被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

“もしも”のときに備えておこう!

ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと

 最近、筆者が所属するNPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)への問い合わせが急激に増えてきました。とはいえ、そのほとんどが被害に遭った後というケースです。

 ネット詐欺を含むサイバー犯罪は、お金を渡してしまった後に被害回復することがとても難しいという特徴があります。犯罪者は匿名性の高い手法を活用していることが多く、警察でも簡単に追跡できないのです。

 そのため、デジタルリテラシーを身に付けることが重要です。ネット詐欺に出会っても、例えば「宝くじに当たりました」というメールが届いたり、見知らぬ美男美女からSNSで口説かれたとしても詐欺であることに気付けば無視できます。

 警視庁が公開している「インターネット利用詐欺」ページで被害防止策が紹介されているのですが、「インターネット上の取引は、『自己責任』であることを忘れないようにしましょう」と書かれています。自分で自分の身を守る必要があるのです。

 とはいえ、被害に遭ってしまったら、対処するしかありません。

 まず、最も重要なのは証拠を削除しないことです。メールやSNSでやり取りしたメッセージ、アクセスしたウェブサイト、振り込み履歴など、全ての情報が必要になります。犯人が証拠を消してしまう可能性があるので、ダウンロードできるものはダウンロードし、できないものは画面キャプチャーを撮りましょう。証拠の取り方については、過去記事「慌てて消すのは逆効果! ネット詐欺に遭ったときの証拠保全」で紹介しているので、参照してください。

SNSなどでやり取りした証拠を残しておきましょう。他のスマートフォンで写真を撮る方法もOKです

 国民生活センターに相談しても良いでしょう。消費者ホットラインの電話番号は「188(いやや!)」です。その際、相談内容を具体的に伝えるようにしてください。日々、DLISの元に届くメールも、「詐欺に遭いました、どうしたらいいでしょうか」の1文だけで、何がなんだか分からない、ということも多いのです。

詐欺に遭ったと思ったら消費者ホットライン「188」にかけてみましょう

 いつ、どんな方法で詐欺に遭い、いくら渡したのか。詐欺事業者の名前、ウェブサイトのURL、メールアドレスなども必要です。また、自分を良く見せようとして情報を隠すのもNGです。1億円に目がくらんだとか、アダルトサイトを見たとか、怪しいウェブサイトに登録しようとした、といった行為が原因でも正直に言わなければ対応のしようがありません。その際に、画面キャプチャーで記録した証拠がものを言います。

 フィッシング詐欺やサポート詐欺の被害に遭い、クレジットカード番号を渡してしまった場合は、クレジットカード会社などに問い合わせましょう。カードを停止して、再発行することになります。その後、DLISや各都道府県警察の「フィッシング110番」に報告しましょう。フィッシング110番ではフィッシング詐欺に関する情報提供を呼び掛けています。

 被害金額などが大きい場合は、警察庁サイバー犯罪対策プロジェクトのウェブサイトからお住まいの地域のサイバー犯罪対策課を探して相談しましょう。

警察庁サイバー犯罪対策プロジェクトのウェブサイトから各都道府県の相談窓口へリンクが用意されています

警視庁も注意喚起、詐欺被害の解決をうたう探偵業者にご用心

 だまし取られたお金をどうしても取り返したいなら、弁護士に依頼することになります。しかし、複雑な手続きがあるので時間がかかり、コストがかさんでしまいます。しかも、必ず返金されるという保証はありません。

 困った被害者は、ネットで見つけた探偵業者に辿り着くことがあります。警視庁はホームページで架空請求詐欺や国際ロマンス詐欺の被害者が、こうした業者からもネット詐欺に遭う事例を紹介しています。

 探偵業務では、架空請求をしてきたアダルトサイト運営会社の所在調査などは可能ですが、根本的な解決にはつながりません。しかし、ホームページではその点には触れず、なんとかするようなイメージをアピールします。そこで高額の依頼料をもらい、適当に作成した調査書類を送りつけ、契約を履行したと主張します。

 さらに、ひどいケースもあります。詐欺被害に遭って悩んでいる人のところに探偵を名乗る人から「詐欺に遭いませんでしたか? 我々が取り返します」と電話がかかってくるのです。冷静に考えれば、誰にも相談していないのなら、その事実を知っているのは犯人グループの一味に決まっています。しかし、被害者は藁にもすがる思いで依頼してしまうことがあるのです。

 もちろん、弁護士に依頼して、数百万円単位で犯人から取り返した事例もたくさんあります。しかし、一方で証拠類を全て消去してしまった場合などは、どうしようもないこともあります。

 兎にも角にも自己防御です。デジタルリテラシーを向上させておけば、被害を抑えられます。もし、ご両親など、家族の中にだまされやすそうな人がいる場合、あらかじめコミュニケーションを取って、ネット詐欺に備えましょう。

 本連載で紹介する事例を共有するのもお勧めですが、何より相談できる空気を醸成しておくことが大切です。気軽に、こんなメールが来た、と言ってもらえるようにしておけば、被害を防げます。ご両親が何十年もかけて積み上げた貯金や退職金などをネット詐欺でなくしてしまうと、その後が苦しくなります。ぜひ、皆さんでデジタルリテラシーの向上に取り組んでいきましょう。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

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高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。