被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー
「サンドイッチ世代」はどうしたらいい?
なぜ80代は詐欺を恐れないのか? データから見る「慢心」の正体と、高齢の家族を守る「仕組み」作りの勧め
2025年12月26日 06:00
現代社会において、スマートフォンは生活に欠かせないライフラインです。しかし同時に、そこは悪意ある第三者が踏み込んでくる「玄関口」になってしまいました。テレビをつければ連日のように報道される特殊詐欺やフィッシング詐欺の被害。誰もが「明日は我が身」と戦々恐々としているかと思いきや、実はそうではないことが最新の調査で明らかになりました。
我々は「高齢者ほど詐欺被害に対して敏感で、日々不安を感じながら生活しているのではないか」とイメージしがちですが、トレンドマイクロ株式会社が実施した「電話・ネット詐欺不安度調査」によると、客観的に見て最も被害に遭いやすい高齢者層ほど、主観的な不安を感じていないという「意識のねじれ」があるというのです。
電話やネットによる詐欺の被害に対して「不安を感じる」と回答した人の割合(「非常に不安」と「やや不安」の合計)は、前年代の平均で77%。社会的責任が重く、情報の扱いに慎重になる50代がピークで、82%です。働き盛りであり、親の介護や子供の教育などもあって、守るべきものが多いこの年代が警戒心を強めているのは納得のいく話でしょう。
問題はそこからです。年齢が上がるにつれて不安度は徐々に低下していき、80代以上では66%にまで落ち込むのです。これは全年代の中で最も低い数値です。
現実の被害状況はどうでしょうか。警察庁が公開している資料では、特殊詐欺における65歳以上の高齢被害者の割合は52.9%と過半数を占めています。さらに、オレオレ詐欺の被害者年齢層に限定すれば、2025年上半期で最も多かったのは「80代以上」でした。
このように、客観的には最もリスクが高い層が、主観的には最もリスクを軽視している状況を、トレンドマイクロは「慢心」と表現しています。この調査結果が本当に「慢心」の現れであるかは分かりません。しかし、長年の人生経験から「自分は怪しい話ぐらい見抜ける」と思ってしまう、というのは、さもありなんと思える話です。実際、自分の両親(あるは祖父母)もそう言いそうだ、と感じる人もいるかもしれません。
しかし、現代の詐欺の手口は、そういった人生経験豊富な人を狙ってだますために進化しています。最初は電話から入って、高齢者が使い慣れないメッセンジャーやビデオ通話に誘導したり、警察官や弁護士など複数の専門家を名乗る詐欺師が代わるがわるコンタクトして混乱させたりと、かつての経験で切り抜けられるか怪しい、ネットが進化した時代ならではの手口も登場しています。
詐欺グループにとって、不安を感じて日頃から警戒している相手よりも、「自分はしっかりしているから関係ない」と高を括っている相手のほうが、攻略はずっと容易です。なぜなら、後者は防御壁を自ら下げている状態だからです。一度信じ込ませてしまえば、自らの判断が正しいと信じ続け、周囲の制止さえも「余計なお世話」と振り払ってしまうことさえあります。これが被害を拡大させる要因の1つともなっているのです。
親の安全と自身の生活の狭間で揺れる「サンドイッチ世代」のジレンマ
今回の調査で、もう1つ明らかになったことがあります。それは、自分のことよりも家族のことを心配する現役世代の姿です。調査によれば、家族が詐欺被害に遭う可能性に対して「不安」と回答した人は85%に上り、自分自身への不安(77%)を上回りました。特に40代・50代においては、その割合が9割を超えています。
上には高齢になり判断力が低下しつつある親がおり、下にはこれから教育費がかかる子供がいる。自身の仕事でも責任ある立場を任され、時間的にも精神的にも余裕がない日々を送っている世代です。彼らにとって、離れて暮らす親が詐欺被害に遭うことは、金銭的な損失だけでなく、ショックを受けた親の心身への影響を受け止めることになる可能性もあります。
とはいえ、親のそばに四六時中いるわけにもいきません。実家の親に対してできることといえば、たまに電話をして「変な電話には出るなよ」と釘を刺すことくらいでしょう。しかし、「分かってるよ、子供扱いするな」と返されれば、それ以上強くは言えなくなるのが親子というものです。
この「守りたいけれど、物理的にも心理的にも踏み込めない」というジレンマは、彼ら「サンドイッチ世代」にとって大きなストレス源となっています。電話一本で数百万円・数千万円が消えてしまうリスクが常にある中で、有効な手立てを打てないと悩んでいる人は多いでしょう。
個人の注意力に頼る限界を超える「テクノロジーと家族の連携で止める仕組み」を作る
では、悩めるサンドイッチ世代は、どうすればいいのでしょうか。その答えの1つが、トレンドマイクロなどのセキュリティベンダーが提供する詐欺対策アプリのような、テクノロジーを活用した「仕組み化」です。個人の注意力に依存しない防御策として、AIなどの最新技術を活用した「見守り」のアプローチが注目されています。
例えば、詐欺に使われている電話番号や詐欺と思われるメッセージを検出するアプリが販売されています。本人が「怪しい」と感じるよりも前に、システムが警告を発したり、家族に通知を送ったりすることが可能になります。重要なのは、これを「監視」ではなく「安全装置」として導入することです。
ITの導入に抵抗を感じる高齢者は多いでしょう。そのため、「あなたを信用していないから監視する」のではなく、「あなたが大切だから、万が一のときのエアバッグを用意したい」という文脈で伝えることが、親のプライドを守りながら対策を進める鍵となるでしょう。
また、テクノロジーだけでなく、アナログな行動の「型」を決めておくことも有効です。「お金の話が出たら、必ず一度電話を切って家族に相談する」「知らない番号からの電話は留守番電話設定にしておく」といったシンプルなルールです。これだけで、詐欺被害に遭う可能性がぐっと下がります。
今度の週末や年末年始に実家に帰ったとき、あるいは電話をかけたとき、単に「詐欺に気を付けて」と言うのではなく、「最近の詐欺はAIを使って声まで真似るらしいから、あえて合言葉を決めよう」と提案してみてはいかがでしょうか。「新しい見守りサービスが出たから、プレゼントさせてほしい」と切り出すのもいいかもしれません。そんな「やわらかなセーフティネット」を各家庭で張り巡らせることこそが、巧妙化する詐欺から大切な人を守ることにつながります。
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※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと





