山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

2013年中国ITトレンド予想、LINE参入でネットサービス戦争激化か〜2012年12月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

2012年の総括と2013年の中国ITトレンド予想

今年はもっと多くの人にスマートフォンが行き渡る

 中国の複数のニュースサイトは、各サイトでそれぞれ2013年のトレンド予想を発表した。

 SNSでは、マイクロブログ「微博(Weibo)」が人気であり、ポータルサイトの「騰訊(Tencent)」と「新浪(Sina)」それぞれが億単位のユーザーを獲得している中、騰訊がリリースしたLINEのようなコミュニケーションサービス「微信(WeChat)」が最も利用されるSNSサービスになるのではないかと予想。

 微信は1月に3億ユーザーを突破する見込みで、同種のサービスは複数あるが、頭ひとつ抜けている。そこに新興ながら勢いあるネット企業「奇虎360」が、NHNと提携しLINEを中国向けにリリースすることが、12月に発表された。

 奇虎360は勢いがあるだけでなく、なりふり構わない姿勢で、競合企業との喧嘩を何度か本連載でも取り上げてきた。2010年には、奇虎360のセキュリティソフトが、騰訊の人気チャットソフト「QQ」を有害なソフトとして、クライアントソフトを使えなくさせ、訴訟合戦となったことがある。LINEのリリースで、再び企業間トラブルが起きるかもしれない。百度とも訴訟合戦になったことがある奇虎360だが、さらに上を目指すべく、検索サービスで中国から撤退したGoogleと手を組むのではという予想も。

 家電のオンライン販売でも動きがありそうだ。家電量販店大手の蘇寧電器(Suning)や国美電器(Gome)は、同社のオンラインショッピングサイトを百貨店化すべく、ベビー用品や本など他品目に強いオンラインショッピングサイトと提携する動きがあったがうまくっておらず、原点回帰するのではないかと言われている。一方で、家電に強いオンラインショッピングサイトの「京東商城」は、犠牲をともなっても今年上場すると複数メディアが予想している。オンラインショッピングサイト全般では、各サイトが消費者金融に参入するとの予想も。

 スマートフォンでは2012年前半に台風の目となった、中国人も驚いた高コストパフォーマンスなスマートフォン「小米手机(Xiaomi)」が失速するのではないかと予想。同社製品のファンはAppleのファンのように斬新な新製品を望んでいるが、その期待に応えられないのではないかと言われている。

 スマートフォンでは3Gがさらに普及することから「モバイル動画元年」という予想がある一方、同じネット端末でもスマートテレビでは、「中国広電総局がライセンスを与えた7社しかテレビでの動画配信をしてはならない」という通称“181号文”によって衰退を予想する記事もあり、スマートテレビの生き残りはこの法の改正次第だと論じている。

百度、2012年の検索ランキングを発表

 検索サイト最大手の百度は、2012年の検索ランキングを発表した。

 PC向けサイトでは1位より「淘宝網」「QQ空間(騰訊によるブログ)」「4399小遊戯(ブラウザゲームポータル)」「優酷(動画)」「火影忍者(日本のアニメNARUTO)」「NBA(バスケットボールリーグ)」「新浪微博」「京東商城」「武動乾坤(ネット小説)」「快播(動画サービス)」となった。「火影忍者(NARUTO)」と「NBA」以外はウェブサービスの名称だ。

 モバイル向けサイトでは1位より「小説(ネット小説)」「淘宝」「微信」「新聞(ニュース)」「釣魚島」「美女」「笑話(おもしろい話)」「軍事」「中国好声音(歌手オーディション番組)」「江南style」となった。スマートフォンで尖閣諸島について検索する人が多かったようだ。

 中国人民大学のネット世論分析研究所は、これを分析。男女と年齢でも状況は異なったとしている。性別面では男性はゲーム、女性はドラマや映画や買い物情報の検索が多い傾向となった。年齢面では10代で漫画やQQや家庭教師の情報を、20代でSNSや求職やスポーツ情報を、30代では育児や不動産情報を、40代以上は注目の事件やドラマを検索する傾向がある。また、ニュースでも、20代では事件や食品の安全に、30代で社会の公平性が絡むニュースに、40代以上で娯楽や事件に関心を持っており、世代ごとに違いが見られた。

2012年のネット世論は尖閣問題の話題が圧倒

2012年に著名コミュニティサイトで話題になった事件ランキング

 主にマイクロブログ「微博」で政府関係者がオフィシャルアカウントを作成し、ネット世論を誘導し補正する「微博問政(人民網輿情監測室)」。その旗振り役となっている、人民網のネット世論観測室は、著名微博、SNS、掲示板サイトで話題になった事件についてまとめた「2012年ネット世論報告」を発表した。

 それによれば、「尖閣問題」が2位を大きく離し1位に。2位以下は「ロンドンオリンピック」、「神舟9号(ロケット)」「スカボロー岩礁(フィリピンと領有権で争っている岩礁)」「舌尖上的中国(美食旅行番組)」「莫言氏ノーベル文学賞受賞」と続いた。20位以内には、毒性のカプセルや建築物崩壊などのニュースのほか、小さな地域での民主化暴動や政府内スキャンダルなどもランクインしている。

 また同監察室のレポートによれば、国際的な話題や、反汚職の話題の書き込みや、「美しすぎる〜」絡みの話題が2011年以前より増えたという。2013年はより多くの人が中国絡みの国際問題に関心を持ち、感情的な愛国系書き込みが増えると予想しており、それに備え一層の微博問政の人員強化を提案している。

 筆者の個人的主観も交えて振り返ると、尖閣問題は中国全土で中国政府の言い分を紹介した上に、全土の都市部で反日デモが起きたため、ふだんは国際的な話題に関心を持たない層も興味を持ち、ダントツの1位という結果となった。その副作用として、尖閣問題に関する書き込みが消されたり、尖閣問題に関する検索結果が一部調整されたりと、ふだんは関わることのなかった中国のネット検閲に、はじめて直面する人も増える結果となった。2013年は、より多くのインターネットユーザーがネット検閲の存在を認識した上で、ネット上で言葉を選んで書き込んだり、特定の話題を避けたりするだろう。一方で検閲する政府側は、より検閲を露骨に見える形で強化するのではないか。

個人情報保護を名目に、ネット管理を強化する法律を制定

全国人大常委会関于加強網絡信息保護的決定についての「書き込みたければ身分証を出せ」という絵

 中国当局は、インターネット管理を強化する法律「全国人大常委会関于加強網絡信息保護的決定」を制定した。これは個人情報や電子メールの情報を他人に販売することを禁じるなど、主に個人情報を守ることを目的とした法律となっている。ハッカーによる個人情報の盗み撮りと、個人情報の売買を防止する目的がある。

 また「決定」の文章内に短く書いてあるだけだが、「携帯電話や固定電話の手続きや“ユーザーが書き込むサービス”については、実名登録しなければならない」「法律や法規に違反した情報が流れた場合は、その情報を消すなどの措置をとった上で、やりとりを記録し、当局に通達しなければならない」いう文章も盛り込まれている。

 各社の微博のアカウント作成ページにも、さりげなく法律に関する記事へのリンクが置かれるようになった。今までも各サイトが規約や法律に触れるような書き込みの削除をおこなってきたが、それを法律で制定したため確固としたものとなったといえる。

 これに対し「検閲が強化される。さらに自由にものが言えなくなる」と解釈し、身構えるネットユーザーの意見も見られた。

オンラインゲーム窃盗団40人、数千人が被害

 複数の省に跨るオンラインゲームの窃盗団40人が各地で一斉に逮捕された。チャットソフト「QQ」により、中国全土の人々が繋がった犯罪グループだが、皆が同じ作業をするのではなく、「ネットカフェの各PC端末やサイトにトロイの木馬をしかけ、アカウント情報を抜き取る部隊」と「個人情報を購入し、その情報を元にゲームやチャットソフトなどオンラインサービスにログインし、ゲームのアイテムをリアルマネートレードで販売し稼ぐ部隊」にわかれ作業していたという。

 この犯罪グループによる被害総額は不明だが、1000万を超えるユーザーが利用するオンラインゲームにおいては、1カ月で数千のアカウントがこの手の被害に遭っているという。

NGなはずの大量のセットトップボックスが市場に流れる

 先月の記事で、ハイコストパフォーマンススマートフォン「小米手机」をリリースしたメーカー「小米(Xiaomi)」が、セットトップボックス「小米盒子」をリリースしようとするも、テレビ向けネット動画配信ライセンスがないため、政府サイドから待ったをかけられたことを書いた。

 とはいえ複数の小メーカーから動画サイトの動画がテレビでみられるセットトップボックスがリリースされている状態だ。ところが中国メディアのその後の調査で、深センを中心にこの手の製品が売られているどころか、よく売れているという。統計によれば2011年末で300万台のセットトップボックスユーザーがいたが、一層増えることだろう。

 中国では、セットトップボックスしかり、またゲーム機しかり法律により規制を強化すると、審査が必要な名のあるメーカーや外資系メーカーが法律遵守のため製品審査に時間をかけている間に、無名の会社が同種の製品をリリースして市場をとることがままある。

新浪微博の年越しのつぶやき数、昨年より大幅増

google発表の新年ツイート数

 マイクロブログ「新浪微博」は、年明け最初の1分間でつぶやき数が73万弱に達する新記録を出した。前年の春節時のツイートが48万とのことなので、1.5倍の増加となる。twitterでは、同社プレスリリース「Celebrating 2013 in the global town square(http://blog.twitter.com/2013/01/celebrating-2013-in-global-town-square.html)」によると、時差のない日本と韓国で新年を迎えた時に、1秒間で3万3388回ツイートされている。

 なお、中国人にとっては、本当の正月は春節(旧暦の正月、2013年は2月10日)だ。このときにはさらに多くのつぶやきが、集中することだろう。

百度のクラウドサービスが搭載されたスマートフォンがレノボから

 「小米手机」にはじまる高コストパフォーマンスなハードウェア競争が起きる一方で、ソフトウェア面においても、いかに各ポータルサイトがスマートフォンでのポータルサイトをとるかで競争が始まっている。

 阿里巴巴のクラウドサービスが搭載されたAndroidのカスタムOS「阿里雲OS」は、2012年7月に発表され、「阿里雲OS」搭載のスマートフォンも2012年秋に数社からリリースされている。

 今回は、百度のクラウドサービスが搭載されたスマートフォン「A586」がレノボからリリースされて話題になっている。レノボからリリースされたということで、AndroidのカスタムOS「楽Phone」が搭載されている。4.5インチIPS液晶、1.2GHzデュアルコア搭載のこの製品、999元(約1万3000円)というキリのいい価格で普及を目指す。

 百度のクラウドサービス搭載のスマートフォンは、今回のレノボのほか、デル、家電メーカーのTCLや長虹(CHANGHONG)からもリリースが予定されている。

レノボ&百度のA586
2012秋に発売された、阿里巴巴の阿里雲OS搭載スマートフォン

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」など。