ができなくなったのではないか。

 ちなみに、それほどまでに話題となったニュースだけに、恒例といおうか、中国高速鉄道事故の被害者への募金を募る偽の募金サイトが多数立ち上がった。セキュリティソフトベンダー各社は「業者が本物か偽物か見極めた上で募金をして欲しい」と呼びかけている。

中国高速鉄道事故を報じる特集コンテンツ紙メディアも中国高速鉄道事故を大きく取り上げた

 

インターネット利用者、4億8500万人に

 中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は19日、2011年6月末時点でのインターネット利用状況をまとめた「第28次中国互換網発展状況統計報告」を発表、2011年6月末時点のインターネット利用者は4億8500万人、うちブロードバンド利用者は全体の98.8%を占める結果となり、また携帯電話による利用者は3億1800万人となった。

 また後日中国政府工業和信息化部の独自の調査結果によれば、ブロードバンド回線が導入されている家庭は半年間で1548万戸増となる1億4181万7000戸となった。CNNICの調査結果に関して詳しくはニュース記事(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20110722_462167.html)にまとめたので、そちらを参照してほしい。

加入戸数によるインターネットユーザー増減の推移。ピンクがブロードバンド、黒がナローバンド

 

注目度上昇中のミニブログ「新浪微博(ミニブログ)」でバーチャルマネーを導入

 中国高速鉄道事故で俄然注目が集まった中国版twitterもどきこと「微博(ミニブログ)」。本家twitterは中国国内からはアクセスできない。VPNを利用したTwitterを使うユーザーもいるのだが、あえて面倒なtwitterにアクセスしようとするネットユーザーは少数派。ほとんどのユーザーは、中国の微博サイトを利用する。このため、上述のCNNIC調査レポートによれば、ユーザー数はすでに1億9497万人に達している。

 一方で、中国の民間によるレポート「2011年7月国内社会化媒体分享数据排行報告(直訳すれば中国国内ソーシャルメディアのシェアデータランキングレポート)」によれば、最も人気のWeb 2.0サイトがブログ「QQ空間」で、その次の2位に日本でもしばしば紹介される「新浪微博」、3位に「騰訊(QQ)微博」が続く。4位と5位にSNSの「人人網」と「開心網」、6位に「捜狐微博」となる。

中国ソーシャルメディアランキング中国ミニブログのアクティブユーザー数推移。単位は億人(出典:易観国際)

 利用者でみるとSNSユーザーは2億2989万人でミニブログユーザーより多いが、アクセス数でいうとミニブログのほうが多いようだ。また7月に発表されたHPの調査結果によれば「twitterのユーザーはニュース寄りのつぶやきが多く、新浪微博はエンターテイメント系のつぶやきが多い」という。

 そんな新浪微博は第3四半期よりバーチャルマネーを導入すると発表した。人気のブログ「QQ空間」ではバーチャルマネーが導入済みで、アバターの服などが購入できる。エンタメ好きな中国人利用者の心理を突いて、やはりQQ空間のようにアバターの個性化などでお金を取るのだろうか。ちなみに他のWeb 2.0サイトはバーチャルマネー導入に消極的だ。

新浪微博新浪微博の微幣

 

ソフトバンクら、人気の第三者支払いサービス「支付宝」所有権めぐる交渉に終止符

 ソフトバンクと米Yahoo、それに中国の企業間売買サイト「アリババ」や、最も人気のオンラインショッピングサイト「淘宝網(TAOBAO)」、それに「Yahoo中国(雅虎中国)」を抱えるアリババホールディングスは、淘宝網などの決済サービスを行う「支付宝(アリペイ)」の所有権を巡る交渉で合意した(ソフトバンクのプレスリリース http://www.softbank.co.jp/ja/news/press/2011/20110729_01/)。

 そもそもの発端は、提携関係のあるソフトバンクやYahooに無断でアリババホールディングスCEOの馬雲(ジャック・マー)氏らが他の中国企業に株式を譲渡し、支付宝がアリババホールディングスの子会社から外れたため。合意事項は「アリペイの上場または株式譲渡等に際しては、アリババは、最低20億ドルから最高60億ドルの範囲で、実際のアリペイの企業価値に37.5%を乗じた金額を受領する」など。

 

グルーポン中国、中都市以下で苦戦

 クーポンサイトが乱立していることは、本連載でも何度かご紹介している。人気チャットソフト「QQ」の騰訊(テンセント)と提携し、中国進出を果たしたグルーポン中国こと「高朋」も、混戦の中で思ったように売上が伸ばせないようだ。同サイトは今年3月にサービスを開始。以後、127の都市に対応し、省都クラスの都市に50人前後、それ以下の中都市には20~30人のスタッフを配備し、スタッフ総数3000人体制を敷いたものの、中都市の業績が好ましくないため中都市ではスタッフを大幅に削減するという。

 リサーチ会社の易観国際(Analysys International)によれば、中国の著名クーポンサイトの訪問者数別ランキングにおいて高朋は毎月利用者が伸びているものの、現状はシェア8番目となっており、グルーポンとは関係のない7位の「GroupOn.cn」よりもランキングは下となっている。

クーポンサイト都市別サイト数中国のクーポンサイト別ユーザー数。出典:易観国際シェア7位のGroupon.cn。米Grouponとはまったく関係ない

 

三行広告の「赶集網」、無料出会い系サービスをリリース

 先月の記事で、中国大手婚活サイト「世紀佳縁(jiayuan)」がナスダックに上場し、また「赶集網」をはじめとしたイエローページ的サイトが普及しようとしているという話を別々に紹介した。7月は偶然にも2つのサイトが絡んでくる。

 7月末世紀佳縁をはじめとした婚活サイトを舞台に、偽りの身分を称した男性が多額のお金を騙し取ったとして、複数の被害者が集団提訴した。この問題により世紀佳縁の審査の品質に疑いがかけられた。一方で各都市の「売ります雇います」といった情報の場を提供していた赶集網が、無料の出会い系サービスを提供開始。会員登録が有料の世紀佳縁ら婚活サイトと競合することに。赶集網も無料ながら利用者の審査を行い、トラブルが発生しないようにするとしている。婚活サイト市場はより競争が激化していくことだろう。どのようなサービスや価格で利用者を囲い込むか。

 

中国検索市場、Google撤退も広告は根強く残る

 中国の調査会社「Analysys International」は2011年第2四半期における中国検索広告市場の調査結果「2011年第2季度中国搜索引擎市場季度監測」を発表。百度がシェア75.9%でトップ、Google中国(谷歌中国)は18.9%で2位、以下中国のサービスの「捜狗(2.4%)」「捜捜(1.4%)」「網易有道(0.4%)」が続いた。

 Google絡みのトピックでいえば、6月末までに運営ライセンスが発行されないと運営できないとされ、Googleが取得できていなかったとされる地図サービス。7月を過ぎ、8月になっても同地図サイトはいままで通り利用できている。検索サービスと異なり、モバイルにおける地図サイト利用においてはGoogleMapの利用者は多く重宝されているようだ。しかし過去のケースを考えるに別のサイトがGoogleのシェアを喰ってしまうようであれば、突然ライセンスを理由にアクセス禁止にするかもしれない。

中国検索広告市場シェア推移

 

ネットサービスのあり方を示した規定を中国政府が発表

 27日、中国の情報産業省こと「工業和信息化部」は、ネットサービスのあり方を示した「互聯網信息服務管理規定」を発表した。同規定ではソフトウェアのインストールを強制したり、アンインストールが難しかったり、無数の広告を表示したりすることを禁止するもので、違反した場合1万元(約12万5000円)から最大で3万元(約37万5000円)の罰金刑が課せられるというもの。

南京の大学、通達文書にネット文体でユーザーがドン引き

 中国を牽引する消費者は20歳前後から30代後半のネット世代だ。このため街中でも、この世代向けにネットの流行語やネット文体を取り入れた広告をよく見かける。しかし、それも度を過ぎると逆に引かれてしまうようだ。

 南京理工大学が受験生に向けて、ネット文体でフレンドリーに入試情報を通達した結果、受験者は「何かおかしい」と地元メディアに連絡。地元メディアが報じるや、「やりすぎ」「悲しい」「気持ち悪すぎ」といったネットユーザーのコメントが、ニュースサイトの感想欄に多数書き込まれた。


関連情報

2011/8/15 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。