山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国は公然とネットの壁強化を宣言「不良情報は管理しなければいけない」 ほか~2015年1月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国は公然とネットの壁強化を宣言「不良情報は管理しなければいけない」

 中国ではネット規制のため、TwitterやFacebookやYouTubeやGoogleにアクセスできない。それらのサイトを利用するために、現在ではVPNが最もよく使われる(以前はプロキシサーバーも使われていた)が、ネット規制を強化したため、一部のVPNサービスが利用できなくなった。環球時報は、1月21日より利用できなくなったと報道している。

 1月27日の国務院の新聞発布会では、香港メディアの記者がVPN規制でインターネットの自由がより失われることについて質問すると、政府サイドは「中国のインターネットが発展するには、よい政策が必要であり、中国の法律法規に従わない不良情報は管理しなければいけない。中国の政策が成功したからこそ、阿里巴巴(Alibaba)はニューヨーク証券取引所に記録的な上場を果たせたし、4Gの利用者も急増している」と、経済発展を論拠に正当性をアピールした。

 つまり、中国国内のサイトに不良情報と認められた書き込みやアカウントやサイトがあれば消すのと同様に、中国国外の管理できないサイトについては、サイトにアクセスできなくするし、そのためには政府非公認のVPNサービスを規制するというわけだ。以前はこの手の質問では、「中国のインターネットは自由でオープンだ。質問の意味が分からない」という回答が定番であったが、堂々とネット検閲を認める回答となった。

 淘宝網では、以前はいくつかのVPNサービスの出品が見られたが、VPN規制後はこれらの出品は取り消されたようだ。また、中国の検索サイトで「翻壇(壁越え)」で検索すると、検索結果が表示されないのではなく、サイト自身にアクセスできなくなるようになった。

 ただし英語や日本語でのネットの壁越え情報は確認でき、また、中国在住の日本人のTwitterやFacebookアカウントの利用はあまり変わらないのを見る限り、過去もそのような傾向があったが、中国人がネットの壁を越えることをまず防ごうとしているようだ。

 ネットの壁がらみのニュースでは、中国のネットの壁に関するニュースを報じるGreatfire.orgの中国語アカウントを狙って、Outlookのメールサーバーが中国当局からのサイバー攻撃(MITM攻撃)を受けたというニュースがあった。

中国初の民営のオンラインバンク「微衆銀行」が騰訊から

 1月18日、中国3大ネット企業の1つ、騰訊(Tencent)傘下の民間銀行「微衆銀行(WeBank)」の試験営業が始まった。同行は店舗を持たないインターネット銀行だ。

 騰訊といえば、チャットの「QQ」、2大微博の1つ「騰訊微博」、「微信(WeChat)」など、コミュニケーション系サービスで知られている(それでいて同社の稼ぎ頭はオンラインゲームだ)。最近では、微博や微信を利用したフォロワー向けEC「微商」や、エスクローサービス(第三者支払サービス)の「微信支付」など、金融系サービスへの進出も目立つ。同社の8億のQQユーザー、5億超の微信ユーザー、3億の微信支付利用者のビッグデータが同社の武器。ビッグデータから与信や貸付上限を決めていく。QQサービス用のバーチャルマネー「QQ幣」やオンラインゲームの課金も調査対象だ。もちろん、同行を利用してもらおうと、QQや微信で働きかけるだろうし、また中国での商習慣を考えるに、利用すれば利用するほど金一封がもらえるというボーナスを用意してそうだ。

微衆銀行

 微衆銀行だけではない。天猫や淘宝網などECに強い中国3大ネット企業の1つ「阿里巴巴」も、近々傘下の銀行を開業予定で、インターネット企業による金融市場の進出は加速していく。

 国際的なユーザー数が億単位の米国発のインターネットサービスは多数あるが、中国では閉じた中でユーザー数が億単位のインターネットサービスがあり、大手ネット企業によって、SNSやECや金融など、あらゆる融合が進行している。

最新統計で、スマホでのEC利用者顕著な増加が判明

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、2014年末における中国のインターネット状況をまとめた「第35次中国互聯網発展状況統計報告」を発表した。中国のインターネット利用者が6億4875万人となったことを発表した。スマートフォンなどモバイルインターネットの利用者は5億5678万人。インターネット利用者の増加ペースは2013年以降落ちている。

 利用用途別では、目立って利用者が増加したのが、オンラインショッピングと、それに伴うエスクローサービスや銀行振込で使われるのオンラインペイメントだ。また、スマートフォンでは3G/4Gの普及により、多くの利用用途で前年比で数十パーセントの増加を見せた。一方、微博だけが目立って減少した。

 CNNICの「中国互聯網発展状況統計報告」の発表は、毎年1月15日~20日にその前年の統計が、毎年7月15日~20日に上半年の統計が発表されるのがここ10年以上の通例だが、今回は1月に利用者数だけが発表され、2月に入って統計資料が公開された。

 詳しくは、本誌2月7日付記事「中国のインターネット利用者は6億4875万人、スマホでのEC利用増加が顕著に」を参照。

日本での転売逮捕者に在日中国人が騒然

 1月19日、京都外国語大で契約職員として働く中国人女性が、3年間で約3500万円分の商品を海外へ発送し、約1000万円の利益を得ていたとし、出入国管理法違反(資格外活動)の疑いで逮捕されたというニュースがあった。

 中国では、安全・安心で高品質な日本商品のニーズがあり、日本旅行時には、自分や家族用だけでなく、知人の依頼や商材の仕入れも含め、たくさん買って帰国するのは知られているところ。また、少なからぬ在日中国人は、淘宝網、微博(Weibo)や微信(Wechat)を使って、ビザの種類を問わず転売で稼いでいるため、そのニュースは大きな衝撃となった。

 広州日報は1月24日、この事件を受けて「海外做代購守法是前提(海外での転売は法の遵守が前提)」という記事を掲載。「郵便局はチェックしないが、入管はチェックする」とし、「話者の個人的意見だが、個人での輸出ビジネスは減り、企業化が進むのではないか」という内容となっている。

家電大手で世界的な携帯電話メーカーのTCL、Palmを買収

 家電大手で携帯電話・スマートフォンもリリースするTCLが、PDAで一時代を築いたPalmを買収した。Palmは2010年にHPの子会社となったため、HPからの買収となる。

 TCLは中国市場では家電では知られている一方、携帯電話・スマートフォンではあまり目立った感じはないが、世界市場でのシェアは高い。調査会社のガートナーの世界の携帯電話(スマートフォン含む)販売台数で、サムスン、ノキア、Apple、LG、ファーウェイに続く6位に位置し、その数字はXiaomiやLenovoを上回る。

 プレスリリースでは「生産・供給能力と、全世界的なサポート体制でPalmブランドを復活させる」としている。

TCLの携帯電話のラインナップ(一部)

阿里巴巴、イスラエルの二次元コード企業に投資、中国で二次元コード競争が起きるか

 阿里巴巴は、イスラエルの二次元コード開発企業のVisualeadに投資することを発表した。投資金額は明らかにされていない。VisualeadのCEOであるNevo Alva氏は、「阿里巴巴とともに、二次元コードVisualeadで世界のO2O(Online to Offline)の世界標準を作っていきたい」とコメントしている。

中国で普及しそうなVisualead

法やルール未整備のまま、専用車サービスがスタート

 去年、普及したインターネットサービスの1つにタクシー呼び出しサービスがある。特に「快的打車」「滴滴打車」が有名だが、こうした企業が専用車サービスに進出し、物議を醸している。1月には快的打車と滴滴打車のほか、「一号専車」「AA租車」といった専用車提供企業、さらにはレンタカー大手の「神州租車」も参入し、話題となった。この先さらなる中小企業が参入し、淘汰が行われる可能性がある。

 一方で中国では、もともと許可をとっていない白タクが当たり前のように存在し、白タクによる詐欺まがいの事件が横行しているため、白タク対策が現在進行形で厳しく行われている。専用車サービスは、車をレンタカーで借りて、人材派遣会社からのドライバーでやりくりしているので、現場では専用車が白タク扱いとなり、違法サービスを提供していることになる。

 つまり、法やルールの整備の前にサービスが見切り発車され、企業間の競争が早くも起きたわけだ。滴滴打車など一部企業は、警察に専用車サービス用の車のナンバーを何度か届け出て対処しているものの、企業間競争の中で車は随時増えている中で、未登録の車が現場で発見され罰金を払う事例が絶えない。

モバイルゲームユーザーは4億6200万人、オフラインでの利用がなお多い

 中国の調査会社「iiMedia Research」は、携帯電話・スマートフォン向けゲームに関する調査報告「2014Q3中国手机遊戯市場季度監測報告」を発表した。

 それによると、2014年9月末時点で、中国の携帯電話・スマートフォン向けゲームユーザー数は3カ月前と比べて3.1%増の4億6200万人。増加の速度は緩んできたとしている。男女比は63:37。全ゲームユーザー中の53.5%が、ゲームの最新状況に注目しているという。66.3%がWi-Fi経由でアプリをダウンロードしてオフラインで遊び、29.8%が3Gないし4G回線を利用して遊んでいるという。また、1日のプレイ時間は10分以内が20.8%、10~30分が42.5%と、30分以内が半数以上を占めた。

 ゲームタイトルを知る手段は、多い順に、アプリストア(57.4%)、ブラウザー(40.6%)、SNS(37.6%)、モバイル向けゲームポータルサイト(21.8%)、サイト広告(13.9%)。

中国モバイルゲームユーザー数と増加率

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。