山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

北京で公衆無線LANスポットが激減? 公衆無線LAN規制の動きが話題に ほか~2011年8月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を取材拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

北京で公衆無線LANスポットが激減? 公衆無線LAN規制の動きが話題に

「Wi-fiもグリーンダムに」という記事だが、多くのニュースサイトでこうした記事が掲載された後に削除されている

 中国ではADSLの契約はもちろんのこと、携帯電話契約時のSIMカードの購入やインターネットカフェの利用に至るまで、身分証明書を提示しないと契約することができない。過去に政府がパソコン所有者全てに対しフィルタリングソフト「グリーンダム」の強制インストールを実施しようとしたのをはじめとして、中国政府の立場でいう“健全なインターネット環境”のために実名制になっている。

 そんな中、いまや中国の大都市では当たり前になっている“ちょっとお洒落なカフェ”をはじめ街中の店舗に設置されている公衆無線LANだけは、実名で登録しなくとも利用できた。しかし、この公衆無線LANも近いうちに、登録手続きが必要になる可能性が出てきた。

 首都でありネット環境が上海以上に進んでいる北京市では、北京市中心に位置する東城区政府が「関于開展非経営性上網服務場所依法落実安全技術保護措施的通知(意訳すれば、ネットサービスを付帯する場所における安全保護装置設置の通知)」を6月に発表した。発表当初はメディアの扱いも小さかったが、8月になって多くのメディアがこの問題を取り上げ、物議を醸している。

 この通知は具体的には、ホテル・バー・カフェなどのネットサービスを提供する店舗などにおいて、「公共ネットサービス向け安全管理システム(互聯網公共上網服務場所安全管理系統)」の導入を義務付けするもの。利用者の利用履歴が60日間残る仕様といわれるシステム導入には2万元(24万円強)がかかる。利用者からは「グリーンダムの再来か」「個人情報が漏洩するのでは」と不安の声が上がり、店舗側からは「システム導入のコストがかかりすぎる」と不満の声が上がっている。

 実際に導入が強制された場合には、導入コストを嫌った店舗が公衆無線LANサービスの提供をやめる可能性がある。成り行きしだいでは、街中の公衆無線LANスポットが激減するかもしれない。


北京の「中国版秋葉原」で自殺志願者、ネット連動で多数の人が関心

「特警制服海淀黄庄」で動画検索すると多数動画がアップされているのが確認できる

 最もITリテラシーの高い北京の中でもとりわけ先端を行く「中国の秋葉原」と言われる「中関村」で事件があった。一人の若者が大通りの真ん中で刃物で自殺を図ろうとし、警察官数人が取り押さえたというもの。周囲のビルから撮られた一部始終の動画は、動画サイトにアップされ、さらにミニブログ(微博)に転載されたことで爆発的に情報は拡散、動画再生回数は100万回を超えた。

 中国で最もIT普及度が高い地域だから現場が撮られ、情報が平均以上に素早く拡散したのだろう。中国高速鉄道事故でも情報がスマートフォンやミニブログにより広がったが、今後さらにITが普及すればちょっとした事件でも、この事件のように現場にいる一般の人が情報発信、多くの人が情報を共有することで、情報の流れが変わってくると思われる。


楽天中国、中国で人気のクーポンサービスを正式に開始

楽天中国のクーポンサイト「歓楽団」

 楽天中国こと「楽酷天」でも、中国で人気上昇中のクーポンサービスが正式にスタートした。名称は「歓楽団」(http://event.shop.rakuten.com.cn/gold/)。Apple、Nike、Nokiaを筆頭とした内外著名ブランド商品を扱っているのが歓楽団最大の強みだ。

 GroupONを筆頭としたクーポンサービスは、7月に月販売総額がはじめて10億元(120億円強)を超え商人気質の中国人消費者の心を掴む一方で、、サービスが劣悪なサイトも多く「ニセモノを販売」「発送が大幅に遅延」など問題は日々増えている状況だ。最も普及する北京では、今年に入って早くも100サイト以上が突然の自主閉鎖をしている。さらには新手の商売として、クーポンを買い占めて転売を行うサービスまでが登場して問題になっている。

 こうした背景から、中国市場のネットサービスでは“信頼”が重要視されており、楽酷天はブランド商品と信頼で多くの顧客を掴むことができるかが注目されている。


平井堅、倉木麻衣、レディー・ガガなどの一部楽曲の配信を政府が禁止

 中国政府文化部は「第三批未経内容審査或備案的網絡音楽産品名単(第3回規則違反オンライン音楽製品の除去に関する通告)」で、試聴やダウンロードなどを禁止する曲100曲のリストを発表。その中に平井堅、倉木麻衣、レディー・ガガ、ブリトニー・スピアーズ などのアーティストの一部楽曲が含まれている。

 中国文化部は、「ネット音楽市場の秩序をコントロールすべく、歌詞の内容が低俗で国家文化に危害を与えるものを禁止とした。各コンテンツ配信業者は9月15日までに該当曲を削除しなくてはならない」と発表している。100曲のリストに入った邦楽は平井堅の「Sing Forever」「いとしき日々よ」「CANDY」「R&B」、倉木麻衣の「もう一度」の5曲。

最高裁ら、クラック行為における刑罰を規定

 中国の最高裁にあたる「最高人民法院」と最高検察庁にあたる「最高人民検察院」はクラック行為における刑罰を規定した「関于方理危害計算机信息系統安全刑事案件応用法律若干問題的解釈」を発表した。ウィルス数は毎年8割増で増えていて、公安機関が受理したクラッカーによる被害件数は毎年前年比2倍以上の勢いで増加している。

 新しい「解釈」によると、金融機関の個人情報を10件以上の不法取得/その他のユーザー・パスワードを500件以上の不法取得/20台以上のPCをクラッキング/クラッキングによる5000元(6万円強)以上の不法所得ないしは1万元(12万円強)の経済損失で3年以下の懲役となる。また、この5倍以上の数字を記録する犯罪の場合は、3年から7年の懲役となる。

 8月12日には、四川省の大学生が2009年9月から2010年6月にかけて、依頼人からお金をもらって大学サーバーに侵入して成績を改ざんする作業を行った事件の裁判があり、裁判所は当時の大学生に対し懲役2年の判決を下している。

作家と出版社の団体が、海賊版撲滅を求め百度とAppleに要請

 海賊版撲滅を目的として、若手人気作家「韓寒」ら5人と出版社5社と出資者らにより7月よりスタートした「作家維権聯盟」。同聯盟は百度とAppleに対し小説の海賊版が配信されたときには強い態度で臨むよう要請した。

 百度は百度文庫(日本ではBaiduライブラリ)において海賊版が配信されており、一度は訴えて海賊版が消えたものの、1週間後には再度海賊版コンテンツが氾濫したことを挙げ、厳しい態度で臨むという。またAppleに対しては、App Storeにおいて海賊版が配信されていると指摘。これに対して同聯盟は海賊版配信を止めない場合は北京市公安局に依頼してAppleの権利侵害行為を追求してもらい、Appleの企業商標やiPhoneの商標や外観や機能の特許を凍結するよう申請するとして対処を求めている。

電子書籍にかける月あたりの費用(出典:CNNIC)電子書籍を1回につき読み続ける時間(出典:CNNIC)電子書籍を表示するデバイス(出典:CNNIC)

オンラインショッピングにおける贅沢品市場規模は1920億円規模に

 調査会社の易観国際(Analysys International)によれば、中国のブランドや貴金属などの贅沢品市場規模は2011年第2四半期で34億5000万元(414億円強)に達したという。第1四半期はそれより低い29億元規模であり、今後も成長が期待される市場であることから、2011年は年間160億元(1920億円強)規模の市場に拡大すると予想している。

 贅沢品オンラインショッピング市場が有望視されることから、今年に入り贅沢品専門のオンラインショッピングサイト数サイトが数千万ドル規模の融資を受けている。

易観国際によるオンライン贅沢品市場規模のこれまでと予測贅沢品専門のオンラインショッピングサイトとして有名な尚品網

検索サイト利用者の1割がGoogleを使用

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は「2010年中国検索サイト利用者行為研究報告」を発表した(中文 http://www.cnnic.cn/research/bgxz/ssbg/201108/t20110829_22657.html )。

 発表によると、検索サイト利用者の中で最も認知度が高い検索サイトは、「百度(96.3%)」が大きくリードしてトップ。

 以下2位「搜狗(71.7%)」、3位「Google中国(中国語で谷歌、67.1%)」、4位「搜搜(61.5%)」、5位「Yahoo中国(同雅虎 、47.4%)」、6位「網易有道(40.8%)」7位「新浪愛問(30.1%)」8位「Bing(同必応、22.9%)」の順となっている。

 最も利用する検索サイトでは人気の「百度(78.7%)」が圧倒的シェアを占める。2位以下は2位「Google中国(11.4%)」「搜狗(3.6%)」「搜搜(3.1%)」「Yahoo中国(1.2%)」となっており、トップの百度から大きく引き離されているものの、Google中国は百度に次ぐシェアを占める。

 商品情報を探す際には「百度(29.4%)」よりもオンラインショッピングサイト最大手の「淘宝網(46.7%)」を利用する人が多いものの、商品の値段別で使い分けが行われており、100元(1200円強)以下の低価格商品や、500元(6000円強)~3000元(3万6000円強)の商品はオンラインショッピングサイトで検索する傾向が強いものの、100元~500元の商品や3000元以上の高価格商品では検索サイトを利用する傾向が強いことが判明した。

2011年上半期の検索広告市場規模は前期比8.2%増の75億7000万元。出典:易観国際

中国の大学生はあらゆるサービスを積極的に利用

 CNNICは6歳~24歳までの中国人のインターネット利用実態をまとめた「青少年ネット利用行為調査報告」を発表した(中文 http://www.cnnic.cn/research/bgxz/qsnbg/201108/t20110819_22589.html )。2010年末における24歳までの利用者はインターネット利用者全体の46.3%にあたる2億1200万人。このうちの47.2%が12~18歳、45.8%が18歳~24歳となり、6歳~11歳は7%にとどまった。都市部農村部別では前者が1億4925万人、後者が6275万人。利用者の半分が、北京や上海などがある東部沿岸部に集中している。

 小中高生は従来に比べて、ネットカフェを自宅で利用する傾向が強くなっている。利用目的としては小学生はオンラインゲームが高いが、学齢が上がるに従ってオンラインゲームの利用率は低くなり、検索や音楽動画視聴やSNSやミニブログなどの利用率が高くなる。

 大学生になるとオンラインショッピングの利用率が高まり、オンラインショッピングの利用率はネット利用者全体では35.1%であるのに対して、大学生では62.8%と過半数が利用している。大学生の利用実態を見ると、オンラインショッピングだけではなく、メールや掲示板、ミニブログやSNSまで、利用者全体と比較して、いずれも利用率は飛び抜けて高くなっている。

中国若者インターネット利用者の利用用途

裁判所で人気チャットソフト「QQ」を利用した裁判を初めて実施

 北京の裁判所で初めてチャットソフト「QQ」を利用した裁判を実施した。離婚調停に関する裁判で、互いに1000km以上離れている夫婦が離婚調停を行うべく、北京と遠方の裁判所をQQでつなぎ、夫婦がそれぞれの裁判所に出廷したというもの。主にビデオ機能を使ったという。

 中国で最も人気のチャットソフト「QQ」を運営する騰訊(tencent)の四半期決算報告書によれば、QQのアクティブユーザー数は7億190万人で、最大同時オンラインアカウント数は1億3670万。

中国の報道から。QQの入ったPC一式をセットする裁判所2011年第2四半期の中国チャットソフトアクティブユーザー数は9億8900万。出典:易観国際


関連情報

2011/9/12 09:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。